2012Spark㉑
前話のノンスタネタが何人かの方に通じて嬉しいので折角だしダイマさせて頂きます。
youtubeで見られるNON STYLEチャンネル、滅茶苦茶面白いのでおススメです。
全部面白いんですが
「プロ野球選手」「迷子」「スーパーポジティブ葬式ング」「神社」「ポジティブ=アホ説」あたりが私は特に好きです。
1.怒涛
アキト達の参戦により状況は一変した。
未だに大人になれずに居る半端者達とは違いアキトらは正道を歩いている者。
ブランクがあろうとも人間としての出来が違うのでその実力は圧倒的だった。
現役、OB問わず蹴散らしていくその姿は正しく伝説を証明していると言えよう。
だが叛逆七星の現役世代も負けてはいない。
「オルルァ! ジジイどもに負けてんじゃねえぞォ!! 声出せェ! 気合入れろォ!!」
頼りになる年上に任せておけば良い? 否、そんな可愛いタマではない。
負けじと更に力を振り絞って大暴れしている。その筆頭が鷲尾だ。鷲尾は部下を叱咤しつつ誰よりも前で血を流し、暴れ続けていた。
「アッハ♪ ジジイだってよ俺ら」
「……フッ、言ってくれるものだ。だが今夜限りの復活とは言え小僧どもに遅れを取るのは面白くない」
「っとと、晴二きゅんたら火が点いちゃった?」
「……お前もだろう?」
「まあな。あんな姿見せられたらまだまだ負けてねーぞって証明したくなっちゃうじゃん?」
敵二人を引っ掴み顔面を衝突させ、手を放す。
崩れ落ちたそれには目もくれず今度は手近に居た敵の腹に前蹴りを刺して沈める。
「や、やべえぞ……こ、コイツら止まらねえ!?」
ほぼ例外なく一撃で自分達を沈めるのにこちらの攻撃は殆ど防ぐか回避される。
たまに当たったとしてもまるで怯まず、ダメージを与えられているようには見えない。
そして一人でも強いのに相方である晴二とコンビネーションを取ると最早手がつけられない。
敵からすればアキト達の存在は悪夢としか言いようがなかった。
だが際立った悪夢はアキトら初代の面々だけではなく、
「あ、アンマンさん……どうして……」
むしろこちらの方が深刻と言えよう。
アンマンと対峙しているのは三代目悪童七人隊のオリジナルメンバーだ。
オリジナルメンバーの半分は隼人や光輝と共に二代目の末席に居た古参であり、アンマンの存在は今も大きかった。
殆ど関わりのない初代総長であるアキトよりも尊敬を集めていると言っても過言ではなかろう。
「何でアンタと……!」
「何でも何もお前達が始めた戦争だろう。男ならぐちぐち言わず拳で語れ」
「う、う、うぁああああああああああああああああああああ!!!!」
振るわれた拳がアンマンの顔面を打つも、
「軽い」
微動だにせず彼はラリアットの一撃でかつての仲間を躊躇なく潰してのけた。
いや、かつての仲間だからこそか。結局のところ、どんな道を進むかはその人次第だ。
間違った道であろうとも道は道。しかし、進んだ先に何が待つかぐらいは教えてやらねばならない。それが先達としての役目だから。
アンマンは冷徹に、しかし慈悲を秘めたまま敵を屠っていく。
「大我ぁあああああああ! 野球しようぜぇええええええええええええ!!」
「龍也ぁああああああああ! 良いよぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
しんみりしているところもあれば、ハイになって馬鹿になっている奴も居る。
竜虎コンビは敵をぶん投げてはそれをバットで叩き返す遊びに興じていた。
「りゅんりゅんんんん!! ほあぁああああああああああああああああああああああ!!!!?」
琴引は何かもうよく分からなかった。
「……真面目にやってくれないかな」
烏丸は真面目にやっていた。
だがそれは彼が真面目だからというわけではなく単にふざける要素がこの場にはなかっただけである。
「……楽しそうだなぁ」
「だねえ」
全体が見渡せる位置で戦いを見物していた笑顔と獅子口。
アキト達の援軍で当初の予定に戻ったわけだが、気持ちは完全に切り替わっていたのでどうにも手持ち無沙汰感が拭えずにいた。
「しかしこれ、良いのかな? 立ち位置的に僕ナンバー2になっちゃったけど」
最初は戦力の温存で選ばれただけだった。
しかし、今は違う。この状況で笑顔と共に下がるということは叛逆七星のナンバー2であると言っているようなものだ。
「良いんじゃない? 一番反発しそうな鷲尾さんが言ったんだし。あと、俺の代わりに宣戦布告もやってもらったじゃん」
「そう? じゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
二人は自分の役目をちゃんと認識している。
自分達の役目は前線で暴れて敵を減らすことではない。この戦いに幕を引くことである。
ゆえに暇ではあるものの、どっしりと構えその時を待っていた。
「後はあっちの出方次第なんだけどね~」
「ああ」
物事には“流れ”というものがある。
抗うのが正解か委ねるのが正解か。時々によって正答は変わる。
だがどちらを選ぶにせよ流れをしっかり把握した上でなければ意味はない。そういう意味で笑顔と獅子口は流れを把握していた。
――――大軍同士の戦いで最早、悪童七人隊に勝ち目はない。
それを証明するのが両陣営のトップの立ち位置だ。
叛逆七星側はトップとナンバー2が後ろで静観しているのに悪童七人隊側は隼人も光輝も前線で暴れている。
並みの者では相手にもならず蹴散らしていく様はなるほど、確かに強い。
しかし彼らが前線に立っている時点で勝ち目は薄くなっている。
大将が陣頭に立って暴れなければ流れを引き寄せられない状況に在る――アキト達が参戦する前の叛逆七星と同じだ。
「普通の援軍なら流れを引き寄せられたかもしれないが」
「僕らのとこに来たのは普通の援軍じゃないからねえ」
或いはそれでも、八つのチームが奇襲で潰されなければ話は変わっていたかもしれない。
悪童七人隊側は士気を上げ、それを維持する将器を持つ人間が圧倒的に不足していた。
総長を名乗っているだけでその器を持たないのならそこに意味などない。
対して叛逆七星側は将器を持つ人間が圧倒的に多い。
アキトや晴二、アンマン以外にも参戦したOBの中にはかつて大組織を率いていた人間も居て彼らが完全に流れを支配している。
「ひぃいいいじぃいいかぁああたぁああああああ! テメェを殺ればこの戦争も終わりだぁあああああああああああ!!!」
「させるか馬鹿が!!」
隼人を背後から襲おうとしていた敵に蹴りを入れて沈める光輝。
その顔には隠し切れない焦りが滲んでいた。
(……このままじゃ、負ける)
光輝もまた笑顔や獅子口と同じことを考えていた。
どうにか流れを掴もうと頑張ってはいるが掴み切れない。足掻けば足掻くほどこちらが削れていく。
(もう、トップによるタイマン以外に勝ち目はないが……)
叛逆七星側にそれを受けるメリットは皆無だ。
彼らからすればこの戦争自体が悪童七人隊の身勝手で始まったもので情けをかける理由は一切ないのだから。
加えて、
(仮にタイマンになったとして……勝てるか?)
今の自分で、今の隼人で。獅子口と笑顔に勝てるのだろうか?
光輝が不安に駆られていると、
「!?」
ひやりと背筋に冷たいものが走った。
やられる、そう思った瞬間背後から仕掛けようとしていた敵が隼人に殴り飛ばされた。
「顔を上げろ」
「は、隼人……」
「――――まだ終わっちゃいない」
隼人は大きく息を吸い込み叫ぶ。
「花咲笑顔ォ!!!!」
戦場が、静止する。
「これ以上続けても泥沼だ! 下の者が徒に傷付き倒れるだけだろう! 頭同士でタイマン張って決着をつけようじゃねえか!!」
その瞬間、叛逆七星側の人間が爆ぜた。
「何が泥沼だクソバカタレが! 有利なんは俺らだろうが!!」
「やられる覚悟もなしに俺らがここに居るとでも思ってんのか!?」
「散々恥知らずな真似ぇしといて何を都合の良いこと抜かしてやがる!!」
「こっちは最後の一人になるまで戦うって腹ぁ括ってんだよカスがァ!!」
「テメェの頭にゃ脳みその代わりに糞でも詰まってんのか!? あ゛ぁ゛ん!?」
飛び交う怒号と罵声。その通りだ。何一つ間違っちゃいない。
それでも今の隼人にはどれだけ恥知らずでもこれ以外の選択肢は残っていないのだ。
「じゃかあしゃあ! 受けるかどうかを決めんのは俺らの大将だろうが! だぁってろ!!」
鷲尾が場を引き締める。
血の気の多さが目立つものの彼とて一つのチームを率いる長だ。やるべきことはちゃんと分かっている。
「どうするよ大将ォ!!」
「良いよ。受けようじゃないか」
獅子口を伴い歩き出すと二人に道を譲るように人の群れが裂ける。
中央で対峙する互いの大将とその右腕に見守っている者達がこくりと息を呑んだ。
「獅子口」
「光輝」
二人は無言で前に出た。
「“格”の違いを教えてやれ」
「ぶっ潰せ」
互いの大将に背を押され、
「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
真っ向から衝突した。
先手を取ったのは光輝で鋭い右ストレートが獅子口の顔面を打ち据える。
ぐらりと身体が揺れるものの、獅子口はニヤリと嗤った。
「きぃいいいかねえぇえええええんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「がっ!?」
痛烈な頭突き。しかし、一発だけでは終わらなかった。
獅子口はそのまま光輝の頭を引っ掴んで何度も何度も頭突きを繰り出す。
光輝はそれから逃れんと打たれながら何度も何度も獅子口を殴りつけるが止まらない。
「あ、ぅ……ま、まだ……」
「見苦しいわボケェ!!!!」
もう立っているのもやっとという状態になっていた光輝の頭に強烈な回し蹴りが叩き付けられた。
吹っ飛んだ相棒を隼人が受け止めるがその意識は既に途切れていた。
「……よくやった」
噛み締めるように呟き、そっと相棒を横たえる。
隼人は一度、叱咤するように自分の顔面を殴り付け闘志を漲らせながら前に出た。
それに呼応するように笑顔も歩き出し一歩、また一歩と距離を詰めていく。
そして互いの射程圏内に入ったところで、
「「……ッッ!!」」
同時に拳を繰り出した。ことここに至っては最早、言葉は不要。
笑顔の拳が隼人の腹を、隼人の拳が笑顔の顔を。
互いに打ち据えられた二人はたたらを踏むが直ぐに前進。防御も回避も捨てて只管攻撃を放つ。
((何て……重い……ッッ))
言葉には出なかったが、両者共に互いの拳に宿る重さを痛感していた。
それでも互いに一歩も退く気はなく、その攻勢は天井知らずに激しくなっていく。
《……》
頭同士のタイマンを見守る者らにも言葉はなかった。
最初は多少あったのだが、その迫力に気圧されてしまったのだ。
「ッ……!」
「!?」
ガクン、と笑顔の膝が笑う。
(好機……!!)
その隙を見逃す隼人ではない。
悲鳴を上げる身体に鞭を打ってその横っ面に拳を叩き付け笑顔を殴り倒す。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
これで勝負を決める。情け容赦のない踏み付けが笑顔を襲う。
立ち上がれずに居る笑顔だが、
(……死んでねえッ)
夜の闇の中でも尚、強く輝くその碧眼は未だ死んでいない。
そうこうしている内に隼人の息が切れる。明確な隙。それを見逃す笑顔ではない。
その足首を引っ掴んで思いっきり引っ張ると隼人は踏ん張り切れずに後頭部から倒れてしまう。
「……立てよ」
体力回復のためか、或いは正々堂々と戦いたかったのか。
笑顔は追撃をせず、挑発するように手招きをしてみせた。
「っだらぁ!!」
震える膝に拳を叩き付け、隼人が立ち上がる。再度、真っ向切っての殴り合いが始まった。
タイマンを始めた頃に比べればどちらもボロボロで、なのにその殴り合いは当初よりも激しい。
(倒れろ、倒れろ、倒れろ!!)
隼人は胸中で何度もそう繰り返す。
二代目の時代に訪れた悪童七人隊壊滅の危機。
どうにかこうにか勝利し命脈を繋いだが、もしまたこのようなことが起きれば次は……考えるだけで怖気が走った。
だから二度とあんなことが起こらないように、どんな相手にも負けない圧倒的な力を求めた。
後悔はない。自分で選んだ道だ。だから、負けられない。ここで負けてしまえばこれまでの全てが無に帰す。
(大恩ある先輩に背を向け、憧れの人に失望されようとも……!)
小学校六年の時だ。夜の街を駆け抜けるアキトの姿に友と二人、憧れた。
頑張って頑張って二代目に入れてもらった日は二人で盛大にお祝いをしたものだ。
それから色々あった。本当に、本当に。
それを、
「お前なんぞに潰されてたまるかぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」
渾身の一撃はしかし、真っ向から受け止められた。
右手で拳を受け止めた笑顔は真っ直ぐ隼人を見つめ、言う。
「俺じゃないよ」
「ぐ……何、を……」
拳を引こうとするがぴくりとも動かない。ならばと反対の手で殴り付ける。
顔面に突き刺さった拳。だけど、笑顔は微塵も揺るがない。
ぱっと笑顔が手を放すと一瞬、隼人はふらつく。
「お前が全部台無しにしたんだ」
言葉と共に笑顔の右ストレートが隼人の顔を打ち抜いた。
倒れる隼人、何とか立ち上がろうとするが身体が重く思うように動けない。
そんな姿を見下ろしながら笑顔は言う。
「――――お前の守りたいものはもうどこにもありはしないんだ」
打ち下ろされた拳。今度こそ、隼人は倒れた。
「……は……なさ、き……」
「分かってる」
「なら……良い……」
重い荷物を下ろしたような、憑き物が取れたような。
安堵の言葉と共に隼人は意識を失った。笑顔は小さく息を吐き出し、皆に告げる。
「お前らの大将は倒れた。降伏するんならこれ以上、手を出すつもりはない。どうする?」
「…………俺達の、負けだ」
意識を取り戻していた光輝が敗北を認める。
この瞬間、悪童七人隊と叛逆七星の戦いは終わりを告げた。
「ふぅ……もう敵も味方も関係ない! 救急箱はかなりの数用意してある! 動ける奴は治療に当たれ!!」
笑顔の言葉に従い、動ける者は治療を開始した。
敵も味方も関係ない。その言葉に偽りはなく悪童七人隊側が叛逆七星の手当てをすることもあれば逆もあった。
そうして三十分ほど経った頃、隼人も意識を取り戻した。
「あんまん、さん……」
傍らに居るアンマンを見て隼人は顔を俯かせる。
そんな隼人にアンマンは、
「――――すまなかった」
「なに、を」
「俺の不甲斐なさがお前を悪い方向に進ませちまったんだろ?」
アンマンも、アキト達も分かっていた。分かった上で心を鬼にして戦ったのだ。
何のため? 悲しい暴走を終わらせるために。
もう、何もかもが終わった。ならば今はもう素直に心の裡を吐き出せる。
「何で、あなたが謝るんですか……謝らなきゃいけないのは……」
その言葉を遮るように乾いた音が鳴り響く。笑顔が手を叩いたのだ。
急に何だと皆の視線が笑顔に注がれると、彼は言った。
「これから皆で走ろうか」
突然の提案に皆が目を丸くする中、笑顔は続ける。
「熱くなった血が落ち着くまで。心の中のモヤモヤが吹き飛ぶまで」
何時までも何時までも走ろう。
「――――それが俺達だろう?」
この日、一つの伝説が終わり新たな伝説が生まれた。
このまま第一部完……!
ってして良いぐらいにはやり切った感あるので明日、今回のエピの〆を投稿したらちょっとお休みさせて頂きます。
流石にノンストップで走り続けて来たので疲れました……。
とは言え書きたいネタはまだまだありますから一週間ぐらいしたら投稿再開します。