微熱S.O.S!!①
投稿再開します。
連日投稿は結構しんどいのでこれからは無理のないペースで進めていこうと思いますのでご了承頂けると幸いです。
今回の話は3話ぐらいかな? それでとりあえず夏休みを終わらせて新学期に進めるつもりです。
1.安息を
解散式も終わって翌日。ようやく日常に戻れた俺は寂れた霊園に足を運んでいた。
お盆に先祖の霊を慰めることもなく喧嘩に明け暮れてたって我ながら中々の罰当たりだと思う。
「……悪いね」
実母の墓前で謝罪の言葉を口にする。
彼女はきっと、俺が来たところで嬉しくも何ともないだろう。それは俺も分かっている。
だが墓こそ建てられたものの俺ぐらいしか管理する人間は居ないからな。汚れ放題の墓なぞあまりにも哀れだ。
死後に安息が訪れたかどうかは分からないが、それでも供養はきちんとしてやらないとな。
「それじゃあ、始めるか」
持参した清掃道具一式を使い墓を綺麗にしていく。
定期的に人が訪れてればやることも少ないのだが俺も……家族の手前、そうそう足は運べない。
黙って来ることも出来るし、そうするべきなんだろうがどうにも不義理に感じてしまう。
だから俺もお盆の時期ぐらいしかここへはやって来ない。
なのでせめて年に一度の墓参りではめいっぱい墓を綺麗にしてやろうと思っている。
「こんなもんかな?」
一時間半ほどかけてようやく掃除は終わった。
まあまあまあ、良い感じになったんでないかな? うん、綺麗になったと思う。
「……」
線香を上げ、手を合わせる。鎮魂の祈りが届くかは分からないけど、精一杯祈る。
奪われ続け、失い続けるだけだった女の魂に安らぎが訪れるよう心の底から願う。
(もしも神様が居るのならどうかお願いします)
生きている間は何一つ救いがなかったのだ。
ならばせめて、死んだ後ぐらいは心安らかに微睡むことを許してあげてください。
完全な被害者でないことぐらいは俺だって分かってます。
傷付けられただけではない。あの女だっていろんな人を傷つけました。そしてその償いをしないまま逃げてしまったことも重々承知です。
(それでも、死んだ後でまで苦しむのはあんまりでしょう)
誰かを傷付けることさえも自傷と変わらず生きることが責め苦だったのならせめて死後の安息だけでも。
もう眠らせてやって欲しい。切に願う。
もしも終わることが出来ず俺のように生まれ変わりを経験しているのなら……せめて記憶は失くしてあげて欲しい。
あのまま生まれ変わったところで苦しむだけだから。
そうしてどれほど祈り続けただろうか。昼間に来たはずなのにもう日が沈み始めていた。
「…………それじゃあ、おかあさん。また、来年」
深々と頭を下げ、歩き出す。毎年毎年後ろ髪を引かれてしまうがどうにか堪える。
駐車場につき、白雷に跨ったところで澱みを吐き出すように大きく息を吐く。
もやもやが紛れるようにとイチゴミルクキャンディを口の中に放り込むが全然だ。
「……このまま帰ったら要らん気を遣わせちゃいそうだ」
寄り道をして帰ろう。海岸線でも流そうと決め、白雷を発進させる。
気分が落ち込んでいるせいだろう。心地良く感じる風も今はどこか重たい。
(毎年のことと言えなくもないけど今年は一際だな)
ルイの一件があったからだろう。
おかあさんと同じように破滅への道へ引き摺り込まれそうだった女の子。
しかも、その手を引く亡者の中によりにもよって……真人さんもあの男がどうなったかは言わなかった。
ただ、真人さんが手を出すにせよ出さぬにせよロクなことにはなっていないだろう。
あれには徹底的に恐怖を刻み付けたからな。心と身体を本気で壊しにかかった。老い先短い寿命で俺が刻み付けた傷から逃れられはしまい。
(ざまぁみろと笑えれば良いんだが)
生憎と気分はまったく晴れない。
仮に奴の人権が剥奪された状態で「お好きにどうぞ」と差し出されても同じだ。
散々尊厳を踏み躙って殺したとしても気分が晴れるとは思えない。ああ、つくづく不愉快な人間だ。
この世に生を受けたことそのものが罪と言えよう。
(少し、休憩してくか)
自販機でジュースを買い堤防の先っちょまで向かう。
釣り人の一人や二人は居そうなものだが運の良いことに誰も居ないのでゆっくりさせてもらおう。
「ふぅ」
テトラポッドに登り腰を下ろすと潮風が髪を揺らした。
「……髪、伸びてるな」
元々、足繁く床屋に通うタイプでもなかったが今回は過去イチな気がする。
前世は坊主で色々楽だったんだが今はなあ……普通に似合わないし美形キャラ的にもアウトだろう。
(そういう意味じゃジャージファッションもそろそろ何とかしなきゃいけないのかなぁ)
ジャージばっかなのは高峰家に気を遣って、とかではない。
いや最初はそういう気持ちがなかったわけではないけどね? 小洒落た服なんか着せられても父親が不機嫌になるだけだし。
でも俺は元々ファッションにこだわりがないっていうか……ねえ?
前世もスーツとかには気を遣ってたけど私服は彼女任せだ。彼女が勧めてくれたのを買ってそれを着てた。
テメェはお母さんに選んでもらった服着る小学生か? と言われると返す言葉もない。
(美形キャラって大概、お洒落だからな。いや俺も分かってるんだよ。ファッションにこだわれば更にバフが乗るって……!)
更に人気も出るだろうしグッズ展開的にも毎度ジャージ着てるより小洒落た格好してる方が絶対良いのは分かってる。
でも、面倒臭い……! ただただ面倒臭い……!
専門店はもとより、デパートとかの紳士服売り場の時点で俺はもうかったるくなる。
ずらーっと服が並んでる光景を見るとさ。もうどれでも良いよ……帰ろうよ……ってなる、なっちゃいます。
「――――よぉ、やけに深刻な顔をしてるが何かあったのか?」
ハッとして振り返ると堤防に土方と市村が立って居た。
痛々しい怪我の痕はどうでも良いとして……クッソ、コイツらも結構シャレオツじゃねえか!
ヤンキーエッセンスの入ったファッションではあるが服に着られてる感もないし……うっわ、マジ凹む。
「……実母の命日でしてね。ちょっとナーバスになってるんですよ」
この空気で馬鹿正直に理由を言えるほど俺の面の皮は厚くないので誤魔化すことにした
こう言っておけば向こうも追求し辛いだろうしな。
「そうか」
言って二人はこちらにやって来て近場のテトラポッドに腰を下ろした。
「「「……」」」
何よこの空気。ちょっとあんた達、何か言いなさいよ。
何で俺がこんな気まずい思いをしなきゃいけないわけ? コミュ力ゴミカスの俺に話を振らせるんじゃねえよ。
腹の中で毒づきながら俺は口を開く。
「どうしてここに?」
「お前さんの姿が見えたもんでな」
「はあ。俺に何か用でも?」
少しの沈黙の後、土方は言った。
「三代目は解散したよ」
「……知ってる」
「何でかな。あんだけ必死こいて守ろうと思ってたのにいざ解散してみると……」
「肩の荷が下りた?」
「ああ」
市村も同じ気持ちなのだろう。土方と同じように寂しげで、それでもどこか晴れやかな顔をしている。
「器じゃなかったんだろうな」
そう自嘲する土方に俺は思わず言ってしまった。
「違うだろ」
「え」
「誤魔化すなよ」
「……」
言ってしまったものはしょうがない。
そのまま畳み掛けるように言ってやると土方は俯き、苦笑を浮かべた。
「……そうだな。ああ、俺を信じて三代目を託してくれたアンマンさんに失礼だわなぁ」
アンマンさんは土方なら自分の後を任せられる。
そう確信して大事なチームを譲り渡したのだ。器じゃない、なんてのは責任を押し付けるための言い訳にしか過ぎない。
それに直にやり合った俺だから分かる。コイツは確かに総長の器だった。
「そうだよ。あんたならその“弱さ”を乗り越えてもっと大きな男になれると信じてたんだ」
本当に、本当に些細なことなんだと思う。
仲間の言葉や、自分の弱さを見つめ直す機会があれば未来は変わっていたはずだ。
「お前さんは……厳しいなぁ」
「そう思うのはあんた自身、思うところがあるからでしょ」
ただの恥知らずならこんなガキの言葉、欠片も響きやしない。
刺さるものがあったならそれは自分自身に負い目があるからに決まってる。
「…………なあ」
「何です?」
「お前さんが良かったらなんだけど――……四代目を、継いじゃくれねえかな?」
お前もか。いや気持ちは分かるよ? 大切なチームが自分のせいで終わってしまうってのはそりゃキツイさ。
だから自分に勝った俺をってことなんだろうが、勘弁してくれ。
「アンマンさんやアキトさん達からも言われてるんじゃねえのか? お前ならってさ」
「……まあそういう話がなかったわけじゃないけど遠慮するよ」
緩々とは言え一応、既にチームの頭を張ってるんだからな。
アキトさんから初代の特攻服を託されはしたが、俺達の意思で旗揚げした塵狼の長を降りてまでやることじゃない。
「そうか」
「でもまあ、名前だけは貰うことになったから」
「ん? どういうことだ?」
「塵狼は俺含めて八人のチームだからね。頭俺、最高幹部が七人だからそこに悪童七人隊の看板を掲げさせてもらうことになったんだ」
アキトさん達も快諾してくれたと言うと土方と市村は少しキョトンとした後、
「そうか。なら良い」
「ああ。どんな形でも名前とその意思が受け継がれるならそれは俺らにとっても救いになる」
それから二人とは色々な話をした。
「ガキん頃に夜の街を駆け抜ける初代を見てさ、何時か絶対このチームに入るって決めたんだ」
「へえ」
悪童七人隊に入ろうと思った切っ掛け。
「アンマンさんは妙なこだわりがある人でなあ」
「あの、何? 電子レンジで自分であっためるスーパーとかで売ってるアンマンだと渋い顔するんだよ」
「コンビニのじゃなきゃダメなんだ」
「何で……?」
「「さあ?」」
二代目の頃の話。
沢山、沢山話をした。当人らかすれば何てことはないただの思い出話なのだろう。
でも俺は決して忘れない。ちゃんと心に刻んでおこうと思ったんだ。
「さて、そろそろ行くか」
「悪いな。長話に付き合わせちまって」
「いや……俺も暇してたし良いよ」
ありがとよ、と笑って二人は背を向けて歩き出した。
俺は少しの逡巡の後、声をかけた。
「土方、市村」
「「?」」
「四代目は継げないけどさ。それでも同じ街に住んでるんだ。偶には一緒に走ろうよ」
そう言うと二人はキョトンとするも直ぐに笑顔に変わって、
「「ああ! 楽しみにしてる!!」」
「うん」
二人を見送ってから少しして、俺も埠頭を後にした。
家に帰ると姉も部活を終えて帰宅していたようで、シャツにパンツいっちょでぐてーんとしていた。
「おかえりー……」
「ただいま。お疲れ?」
「そりゃもう……今日も激しかったよー……」
父が居た頃はこんなだらしない姿を見せたこともなかったんだけどなあ。
たるんだと見るか、抑圧されていたものが出せて楽になったと見るべきか。まあ姉が幸せそうならどっちでも良いか。
「あ、ところでニコは明日暇?」
「うん? まあ、特に予定は入ってないね」
と言うのも、だ。明日は東区で結構な規模の花火大会があるのよ。
タカミナ、テツトモの東区トリオは家が屋台出すからその手伝い。
金銀コンビも金欠だとかで知り合いの伝手で屋台のバイトするらしい。
ちなみにこのバイトには梅津と矢島も誘って参加することになったそうだ。矢島はともかく梅津はあれだな。何時ものように挑発に乗せられたんだろう。
そんな感じで何時もつるんでる連中が忙しいので俺はなーんもやることがないのだ。
「ホント? ならさ、お姉ちゃんと一緒にお祭り行こうよお祭り!」
「あー……」
「……ダメ?」
「いや良いよ。でも友達と行かなくて良いの?」
「ああうん、向こうでちょっと話したりはするけど今回はさっちゃん……小夜ちゃんに連れてってお願いされたからね」
小夜、さっちゃんって言われてるんだ。
別に変なあだ名じゃないんだけど何か地味にツボだった。
「あと真昼お姉ちゃんも一緒なんだけど良いかな?」
「……誰?」
「さっちゃんのお姉ちゃん」
ああそういや姉が居るとか言ってたな。
姉とその真昼さんだけならちょっと躊躇ったが緩衝材ってかジョークグッズみたいな小夜も一緒なら大丈夫だろう。
「良いよ」
「やった! じゃ、ご飯食べたら浴衣買いに行こ浴衣!」
「えぇ……?」
「こんな時ぐらいお洒落しなきゃ! ただでさえニコは普段からジャージなんだし」
むむむ……丁度、気にしていたところを突かれてしまったな。
まあでも、良い機会だ。浴衣を買いに行くついでにファッションについて軽くレクチャーしてもらおう。
ブクマ一万突破しました。感無量です。本当にありがとうございます。