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ネオメロドラマティック②

1.夜の鑑賞会


 楽しい……楽しい? 夕飯も終わり八時。夜は始まったばかりだ。

 ゲームも悪くないが食休みがてら先に映画を一本見ようということになった。


「そういや銀角ちゃんの方はホラーらしいけど金角ちゃんのはどんな感じのあれなん?」

「内容は伏せるが……そうさねえ、泣ける系?」

「じゃあそれは後回しだな。ニコ、最初はホラーにしようホラーに」

「了解。桃、ディスク貸して」

「おう」


 と言って鞄から取り出したパッケージを見て俺達(柚と桃を除く)は固まった。

 ワンテンポ置いて同時に困惑の声を漏らす。


「「「「えぇ……?」」」」


 クソでけえ市松人形がチェンソーを振り上げている絵面がシュール過ぎる。

 ホラー? コメディやのうて?


「つか顔、顔でっけえ!」

「すまん、これで怖がれる自信ないんだが」

「B級とは聞いてたが、これは……面白いは面白いでも別の意味での面白さなんじゃねえの?」


 俺もそう思う。

 それだけ市松人形のインパクトとサイズがデカ過ぎるのだ。

 そんな俺達の反応に桃はちっちっち、と指を振り笑う。


「お前らの言いたいことはよーく分かるぜぇ? 実際、笑える部分も多い。人形だけじゃなくてやたら尿意を催すおしっこマンとかイカレタ教授とかな」

「オシッコマン?」

「オシッコマン?」

「オシッコマン?」

「オシッコマン?」


 思わず四連オシッコマンである。いや、イカレタ教授が気にならないわけでもないがオシッコマンのインパクトが強過ぎる。

 桃の思うツボかもしれないがこれだけでもう中身が気になって来たぞ。


「他にもホラー定番の濡れ場がこれにもあるんだがエロとギャグが入り混じってどう反応すれば良いか分かんねえ」


 ああうん、ホラーのお約束だね濡れ場。

 ノルマの如く入れて来るよね。エロとホラーは相性が良いのかしら?


「だが全体のストーリーはよく練られてるし役者も良い。

そして……あー、これはネタバレになるから詳しくは言えないんだが勘の良い奴なら最後まで見終えたらあれ? ってなる。

なるほどこういうオチだったのか。でもあれ? よくよく考えたらあそことかおかしくね? ってな。

変な意味でじゃないぞ? ホラーらしくぞくっと来るような“気付き”を得られる。だから個人的にはこれは二回……いや、三回は見て欲しい」


 ほう、そこまで言うかね。

 地味にセールスが上手じゃないか。そう言われると俄然、興味が湧いて来たぞ。


「ところで金角。お前はノーリアクションだが……」

「ああ、俺は見たことあるからな。そして言いたいことは全部、銀角が言った」


 やっぱコイツら仲良いな……趣味趣向被りまくりじゃねえか。


「ああでも一つだけ、銀角が言わなかったセールスポイントを挙げるなら」

「「「「挙げるなら?」」」」

「主題歌が良い。やたらめったらカッケー」


 なるほど。兎に角もう見るっきゃねえってことだな。

 散々に興味を掻き立てられた状態でお預けは勘弁だ。

 俺はケースからDVDを取り出しデッキに挿入した。


「まま、そう身構えなくても良いさ。映画館ならともかくお家映画は気楽に見てナンボよぉ」

「だな。ほれほれ、軽くお喋りしながら見ようぜぃ」


 確かにその通りだ。変に身構えても疲れるだけで楽しめない。

 コイツら趣味の話になるとマジで頼りになるな。歴戦の将かよ。


「だな。しっかしお前ら……何つーか、娯楽に関しては半端なくつえーな」

「それな。金ちゃんも銀ちゃんも遊び人レベル上げ過ぎっしょ」

「興味のあることに首突っ込み続ければ良いだけだから楽だべ。なあ?」

「おう。面白そうならとりあえずやってみる! この精神で臨めば万事オールオッケーってなもんよ」


 その精神をナチュラルに体現出来る時点ですげーわ。


「……」

「どうしたのテツ?」

「いや、改めて思ったが凄い光景だなと」


 ?


「四天王だ何だと言われているが基本的に当人同士の関わりは薄い。

金銀は一応関わりはあったがそれは戦いであり語らいではなかっただろう。

共通してアホほど我の強い奴らがこうして同じ場所でお喋りに興じているというのは……なあ?」


 ああ、そういうあれね。


「ここまで来たんだし四人全員コンプしてみたいよね~」

「いやぁ、てっつぁん。そりゃあ無理じゃねぇ? 俺も金角も黒狗とはあんま関わりなかったがよぉ」

「そうそう。噂で聞いてるぜ。ニコちゃんに散々にやられたんだろ?」

「プライドも何もかもぐっちゃぐちゃ。加えて話に聞く限りじゃ……こう、何つーの? 怨念の化身? みてえな?」


 そんなのが仲良しこよしなんてするようには思えないと言う。

 まあそう思うのも無理はない。でも、俺はそうは思わない。

 四天王なんて肩書きを持つのが三人も集まったんだぜ? これで三人だけとか物語的に盛り上がらんでしょ。


「いやいや、トモが言うには何か良い具合に立ち直ったみたいだよ?」

「「マジか」」


 まあでもアイツ、べジータかピッコロさんかで言えばべジータだからな。

 ピッコロさんより馴染むのに時間がかかるだろう。

 だからあと一つ、あと一つ何か切っ掛けがあればツンデレムーブでつるみ始めると思う。

 ちらりとタカミナを見る。タカミナも俺と同じようなことを考えてるのだろう。その顔には苦笑が浮かんでいた。


(……無粋だけど野郎同士が目で通じ合うってのも何かあれだな)


 それから徐々にお喋りは少なくなっていき、気付けば俺達は画面に夢中になっていた。

 桃の言う通りシュールな笑いがあった。やたらと濃いキャラクターも居た。濡れ場もあった。

 だが面白い。練り込まれたストーリーとそれを表現する役者達。なるほど、わざわざおススメするだけはある。


「「「「――――いや主題歌カッコ良過ぎるだろ」」」」


 一時間半ほど経ち、映画が終わる。

 まず真っ先に出た感想が主題歌カッケーだった。


「いやでもあのラスト……あるあるだよねー! 続編匂わせあるある!」

「だが正直、これの続編なら見てみたいぞ俺は」

「俺も見てえ……」


 思い思いに感想を述べる俺達を見つめる金銀の目はとても優しい。

 俺も三人の感想に耳を傾けつつ、見たもの感じたものを思い返していたのだが……。


「…………あれ?」


 ふと気付く。


「どしたよニコ」

「一連の黒幕は……だったわけで……」

「ニコ?」

「――――じゃあ、あの人形何なんだ?」


 教授に拷問されてて泣いてた微妙なサイズのと……そうだ、あれもだ。サーチライト。あれはどう考えても……。

 と、そこでハッとして金銀コンビを見ると奴らはニヤァ、と笑っていた。


「…………二周目にいこう」




2.何だよぉおもおおお! またかよぉおぉぉおおおお!!?


 結局、桃の思惑通りに三周してしまった。だが後悔はない。

 それだけ面白い作品に出会えたということなのだから。


「ふっふっふ、楽しんでくれて何より。俺としても薦めた甲斐があったってもんさね」

「どうする? このまま次に行くかい? 映画好きとしてはちょっと間を置いてからのがフラットに見れるからおススメだが」

「なるほど。確かにその方が良いかもね」


 美味しいものを食べ比べするなら連続じゃ味が混ざるからな。

 一旦、口の中をリセットするという意味で時間を置くのは悪くない。

 タカミナ達も俺と同意見のようで頷いている。


「だったらちょっと身体、動かさね? ずっと座りっぱだったしよ」

「良いね~。夜の散歩とか洒落てるじゃん」

「ついでにコンビニで軽くつまめるものでも買うか」


 そこで柚がハーイと手を挙げる。


「それなら面白いもんがありますぜ旦那方? そう――――モルックだ」

「「「モルック?」」」


 あー……何か聞いたことあるかも。


「確かボーリングみたいな……?」


 転がすんじゃなくて放り投げて当てるんだったかな? 何かテレビで見たような気がする。


「そうそう。そんな感じ。詳しいルールは……」

「それじゃ早速、行こう。ルールは現地で実際にやりながら説明してよ」

「即決?」

「そりゃね。柚がわざわざ薦めるぐらいなんだし面白いのは確実でしょ」


 それだけの信頼度を稼いでるからな金銀コンビは。


「嬉しいこと言ってくれるぜぃ。それなら確か、中区って天文台ある公園あったよな? あっこ星が綺麗に見えるらしいしあそこでやろうや」

「ああうん。地元じゃないのによく知って……あ」

「その察しましたって顔止めてくんない? 傷付くから。繊細なゴールドハートが傷付いちゃうから」


 隠れデートスポットとして地味に人気だからね……きっと柚も……。


「徒歩だとちょっと時間かかるけど全員、単車あるから問題ないだろ」

「おう。でも夜中に何台も走らせるのもあれだしニケツで行こうや。それなら三台で済むしよぉ」

「あ、それなら俺えっちゃんのケツ乗りたい! カミナリマッパの速さを感じてぇ……!」

「ずりぃぞ銀角! んなもん俺だって」

「それなら行きは金角、帰りは銀角で良いだろう。揉めてる時間も勿体ないしさっさと行こう」


 そういうことになった。

 特に何かイベントが起こることもなく俺達はあっさりと天文台のある星見公園に辿り着いた。

 時刻は午前一時前。時間帯的に他のヤンキーとのエンカウントするかもと思っていたが園内には俺達だけ。

 楽しい気分が邪魔される心配もなさそうで一安心だ。


「じゃあ柚、ルールの説明を……ん? 何さ、桃」


 とんとんと肩を叩かれる。小首を傾げる俺に桃は無言で親指で後ろ――天文台の方を指差した。

 何だよ、と振り向いて俺はそいつを発見する。


(………………何だよぉおもおおお! またかよぉおぉぉおおおお!!?)


 天文台の上。観望デッキだ。そこにヒロイン疑惑があるメンヘラが居た。

 バイクで公園に乗り込んで来たのだ。普通はエンジン音でこちらに気付いていても不思議ではない。

 しかし、今の彼女はこっちにはまるで気付いていない。心ここにあらずって感じだ。

 何なんアイツ? 虚ろな瞳で星を見上げるとかこれまた絵になる登場しやがってよぉ……疑惑がますます深まるじゃねえかクソァ!


「あれ? あの子って確か」

「の、のー……う、やべえ……思い出すと鼻血が……」

「……」


 タカミナ達も気付いたようで軽く前屈みになっている。

 唯一、面識のない柚だけがあんな可愛い子と一体どこで……! とジェラってるがコイツらはまあどうでも良い。問題は桃だ。


「……あー、その、何だい? 俺は事情はよく知らんけどよぅ」


 桃は言い難そうに言葉を濁す。

 それでも俺には言わんとしていることはちゃんと伝わっていた。

 初めて出会ったあの時、誤解から始まった喧嘩が終わった後で俺は桃にこう言ったのだ。


『あの子は人の心を土足で踏み荒らした。だから俺もあの子の触れられたくない心の傷にナイフを突き立てたんだよ』


 こう言っとけば深くは追求出来まい。桃のような人間なら尚更だ。

 第三者が迂闊に踏み込むべき領分ではないと弁えてくれる。

 だから今も控えめにしか働きかけて来ないのだ。


(……ぶっちゃけ無視しても良いんだが)


 好感度がな。下がりはせんだろうが上がりもしない。

 下がらないなら問題ないんだが上げられるチャンスをふいにするのも勿体ない。

 ライトサイドのヤンキーの好感度は幾ら稼いでも損はないからな。


「ふぅ」


 是非もなし。ヒロインイベントが進行する恐れもあるが野郎の好感度UPが優先だ。


「桃、煙草とライターを貸してくれるかな?」


 多分、素面ではしたくないような話をしなきゃいけないから。

 桃は何も言わずに煙草の箱とジッポライターを俺に放り投げた。

 無言でキャッチしポケットの中に放り込む。


「ごめん、ちょっと行って来る。皆は先に遊んでて」

「……おう、分かった」


 他の面子も何かを察したらしい。

 タカミナは激励をするかのように俺の背を軽く叩いてくれた。

 ありがとうと告げ、俺はゆっくりと歩き出す。


(しっかし、無用心だよな)


 天文台の入り口が施錠されてないのは何なんだ。かけ忘れなのか普段からかけられてないのか。

 いやまあ、ここでしっかり施錠されてて入れないのもそれはそれで問題だけどな。

 下で会話するより天文台で会話する方が絵的に映えるもん。


(――――ええい、ままよ!)


 意を決して観望デッキの扉を開ける。

 ゆっくりと振り返ったルイは軽く目を見開き、


「あな、たは」


 イベント開始である……はぁ。

次回はヒロインちゃん視点になります

ポエム増し増しでいくつもりなんで夜路死苦ぅ

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