34.騎士たり得る者は焦がれる。
「なんだアレは⁈」
「本当にプライド様なのか⁈」
「あんな動きができる奴は新兵にもいないぞ‼︎」
騎士達が叫んでいる。
プライド様が現れた時はどうにか止めないとと、騎士団の誰もが騒いでいた。
だが、一瞬で全員が言葉を失った。
最初は、一番後方にいた男だった。
プライド様に向かい、なんだこのガキはと言いながら剣を振るった。
その瞬間、プライド様は身体を捻り、ガラ空きになった男の懐に飛び込むと、躊躇なくその足へ剣を振り返したのだ。
ザシュッと、肉の切れた男とともに男が両足を押さえ転がった。
誰もが、口を開き目を疑った。
たった十一歳歳の少女が、大の大人を間髪入れずに斬り伏せたことに。
その後も、プライド様の猛攻は続く。
腕を捻り上げ、動きを奪い
力任せに振り上げられた剣をいなして避け
彼女が剣を振るえば、必ずそれは相手の手足の自由を奪った。
なんなんだ…あの人は…?
呆然と、気づけば俺はあの人の戦う姿に目を奪われていた。
相手の剣や拳を臆さず、その血飛沫に怯むことなく、ただひたすらに相手を制していく姿は戦士そのものだった。
その時はまだ、誰もが呆然とその光景を目の当たりにしているだけだった。
だが、ゴロツキが束になってプライド様に飛びかかった時は息を飲んだ。
小さな身体に向けて大柄な男達が襲いかかり、その背中に覆い隠されて彼女の姿が見えなくなったほどだ。
だが、次の瞬間彼女が再び現れた。男達の足元を蹴り払い、逆に転ばせて正確な剣の一閃が足の自由を奪う。
「おおおおおおおおおおおおおっ‼︎」
映像をみていた騎士達全員が、その場で歓声を上げた。
「…すげぇ…」
思わず、感嘆の声が漏れる。
その戦う姿は美しいとすら思えた。
次は銃だった。
足の自由を奪われた男が拾った銃でプライド様を撃つ。なのに、怯む間もなくプライド様が消えた。プライド様の背後にいた男が代わりに撃たれて倒れる。一瞬、え。と誰もが声を漏らした。だが、次の瞬間に上からプライド様が現れる。跳んで回避したんだ、あの一瞬で。
『そうだわ、これを使えば良いじゃない』
銃を拾いながら軽い物言いでプライド様が言うと、突然その場に転がりだした。
誰かに殴られたのか、それとも足を捻ったのか。そう思ったのは束の間で、銃の乾いた音が何度も響いたと思えばゴロツキ共が悲鳴を上げて倒れていく。
「あの腕前…‼︎やはり先程狙撃したのもプライド様なのか⁈」
騎士の誰かが声を上げる。
きっと、そうだ。
理由もなく、そう確信している間にもプライド様が転がっては撃ち、転がっては撃ち、狙撃音と同じだけゴロツキが叫び、そして倒れていく。
気づけば、俺の身体の震えは止まっていた。
「あれは…特殊能力か?」
「いや、プライド様は予知能力者だ。狙撃の特殊能力を持つなどあり得ない」
「だが、あんな狙撃…我々すら難しいぞ⁈」
騎士達が口々に言う。
親父の自慢の騎士団が、この国に選ばれし精鋭達が。
皆、俺よりも小さく、細い身体の少女の強さを認めている。
信じられない光景だった。
あっと言う間に、ゴロツキ共は地面に倒れ、プライド様と親父だけがそこに立っていた。
『な…何故…』
うろうろと歩くプライド様の背中に、親父の声がかけられた。
『何故来たのですか⁈ここが危険なのは貴方が一番ご存知の筈です‼︎』
折角助けられたのに何言ってやがんだという気持ちより先に、親父の元気そうな声にほっとした。
『同じようなことをステイルにも言われたわ』
プライド様は、そんな言葉も気にせずまだうろうろと歩いている。
…あれ?
そういえば親父が助かったのになんで皆、まだ騒ついてやがる。
これで、もう終わったんじゃ…
『ここは瓦礫の下になります‼︎貴方がそう予知をっ』
は?
思考が再び停止しかけた瞬間
ガガガガガガガガガガガガカッ‼︎‼︎
酷い地割れのような、地響きのような音が木霊した。
親父の背中越しの映像からも、崖が崩れ、瓦礫が映像のあちらこちらに落ちているのか見えた。
「副団長‼︎崖の崩落が始まりまし���‼︎」
「丁度いま!先行部隊が新兵達の避難を完了したとのことです‼︎」
「応援に向かっている騎士団より、遠目からも崖の崩落を確認との報告が」
「副団長っ‼︎先行部隊に確認しましたが崩落が酷く、騎士団長の所まで戻るのは不可能とのことです‼︎」
次々と騎士達の叫び声が交差する。
何がどうなってやがる?
親父を襲ってる連中全員倒して、これでお終いじゃなかったのか⁈これでもう大丈夫なんじゃっ…
俺がクラークに説明を求めるよりも先に、騎士の誰かが「プライド様が‼︎」と叫び声をあげた。
映像を見れば、プライド様がゴロツキの一人を親父に向かって蹴飛ばした瞬間だった。
瓦礫の音が煩くて、声が聞き取れない。
ただ、親父はその男を捕まえるとプライド様は剣を捨て親父とゴロツキにしがみついた。
騎士達までもが「あれは何の真似だ⁈」と叫ぶ中、なんとか聞き取れた言葉はゴロツキに向けて叫ばれたプライド様の『貴方の特殊能力を』という言葉と、ゴロツキの怒号だけだった。
そして次の瞬間
上か下かわからない程、大量の瓦礫に覆い尽くされ
映像が真っ黒になった。
親父も、プライド様も皆、瓦礫の中に消えた。
「あ、あ、あ、あ……」
崖の崩落から全てが本当に一瞬の事で。
俺は、反応することもできず
「あああああああああああああああああ‼︎」
ただ、絶望して叫ぶことしかできなかった。