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レッツゴー!陰陽師⑨

前話のあとがきにも書きましたが

あとから追記したものなので読まれてない方も居るでしょうしもう一度、書かせて頂きます。


※注意

感想欄は誰の目にも触れる場所です。

政治などの荒れそうな話題は然るべき場所でやって頂くようお願いします。

1.同時多発オカルトテロ的な?


 あれから変わったことは特に起きなかった。

 無言で山を降りた後は誰も昨夜のことには触れず一日を過ごし、後日改めて山登りをしたが特に異変はなし。

 普通に山を登って普通に山菜ご飯を楽しめた。

 その後もそう。何か起きるなら祭りの最中かと警戒していたがこれまた特に何もなし。

 何か見覚えのあるガキやお姉さんが参加してたような気がせんでもないが気のせい気のせい。

 そうしてつつがなく滞在を終えた俺達は仲良くなった村の人に見送られ村を後にした。


『また来年もおいで』


 と言っていたが……うん、それはどうかな。ちょっと明言を控えます。

 町の無人駅から電車を幾つか乗り継ぎ盛岡駅に向かった俺達は新幹線の時間までお土産を買うことにした。

 流石は県庁所在地の駅だけあってその手の土産物屋は実に豊富でどれにしようか目移りしてしまう。


「ジャージャー麺……? 岩手ってジャージャー麺が名産品なの……?」

「ちげえよえっちゃん、そりゃ“じゃじゃ麺”だ」


 終戦後の盛岡で屋台を始めた満州帰りの主人が居たらしい。

 その主人がかつて食べたジャージャー麺を盛岡人の舌に合うようアレンジを加え独特の形に昇華させたのがじゃじゃ麺だと言う。

 細かな違いは多いが一番大きいのは麺。専用の平打ちうどんが使われているのが特徴なんだとか。


「盛岡三大麺の一つだな」

「へえ、そんな括り初めて聞いたよ。皆は知ってた?」

「ぜーんぜん。でもそういうことなら一つ買ってくかな? つか普通に俺が食いてえわ」

「……俺はロース味噌漬セットが気になんな」

「しょっぱいものだけじゃなく甘い物も買った方が良くね?」


 一人暮らしの梅津以外は全員、お土産代にと多めにお金を渡されているので真面目に考えなきゃね。

 いや梅津に金がないわけじゃないぞ。親が上納金の如く送って来る多額の仕送りを好きに使えるからな。


(……もの悲しい家庭環境が垣間見えて複雑だわ)


 それから時間いっぱいまでお土産を選び、新幹線に乗った。

 車内での話題は当然、この一週間での出来事だ。※アレは除く。


「良いとこだったなー。何つーの? 時間がゆっくり流れてく感じがすげえ癒された」

「おお、それな。都会に居る時はどうとも思わんかったが、案外忙しなく時間が流れてたんだって痛感させられたわ」

「ずっと住むとなればまた話は変わって来るだろうけど、ちょっと羽根を休めるには最高の場所だったね」

「……まあ、悪くはなかった」


 長閑な田舎の空気で更に丸くなった感はあるが、完全に棘が取れたわけではないらしい。

 まあでもその棘はキャラ属性に直結するから迂闊に外せないよね。鬼が角取ったら変わった肌色のオッサンでしかないのと同じだ。


「そーいや梅津よ。矢島から連絡とか来てたのか?」

「……まあ、何回か」

「どうよ? あいつはあいつで楽しんでる?」

「……分からん。何か怪文書みたいなメールだった」

「「「「怪文書?」」」」


 首を傾げる俺達に梅津は無言でスマホの画面を突きつけた。

 どれどれと画面を覗き込み……唖然とした。


「生と死の境界……」

「……鏡の向こう」

「黒い人形?」

「踊る夢?」


 全体的な文章としてもまとまりがない上、要所要所に不気味な単語が散りばめられている。

 確かにこれは怪文書としか表現のしようがない。

 何かの冗談でこんなものを送って来たのならまだ良いが、送信時刻が十二時間以上前なんですけど……。

 どうリアクションしたものかと黙りこくっているとピコン♪ と気の抜けた通知音が響く。


「あ、わりぃ。俺だわ」

「……こういうとこではマナーにしとかなきゃ」


 タカミナに注意しつつも変な空気が乱れたことに内心感謝していた。

 しかし、


「お、テツからだわ。えーっと……え」


 タカミナの顔が引き攣ったのが分かった。

 正直もう嫌な予感しかないがここで無視しても気になってしゃあないし……金銀コンビと梅津がじっと俺を見る。

 はいはい。俺に聞けってことね。


「タカミナ、何かあったの?」


 タカミナは無言でスマホの画面を見せ付けた。

 グループチャットの画面。そこにはただ一言こう、あった。“幽霊って信じる?”と。


「…………何か、あったのかな。ちょっと聞いてみなよ」

「お、おう。そうだな」


 どしたん急に? とメッセージを打つ。一分経っても二分経っても三分経っても既読さえつかない。

 つぅ、と頬を汗が伝う。涼しい車内のはずなのに不思議だ。

 テツ? おーい? 大丈夫か~? 立て続けに打たれたそれらにも反応はない。


「「「「「……」」」」」


 嫌な空気だ……。

 しかし、事態はこれで終わらなかった。ぶるる、と今度は俺のスマホが振動したのだ。

 全員が俺を見る。言わなくても分かる。確認しろ、とその目は雄弁に語っていた。

 この空気を変えることを期待しているのだろう。でもこれでまた変なヤツだったら……。


(いや待てポジティブだ。ポジティブに考えろ俺。普通に姉さんや母さんからの連絡ってこともあるだろうが)


 いやむしろその可能性が高い。

 一週間ぶりに帰宅するのだ。今日の晩御飯は俺が好きなのを作ってくれるとかそういうね。

 素晴らしいわ~これぞファミリーって感じ――いよし理論武装完了。

 スマホを取り出し画面を確認。どうやらメールらしい。

 アイコンをタップすると、


「…………と、トモ」


 トモからだった。件名は書いていない。

 呻く俺を急かすように四人の視線が強くなる。はよ、はよ中身を確認しろと。

 確かトモは親戚の爺さんだか婆さんだかがやばいでどっか行ってるんだったよな?

 ひょっとしてあれか。ダメだったのか。でも思いいれとか特にないから暇で俺を話し相手に誘ってると見た。

 よし、理論追加武装完了。いざごかい……ちょ……う……ぇぇ?


「“死が生の総算ではなく通過点だとしたらその先にあるものは”」

「「「「…………」」」」


 これだけ。中身これだけ。


(え、何? テロ? 同時多発オカルトテロ的な?)


 何が嫌って話の流れ的にありそうなのが嫌だ。

 ただでさえ低くなっていたテンションゲージが底を割った感がある。

 とりあえずテツトモと矢島からは何も聞かない方向でいこう。知りたくもないことを聞かされそうだしな。


「…………寝るか」

「「「「……おう」」」」


 それから俺達は地元の駅に到着するまで惰眠を貪った。

 寝て全部を忘れる。これほど素晴らしい解決方法はない。

 中区の駅で皆と別れ帰途についた。迎えに行こうか? とも言われたのだが少し歩きたかったのだ。


(たかだか一週間しか離れてないのにね)


 どこか懐かしく感じる街並を眺めながら歩く。

 まー……色々あったが総合すると悪くない旅行だった。田舎は良いね、心が癒される。

 イジメっこ達の鬱陶しさに爆発してからイベントの連続だったもんなぁ。

 いや、合間合間でのんびりはしてたよ? でもこう、それもつかの間……って感じでまたイベントが発生してたからね。休んだ気がしない。

 しかし、一週間だ。一週間もヤンキー輪廻を離脱してただただ穏やかな時間を過ごせたのは大きい。

 俺のメンタルゲージもかなり回復したんじゃねえかな。


(まあでも、戻って来たからには……次はどんなイベント起きるのかね)


 夏休みだからな。何かしらのイベントはあるだろう。


(……いや、やめておこう)


 旅行を終え、地元に戻って来たばかりなのだ。今日ぐらいは何も考えず素直にまったりしよう。


「ただいま」


 夕餉の香り漂う住宅街を進み我が家の扉を開けると、


「おかえりっ!!」


 姉のハグが俺を迎えた。


「う~一週間ぶりのニコだぁ♪」


 嬉しそうに乳を押し付けながら俺に頬ずりをする姉。

 毎度のことながら距離感ちけーなオイ。年頃の娘さんなんだしもう少し慎みなさいよ。


「……たかだか一週間でしょ」

「今までそんな離れたことなかったじゃん! お姉ちゃん寂しかったんだからね」


 チュ、チュ、と今度はデコやら頬にキスをする姉。

 とりあえず一旦荷物置きたいんだけどと困っていると、


「はいはい麻美。嬉しいのは分かったから離してあげなさいな。そのままじゃニコくんも落ち着かないでしょ」

「むぅ……分かったよ」

「まったくもう。ふふ、おかえりなさいニコくん」

「ただいま母さん」

「とりあえずリビングに行きましょうか。そこでお話、聞かせて頂戴な」

「うん」


 三人揃ってリビングに行く。

 ようやっと荷物を下ろせてほっと一息吐く俺に母さんが牛乳を差し出してくれた。

 帰宅したら牛乳でいっぱいは俺のルーティンだからね。


「ふぅ」

「旅行はどうだった?」

「楽しかったよ。ホント、良いところだった。景色も綺麗で空気も澄んでて……すんごい心身が癒されたよ」


 俺の思い出話を母も姉も嬉しそうに相槌を打って聞いてくれた。

 そして小一時間ほど経ったところで、一旦話を切り上げる。続きは夕飯の時に。

 一先ず部屋で荷物を整理しようと自室に向かった俺だが……。


「――――」


 絶句した。理由はベッドの上にあるもののせいだ。


「あの、鞠は……」


 社に置いて来たはずのあの鞠だ。バッチリ友情って書かれてるし。

 色んな感情が込み上げて来るがとりあえず、


「……夏休み、まだイベントはあるだろうけど肝試しだけは何が何でも阻止しよう」


 そう強く心に誓う俺であった。

『レッツゴー!陰陽師』 終了

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