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そして笑う。


数十分後。


私とステイル対アーサーの二対一の手合わせはアーサーが騎士団の訓練に戻らないと行けない時間ギリギリまで何度も続いた。…そう、一戦ではなく何度も。

勝敗は疲労困憊のアーサーがステイルに隙を突かれての一本が殆どだったけれど、ある意味二対一だったのに一度も私達に剣だけは弾かれることのなかったアーサーの粘り勝ちな気もする。

最後はステイルの宣言通り、疲労でボロボロになったアーサーはステイルからのせめてもの労いか、特殊能力で騎士団演習場まで瞬間移動してもらっていた。

あのボロボロな状態で、訓練に身が入るか少し心配ではあるが。


「そういえば、ステイル。」


ふと、アーサーを瞬間移動し終えたステイルに声を掛ける。

「はい、何でしょうか姉君」

着替え室に向かおうとするステイルが、振り返り首を傾げた。

「その団服、とてもよく似合っているわ。」

さっきは驚いて言い損ねてしまったけれど、ステイルの騎士団服姿はとても格好良かった。ゲームでは見たことが無かったけれど、スチルに無いのが勿体ないくらいだ。

「姉弟でお揃いなんて、初めてだもの。とっても嬉しいわ。ティアラからの素敵な贈り物に感謝しなくちゃね。」

そう言って笑ってみせると、ステイルが段々と顔を火照らせていった。ティアラからの贈り物、という言葉に照れてしまったのだろうか。最終的には顔を真っ赤にさせながら「…はい。」と控えめに返事をしてくれた。

「…姉君も、…その格好、お似合いです。…とても、素敵です。」

ぼそぼそと呟くようにそう答えるとステイルは私に頭を下げ、足早にティアラの方へ行ってしまった。そのまま、ティアラの頭をすれ違いざまに撫で、テーブル上の眼鏡だけ鷲掴んだら文字通りに消えてしまった。多分、着替え室に瞬間移動したのだろう。ロッテとマリーは私の着替えの為に連れないでくれた。

そんなに早く可愛い妹のティアラへ贈り物の御礼を伝えたかったのだろうか。撫でられたティアラ本人もにこにこと嬉しそうに笑ってかなり満足気だった。


さて、私も着替えないと。

ロッテとマリーを連れ、私も着替え室に向かう。ステイルに続いてティアラの頭を撫で、素敵な贈り物の御礼を伝えながら。




……




「……ッハァ…ぜぇ…」


…疲れた。すっげぇ疲れた。


ステイルに瞬間移動されたのは、他の騎士達に気付かれないように配慮してか騎士団本隊にのみ割り当てられる個室…の、俺の部屋だった。


正直…今回は瞬間移動して貰ってかなり助かった。瞬間移動で移動時間が浮いた分、訓練の時間までは正直動ける気がしない。団服を目の前の椅子に掛け、鎧のまま床に転がる。

…ステイルもプライド様も強過ぎた。

そりゃまだ俺は騎士団の本隊入りしたばかりだし、長年本隊の騎士や騎士団長の親父ならきっと二人にも勝てるだろう。

だが、それでも


「…ッ、…俺だっ…て騎士だぞ…クッソ…」


両手を広げ、天井を仰ぐ。

悔しい。

正直、このままあの二人が強くなったら俺の役目なんざ無くなっちまうんじゃないかと思うほどに。

暫く息を整えながら、ひたすら時間になるまで床にへばりつく。


…だが、

諦めるつもりは、無い。

折角ここまで来たんだ。絶対、今以上に強くなってやる。

瞬間移動を使われようが絶対にステイルに負けねぇぐらいに。

プライド様が敵わない相手でも一撃で倒せるぐらいに。


暫く経って、時計を見るとそろそろ動かないといけない時間だった。

なんとか立ち上がり、水差しから水をグラスに注ぎ、一気に飲み込む。

…よし、大丈夫だ。大分動けるようになった。

騎士団本隊の証である団服を後ろ手に引っ掛け、扉に手を掛けた。

ガチャリ、と古い金具の音と同時に扉が開く。


「!…アーサー。なんだ、ステイル様の所へ行ったのではなかったのか。」


扉を開けた途端、ちょうど騎士団長である親父が俺の部屋の前を横切るところだった。

「あー…。…ステイルの…アレで、今日は。」

一応他の人の目があるし、特殊能力のことはぼかして伝える。それでも一応伝わったらしく、「そうか」と返事が返って来た。

「…今日はクラーク副団長、非番でしたっけ。」

話を繋げながら、目でうろうろと周りに人影がないかを確認する。

「ああ、そうだが…アーサー。何やら今日はいつもより疲れているようだが。」

「…まぁ、手合わせで色々ありまして…。…」

「……何故そんなに周りを気にしている。そろそろ出ねば演習��遅れるぞ。」

そう言って訝しみながら親父が先に行こうとするから思わず「待って下さい!」と馬鹿みたいな大声で引き止める。


言わねぇと、ちゃんと。

もっと、もっと強くなる為に。


親父が眉間に皺をよせて、振り返る。

訳がわからない、といった表情だった。そりゃそうだ。

片手で扉を閉め、ちゃんと親父に向き直る。

早く言わないと、本当に俺も親父も演習に遅れてしまう。


「本隊入りも果たしたし、…今度、また…前みたいに…手合わせ、して…下さい。……………父上。」


思わず最後は目を逸らして言ってしまった。言い終わってから親父…父上の方を見ると、ポカンとしたまま口を開けていた。

騎士団本隊入りを果たしたらまた手合わせして欲しいと、実は結構前から考えていた。それに、昔の反発していた時の呼び方が染み付いてしまっていたが、そろそろちゃんと改めたいとも思っていた。

だから、どうせなら騎士団本隊入りした時、両方とも言おうと…そう決めていた。


そして、今回のことで改めてわかった。

まだ俺は弱い。だから、この熱が引かない内に今、伝えたいと思った。


親父…父上は表情が変わらず固まったままだったが、暫く待つと口だけが動いて「…わかった。」と答えてくれた。取り敢えず、「ありがとうございます」とだけ言って頭を下げて、そのまま演習場まで走った。照れ臭いし、何より騎士団長は未だしも新入りの俺はそろそろ走らないとまずい。


走りながら考える。

父上は、わかったと言ってくれた。

できる…!騎士団長の父上と手合わせを‼︎

もっと、もっと俺は強くなれる‼︎


嬉しくて走りながら小さく拳を握り締めた。



まだ、まだ、俺には先がある。


19時に幕間更新致します。

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