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命の別名⑰

暗い話をあまり長く続けるのはあれなので

連続投稿して今日、明日で今回の長編は終わりにしようと思います。

今日はあと二話ほど投稿します。

1.決裂


 古くからの友人であるテツとトモの叱咤で立ち上がるとかいうド真ん中ストレートの王道展開やん。

 いやマジで外さねえなあオイ。流石は光のヤンキー。

 タカミナが再起したというのは良いことだが、同時に悪いことも起きてしまった。

 烏丸さんの螺旋怪談と大我さん、龍也さんのグループに遂に被害が出てしまったのだ。

 タカミナが再起したのと同じ日の出来事だった。

 その日は他への襲撃は行われず三つの集団にのみ的を絞ったかのような動きで合計、二十人ほどの犠牲者が出た。


(“かのような”……ではないか。十中八九狙ったんだろう)


 これまで被害が出てなかったのは三人の統制がしっかりしてたからってだけではない。

 ここぞというところで仕掛けるため敢えて手を出さなかったのだ。

 つまりはまあ、今んとこ全部奴の――哀河の思い通りに事が運んでるってわけだ。


(タカミナが再度、自分に関わろうとすることも……俺がそれを手助けすることも全部読んでた)


 タカミナに関しては期待……もあったのかもしれない。

 哀河とタカミナの出会いは謀によって齎されたものではなく完全なる偶然。

 ロマンチックな言い方をすれば運命だった。哀河のタカミナに対する友情は本物だ。

 だからこそ、引導を渡すのならタカミナが良い……と思ったんだろう。傍迷惑なことだがな。


(ここから俺がどう塵狼を動かそうと奴にとって損はない)


 ルーザーズの敗北は規定路線、確定事項だ。ならばどう負けるか。どう幕を引くかだけ考えれば良い。

 ここで俺が烏丸さん達や市内の他の不良と協調してルーザーズを潰しにかかっても問題ない。

 タカミナと自分が戦えるよう立ち回ることぐらいは容易だろう。

 俺達がルーザーズを救わんと動くなら状況は更に混沌とするし、労せずタカミナは自分のところへやって来る。


(笑えるな。誰も彼もが踊らされてやがる)


 コーヒーを啜り、ふぅと息を吐く。

 良いように動かされている。その自覚はあるが俺はそれをネガティブには捉えていない。

 最後の最後に引っ繰り返せればそれで良いと思っているからだ。

 何ならわざわざレールを敷いてくれてありがとうとさえ思う。お陰で幾らか手間が省けたもん。

 俺はタカミナを信じる。


「……やあ、待たせたかな?」


 振り返るとピリついた態度を取り繕った烏丸さんと大我さん、龍也さんが立っていた。

 待ち合わせの時間にはまだ早いが、気が急いているんだろうな。

 視線で着席を促すと三人は無言で対面に座った。


「で、俺らに何の用だい?」


 烏丸さんが切り出す。

 話し合いをするため、わざわざファミレスに呼び出したんだが……ちょっと頂けないな。

 後々、彼らがキレるのは決定事項とは言え最初からこの調子じゃ身が持たない。少しばかり落ち着いてもらおう。


「その前に何か頼みなよ。そのザマじゃ落ち着いて話も出来そうにない」

「…………はぁ、そうだな」


 三人はそれぞれ俺と同じようにコーヒーを頼んだ。

 え、それだけ? ケーキセット食べてる俺が浮いてるじゃん。


(あ、このチーズケーキおいしい)


 ファミレスを軽視してるわけじゃないが……やるじゃん。

 となると他の品にも期待が持てそうだな。夜ご飯もあるから今日はもう頼まないけど今度、試してみよう。


「……三人も“連合”に加わるって話を聞いたけど、本当かい?」


 同じチームでもない限りは連帯意識の欠片もないのが不良って生き物だ。

 しかし、ここまで良いようにやられたお陰で市内の不良もようやくルーザーズへの認識を改めた。

 市内全域の不良が一致団結して事に当たらねば手に負えないと判断し対ルーザーズを目的とする連合が結成されたのだ。

 塵狼にも声はかかったが無視した。


「ああ。事ここに至ってダンマリを決め込むわけにもいかんだろ」


 大我さんの言葉からは隠し切れない怒りが滲んでいた。


「で、それがどうしたんだい?」

「うんまあ、単刀直入に言うけどさ」


 コーヒーを啜り、告げる。


「――――この件から手を引いてくれないかな?」

「「「あ゛?」」」


 予想通りのリアクションだ。一瞬でピキったよこの人達。

 まー、無理もないけどさ。仲間がやられてるのに黙って手を引けとか喧嘩を売られているようなもんだ。

 この場で殴りかかって来なかっただけまだ理性的だと思う。

 や、そうならないようにわざわざファミレスに呼び出したんだけどさ。


「ふぅー……とりあえず、ワケを聞かせてもらえるかい? いきなりそんな舐めたことをほざいた理由をさ」


 代表して烏丸さんが理由を問うた。

 とは言え言葉には隠し切れない棘が見えているし、顔には変わらず血管が浮かんでいる。


「実はさ、黙ってたんだけどルーザーズの頭目の哀河雫とうちのタカミナは浅からぬ関係でね」

「……で?」

「このままだと市内全域の不良に食い荒らされてルーザーズは終わる」

「それの何が悪い? それが連中の望みでもあるんだろう?」


 ……まがりなりにも良い関係でやって来た人らとこういうやり取りをするのはしんどいな。

 しんどいけど、これが俺の役割なんだろう。


「もう自分じゃ止まれないから誰かに止めてもらいたい。それが彼らの望みでもあるんだろう」


 自殺の件を切り出せば、三人を翻意させることも出来るだろう。

 が、その場合哀河がどういう行動に出るか分かったもんじゃない。

 ならば途中までは奴の思惑通りに事を進ませるしかないのだ。


「なら……」

「でもそれに納得出来ない奴も居るって話さ」


 胃が痛えなぁ……。


「彼らに少しでもマシな結末を――――……それがタカミナの望みだ」


 ほんの少しでも良い。彼らが前を向いて歩けるような救いのある結末を。

 三人はなるほどと頷き、


「――――はいそうですかと素直に引き下がるとでも思ったか?」


 思わないよ。そう思うだけの余裕は哀河によって削り落とされてしまったからね。


「奴らはやり過ぎた。徹底的に潰す以外の道はないよ」

「だろうね。俺もあんた方が俺の頼みを素直に聞いてくれるだなんて思っちゃいない」

「なら何のために俺達を呼び出した?」

「一応、仁義を通しておこうと思っただけさ。あんたらに手を引く気がないように、俺達も俺達のやり方を曲げるつもりは毛頭ない」

「…………それが連中の思惑だとしても、かい?」


 まあここまで話せば察しもつくわな。

 情を利用して塵狼と烏丸さん達……いや市内の不良どもと潰し合わせようとしてるってさ。


「だとしても、だ。どんな思惑があろうと関係ない」


 自分の信じた自由のために戦う。


「――――それが塵狼(おれたち)だ」




2.決起


 予定調和の如く決裂した話し合いの後、俺は皆が待つ秘密基地へ向かった。


「どう、だったってのは聞くまでもないか」

「うん。ダメだったよ」


 柚の言葉に肩を竦め俺もソファーに腰掛けるとテツが急須から茶を注いでくれた。

 最近、ちょっと寒くなって来たからな。温かい梅昆布茶がありがたいぜ。

 例年よりも冬の訪れが早くなってんのかな……いや待て。


(あぁ、これ絶対決戦の時に雪降るわ)


 だって絵的に映えるもの。

 淡雪舞い散る中、血を流しながら争うとか絵になり過ぎだよ。

 ルーザーズとの戦いの中にある寂寥感とかやるせなさも表現出来るしピッタリだ。

 などとアホなことを考えていると、


「……すまねえ」


 タカミナが頭を下げた。


「意見の相違で仲違いするなんて生きてりゃざらにあることだ。タカミナが気にすることじゃないよ」


 不良なら尚更だ。

 互いの譲れないもののためにぶつかり合うなんてお約束でしょ。

 ああ、仲が良い人との衝突もね。これぐらいのイベントでおたおたしてたらやってけねえよ。

 って言えれば良いんだがな。こんなこと言ったら電波扱い待ったなしである。


「えっちゃんの言う通りだ、謝らなくて良いからしゃんとしろや」

「そうそう。オメーが今回の主役なんだぜぃ? ビッとせんかいビッと」

「……そうは言うが、事によっちゃまたお前らに不本意な喧嘩を」


 ああ、大我さんと龍也さんね。

 事によっちゃっていうか、俺は金銀コンビを竜虎コンビにぶつけるつもりだけどね。

 関わりがあるからってのもそうだし、この組み合わせだとバフもかかるだろうからな。

 というか俺が何かせんでも、


「事によっちゃってか俺と銀角は大我さん達とやるつもりだよ」

「おう。悪いが他の奴らにゃ譲れねえなあ」


 柚と桃もやる気満々だしねえ。


「…………良いのかよ?」

「そもそもからしてズレてんだよぅ、お前。俺らが前に二人とやった時とは全然ちげーだろ」

「おお。あん時は好き勝手したっつー負い目もあったから気持ちの良い喧嘩じゃなかったけどよ」


 今回は違うと口を揃えて二人は断言した。


「ダチの覚悟を背負って戦うんだ。そこに何の負い目がある?」

「俺は俺に恥じることは何一つしちゃいねえ」

「例えそれが尊敬する先輩であろうと……いや、だからこそさ」

「ここで意地ぃ張れないような情けねえ男に跡目を託した間抜けにしちゃなんねえだろ」

「……すま……いや、ありがとよ」

「「おう、それで良いんだよそれで」」


 金銀コンビはこういう時、マジで頼りになるよな。

 ムードメーカー的キャラはやっぱ集団には必須だよ。

 タカミナとテツもそっち寄りだがタカミナは今回あれだし、テツには強引さが足りない。

 矢島も陽の者ではあるがムードメーカーってより優しいおばあちゃん的な立ち位置だからな。


「じゃ、近い内に訪れるであろう決戦での立ち位置について改めて確認しよう」


 全員が頷いたのを確認し、話を始める。


「まず哀河はタカミナだ。細かいことは何も言わない、全力でありのままのタカミナをぶつけてやれば良い」

「ああ」

「で、俺は九十九だ。哀河の下に辿り着こうと思えば最後は絶対、アイツが壁になる。俺の役割はタカミナを哀河の下まで送り出すことだ」


 ある意味、これまでで一番やり難い相手だろうな。

 これまでやった相手はセンスと身体能力に物を言わせた我流の喧嘩殺法だが九十九は武を修めた敵だ。

 でもまあ、やるっきゃないから頑張ろう。


「柚と桃には大我さんと龍也さんの相手を頼みたい」

「「任せろ」」

「梅津は烏丸さんだ。アホなとこはあるがその実力は確かだ。やれるね?」

「……誰に言ってんだ」

「結構。最悪、勝てなくとも時間を稼げればそれで良いわけだが」


 ふぅ、と小さく溜息を吐く。


「そんなつもりはないよね?」

「「「ったりめえだ」」」

「ならオーダーは一つだ――――勝てよ」

「「「応!!」」」


 良い返事だ。


「矢島は俺達に代わって全体の指揮を執りつつ自分の判断で上手いことやってくれ」

「えらいアバウトやけど……死力を尽くしますわ」

「頼むよ。で、テツとトモは決戦の舞台が判明した後でちょっと頼みたいことがある」

「今は言えないのか?」

「今の段階では俺もどうすれば良いか分かんないからね」


 ただ、


「ある意味で二人の働きが一番重要になると思う」


 タカミナを信じると決めた。だけど、だからって俺が何もしない理由にはならない。

 万が一に対する備えは必要だろう。


「えぇ……? 何そのプレッシャー……いやまあ、頑張るけどさ」

「とりあえず今話しておかなきゃいけないことはこれで全部かな? じゃ、後は時間まで休憩ってことで」


 その後、駄弁ったり仮眠を取ったりで時間を潰し午後十時。

 俺は皆を伴って何時もの集会が行われる埠頭に向かった。


(……全員参加、か)


 埠頭には塵狼の人間が全員集まっていた。

 誰一人として欠けていないし、誰もが覚悟を決めた目をしていた。

 俺は定位置に立ち、皆を見渡し口を開く。


「さて。事前に連絡したようにこれから塵狼はルーザーズと市内全ての不良を相手取っての戦いを始めることになる」


 皆は黙って俺の話に耳を傾けている。


「皆が世話になったこともあるだろう大我さんや龍也さんともだ」


 塵狼の平構成員は全員、北区か南区の出身だ。


「圧倒的な不利な状況で、その上尊敬する先輩とも戦わなければいけない」


 事前に参加するしないは自由だしそれで塵狼から追い出すようなこともないと伝えていた。

 ここに居るのが答えだけれど、改めてその口から聞きたかったのだ。


「それでも良いんだね?」


 俺の問いに皆は口々に答えた。


「俺達は“逸れ者”の集まりなんでしょう? だったら今、この街で一番の逸れ者に肩入れするのも当然だと思いますがね」

「先輩らには恩があるっすよ。でも、俺らにゃ俺らの優先順位がある」

「仲間のために。だったら胸ぇ張って戦いますよ、俺は」


 本当に頼りになる“漢達”だ。


「……皆の気持ちは確かに受け取った」


 ありがとうと感謝を告げ、一歩後ろに下がった。

 そして俺と入れ替わるようにタカミナが前に出る。


「……気の利いたことは言えねえからシンプルに言わせてもらう」


 すぅ、と大きく息を吸いタカミナは叫ぶ。


「――――皆の力を俺に貸してくれ!!」


 答えはもう、決まってる。


《応!!!!》

今回の長編は暗いし、何より敵があれなので受け入れ難いと思います。

八つ当たり、不幸に酔ってると言われればその通りかと。

ルーザーズの面々は不良でも何でもない元はただの一般人だから尚更、そういう人間の弱さが強調されています。

立ち直ることも出来ないし、そのままでもいられない。弱さに溺れて色んなことから逃げなきゃ悪事も出来ないような連中です。

そんな連中を敵にするなよと言われればそうかもしれませんが先々のこと……

ニコくんがいずれ完全な更正を果たすためにもこういう話をやっておく必要があると判断し今回はこういう感じになりました。

今回の長編は気に入らんけど、まあまだ付き合ってやるよと思って頂ける方は見守ってくださると幸いです。

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