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5話 魔石と利権の話

魔石は特殊な加工をすることで魔力的なナニカを放出する性質を持つ。


その魔力的なナニカは原発のように核廃棄物を出さないし、火力発電所のように煙も出さないクリーンなエネルギー源として各国で利用されている。


そう。()()()()()()()()()()()()


即ち魔力的なナニカの抽出は完全に秘匿されているような技術ではない。

なんなら小さな魔石を加工した電池モドキが一般家庭で使われている程度には普及している技術である。


そんな汎用性が高いように見える技術の根幹である魔石がギルドによって独占されているのは、偏に『国家や大企業のように潤沢な資源と最新の設備を備えた組織でなければ、魔石によって利益を上げることができない』とされているからだ。


考えてみればそれも当然の話ではある。


例として学校に通う学生たちが集める魔石を挙げてみよう。


基本的に、学生に求められているのは所謂上層と言われる一〇階層まで――それ以降の探索を禁止されているわけではないが、死ぬ可能性が飛躍的に高まるので推奨されていない――の探索と攻略である。


しかしながら上層の魔物から得られる魔石は小さく、安い。


一階層に出てくるゴブリンの魔石は一個一〇〇円。

コボルトの魔石も同じく一個一〇〇円。

六階層以降に出てくるゴブリンソルジャーの魔石は一個五〇〇円で、コボルトソルジャーの魔石も一個五〇〇円。

ボスはオークだが、その魔石でも一個二〇〇〇円程度でしかない。


探索者目線で言えば、こんな安い魔石ではまともな生活を送るどころか、装備のメンテナンスすら覚束ない。


装備のメンテナンス代や生活費――学生なので厳密にはお小遣い――を得る為には、それなり以上の量を集めなくてはならないわけで。


上層とはいえ命懸けの探索なので、最低でも一日で五〇〇〇円くらいは欲しいというのが生徒たちの本音となる。


単純計算すると、一人あたり六階層以降の魔石を一日一〇個集めればだいたい五〇〇〇円~六〇〇〇円となる。


一学年は一〇〇人いるので、学校全体なら三〇〇人。


つまり一日で一五〇万~一八〇万円分。一年なら五億四七五〇万~六億五七〇〇万円分の魔石が取引されることになる。


もちろんこれは分かりやすいように極めて大雑把に計算したものなので、実際の数値とは異なるだろうが、確実に魔石だけで年間大体五億~六億円程度は動いていることになる。


俺たちが通う学校だけでもこれだけの金が動いているのだ。


全国的な規模となると一体どれだけの金が動いているのか、最早想像すらできない。


そんな資金力がある組織が、国や国と提携している企業以外にあるわけがない。


だが国や企業が買うと独占だなんだと騒がれてしまう。

しかし下手な企業に魔石という資源を与えるわけにはいかない。

そこで半官半民の組織であるギルドが探索者から纏めて魔石を購入するようになった。


なお、探索者はギルドだけでなく一部の企業にも魔石を売ることができるので、ギルドによる魔石の独占は行われていないとのこと。


これにより彼らは魔石を独占できるようになったわけだが、それは同時に、ギルドや企業が大量の資金を投入して魔石を回収しているということでもある。


当然、彼らはそれ以上の利益を上げなくては財政的に破綻してしまう。


しかし魔石を有効利用する為には、魔石を電池のように加工した上で、その加工された魔石を利用する機器を広く普及させなくてはならなかった。


そんなこと一企業、一個人にできるはずもなく。


結局、ギルドや彼らと提携した一部の企業は血の滲むような努力をして魔石の加工と加工された魔石を利用した機器を開発・普及させた。


その分の見返りとして、彼らはこの分野に於いて半ば独占的な商売を行うことを許可されている。


ここまではいい。

俺だって努力した分は報われるべきだと思う。


だがその後はよろしくない。


なんと彼らは『加工をしていない魔石はただの石』なんて言葉を広め、日本だけでなく世界中に『未加工の魔石はギルドか専門の企業に売るしかない』という常識を植え付け、魔石の加工技術を長期間独占することに成功したのだ。


長年国家と一部企業(に勤めているHENTAI科学者たち)によって独自の研究が進められた結果、彼らの持つ技術は他国の企業が持つそれとは大きく乖離するものとなった。


今では他国の支援を受けた新興の企業が魔石開発や関連事業に関わろうとしても『そこは我々が二〇年前に通った道だ』と言わんばかりの技術格差を見せつけられ、すごすごと撤退するしかないのだとか。


おかげで日本の魔石加工技術は突出したものになり、世界中にそのダウングレード版をバラ蒔いて利益を得ているそうな。


投資分はとっくに稼いでいるはずなのだが、彼らはその既得権益を決して手放そうとしない。


これが『国家や大企業のように潤沢な資源と最新の設備を備えた組織でなければ、魔石によって利益を上げることができない』という話の根拠となっている。


ここに”ギルド”の名前がないあたり、汚いなさすがギルドきたない。


あと、技術の独占や利益の独占を否定する気はないが、新規に参入しようとする企業を潰したり、新たな方向性を研究している企業に難癖をつけて潰して研究資料を奪ったり、自分たちに協力しない研究者やその家族にギルドナイトを派遣して()()するのはやり過ぎだと思う。


あもりにもひきょう過ぎるギルド連中の思惑に愕然とする者が後を絶たないのも無理はない。


それはそれとして、ギルドが提唱している説には一つだけだが、決して無視できない程に大きな穴がある。


それは”魔石は加工しなくとも利用できる”ということだ。


もちろん加工された魔石の方が効率よく魔力的なナニカを抽出することはできるのは確かだが、決して”加工していない魔石が使えない”というわけではない。


加工しないまま魔石を利用する連中の筆頭として挙げられるのが、魔法使い系のジョブを得た探索者たちだ。


彼ら彼女らは、件の研究が発表される前から”魔石に込められている魔力的なナニカを利用すると魔法の威力が上がる”と知っていたので、手に入れた魔石を全部売らずに非常用としていくつか常備していたそうな。


魔法使い系以外でも、職人のジョブを得た探索者たちもまた”加工していない魔石でも、動力部に突っ込めば機械を動かすことはできる”と知っていたので、加工された魔石がないときには独自で開発したジョイントのようなモノに魔石を突っ込んでそのまま動力として使っていたなんて話もよく聞く。


つまるところ魔石とは『加工した方が使い勝手はいいが、加工しなくても使える不思議な物質』なのだ。もっと言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


この部分を間違えなければ、魔石に込められた魔力的なナニカに干渉できる【結合】がどれだけ価値があるスキルなのかはわかってもらえると思う。


具体的には、ギルドの連中が知ったら確実に俺を取り込むか、それができなければ殺そうとしてもおかしくないスキルなのだ。結合とは。


尤も、このスキルを利用することで連中の独占状態を阻めるというのであれば遠慮なんかしない……どころか喜んで使うつもりなので、彼らの行動は決して間違っていないのだが。


とりあえず当座の目標として”上層の魔石を一〇〇〇個結合したらどうなるか?”を検証したいので、クラスメイトや同学年の生徒たちにはこぞって魔石を売りに来てほしいところだ。


それとは別に、もう一つ大事なことがある。

黒羽一家の失脚だ。


「俺が知る限り”生徒会長が生徒から不信任を突きつけられて変わる”なんてことはなかった」


黒羽弟が痛い目に遭っただけならまだしも、姉である生徒会長まで失脚するとなれば、これは――学校内に限れば――大きな変化だと思う。


「同学年の中には俺を知っている奴はいなかった。なら上級生はどうだ?」


記憶の中の俺はジョブが判明した時点でギルドに確保されている。

つまり、上級生は俺が同じ学校にいたということを知らなかった可能性が高い。


「だが、今回のことで彼らは俺のことを調べるだろう」


一五年後の俺は腐っても世界最強パーティーであるギルドナイトの一員だったので、年齢も名前も公開されていた。


そのメンバーと同姓同名。

さらに年齢も一緒となれば関係を疑うはず。


教師も同級生も俺のことは知らなかった。

なら上級生はどうだ?


「『将来ギルドナイトとして活躍していた探索者が下級生として通学している』と知れば、何かしらの行動を起こすんじゃないか?」


それが警戒にせよ擦り寄りにせよ、なんらかの接触はあるはずだ。

もしなにもなければ、この学校内には一五年後の記憶を持つ人間がいないと言える……かもしれない。


周囲に巻き戻りの記憶を持っている人間がいないなら、もう少し大きく動いても大丈夫……かもしれない。


かもしれない。ばかりだが、元々が荒唐無稽な話なのでしょうがない。


今の俺にできるのは一歩一歩慎重に進むことだけ。


「難儀なもんだ」


できる限り自由気ままにやりたいが、そのためには排除しないといけない(しがらみ)が多すぎる。


差し当たっては生徒会長を引き摺り下ろそうとしている連中の去就に注目、だな。

閲覧ありがとうございました。


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