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グロリアスレボリューション⑩

1.乙


 土曜日。俺と八朔は何時かのように神社の境内に腰を下ろしアイスを食べていた。

 あの時よりも距離が近いのは、心の距離が近付いたからだろう。


「……九月も終わりだってのにさぁ。何で太陽はこんなギンギンギラギラ頑張ってるわけ? 腹立つんだけど」

「いや……太陽に文句を言われても……」


 じゃあ地球? 地球くんさぁ。何そんな熱くなっちゃってるわけ? 冷静になりなよ。

 こっちとしてはもういい加減、秋の過ごし易い環境でのんびりしたいんだよ。

 暑くも寒くもない良い感じの日々を少しでも長く楽しみたいっていう俺の気持ちを無視するのは止めて欲しい。


「「……」」


 ふっ、と会話が途切れる。まあこれは本題じゃないからな。

 いや俺が何かを話したいってわけではなく八朔だ。八朔の方が俺に言いたいことがあるのだ。

 そうとは聞いていないが察せないほど愚鈍でもない。


「……やっぱりさ、二百万円はやり過ぎだと思うんだ」


 しばしの沈黙の後、八朔は切り出した。

 聞けば翌日の夜には西浦達が家族総出でやって来て土下座って金を渡したらしい。

 何も知らない八朔の両親からすれば寝耳に水で相当、混乱していたそうだ。


「僕がいじめられてるのは何となく察してたみたいだけど」

「うん、まあそれがこんなことになるのは予想出来んわな」


 八朔の両親には申し訳ないことをしたな。

 とは言え、だ。じゃあ何のお咎めもなし。俺が西浦達にヤキを入れて終わりで良いのかって言えばそれも違うだろう。


「アイツら、あれだけじゃ反省しないよ?」


 中学二年で合計額とは言え百万以上、巻き上げるいじめっことか普通じゃない。

 しかもアイツら、いっぺん俺に痛い目見せられてるんだぞ?

 そして多分、アイツらが頼った高校生らにもヤキを入れられてる。にも関わらず元気にいじめっこやるとかタフ過ぎる……。


「それにこんだけやっておけば、何も悪くない連中が罪を犯す可能性も減らせるでしょ」

「え?」

「アイツらは散々、好き放題してた。でも俺以外では痛い目を見て来なかったのは分かるよね」

「う、うん」

「それは何故か。アイツらが怖がられていたからだ」


 だから被害者も泣き寝入りしていた。

 だが、八朔が――俺達のバックアップがあったとは言えいじめられっこがリベンジをかましたのだ。

 虚像が砕け、アイツらが大したことがないと分かれば……これまでの怨み辛みが爆発する可能性が高い。この世界なら尚更な。


「中には君より酷いことされてた奴も居る。そいつらが八朔にやられた程度で溜飲を下げてくれるかな?」

「それは……」


 ほろ苦いっつーか後味が悪い系の話でそういうパターンもあるんだよ。

 これまでのツケが返って来るかのように刺されちゃったりするラストがな。

 八朔がリベンジかましてハッピーエンド、だがその裏では……みたいなね。

 作風によりけりだが、既に別で胸糞案件は幾つか発生してるからな。そういうラストも十分あり得る。


「思い詰めた人間が何をやらかすかなんて分からないよ」

「……」

「仮にあの馬鹿どもを刺し殺しても……まあ、情状酌量の余地は認められるかもだが無罪にはならんでしょ」


 あんな連中のために犯罪歴を刻むとかアホらしいにもほどがある。


「家族まで巻き込んでへこへこ謝罪して大金払う姿を見せれば多少は、マシなんじゃない?」


 白幽鬼姫という危険極まる悪党に目をつけられた小悪党の末路って感じでさ。

 とは言え、これで完全に安心かって言われると俺も分からん。あとは経過待ちだ。


「じゃあ、被害者や僕のために?」

「いんや? 単に俺が嫌なだけだよ」


 折角、いじめられっ子がいじめっ子に努力と根性でリベンジかますみたいな爽やかな話になったんだ。

 それなら気分良く終わりたいじゃん。お仕置きでストレスは溜まったが八朔の勝利にケチがつくよりかはマシだ。


「俺もタカミナ達も別に正義の味方ってわけじゃない。自分の好ましいと思うことのために好き勝手やってるだけだ」


 不良なんてそんなものだ。


「ま、アレだ。降って沸いたあぶく銭なんだ。心配をかけた親御さんに旅行でもプレゼントしてあげたら?」

「それは……うん、良いアイデアだ。そうさせてもらうよ」

「あとはまあ、八朔はゲーム好きなんだっけ? ついでに新作ゲームの一本ぐらい買えば良い。頑張った自分へのご褒美さ」

「自分へのご褒美……」

「頑張ったんだし良いでしょ」

「……そっか。なら、オラクエの新作が今度出るし買おうかな」

「そうしな。で、余った分は貯金すりゃ良い」

「あとは花咲くん達のためにも、だね」


 クスリと笑う。

 そう、今日は八朔の祝勝会をやる予定なのだ。

 タカミナがパパさんから教えてもらったおススメのお好み焼き屋さんでやるのだがお金は八朔の払いになっている。

 いや、お前を労う会なのにそれはって言ったんだが「皆のお陰だから」とどうしても譲らなかったのだ。


「さぁて……そろそろ良い時間だし行こうか」

「う、うん」


 白雷のケツに八朔を乗せ、俺は北区へ向かった。

 件のお好み焼き屋は北区の飲み屋街にあるのだが……よくよく考えれば北区に行くのは初めてだな。

 大体は中区か、秘密基地がある東区で遊んでるし。


「お、ニコちゃんと八朔が二着か」

「こんばんは」


 待ち合わせ場所に行くと柚がぼんやり一服をしていた。

 ホームだけあってはえーな。


「八朔、身体はもう大丈夫なんか?」

「まだちょっと傷が残ってたりするけど日常生活には何の支障もないよ」

「そかそか。それなら良かった」

「ありがとう。今日は僕の奢りだからさ。沢山食べてってよ」

「おう、遠慮なく楽しませてもらうつもりさ」


 駄弁っていると徐々に他の面子も集まり始め、十分も経つ頃には全員が集合していた。

 俺達はそのままタカミナの先導でお好み焼き屋さんに行き予約してあった座敷に入った。


「サイドメニューも多いなぁ」

「皆はどれにするよ?」

「……豚玉……いや、イカ玉も悪くねえな……モチ明太玉?」

「どれにするか迷うしミックスにしよっかなー?」

「待ちいやテツくん。それやったら皆で別々に頼んでシェアした方がええんちゃう?」

「ミックスはミックスで美味いけど単品の美味しさとはまたちげーかんなー」


 十五分ほど話し合った結果、単品五種類ミックス四種類にそれぞれ好きなサイドをということになった。


「それじゃあ、改めて僕から」


 飲み物が運ばれて来て、全員に行き渡ったところで八朔が切り出した。

 乾杯前にまずはってことだな。俺達は黙って八朔の言葉に耳を傾ける。


「メールでも伝えたけど、西浦くんとタイマンをして……勝つことが、出来ました」


 まだ勝利の余韻が残っているのだろう。

 こないだのことを思い出し、八朔は少し涙ぐんでいた。だがそれを茶化すような奴はこの場には誰も居ない。


「まだまだ弱くて未熟な僕だけど……それでも、それでも少しだけ、変われました。

小さいけれど確かに一歩、前に進むことが出来ました。ほんの少し、強くなれました。全部、皆さんのお陰です……!」


 これまで何度も涙を流して来たのだろう。でも、今流れている涙はこれまでのそれとは違う。

 悔しさでも悲しさでも怒りでもない。何かを成し遂げた男が流す、喜びの涙だ。


「――――本当にありがとう!!!!」


 深々と頭を下げる八朔に、俺達は盛大な拍手を送った。

 あの梅津でさえ今はツンデレムーブをせず、素直に拍手を送っているぐらい喜んでいる。


「おめでとさん。けど、全部俺達のお陰ってのはちげーよ」

「……お前が一歩踏み出したからこそ、辿り着けた未来だ」

「だな。はっちゃんが最初に根性見せなきゃ俺らは誰も協力しなかっただろうぜ」

「俺らを持ち上げるよりも先に、自分の頑張りを認めてやりな」

「胸を張りましょ。八朔くんはそれだけのことをしたんやから」

「そうそう。カッコいいよはっちん!」

「だな。お前は良い男だよ」


 皆の言葉に八朔は感極まったのだろう。言葉にならずただただ泣いていた。


「……ぐす……あ、そうだ。これ、返すよ」


 ようやっと落ち着いたところで、八朔は俺が渡した鉢巻きを差し出して来た。


「良いよ。それは君にあげたものなんだから」

「で、でも……」


 いざとなったらこれを使え。そう言って俺は鉢巻きを託した。

 八朔の性格上、使うことはないと思っていたが心の支えになればと考えたのだ。


「チームに入れなんて言うつもりはないさ。記念の品程度の認識で構わないからとっときなよ」

「……良いの?」

「勿論。ああでも、遊びに来たいなら何時でもおいで」


 ちなみに今度の集会では和のサバゲーをやる予定だ。

 お殿様役を一人決めて、後は全員忍者になって自分とこの大将を守りつつ敵の大将を暗殺する感じだ。

 使えるのは忍者刀、手裏剣、クナイなどでエアガン等は使用禁止である。

 当然、全部プラスチックだ。


「お、注文が届き始めたな。ニコ、一発頼むわ」

「はいはい」


 ちょっとは慣れて来たよ、うん。


「いっぱい食べて、いっぱい飲んで盛大に楽しもう――乾杯!!」

《乾杯!!》

というわけで『グロリアスレボリューション』は終わりです。

十日前にDLCも来たしちょっと本腰入れてスパロボ30の3週目やりたいので今日は二話投稿させて頂きました。

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