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グロリアスレボリューション②

1.魔王様


 改めて結成を祝ってということでジュースで乾杯したところで思い出す。そういや何か俺に話があったんだっけと。

 何だろうと首を傾げていると、


「いや~ニコちんが急にあんな話、振るから驚いたよね」

「だべだべ。無駄にならなくて良かったわ」

「仮に解散でも無駄にはならないだろう。思い出の品ってことにすれば」


 何? 何なの? 疑問符を浮かべる俺に気付いたのかタカミナが言う。


「いやほら、俺ら夏休み後半バイトばっかしてたじゃん?」

「うん」

「あれな、実は金欠とかじゃなくて理由があったんだよ」


 タカミナが隣の部屋から持って来たのは、


「……特攻服?」


 黒い特攻服。背中には塵狼と書かれている。

 しかも初代総長って刺繍を見るにどうやらこれは俺のらしい。どういうこと?


「いやほら、悪童七人隊との決戦でさぁ。ニコはアキトさんの特服着てたけど俺ら私服だったろ?」

「龍也さんと大我さんとこもそうだったけど圧倒的に浮いてたからさぁ」

「折角だから作ろうってことになったんだわ」

「ニコちんも皆でお金を出し合って作るなら好きにすれば良いって言ってたしね~」


 いや、確かに言ったけど……


「それなら何で俺に言わないのさ」

「俺らがこうしてつるんでられるのはお前のお陰だろ? だからまあ、その恩返しも兼ねてのサプライズみたいな?」

「で、どうよ? 良くね?」

「色は最初迷ったんだけどさ。ほら黒って言えば“黒狗”が居るわけじゃん?」


 ああうん。奇遇なことに四天王も俺も全員、異名に色が入ってるからな。

 頭の俺の白ならともかく同格の黒狗から取るのはってことか。


「んでもやっぱえっちゃんが映える色にすんなら黒が一番かなって」

「笑顔くんの浴衣見て決めたんですわ」

「まー、悪童七人隊の白も似合ってたけどね~」

「つーわけでほい、俺らからのプレゼントだ。受け取ってくれや」


 紙袋に仕舞い渡される。


「えっと、その……あ、ありがとう」


 サプライズプレゼントは予想してなかったので未だちょっと混乱してる。でも決して嬉しくないわけじゃない。

 これでまたヤンキー輪廻に深く囚われたなーとか色々思うところもあるがそれは今更だしな。

 それよりも友人達からプレゼントを貰ったことの方が嬉しい。


「ロング丈とショート丈、両方あっから好きに使い分けてくれ。あ、それと鉢巻きと襷も入ってるから」


 本格的だなぁ。


「とりあえずえっちゃんのを先に仕上げてもらったんだ」

「俺らのはもうちょいかかるから全員分、届いたら写真撮ろうぜ写真!」


 あぁ、皆の分はまだなんだ。俺だけ何か悪いね。


「ちなみに俺らのは基本的には同じようなんだが……じゃじゃーん!!」

「あ、腕章」


 テーブルの上に置かれた腕章には悪童七人隊と刺繍がされている。

 何かこうして見ると感慨深いなぁ。写真撮ったらアキトさん達にも送ってあげよう。きっと喜んでくれる。


「俺に話ってこれだったのね」

「いや、まだあるぜ」


 タカミナが金銀コンビに視線をやる。一体何じゃろか?


「何なの?」

「俺らっとこの奴らがよ正式に塵狼に入りたいって言ってんだわ」

「悪童七人隊と揉める少し前からそういう話はあったんだが、それを話し合う前に抗争が始まっちまったからな」


 ああ、それで先延ばしになっちゃったと。

 で、どうせなら特攻服を渡す時に一緒にってことになったわけだ。はいはい、なるほどね。


「二人は良いの?」

「俺も金角も別に頭とかそういうんに興味はねえからなぁ」

「そうそう。大我さん達の手前、しっかりやらにゃとは思ってたがアイツらが塵狼に入りたいってんなら止める気はねえよ」

「で、どうだいえっちゃん? 流石に総長に無断で人を入れるわけにはいかねえからよ」


 律儀だねえ。別にそれぐらいなら二人の権限で好きにしてもらって良かったのに。


「良いよ。皆にはお世話になってるしさ」

「サンキュ! アイツらも喜ぶよ!!」

「それは重畳」

「あ、ついでにも一つ良いかな?」


 まだあるのか。


「何?」

「一度、ニコちゃんとやり合いたいってのが銀角んとこと併せて三十人ぐらい居るんだわ」

「誤解はしないで欲しいんだが、えっちゃんを頭って認めてないわけじゃねえんだぜ?」

「ただ頭の力を肌で感じてえっていうか……」

「好んで喧嘩したいわけじゃないけど別に構わないよ」


 逆十字軍とやり合った時はめっちゃ働いてもらったからな。ルイの時もだ。

 その恩を返すという意味でなら受けても良い。


「マジか。じゃ、早速頼んで良い?」

「え、いきなり?」

「うん。どうせなら一度に済ませようと思ってさ、もう集めてんだわ」

「ちなみに場所は自然公園な」


 ああうん、あそこは広いしね。


「今から行こうと思ってんだけど大丈夫か? 都合が悪いなら日を改めっけど」

「ちょっと驚いたけど大丈夫。折角、足を運んでもらったんだし付き合うよ」


 というわけで俺達は自然公園へと向かった。

 子供が居るなら前みたいに雑木林でと思ったんだが杞憂だった。

 いや、ヤンキーが溜まってるから子供が近寄らないのか? だったらさっさと済ませた方が良いな。


「で、どうすれば良いの? タイマン? それとも三十人全員で?」


 俺がそう言うと、


「……馬鹿にされてるわけじゃないのは分かるけど」

「……ナチュラルに三十人一度に相手取るって考えてるのがやべえ」

「……自分で頼んどいて何だけど滅茶苦茶怖えわ」

「……とりあえず明日、一日はベッドの上で眠る覚悟は出来た」


 ああうん、確かに見下してると取れる発言だったな。別にそんなことはないんだがな。

 だってコイツら皆、光のヤンキーだし。そんじょそこらのモブ雑魚どもとはワケが違う。

 ちなみに三十人の中には惜しい男、ハシカンも居た。


「まあそれはそれとしてタイマンでお願いしゃーす!!」

「分かった」


 一番上のボタンを外し胸元を緩める。

 最初の相手はハシカンだ。どうやら事前にジャンケンで決めてたらしい。


「……」


 ハシカンの頬を汗が伝う。

 ガタイの良さではハシカンのが上だがコイツも俺がジョンとやり合ってるのを見てた一人だからな。

 体格の差が有利に働くことはないと分かっているのだ。


「…………花咲さん」

「うん」

「本気でお願いします!!!!」


 返答を待たずハシカンは駆け出した。そして俺もまた合わせるように駆け出す。

 そしてハシカンが拳を振りかぶるよりも早くその横っ面にハイキックを叩き込む。

 二度、三度空中で回転しハシカンは倒れた。ぺちぺちと頬を叩く。反応がない。完全に伸びてしまっているようだ。


「魔王か何かか?」

「クッソ! 次は俺だ! 村人の意地見せたらぁ!!」


 魔王言うな。


「武器や防具は装備しないと意味がねぇぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」


 それは村人の台詞じゃねえだろ。




2.きっついわぁ


「ただいまー」


 六時を少し過ぎたぐらいに帰宅。

 休みか休みの前日なら八時、九時まで遊ぶのも悪くないが平日で明日も学校だからな。


「おかえりー……およ?」

「おかえりなさい……あら?」


 リビングに軽く顔を出したら直ぐ部屋に引っ込むつもりだったが引き止められる。

 身体で紙袋を隠していたのにちょっと目敏過ぎるだろ……。


「ねね、何それ?」

「……いや、まあ、タカミナ達からのプレゼント?」

「プレゼント? 何貰ったの?」


 興味津々の姉と母にこれはもう観念するしかねえなと俺は紙袋の中身を見せ付けた。


「まあ!!」


 顕著な反応を示したのはやっぱり母だった。

 取り出した特攻服を両手で広げ、キラキラとした目で上から下まで見渡している。


「ほへー、それが何? “マトイ”ってやつ? カッコ良いじゃーん♪」


 偉く渋い呼び方だなオイ。

 確かにそう呼ぶこともあるけどマトイなんて使うのはパンピーじゃなくヤンキーだろう。


「でもプレゼント? こういうのって皆で作るもんじゃないの?」

「ああうん、俺もそう思ってたんだけど」


 軽く経緯を説明してやる。

 ついでに梅津の件も伝えると姉は勿論と快諾してくれた。断らないだろうとは思ってたがほっとしたよ。


「にしても友情だねぇ……何か真昼お姉ちゃんが聞いたらすっごく興奮しそう」


 それは……うん、そうね。目をキラキラさせるだろうね。


「ねね、折角だし着て見せてよ」

「お母さんもこれを着たニコくん、見てみたいなぁ……なんて」


 家族の前でとか恥ずかしいんだが……この目は裏切れない。

 小さく溜息を吐き、着替えるから待ってと廊下に出て扉を閉める。

 リビングの中からは期待に弾む楽しそうな声が聞こえて余計に恥ずかしい。


(何の羞恥プレイだ……って、デケエなこれ)


 アキトさんのは他人のだからしゃーないけど俺用に作られたはずのこれもデカイぞ。

 裾を絞ったりで上手いこと調整は出来るみたいだが……あれか、成長期ということを加味してか?


(襷と鉢巻きはどうしよう? やっぱ着けた方が良いのかな?)


 悪童七人隊との決戦時にゃ鉢巻きはなかったが襷はつけてったし。

 まあ、あれは袖を調整する意味もあったわけだが。


(ん、んー? こんなもん……か?)


 準備が出来たので意を決してリビングに入ると、


「キャァアアアアアアアアア! 良い! 良いわニコくん! 決まってる! バッチリ決まってるわ!!」

「おぉぅ」


 母大歓喜である。横に居る姉がちょっと引くぐらいだ。


「いやでもうん、似合ってるよ。黒ってのが良いね。白が映えてる」

「タカミナ達も俺に合わせたって言ってたよ」

「ねえねえ、写真! 写真撮って良いかしら? お母さんとツーショットで……ね?」


 そしてまだ勢いが収まらない母である。

 はしゃぐ母には流石の姉も苦笑を禁じ得ないようで肩を竦めている。


「どーせならお母さんも現役時代のやつ着て並んで撮ったら? 私、カメラマンしたげるよ?」

「! ナイスアイデアよ麻美! ニコくん、ちょっと待ってて。私も着替えて来るから!!」


 マジかお前。

 いや、見た目は二十代でも通じるぐらい若いけどさ。あんたアラフォーだろ?

 しかも現役時代と違ってお淑やかな奥様って感じなのに特攻服着んの? いやそれ以前に着れるの?

 女性に対して失礼かもしれんけど腹とか尻とか……ねえ? 若い頃と比べたら……なあ?


(まあ、上はまだ前を開けば大丈夫だろうけど……)


 いやそれはそれでキツイな。

 多分、上サラシだろうし。母親が乳にサラシだけ巻いて腹ほっぽり出してる姿を見るのはかなりキツイぞ。

 普通にシャツ着てくれればとは思うが……写真にあった現役時代の母も上はサラシだけだったしな。


「ふふ、お母さん大はしゃぎだね」


 そして姉は姉で図太いな。これから起こるであろうことを微笑ましく思えるのはすげえと思う。

 ヤンキーでこそないがその根性は中々のものだ。これが血か?

 そんなことを考えていると、


「御待たせ!!」

「わぁお♪」

「――――」


 思ったより……キッツイわぁ……。

 予想通り、上はサラシオンリー。そんで下は……うん、結構パツパツ。

 大人――それも母親がヘソ出しって予想以上にダメージが大きい。

 しかもお前、見ろよ。花バットまで持参してるじゃねえか。


「麻美! 麻美!!」

「はいはい。あ、私も後でツーショット撮りたいからそん時はお母さんがカメラマンしてよ~?」


 言いつつスマホを構える姉。

 ほら、ポーズポーズと嬉しそうに笑う母。

 とんだ羞恥プレイだよ……しかし、ただでさえ親不孝な俺なんだからこの顔を曇らせるわけにはいかない。

 是非もなし。無心だ。今はただただ心を無にするのじゃ。

 そうして二十分ほど撮影が続き、


「はー……これ、スマホの待ち受けにするわ」


 終わる頃にはすっかりご満悦の母であった。

 とりあえずお腹が減ったのでご飯をお願いすると母は「はーい♪」と特攻服のまま準備を始めた。

 マジかコイツ……と思ったが喜んでるならもうそれで良いや。


「あ、母さん。夜は特に予定とかないよね?」

「? ええ。どうしたの急に?」


 食事中、俺も先延ばしにしていたことがあったことを思い出したので切り出す。


「ほら、前に今度白雷の後ろに乗せてって言ってたじゃん。だから今夜にでもどうかなって」

「!」

「で、母さんが良ければなんだけど……運転してみない?」

「!? え……で、でも……」


 遠慮しつつも期待が隠し切れてないな。


「俺が一緒なら大丈夫だよ」


 ちょこちょこ付き合ってあげてるからだろう。最近は若干、白雷も融通が利くようになって来たのだ。

 単独で乗ろうとすれば呪いでやべえことになるだろうが俺が一緒なら渋々我慢してくれるっぽい。

 母さんに何かあればその瞬間に俺は白雷を捨てるのを奴も分かってるのでまず間違いなく妙なことはしまい。


「そ、そう? それなら……お、お言葉に甘えちゃおっかな」

「お母さん、めっちゃそわそわしてる……そんな嬉しいんだ……」

「嬉しいに決まってるでしょ!? あの呪雷……じゃなくて白雷を乗り回せるのよ!? そりゃテンションも上がるわよ!!」


 今日は吉日だと笑う母を見ていると、ちょっと引きはしたものの俺も何だか嬉しくなって来た。


(確かに、今日は吉日かもしれないな)

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