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25.外道王女は抗う。


ステイルが私を抱き締めた直後、転送してくれた場所は崖の上だった。


てっきり騎士団長のところに武器と同じ要領で移動してくれるかと思ったから驚いたが、たしかにここの狙撃班をどうにかしない限りは騎士団長を助けるのは難しい。

私は剣を手に、狙撃に夢中の人間をまず一人斬り倒した。

両手首を狙い一線振るえば鮮血が飛び、男が悲鳴を上げて転がった。

取り敢えず切り落とさないまでも手を狙えばその後に銃を撃つことはできないだろう。

悲鳴で気づいた他の男が私に銃を向けてくるが、不思議なくらいに怖くなかった。


むしろ、血が騒ぐ。


思ったように飛べば攻撃は避けられ、反射的に身体を捻れば銃の弾すら避けられていた。

なんだ、何者だと叫ぶ男を一人ずつ剣で制してしく。

転がるか気を失った男達を放って、落とされた銃をとにかく手に取っては弾が無くなるまで一人につき両手に一発、どちらかの足にも一発ずつ撃ち込み、あっという間に誰も掛かってこなくなった。

自分の狙いたいと思う場所に正確に撃ち抜くことができた。初めて銃を持ったのが信じられないくらいに。

このチートは役に立つ。拾った銃を今度は崖下の騎士団長を囲っている男達へ向ける。

まるで最初から知っていたかのように自然に装填準備から引き金を引く。やはりすんなりと銃は狙った相手の手を撃ち抜いていった。

その後はとにかく一人でも多くの男達を無力化すべく次から次へと撃ち抜いていった。一人、褐色肌の男だけは気を失わないように両手の甲だけ撃ち抜いて放っとく。早めに倒しておかないと騎士団長の方に近づかれて返り討ちにされたら大変だ。

弾が切れたらまた次の銃をとしていたが、先に銃の方が全て弾切れになっててしまった。探したが、倒れてる男達が持っていた銃も含めてもう使えるものはない。

改めて騎士団長の後方、新兵がいるであろう方向をみると、人影ひとつなかった。きっと先行部隊が全員安全な場所に避難させてくれたのだろう。

崖下を覗き込み、高さを確認する。

かなり高い。けど、ゲームでプライドは城の頂上から飛び降りていたシーンがあった。城の頂と比べたら全然低い。それに今は時間がない。

私は迷わず崖から飛び降りた。こうして派手な動きをした方が騎士団長から注意も反らせるから丁度良い。


途中数回回転を加えながら危なげなく着地し、騎士団長の元へ向かう。


近づけるまで適当に言葉を繋ぎ、彼らに近づく。

男達がなんだコイツはと引き、構えてくる。

一番向こう側には騎士団長が立ち上がり、こちらを覗いている。見れば見る程酷い怪我だった。いまこうして立っているのすら奇跡のように思える。


小悪党め。よくも私の大事な国民を。


怒りで震える手にしっかりと力を込めながら、全員を見定める。

「覚悟なさい。小悪党が。」

標的が私になるように挑発の意味も込めて私は笑う。


「彼は私の国民です。」


これ以上手出しさせてなるものか。

戦闘能力チートのこの世界のラスボスの力、いまこの場で味わわせてやる。


男達が剣を構える。銃はさっき全員落とさせたけれど、まだ地面に転がっているのもあるし油断はできない。


掛かってこい、小悪党。

この世界のラスボス様が相手をしてあげる。






プライド第一王女はこの時、前世の記憶を思い出して始めてラスボスらしい笑みを浮かべた。



……



ロデリック騎士団長は開いた口が塞がらなかった。

目の前にいる奇襲者、一人一人は大したことがないがそれでも武器をもった大人だ。

そして自分は少し前まで死を覚悟していた。なのに、その男達を前に臆せず戦っているのは少女だ。しかも、ただの少女ではない。我が国の第一王女。この場に居るわけもない、先ほどの映像でも国の騎士団の作戦会議室にいた。だが、今目の前にいて男達を圧倒している。僅か十一歳のドレスを着た少女が、だ。


しかも、これは本当に少女の動きだろうか。


縦に裂いてあるとはいえ、動くのには絶対に適さないドレスを着た小さな影が後方から男達を一人、また一人と倒していく。

時には関節技で身体の動きを奪い、時には剣で相手の攻撃をいなし、そのまま手首や足に正確な一撃を与え、束で来られても身体の小ささをいかし、男達の足を自らの足で払い、転ばせては剣で腕や足の自由を奪っていく。自らのドレスが地につき、時には相手の返り血で染まっても構う様子がない。血のように赤い真紅の髪を振り乱し、彼女は大人を圧倒している。足を斬られ���がった男が地面の銃を拾い、発砲のするがそれすらも跳ねてかわし、逆に後ろにいる別の男が撃たれて悲鳴を上げた。


「そうだわ、これを使えば良いじゃない」


先程まで剣を振るっていた少女が地面にある銃を拾うと地面を転がるようして男達の手や足を撃ち抜き、弾が無くなってはそのまま近くの銃まで転がり、一つも無駄玉にすることなく敵の手足の自由を奪っていく。

やはり先程崖上から狙撃したのも彼女らしい。

地面に転がった銃よりも、男達が手足の自由を奪われて転がり回る方が先だった。

気がつけばあれだけいた奇襲者達が誰一人立っている者がいない。

信じられない光景に呆然としている私を置いて、彼女は転がる男達の顔を一人一人確認するように覗きこんでいる。


「な…何故…」


なんとか声がでた自分の声はかなり掠れていた。プライド様が気がついたように一度こちらに顔を向ける。


「何故来たのですか⁈ここが危険なのは貴方が一番ご存知の筈です‼︎」

思わず半ば攻めるような口調になってしまう。だが彼女は気を損ねる様子もなく「同じようなことをステイルにも言われたわ」と返し、再び倒した男達の顔を確認し始めた。

何故、何故‼︎段々と怒りすら湧いてくる。彼女は私を助けてくれた、だが…

「ここは瓦礫の下になります‼︎貴方がそう予知をっ」


ガガガガガガガガガガガガカッ‼︎‼︎


プライド様が「いた!」と叫ぶのと目の前の崖が酷い音をたてて崩れ始めるのは殆ど同時だった。

まるで下手な石積みのようにガタガタと崖が震え、上部からボロボロと溢れるように崩れていく。


終わった。


もう崖はこのまま崩壊する。この規模ならば私達のところまで崩れてくるのは間違いないだろう。新兵達は無事避難できただろうか。

せめて、妻に、息子にちゃんと愛していると伝えたかった。そして、騎士として胸を張って死にたかった。

目の前で崩れだした崖をみてやっと慌てだした第一王女を前に、立ち尽くす。

私が忠誠を誓った女王陛下、王配殿下の愛娘。そして王位継承権を得た次世代の女王。私などの不甲斐なさが故に彼女まで道連れにすることになるとは。騎士として恥以上の失態だ。

せめて、どうか、どうかプライド様だけでも…

フラフラと剣を落とし、どうか幼気な彼女に届かないかと手を伸ばす。せめて、彼女を抱き抱えて瓦礫の下敷きになれば騎士として死ぬことも許されるだろうか。血が足りずに回らない頭でそんなことまで考えてしま

「騎士団長ッッ‼︎」

プライド様の叫び声ではっとする。

プライド様は奇襲者の中から褐色肌の男の喉に剣を突き立てるとフラフラと私の元へ歩かせている。よく見るとその男だけは足に怪我を負っていない。


「私を死なせたくなければしっかりと彼を離さず捕まえて下さい‼︎」


そう言うとプライド様は身体を翻し、その男の背後に回り思い切り蹴り飛ばした。

勢いついてそのまま私の方へ倒れ込んでくる。彼女の言葉に私も縋るような想いで訳もわからずその男を両腕の渾身の力で拘束する。男は離せ、離せと暴れるが例え手負いの身であろうと力で騎士団長のこの私が負ける道理などはない。

すると、今度はプライド様が剣を放り、私とその男に身体を巻き付けるようにしがみついてきた。

「死にたくなければ貴方の特殊能力を使いなさい‼︎私達ごと守らなければ貴方も死ぬわよ‼︎」

プライド様の強い物言いに男が肩を震わせた。唸るように「何故そのことをっ…」と声を漏らす。

「早くしないと貴方も生き埋めになるわよ⁈」

一向に離れようとしない私とプライド様に男は低く呻く。ガラガラと瓦礫が崩れ落ち、私達の足場すら奪っていく。


最後、「くっそぉぉぉぉおおおお‼︎」という男の叫び声と共に



私の視界は瓦礫に塞がれていった。


お陰様でマイページ飛べるように致しました。

宜しければ先日の更新した活動報告をご参照下さい。

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