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9話 最強への道

なんやかんやで時は流れて、今日は世間様でいうGWが終わった五月七日の月曜日。


各々が高校生活にも慣れてきて、クラス内でつるむグループメンバーやらダンジョンで組むパーティーメンバーやらが固定されてくる今日この頃皆様いかがお過ごしでしょうか。


ちなみに行商人として探索者デビューを果たした俺は、商人同士で組んだパーティーに加わることもなく――そもそも誘われなかった――今日も今日とて一人で元気にやっております。


ある意味では計画通りなので文句はないのだが、実際差別される側に回ってみると「ここまであからさまにできるものなのか……」と、高校生という子供の無邪気さと大人の汚さが同居している存在に恐怖に似たナニカを覚えなくもないわけで。


「このままだと近いうちに虐められるんだろうなぁ」なんて思いながら、ステータスをオープンさせてジョブを得てから一か月の間にやってきた成果に目を向けてみる。


名前 :松尾篤史

レベル:一六 

ジョブ:旅人


僅か一か月足らずでレベルが一六になっているが、これに関しては特にズルをしたわけではない。

いくつかの条件が重なったため、順調にレベル上げができた結果である。


その条件とは……第一に、ゲームでもなんでも序盤はレベルが上がりやすいように、レベルが低いうちはレベルアップをするために必要な経験値が少ないこと。


第二に、ソロでダンジョンに潜っているため、パーティーを組んでいる探索者のように経験値が分散しないこと。


第三に、そこそこ良い装備を身に纏っていることで、適正レベルを大きく上回る敵を無傷で討伐できること。


これらに加えて、旅人の固有スキルであるルームを使うことで効率的に休息が取れることなどから、俺は他の探索者にはできないレベリングが可能だったのである。


理想としては二〇まで上げたかったところだが、さすがに学生がソロで延々とレベリングをしていたら目立つので、これ以上効率に全振りしたレベリングができなかったのだ。


実際にレベリング中にダンジョンで「一人か?」とか「大丈夫か?」と声を掛けてきた探索者もいたし。


そういうときの対処法も、もちろんある。

苦笑いしながら「見えないところに護衛がいますから……」と誤魔化すのだ。

こう答えれば向こうも「そうか」と言って退いてくれるのである。


真面目な探索者であれば『金持ちが道楽でレベリングをしている』と不快に思い、悪意ある探索者は『目に見えない護衛の存在』に怯えて距離を取ってくれるというわけだ。


あと、単純に『面倒ごとに巻き込まれたくない』と考えているパターンだろうか。


そりゃあ『一五階層くらいで、二〇階層に挑む探索者が装備するような装備品を身に纏っている子供が、ソロ――護衛を連れているものの戦っているのは一人――でレべリングしている状況』なんて厄ネタ以外のなにものでもないからな。


誰だって距離を取る。

俺だってそうする。


結局のところどのように納得するかは人それぞれだろうが、結果として俺の邪魔をしないよう離れてくれるのだからなにも問題はない。


いや、まぁ最近探索者界隈で『金持ちの家の子供が親の金で買った装備を利用してレベリングをしている』という噂が流れているようだが、その程度だ。


ついでに言えばその噂の中に『気配すら悟らせない凄腕の護衛がいるから気を付けろ』というのもあるらしいが、これまた俺にはなんら関係のない話である。


兎にも角にも、安全に、かつ目立たずレベリングができるのはここまで。

これ以上は具体的な背景が必要になってくる。


それこそ『没落している家を復興するため』とかそれらしい理由がないと、違和感が生じてしまうはずだ。


そのあてはもうあるのだが……それを実行に移す前に、現在のステータス値を確認してみよう。

         

        レベル一六  レベル一

STR(攻撃力)......320     10

DEF(防御力)......310     10

VIT(体力) ......310     10

MEN(精神力)......315     10

SPD(敏捷) ......325     10

DEX(器用) .....325     10

MAG(魔法攻撃力)......310   10

REG(魔法防御力)......310   10 


それぞれの上昇値が、まず20×15で300。

それにレベルアップごとの補正+3が加わって、3×15で45。

300×8=2400 2400+45=2445の上昇となっている。

レベル16の時点でレベル30の基本職を凌駕するステータス値なのは見ての通り。

順調にチート街道を驀進していると言えるだろう。


これに『全能力プラス一〇〇の指輪』を左右に装備すれば、ステータス上はギルドナイトと戦える値となるわけだ(勝てるとは言っていない)。


早くも『日本最強の探索者』に極めて近い存在となったわけだが、それはあくまでステータス値が高いというだけの話。当然、これだけでは俺が目指す『世界最強』には足りない。


そう、今の俺に必要なのは経験……ではない。

伊達に六九階層まで挑んだ記憶があるわけではない。

そのときの記憶と経験は魂に刻み込まれている。


ではなにが不足しているのかと言えば、それはずばり”社会的立場(地位)”である。


「そんなことか」というなかれ。

腕力だけで全てを解決できるほど隔絶したものがあるなら話は別だが、通常人間社会の中で生きる上で、社会的立場とは必要不可欠なものだ。


以前は『世界最強の探索者パーティーの一員』という輝かしい肩書があったため、それなりの待遇を得られていた。ギルド内では奴隷のような扱いではあったものの、外向けの影響力はそれなりにあったし、なにより暮らしていくだけなら十分すぎる環境だった。


翻って今の俺はどうか。

ただの学生、否、行商人というジョブを得たため犯罪者予備軍に分類されている学生だ。

社会的な地位も立場もあったものではない。


このまま何もしないまま探索者を続けていれば、必ず邪魔が入る。

個別の探索者はもちろんのこと、場合によってはギルドそのものが敵に回る可能性がある。


具体的には、レアなドロップアイテムを売ろうとしたさいに「盗品だ」と言いがかりを付けて没収される可能性さえある。


そのあとで連中はこう言うのだ「没収が嫌ならどうやって手に入れたか証明してみせろ」と。


それを証明したが最後、俺は連中の監視下に置かれ、骨の髄まで絞りとられることになるはず。

というか、確実にそうなる。ギルドとはそういう組織だし、構成員もそういう連中なのだから。


良心? そんなものあるはずがない。

そもそもギルドは国と組織の利益を求める半官半民の営利団体であって、探索者による探索者のための互助団体ではないのだ。


故に連中は『お国のため』という大義名分を引っ提げて、場合によっては俺を罪人に仕立て上げてでも搾取しようとするだろう。


そこに【容赦】の二文字はない。


国家権力を笠に着て無理を押し付けようとしてくる連中に対抗する手段はただ一つ。


こちらも『社会的立場』を得ること、だ。

それもギルドの連中が簡単に手を出せない程度には高い立場を。


個人としての能力と、十分な社会的立場。

この二つが揃って初めて俺は『最強の探索者』となることができるのだ。


力はもうある。これからはもっと差が開いていくだろう。

あとは社会的地位。それを得るための目星はもう付けてある。


――株式会社藤本興業。真っ当な土建屋であると同時に、龍星会というヤの付く自由業にしか見えない探索者たちを束ねるBランククランを経営している、由緒正しい会社である。


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