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レッツゴー!陰陽師⑧

1.ベタだなぁって……


(笑えるのは事実だが……)


 それはそれとして、だ。


「終わりじゃ、お前らは……」

「おいジジイ」


 胸倉を掴んでいる手を外し、


「あぁ!? 何じゃその口の利き……あだだだだだ!!!?!?」

「お前、明らかに大人しそうな俺を狙って突っかかって来ただろ」


 ジジイにコブラツイストをかける。

 相手は高齢者だからな。流石に骨を折るまではいかんが絶妙なとこで痛め付けさせてもらう。

 既にギャグルート入ってるから普段の被害者バフより信の置けるギャグ補正という名のバフがかかるから問題はなかろう。

 こんな話の流れでジジイが重傷負うとか流石に迷走が過ぎるもん。


「や、やめ……離せクソガキャあだ痛い痛い痛い痛い!!?!!?!」

「更に言うとだ。あそこに入ったのかとか言ってたが俺らはテメェに何か注意された記憶はないんだが?」


 立ち入り禁止の場所と知って入ったのならそりゃあ非は俺らにあろうさ。

 だが村長さんに山の話を聞いていた金銀のリアクションからして社についての言及はなかったのだろう。

 ついでに言うと社の周辺に立て札なりロープなりが張ってあったとかもない。


「反抗しなさそうな相手を選んでこちらが全て悪いかのように一方的にまくし立てるのが大人のやることか?」

「や、やめ……!」

「歳食ってるからって偉いんか? 何をしても良いんか?」


 ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ、と締め付けを強くしていく。

 苦悶の表情を浮かべるジジイの面は心なしかギャグテイストに見えた。

 これ漫画ならぜってー、良い感じにデフォルメされてる気がするわ。


「おいこら、悲鳴上げてるだけじゃ分かんないよ。俺の質問に答えろ」

「あひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!?!?」

「会話すらままならないならいっそこのまま俺が地獄の底まで叩き落してやろうか? 今なら無料でやったげるよ」

「ほ、ホント反省してますんで!! は、離し……」

「反省してるならまずは?」

「ごめんなさいぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

「よーし、でも足りないな」


 謝罪ってのはそうじゃない。

 どこが間違っていて、これからどう改めていくのか。そこまでがセットで謝罪というものだろう。


「ガキの俺でも知ってることをジジイのお前が知らないはずないよね?」

「さーせん! 仰る通りです! あなたが大人しそうだから狙い打ちしました!!」

「他の四人は怖かった?」

「はい! 不良とかめっちゃ怖いです!!」


 正直者だな。


「よーし、そのまま続けろ」


 とまあそんな感じでジジイの心が折れて完全に泣きが入るまで続けてから解放してやった。

 その後、例の社について聞いてみたのだが……まあ、すらすらと話してくれたよ。

 泣き入れさせて正解だったな。最初のイキリ老害ムーブかましてた状態だと会話にならなかっただろうし。

 やっぱ交渉と暴力はワンセットなんだな。エンカウントしたモンスターを仲間にするタイプのゲームでも初手は暴力からだし。

 会話から入ることも出来るけど最初に暴力を入れることで立場の違いを――って何の話してんだ俺は。


「じゃあもう帰って良いよ」

「っす!」

「今度からはイキリ老害ムーブは控えるんだよ?」

「気ぃつけます! ホントさーせんした!!」


 老齢とは思えない機敏な動きでジジイは去って行った。


「……皆、今の話聞いてどう思った?」

「「「「ベタだなぁって……」」」」

「だよね」


 ジジイが長々と語ったことを要約するとだ。

 昔昔、飢饉で人がバタバタ死ぬような時代のこと。

 作物が取れないのは山の神の怒りによるものだと考えた村の有力者達は若い女を生贄に捧げる。

 で、翌年は飢饉こそなかったものの村では奇妙な怪死事件が相次いだと言う。

 これは女の祟りに違いないと旅の坊さんに頼んで女の魂を慰撫する社を建立し今に至る……的な感じだ。


「イキった若者が社で粗相して変死するってのもあるあるパターン過ぎて困るわ」

「それな。似たような怪談探せば両手の指じゃ足りないぐらいにありそうだわ」

「そもそも、あのジジイの絡み方がもう怪談のお約束パターンだったしな」

「ちなみにあのジジイが柚と桃の言ってた奴だったり?」

「「うんそう」」

「うわ、めっちゃ情けない……」


 ちょっと痛い目見せてやりゃヘコヘコし出しすとかダサ過ぎる……。

 村民の皆さんもちょっと寛容過ぎない? あんなん村八にしてもええやろ。


「まあジジイについては置いとこうぜ。ニコがシメたしもう良いだろアレは」


 それよりも考えなきゃいけないことがあるとタカミナは真剣な表情で切り出した。

 他の三人もそれに頷いている。確かにその通りだ。


「祟り、だね」

「おう。俺らは別に何も悪いことはしちゃいねえが」

「まあ俺はおもっくそ顔面蹴り飛ばしたけどね」

「そん前から俺らも死ぬとかほざいてたしどっちみち同じだろ」


 そうね。

 めっちゃ元気にケタケタやってたからなあのクソガキ。


「祟りが俺らにだけ振りかかるんなら別に良いがよぅ」

「ああ、あの糞っぷりからして村に迷惑がかかる可能性もあると思うぜ」


 それは誰も望んじゃいない。

 いや、あのジジイが祟られる分には知ったこっちゃないけどね。


「となるともう、答えは一つっきゃねえな」


 全員の視線が俺に向けられる。

 俺は一つ頷き、言う。


「有りっ丈の塩やら何やら役に立ちそうなものをかき集めるんだ」

「こっちから殴り込みをかけるんだな?」

「うん。わざわざ祟られるのを待つ必要はない」


 あのガキの怒り具合を見れば今夜にでも仕掛けて来るだろう。

 大人しくそれを待つ必要はない。こっちから出向いてやろうじゃないか。

 村にも迷惑がかかるし、何より待つのは性に合わないしね。

 つまりはまあ、


「――――(ゴースト)(バスターズ)、出撃だ」

「「「「応!!」」」」


 …………俺は真面目な顔で一体何を言ってるんだろうね。


(何でか、泣けて来た)




2.ブ●イトさん、塩が足りねえ!


 家に戻った俺達は塩と、対幽霊に使えそうな物品をかき集めた。

 蔵の中も漁ったのだが……中々、使えそうなものは幾らかあった。

 それが終わったら食事だ。腹が減っては戦は出来ぬと言うからな。

 食事の後はキッチリ風呂に入り身を清めてから村を出て再度山に入った。


 逢魔時、或いは大禍時。

 夕暮れの山は何ともまあ、不気味ではあったが拍子抜けするぐらいあっさりと社に辿り着くことが出来た。

 社は普通に、あるいは迷ってもそうそう入り込むことはないような場所にある。

 朝の時点であそこに導かれていたのだろう。だから再度、訪れた今も迷うことなくすんなり辿り着けた。


「……滅茶苦茶烏鳴いてんぞオイ」


 呆れ混じりに梅津がぼやく。

 社の周辺には大量の烏が集っていた。彼らは俺達を硝子玉のような瞳で見つめながら鳴き続けている。

 如何にもな雰囲気で、逆に萎えるわ。それはタカミナや金銀も同じようで白けた顔をしていた。


「柚、桃」

「「どした?」」

「ふと思ったんだけど、烏って食べられるのかな」


 心なしか烏の鳴き声が小さくなった気がするが気のせいだろう。


「いやいやニコ、烏は無理だろ。どう考えても不味いって」

「……気持ち悪い」


 ア●カかな? ツンツンしてるし案外、間違ってないのがやだな。

 いや待て。となると俺は綾●? 俺はこういうときどんな顔すればいいかわからない系ヒロインだった?


「いや喰えるぜ。俺は食ったことないが話は聞いたことがあるわ」

「同じく。食う時、姿がちらつくからアレだけどそこそこいけるらしい」


 ほう?


「…………あんだけ居るんだし十羽ぐらいなら大丈夫だと思わない?」


 俺がそう呟くや烏の群れは大声で鳴き喚きながら散って行った。

 実にコメディチックな話の運びだ。ちなみに今のは話をギャグ寄りにするためでもあるが、本当に味が気になってたのもある。


「最近、食欲旺盛だよなお前」

「皆の影響で舌が肥えたのかもね。さ、獲物も居なくなったし中に入ろう」


 皆を伴って社の中に入る。本番は夜だからな。

 体力をつける意味でも夜が更けるまではしっかり睡眠を取るべきだろう。

 普通ならこんなところで寝られるわけがないと思うかもしれないが生憎とここに居るのは無駄に図太い連中ばかりだ。

 皆、三十分としない内に寝息を立て始めた。


 そうして日が沈み月が姿を現し、その月も暗雲で顔を隠した頃――草木も惰眠貪る丑三つ刻に異変は訪れた。


 それは殆ど、直感だった。

 誰ともなく目を覚まし、一斉に精神を臨戦態勢に切り替えた。

 言葉はない。互いに目を合わせコクリと頷くや各種装備を手に俺達は社を出た。


「おうおう、嫌な空気だぜ。こりゃ如何にもって感じだな?」

「……ベタ過ぎていっそ笑うな」


 タカミナと梅津が緊張を解すように軽口を叩いているが俺は一つ気になっていることがあった。


「二人共、どうしたの?」


 柚と桃が怪訝な顔で首を傾げているのだ。


「「いや、何か引っ掛かるものが――――……あれ?」」

「んだよ?」

「……いや、ニコちゃんにシメられたあのジジイ。何て言ってた?」

「は?」

「確かよ。生贄に捧げられたのは“若い女”って言ってなかったか?」


 あ、と俺とタカミナ、梅津は声を漏らす。

 そうだ。そうだよ。いや、童女も若い女と言えなくもないが子供ならそこは普通に子供って言わないか?

 その疑問に辿り着いた瞬間、空気が一気に淀んだ。

 ずるずると闇から削りだされるように現れたそれを見て俺達は思わず叫んだ。


「「「「「何その怪談ア●ンジャーズ!?」」」」」


 禍々しいオーラを纏い両手を広げ宙に浮く童女。

 惜しげもなく乳を晒してる下半身が蛇のようになっている女。

 白いワンピース姿の三メートルはあろうかという女。

 両手に刃が毀れた包丁を持ち白髪を振り乱す鬼のような女。

 その他、怖い話によく居そうなタイプの魑魅魍魎がうじゃうじゃと。


「……良かったなバカゴールド、アホシルバー。ハーレムだぞ」

「「嬉しくねえんだけど!?」」

「言ってる場合か! 来るぞ!!」


 すぅ、と童女が息を吸い込み凄まじい形相で叫ぶ。


「殺せぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 完全にノリがヤンキーのそれである。


「上等じゃボケェ! やったるわ! 喰らえ、数珠メリケン!!」


 説明しよう! 数珠メリケンとは数珠を拳に巻きつけて殴る霊験あらたかな必殺技である。


「……卒塔婆ッ屠(そとバット)で地獄に送ってやんよォ!!」


 説明しよう! 卒塔婆ッ屠とは社の周辺にあった卒塔婆をバットのように振り回す霊験あらたかな必殺技である。


「「喰らえ! 聖水スプラッシュ!!」」


 説明しよう! 聖水スプラッシュとはペットボトルに貯めたおしっこをぶっかける霊験あらたかな……いや、これは何かのプレイじゃね?

 というのはさておくとしてだ。俺も塩を四肢に振り掛け童女に飛び蹴りをかます。


「そうかんたんにいくとおもうな!!」

「!?」


 空中で見えない壁に阻まれ蹴りが止まる。

 せめぎ合う俺の蹴りと壁……どうでも良いけどめっちゃ滞空してんな俺。

 バフかな……でもこれは普段のヤンキーバフではなくギャグバフだろうな。


「なら、これはどうだい?」

「!?」


 両手の指に挟んだ線香をダーツのように投擲。

 童女はギョッとした顔で線香ダーツを回避し、距離を取った。


「ほら、来いよ。格の違いを教えてやるからさ」

「き、きさまぁ!!」


 一度死んで幽霊になったお前。

 一度死んでヤンキーになった俺。

 大した違いはない。むしろ世界の壁を越えて転生した俺のが凄いまである。


「死ねィ! 抹香目潰し!!」

「桃は神聖な果物らしいが……桃缶でもいけんのか……?」


 罰当たり極まるスマッシュブラザーズは闇の中、天井知らずに白熱していく。


「「ダメだブ●イトさん、塩が足りねえ!」」

「誰がブ●イトさんだってのはともかくだ。よくよく考えて欲しい。俺らは今、結構汗かいてるよね?」

「「ハッ!?」」

「そう、汗にも塩分が含まれてる。なら実質、俺らは塩でコーティングされたまま戦ってると言っても過言ではないと思うんだ」

「「天才現る」」


 殴って殴られて。蹴って蹴られて。

 最早、自分が何をやっているかも分からないほどの熱狂に身を任せるがまま理性を飛ばし――――


「…………ぁ?」


 小鳥の囀りが耳朶を揺らす。

 目蓋の裏に差し込む光に意識が浮上し、俺はゆっくりと目を開く。どうやら眠っていたらしい。

 見れば他の四人も俺と同じく社の前で眠っている。俺はぺちぺちと皆を叩き、覚醒を促す。


「う、うーん……」

「あれ? 俺ら、確か……」


 目が覚めると俺らは誰が言うでもなく顔を合わせ、


「「「「「………夢、だったのか?」」」」」


 登山途中にやべえ茸でも食ってやべえ幻覚でも見てたって方が納得出来るよな。

 いや、俺も何か途中から――具体的に言うと最初に社に辿り着いた時から変なテンションだった気もするし。


「! お、おいニコ……それ」

「え」


 俺の傍らを指差すタカミナ。つられて目をやると、そこには“友情”と書かれた鞠が転がっていた。

 皆を見渡すと彼らは示し合わせたように頷き、


「「「「「…………帰るか」」」」」

追記


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