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2012Spark⑬

1.叛逆七星


 獅子口……さんをつけた方が良いか。これから一緒にやってくわけだしな。

 獅子口さんの提案により改めて自己紹介をし終えた後、彼は本題を切り出した。


「こうして集まりはしたが塵狼と白龍、紅虎を除けば基本的に潜在的な敵対関係にあると言って良いと思う」

「そうだな。烏丸の野郎は特にだ」

「テリトリーなんぞ無視してどこにでも顔出しやがっからな」


 琴引さんと鷲尾さんが疲れたように溜息を吐く。

 このあちこちにってのは別に喧嘩を売ってるわけじゃなくて、単に心霊スポットに凸してるだけだろう。


「好奇心はとめられないんだ」


 まるで反省の色がない……。

 大我さんと龍也さんも深々と溜息を吐いている。彼らも何度か注意はしたことあるんだろうな。

 それでもオカルトへの好奇心を止めることは出来なかった、と。苦労人である。

 中学時代は金銀コンビ、高校に入ってからは烏丸と上にも下にも問題児を抱えてるとか……ちょっと泣く。


「だけど、今はいがみ合っている場合じゃない」


 全員が頷く。


「癪な話だが魔性天使(うち)だけでは悪童七人隊は止められねえ。今はまだ良いがいずれ限界が来るだろう」

「俺っとこもだ。どんどんチームが潰れてくってことはそれだけこっちに向けられる戦力が増えるってことだからな」


 やっぱり冷静だな。これだけで頼りになるチームだってのが分かる。

 連合の活躍次第ではここに居ないチームを取り込むことも出来るかもだが、そもこの段で暢気キメてるような奴らだ。

 それぐらいならいっそ入れない方が良いだろう。逆に足を引っ張られてしまう。


「じゃあ、悪童七人隊に頭ぁ下げる?」

「「「「「ざっけんな」」」」」


 そしてこの反骨心。

 ヤンキーなんてのは結局、どこまでも自分を突っ張れるかが大事なんだ。

 そういう意味でここに居る奴らは全員、信が置けると言っても良いだろう。バフもかかってると思う。


「なら今だけは柵を捨てて手を組む――それで良いよね?」

「「「「「異存なし」」」」」

「笑顔くんも良い?」

「はい。個人的にも連中とやり合う理由があるので」

「結構。意思の統一は確認された。ここに連合の結成を宣言しよう」


 ならば次は実務的な話だな。具体的にどう悪童七人隊とやり合うか。

 どこに勝ち筋を見出すか。俺も俺なりに色々考えてはいるが、先ずは先達の意見を聞くべきだろう。


「じゃ早速だけど――――連合の名前どうしよっか?」


 え、そこ!?


「ああ、それは大事だな。漫才師のコンビ名と同じだ。実力が伴ってても掲げてる看板がダメじゃ世間に受け入れられねえ」

「慎重に議論すべきだと思う」

「キュート路線、セクシー路線、色々あるから慎重に吟味しなきゃな」

「っすね。ここで躓くと後々まで響きますし」

「だべだべ。マジ、今日イチ気合入れて考えなきゃならん問題でしょ」


 ……塵狼結成した時も思ったがヤンキーはホントこういうの好きね。

 まあでも、わりと切羽詰った事態でもこんな余裕があるのなら悪いことではないのかも。

 ああでもないこうでもないとスマホのメモ帳に自分の考えた名前を打ち込んで議論する先輩方をぼんやり眺めていたのだが、


「おいゴルァ。花咲ィ、テメェさっきからダンマリじゃねえか。協調性って言葉を知らねえのか? あぁん?」


 えぇ……?

 むしろ出しゃばっちゃいけないかなって大人しくしてたんすけど。


「落ち着けよ鷲尾。コイツも……表情は変わらんが色々考えてるかもしれんだろ」

「そうそう。年上ばっかの場で自分の意見をってのは難しいだろ」

「そんな可愛いタマか~?」

「でも琴引と烏丸の言うことにも一理ある。どうかな笑顔くん、何かある?」


 ない、と言うのは簡単だがこの流れでそれはな。

 何かねえかなと頭を回し――……ちょっと良い感じのを思いつく。

 俺は小さく頷き自身のスマホを立ち上げメモ帳にチーム名と読み仮名を打ち込み皆に見せ付ける。


叛逆七星(ワイルドセブン)。これなんてどうですかね?」


 言ってしまえばこれは皮肉と挑発だ。


「……連中への当て付けか。テメェ、中々センスあるじゃねえか」

「初代悪童七人隊は支配に抗い自由のために戦ったチームだったか」

「その意思を正しく継承しているのは俺達でお前達は偽物だって言いたいわけね」

「旗として掲げるにはピッタリじゃん。なあ大我?」

「おう、最高にクールじゃねえの」


 おぉ、存外好評。


「僕も良いと思うけどさ。一つ良い?」

「何でしょう?」

「叛逆は分かるけど何で七つのチームを星に例えたの?」


 ああ、それか。


「皆さんの名前ですよ」


 獅子口雅義→しし座。

 鷲尾和久→わし座。

 琴引六郎→こと座。

 烏丸淳二→からす座。

 秤大我→天秤座。

 骨喰龍也→りゅうこつ座。

 最後のは姓じゃなく名前も含めた上で龍を竜にとちょっと捻ったけど、こじつけられないほどじゃないしセーフってことで。


「で、俺は名前はあれですがチーム名の塵狼からおおかみ座ってことで」

「なるほど。良いじゃん良いじゃん。全員にちなんだもので尚且つメッセージ性も十分。皆、これで良いよね?」

「「「「「異議なし!!」」」」」


 自分の案が採用されるってのはちょっと恥ずかしいけど、これで実務的な話に移れるのは良いことだ。


「じゃあ次は頭を決めよっか。実質は対等でも連合を組むんだから名目上の頭は必要でしょ」

「そりゃそうだ。頭も決めずに動くってことはまとまりがねえって宣伝してるようなもんだからな」

「その存在を隠す臆病者って謗りもあり得るだろう」


 ただでさえ数の面では不利なのだ。付け入られる隙は潰しておくべきだろう。

 俺個人としては獅子口さんに頭を張ってもらいたいね。一番、数が多いチームの頭だし実力的な面でも信頼出来る。

 とは言え話し合いの中心は年上四人だし誰がなるにせよ、


「僕は笑顔くんを頭に推薦する」

「はぁ!? 何言ってんだテメェ! 連合の命名者つってもコイツは……」

「「――――ああ、そういうことか」」


 烏丸さんと琴引さんが得心が行ったように頷き、俺も少し遅れて理解する。

 確かにそういう理由なら俺が代表を務めるのが一番だろう。


「ど、どういうことだよ?」

「この中で最年長は誰だ? 俺達四人だろう?」

「だが俺達の誰かが頭となれば角が立つ。俺達自身が納得してても下がそれを飲み込めるかどうかは別だ」

「となると年下三人になるけど大我と龍也は俺の後輩だし、フェアじゃない」

「っすね。笑顔くんもそうと言えばそうっすけど関わりが薄い」

「俺も大我も昨日、直接会ったばかりだし……それを抜きにしても誰かに肩入れすることはないでしょう」


 まあね。俺が年上に配慮するような人間なら鷲尾さんを挑発したりなんかしない。


「一番、関係性が薄い笑顔くんを頭に据えたならここに居ない皆も角が立たないように選んだんだって分かるでしょ?」

「……なるほどな。そういうことなら文句はねえ。ってより、話を聞いたらそれ以外にはねえとすら思う」


 鷲尾さんって結構簡単に火が点くけど物分りが良いよね。

 理を以って説けばちゃんと受け入れてくれる。憎めないキャラだと思うわ。


「笑顔くん、引き受けてくれる?」

「そういう事情なら……謹んで御受け致します」

「ありがと。実務はちゃんと僕らが補佐するからよろしく頼むよ」


 そこはホント、お願いします。

 一応塵狼の頭ではあるけど基本、金銀と梅津に人を任せてたからな。

 百人以上の集団(全員年上)を十全に指揮出来るとは思えない。皆さんの助けがなければ早晩、叛逆七星は瓦解するだろう。


「じゃ、次は具体的な動きについて詰めてこうか」

「悪童七人隊を潰せば抗争は終わるけど、本丸を落とすには邪魔者が多過ぎる」

「あぁ。傘下のチームをまずはどうにかしねえとだが」

「連中もそれぐらいは分かっているだろうからな。警戒していないわけがない」

「幾らか潰すことは出来ても、本丸まで辿り着く前に息切れして逆にこっちが潰されるでしょうね」

「じゃあチームを分散させずに集まって動くかつったら……これもダメっすよねえ」

「ダメだねえ。向こうからすれば鴨が葱背負って来たようなものだよ」


 悪童七人隊はまだ叛逆七星のことを認知してはいないが個別のチームとしてはもう目をつけているだろう。

 支配を確立する上で厄介な手合いだと。そんな厄介者がまとまって動くのだ。

 一旦、他への侵攻を後回しにして俺達を潰すために全リソースをつぎ込むことは容易に想像出来る。


「あの、質問良いですか?」

「はいどーぞ」

「俺は族事情とか詳しくないんですが皆さん的に悪童七人隊傘下のチームでコイツらだけは事前に潰しておきたいっていうのはあるんでしょうか?」


 俺の言葉に全員が顔を見合わせ、それならと話し合い始める。

 あそこのチームが厄介だ。いや、そっちよりこっちだと。

 そうして議論を重ねることしばし。本丸へ攻め込む前にどうしても潰しておかなければいけないチームの名前が挙がった。

 その数は八つ。


「……八つなら……何とか、なるかな?」

「おうゴルァ、何か良い案浮かんだんか?」

「その前に一つ。仮に俺らがいきなり各チームでそれぞれに攻め入ったとして潰せますかね?」

「奇襲を、か。難しいだろうな」


 琴引さんの言葉に他の皆も頷く。

 普段ならともかく悪童七人隊の傘下に入ったことで動かせる兵隊の数は格段に増えている。

 一つ二つはいけても、直ぐに撤退することになるだろうと。得られる戦果と被害が釣り合っていないのでやる意味はないとも。


「もう一つ。その八つのチームの立ち位置について」

「各チームの頭は同時に悪童七人隊本隊にも籍を置いてて、今挙げた八つは一応最高幹部ってことになるな」


 なるほど。侵攻を企てたオリジナルの悪童七人隊の奴ら的にも配慮しなきゃいけないような立ち位置ってことか。

 となると最高幹部は唯々諾々と従ってるわけじゃなさそうだな。相応にプライドも高いと見た。


「で、詳しい話を聞かせてくれないかな?」

「守りを固めているのが面倒ならそれを剥がしてやれば良いんじゃないかなって」

「アホかァ! それが無理だからどうしようかって言ってんだろうが!!」

「落ち着け鷲尾。何か腹案があるんだな?」

「ええまあ、成功するかどうかは分かりませんけどね」


 まったく無駄な一手にはならないだろうとは思う。


「八つのチームを潰さなきゃいけない。でも守りを固めているからそれも難しい。

ならその守りを向こうから手放すよう仕向けるのはどうでしょう?

噂を流すんです――――塵狼(ちゅうぼうども)がそいつらを狙ってるってね」


 俺の提案に全員が目を見開いた。


「鷲尾さん。黒笑がたった八人の中学生のチームに狙われてるって噂が流れたらどうです? ガッチガチに守り固めますか?」

「……んな情けねえ真似は出来ねえわなぁ」

「標的である八つのチームもそうでしょう。聞けば元から結構な図体のチームらしいじゃないですか」


 そんなデカイチームがだよ? 中学生八人に狙われてますって噂が流れてる状態で守りを固められるか?


「当然、向こうも連合の存在を把握は出来ずともそういうものが立ち上がったと見て噂は策の一環だと見做すでしょう」


 悪童七人隊のトップ……話を聞くにブレインは副総長らしいな。

 副総長が軽挙を慎むようにと命じるはずだ。だがヤンキー……それも元はデカイチームの頭で独立独歩だった連中が素直に言うことを聞くか?

 副総長もそこは分かっているだろうが、だからと言って注意以上のことは出来まい。

 今はまだ拡大路線の真っ只中で安定していないからな。注意以上のことをやろうとすれば火種が大きくなる。


「不和の種を撒こうってわけだ」

「ええ、塵狼を潰してそら見たことか。副総長は随分腑抜けてると発言権を増すのに利用出来るでしょう」

「だがそのためには餌である塵狼の価値を高める必要があるな……いやそうか」

「狂騒を狙うんだね?」


 獅子口さんの言葉に小さく頷く。


「皆さんの話を聞くに八つの枠組みには入らなくてもそれなりに厄介なチームではあるんでしょう?」

「おォ。連中は血の気の多い喧嘩屋集団だからなァ」

「都合の良いことに俺は狂騒と揉める理由がありますからね。これを利用しない手はない」


 少なくとも俺が狂騒と揉める段階では悪童七人隊も連合の存在に勘付きはしないだろう。

 疑いはするかもしれないが、確信には至らない。どことどこがどう繋がっているかは俺らが表に出るまでは絶対に分からない。


「たった八人のチーム、それも中学生が潰したとなれば名は大きく広まるはずです。

傘下の弱小チームが手を組んで発言権を強めるために俺らを的にかけることもあるでしょう」


 少なくとも狂騒を潰しても直ぐに悪童七人隊本隊が動くのはあり得ない。

 そんなことをすれば本来の抗争相手達に隙を晒すことになるからな。


「お前達次第ではあるが、全部返り討ちにすりゃそこそこ数は削れるだろうな」

「その上でさっき言った策を展開して……」

「ここに居る全員が同時に仕掛ける、と」

「状況によってはまた変更点も出て来るでしょうが、現段階で描ける絵はそんなところですかね」


 まあまあ、悪くない案だと思う。


「……叛逆七星の名前を出した時もそうだがテメェ、可愛い顔してえげつないこと考えやがるな」

「烏丸が参加を認めたのも頷ける」

「いや、俺はそこまで考えてなかったぞ? 後輩二人が言うから連れて来ただけだし。大我、龍也、どうなん?」

「俺らは分かってましたよ。逆十字軍への追い込みを見てましたからね」

「つか烏丸先輩は同じ市内なんだから把握しときましょうよ」

「興味なかったし。そんなん調べるぐらいならネットで怖い話漁った方が千倍有意義だろ」


 わが道を行ってるなぁ。


「ところで獅子口、お前も何か考えがあるんじゃないか?」

「ああうん。僕のは笑顔くんと違って削るためじゃなく、嫌がらせだけどね。でもそれを説明する前に一つ、忘れてたことがあるんだけど」


 忘れてたこと?


「叛逆七星のシンボルだよ。旗は直ぐにでも用意出来るけど特服は流石に時間が足りないでしょ。だから腕章を用意しようと思うんだ」

「腕章か。それならまー、表に出るまでには俺らの分ぐらいは用意出来そうか」

「うん。お金出し合って作るけど良いかな?」

「良いと思います。共同体であるって意識を根付かせるには大事なことでしょうし」

「俺も賛成」

「じゃ決定ってことで」


 その後、明け方近くまで話し合いは続いた。かなり実りのある話になったと思う。

総合評価四万突破しました。ありがとうございます。

目に見える数字はモチベが上がると同時に気が引き締まりますね。

皆さんのご期待に応えられるよう頑張って執筆したいと思いますのでこれからもどうぞ応援よろしくお願いします。

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