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28話 強襲!チート探索者

明けて土曜の夜。


「おわったぁぁぁぁ!」


習熟の意味合いも込めて雷撃スキルを使いまくって二十五~二十九階層を周回してレベリングした結果、俺のレベルは二八に。奥野のレベルは二十六になっていた。


三〇には届かなかったが、来週には三〇階層以降に潜ってレベリングする予定なので、今はこのくらいでいいだろう。


奥野に至ってはレベリングする前と比べて二〇レベルもアップしたしな。


例の指輪の効果もあるため、ステータス上は実質四〇レベル上昇したのに等しい成長をしているのだ。五月の中旬でこれなら不足などあろうはずがない。


……専務さんに顔見せするとき、周囲に舐められない程度には強化しようと思って気合を入れたのだが……少しばかり気合を入れ過ぎた気がしないでもない。


だが、悪いことではないので無問題無問題。


なんやかんやで無事ダンジョンから帰還した俺たちはギルドに寄る……ことはなく。

そのまま一時解散し、寮に戻って休息してから藤本興業へ向かうことにした。


ダンジョンから帰還したら休息をとる。

探索者にとってこれは常識である。


だってダンジョンにはトイレもシャワーもないからね。

色々大変なのだ。


俺も今回は【ルーム】をアイテムの収納以外に使っていないせいでちゃんと休めていないし。


彼女にスキルの内容を明かせる程の信用を得られる日はくるのだろうか。


まぁいいや。


そんなこんなで日曜日。


十分な休息を取ったのか心なしかテンションの高い奥野を連れてやってまいりました新宿五丁目にある藤本興業の本社でござい。


俺たちの服装は学生にとっての正装である学生服だ。

ただし、左胸のあたりにクランのシンボルを象った――四菱の真ん中に龍の文字が書かれている――バッヂを付けているので、このあたりに住む人たちであれば俺たちが龍星会に所属する探索者だと理解してくれることだろう。


そのおかげ……と言えるかどうかは知らないが、俺たちにちょっかいをかけてくるようなチンピラさんはいなかった。


ちなみにこのバッジは所属を示すだけでなく色でその役職を示しているので、探索者として動くときは必ず身に着けるよう言われている。


一般社員は白。主任・班長は緑。係長は青。課長は赤。部長は黒。専務は白銀。そして社長が金とのこと。


なので俺がつけているバッヂは赤で、奥野のバッヂは白となる。


閑話休題。


「こ、ここが藤本興業の本社ですか。き、緊張しますね……」


まぁ、気持ちはわかる。

一介の学生が会社訪問。それもヤのつく自由業の方々が出入りしているようなところに来たら緊張の一つもするものだろう。警戒だってするだろう。それが普通だ。緊張の欠片もなかった俺がおかしいと言われても否定はできない。


「あまり警戒するな。というかやめてさしあげろ」


「え?」


だがしかし、今は彼女の感情に理解を示すときではない。

むしろ彼女の緊張を緩ませる必要がある。


というのも、あれだ。急なレベリングをした弊害とでもいおうか。

奥野は今の自分がどれだけ危険な存在なのか自覚できていないのだ。


つまり? 

レベルでいえば四〇以上のステータスを持つ彼女の警戒は、他者にとっては威圧に他ならないということだ。


想像してみて欲しい。


いきなり、自分の職場に、見たこともない人間が、すさまじい圧を発しながら入ってきたらどう思うか。


はい、カチコミですね。

わかります。


ぶっとんでいるようだが実際にそうなんだからしかたがない。


実際俺の推測が正しいことは目の前の光景が証明してくれているしな。


「あそこを見ろ。なんかたくさんの人が硬い表情をして集まっているだろう?」


受付カウンターがあった場所を指差せば、そこには人だかりができていて、誰も彼もがこちらを観察しているように見える。というか、観察しているではないか。


そのままじっくり見れば、すぐに俺たちが龍星会のバッヂを付けていることがわかったはずだ。

だが暴力に敏感な彼らは基本的に”すさまじい実力差がある相手”をじっくり見るような真似はしない。


故に彼らはこちらに視線を向けているようで、絶妙に焦点を合わせない、剣道でいうところの【遠山の目付け】を実践しているのだ。


絡まれたくないから視線を合わせないよう必死で見ないようにしているともいうが、それはそれ。


彼らがそれだけこちらを警戒しているということがわかれば問題ない。


そのことを説明してやると、奥野はきょとんとした顔を浮かべているではないか。


「なんだ、どうした?」


「え? でもあれって小説とかでよくある『新入りを威圧するためのポーズ』じゃないんですか?」


あぁ、それな。


「元はそのつもりで集まっていたかもしれないが、実力差がありすぎるからなぁ。新入りだと認識されていないんじゃないか?」


「えぇぇ。あの人たち、見た目はあんなに厳ついのに……」


「言ってやるな。あと探索者に外見は関係ないから」


「まぁそうなんですけど」


ここでなんとも言えない表情をされても困るぞ。


そもそも普通は新入りがレベル四〇以上の実力を持っているとは思わない。

いきなりそんなのがきたらカチコミだと勘違いもするよ。


ただまぁ、これだけ脅せば奥野が白バッヂだからといって余計な茶々を入れてくる奴もいないだろう。

そう考えれば自己紹介には丁度よかったのかもしれないな。


そんなことを考えていると、受付が呼んだのだろう奥から人が出てきた。


「おいおいおい。『カチコミだ!』って言うから急いできてみたら、アンタかよ」


現れたのは、数少ない知人である美浦さんである。

面接のときは気付かなかったが、確かに黒いバッヂを付けているので彼が部長というのは本当らしい。


まぁこんなことで嘘をついてもしょうがないのは分かるのだが、面接のときの腰の引けようを思い返すと、どうしても、な? いや、実力差を理解できるという意味では正しい行動だと思うけど。


実力差はともかくとして。

相手は先輩で上司なのだから、顔を併せたらそれにふさわしい態度を取るべきだろう。

ふさわしい態度。即ち挨拶である。


「こんにちは美浦さん。但馬さんに言われて今回スカウトした学生を連れてきました」


「はいはいコンニチワ。話は聞いているよ。但馬さんも待っているから奥にいってくれ」


「了解です」


俺と美浦さんの会話を聞いて、周囲から「面接?」とか「新入り? でも……」と声が聞こえてきた。


それでも俺が美浦さんと顔見知りであることや、その美浦さんの口から『但馬さんが待っている』と言う言葉が出れば疑う余地はないと判断したのか、俺にもわかるくらい一気に場の空気が緩んだ。


まぁ彼らからすれば恐ろしい敵が頼もしい味方になった瞬間だ、気を緩めるのもわかる。

だが『カチコミだ』と言われて呼び出された美浦さんはそうは思っていないようで。


「なにがカチコミだ、この馬鹿野郎どもが! この人は新しく課長になった松尾君だぞ! よく見ろや! バッヂもちゃんとつけてるだろうが! 死にてぇのかっ!!」


「「「すみませんでしたっ!!」」」


「俺に謝ってどうすんだ! 松尾君に謝れや!」


「「「すみませんでしたっ!!」」」


「あ~悪いな。次からこんなことはないようにするから、今回はなんとか……」


「別にいいですよ。知らない人がきたら警戒するのは当たり前ですから。幸い誰からも攻撃されませんでしたし」


「すまねぇ。感謝する。聞いたなお前ら、さっさと感謝しろ!?」


「「「ありがとうございましたっ!」」」


「あぁ、はい」


「……本当にすみませんでした」


「敬語を使わなくても大丈夫ですから」


「ははは……」


ボソッと俺にだけ聞こえるように謝罪する美浦さん。

この人はこの人で俺のことを怖がっているからな。

でも部下の手前遜るわけにもいかず、って感じだろうか。

この人も立場があるから大変だよな。


あと、美浦さんは俺が癇癪をおこして暴れることを警戒したのかもしれない。

勘違いが発端で大惨事が引き起こされたら堪ったもんじゃないからな。

そりゃきつめに注意もするだろう。


それはいい。彼の気持ちは理解できるから怒ったりはしない。


だが、奥野。貴様は駄目だ。


「はぇ~。支部長って凄い人なんですねぇ」


なんで元凶のお前さんが他人事みたいな顔をしているんですかねぇ?


俺はあとで必ず彼女のコメカミをぐりぐりしてやろうと思いつつ、専務の但馬さんが待つ応接室へと向かうのであった。


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