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26話 戦国武将はフリー素材になりがち

この作品はフィクションです

実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

イレギュラーなボスが出現していることを願い、奥野と二人で二〇階層を探すことおよそ一五分。


「いたな」


「はい。でもアレは……」


「あぁ」


ボス部屋にいないのであれば一九階層へ繋がる階段か二一階層へ繋がる階段が怪しいと判断して、最初に二一階層へ繋がる階段を確認しにいったところ、目論見通りもっきゅもっきゅと新鮮なお肉を貪っていた標的を発見した。


お肉の素材がボス部屋からここまで追い込まれたのか、はたまた下から来たところを待ち伏せされたのかは不明だが、対象に目立った傷がないことから一方的に狩られたとみていいだろう。


救いがあるとすれば、彼ら彼女らはしっかり骨までマルカジリされているため、食べ残しがないことだろうか。


まぁ食べ残しがあろうが血肉が飛び散ろうがダンジョンが綺麗にしてくれるので、そこは問題ない。


問題は、標的が単独行動をしていなかったことだ。


「赤鬼が二と黒鬼が一か。普通なら『赤鬼を任せる』といいたいところだが、今回はなぁ」


「わ、私が勝てますかね?」


「……正直微妙なところだな」


ステータス上は勝てる。赤鬼は物理特化型の魔物なので、ステータスで上回る侍が負ける要素はない。

だが相手は二体だし、なによりイレギュラーなボスと一緒に出現している連中だ。

通常のボスと違ってなにをしてくるかわからない怖さがある。


そういう相手との戦闘経験もあった方がいいのは事実だが、今回に関しては微妙なところだ。


だが、彼女に何もさせずに俺だけが動いてしまうと、レベルアップ時にダンジョンから『寄生行為』と判定される可能性もあるんだよなぁ。


それを避けるためには戦わせるしかないわけで。


「とりあえず黒鬼と赤鬼の一体を片付けるから、残った赤鬼と戦ってみろ」


「は、はい!」


こんなところだろう。

で、俺たちが作戦会議をしている間、向こうが何をしているかというと。


「「「……」」」


うん。


一心不乱に食事をしているように見せかけてしっかりこっちを警戒しているな。


わかるぞ。


隙あり! とかほざいて近付いたら反撃するつもりだろう? 


そういう意味であれば、連中は油断も慢心もしていないと言える。


だがな。


「俺を前にしてこの距離で動かない。それは油断であり慢心だぞ」


旅人はなんでもできる万能職だ。

貴様らを殺すのにわざわざ接近する必要などない。


「くらえ【マジックアロー】」


マジックアローは魔力を矢に見立てて放出する無属性魔法である。

威力は魔法攻撃力のステータスによって変化し、命中率などは器用さに依存する。

使い手が優秀なら同時に数本の矢をつくることができるので、多対一に向いた魔法でもある。


無属性であるが故に他の属性魔法と違って有利不利の判定はなく、そのせいで特定の相手に対する特攻はないが、その分決まった防御方法も存在しない。


さらに被ダメージは【こちらの魔法攻撃力ー対象の魔法防御力】という、アルテリオス計算式と呼ばれる計算式がそのまま適用されるため、ダメージ計算がしやすいという長所がある。


それを踏まえた上で、こちらの魔法攻撃力はステータス+装備で四五〇。さらに俺が装備しているのは魔法の威力を三割ほど増幅させる効果がある杖なので、一・三倍して五八五相当。


対する相手の魔法防御力は、黒鬼が強化前なら一〇〇前後。

赤鬼に至ってはほぼゼロ。


そんな連中が俺の魔法を受ければどうなるか?


「「ギャァァァァァ!!!」」


聞こえるだろうか? 

一撃で胸に風穴を開けられたかわいそうな魔物の断末魔が。


そうそう今更ながら説明しよう。俺が装備している棒はただの木の棒ではない。

霊杖刀と名付けられた五二階層から五五階層に出てくるデカい木の魔物がドロップする木材を素材として造られたギルドナイト御用達の特注品なのだ。


これは一見すればただの杖なので、一般の人に威圧感を与えないという利点がある。

また、元々杖は【突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀。杖はかくにも外れざりけり】と謳われるほどの万能武器でもあるため、ギルドナイトたちがガチガチに武装できない場所に赴く際などに『護身用』として装備していた。


なによりこの杖は深層域に生息する魔物由来の素材を使っているためか、魔法の補助具としても極めて優れている。


その効果は先ほど説明したように、魔法の威力を一・三倍程度に引き上げるほどのものだ。


その杖を今の俺が補助具として使うとどうなるか?

多少強化されようが三一階層あたりに出てくる魔物が耐えられるものではない。


故に、当たった時点で相手は死ぬ。以上。


――余談ではあるが、この杖に使われている木材は魔力との親和性が極めて高く、魔力の込め方によって嵐に耐える幹のように硬くもなれば、風に揺れる枝のように柔らかくもなる性質を持っている。


また、市場に存在する高級木材と比べても上質な肌触りと、ダンジョン産の素材だけが発することができる唯一無二の重厚感が一部の好事家の間で人気となっていた。


それだけではない。その質感や”魔力を流すことで硬さや感触をある程度操れる”ということに注目したとあるギルドの職人がこれを使って『探索者御用達!』と銘打たれた、とあるブツを作成してしまう。


発売と同時に瞬く間に世界中の探索者を虜にした、男女両用最高級大人のオモチャ。

その名も【堀り久太郎】。


世界中の大人が熱狂したオモチャの原材料が、五二階層以降でしか取れない稀少な霊木であることは世界でも数人しか知らない秘密である。


……五〇階層以降のドロップアイテムでそんなん作るな。

つーか、そんなん作るために俺を五〇階層以降に送り込むな。


いらねぇんだよそんなもの。

捨ててしまえ。

木材探して彷徨う俺の気持ちにもなれ。

タダ券で済ますな。

俺はオプションでオモチャを使わねぇ派なんだよ。


当時の奥野は何故か使いこなしていたらしいけど。

試供品として渡してみたときにはなんとも言えない表情をしていたけど。


「は?」


そうそう。最初はそんな声をって。違うわ。

今はお店じゃなくてダンジョンだったわ。


奥野の声で現実に帰ってきた俺は注意深く周囲を観察する。


腑抜けるな、俺。

実際には数秒も経っていないだろうが、ダンジョンで現実逃避とか馬鹿のすることだぞ。

半死半生の黒鬼が『最期の一撃』を放ってこないとも限らないんだから油断はいかん。


そう自省して警戒するも、魔法を喰らって倒れ込んだはずの黒鬼と赤鬼の姿はすでになかった。


彼らがどこかに移動したわけではない。そのまま死んだため、死体が霧散したのだ。


「ヨシ」

「なにが!?」


ひとまず大丈夫と判断した俺は、驚愕から抜けやらぬ様子の奥野に指示を出す。


「あとは任せた。負けそうになったら助けてやるからとりあえず全力で戦ってみろ」


「は、はぁ……」


「おいおい、なにを気の抜けた返事をしている。しっかりしろ。相手は本来二〇階層のボス、それもイレギュラーな形で出現している相手だ。油断していたら死ぬぞ」


「! そ、そうですね!」


一匹だけ残されたせいか、未だに混乱から回復しきれていない赤鬼に今更何ができるとも思えないが、まぁ多少はな?


数分後。


「グ、グォォォォォ……」


「か、勝ちました!」


「ほほう」


傷だらけとなって倒れ伏す赤鬼と、それを目の当たりにしていても残心を解いていない奥野の姿があった。


俺的には二〇階の階層ボスをタイマンで打ち破ったことよりも、接戦を制した後でも”完全に死ぬまで油断するな”という探索者としての基本をしっかり実践していることに驚きを隠せない。


どうやら彼女は俺が思っていた以上に掘り出し物だったのかもしれない。


なんて思った時期が俺にもありました。


「は! そうだ! 億、億はどこですか!?」


「億いうな」


ドロップアイテムのことを金、それも単位で呼ぶとか人格破綻者まっしぐらじゃねぇか。

倫理観はどうなってんだ。誰だよ彼女にこんな教育施したしたやつ。


学校か。学校が悪いのか。

そういえば学校の教師はギルドの職員だったわ。

つまりギルドに洗脳されたのか。じゃあしょうがないね。


これから少しずつでもマトモになるよう教育しよう。

そう思った金曜の夜。

掘久太郎秀政。

1533-1590


織田信長の小姓として知られる。

攻めるも受けるも交渉も文通もおもてなしもなんでもできたため、名人久太郎と称されたほどの技巧派テクニシャン



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