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そして勝者は笑う。


スピード。


ルール的に二人でやるゲームなので、完全にトーナメントの勝ち抜き戦になった。このゲームじゃ残念ながらのんびりはできそうにない。しかも、何故かカードゲームとは思えないほどに空気が殺伐としている。


「主っ!私とケメトは勝てないから、代わりにジルベール宰相で良いですか?」

セフェクが手を上げて私に許可を求めてくれる。確かに年の差から考えても二人では不利だろう。むしろ二人の為のトランプ大会なのに良いのだろうか。

良かったら二人でも戦えるようにハンデを…と提案したけれど二人とも見てる方が楽しいからと断られてしまった。ジルベール宰相も構いませんよ、と笑って快諾してくれる。


ジャンケンで取り敢えず二人ずつに別れて勝負。結論として言えば、私は一回目も二回目も、途中でアーサーに当たって負けてしまった。最下位は連続ティアラだったけれど、…勝者争いは予想外に熾烈だった。なんかもう、勝負前から皆の覇気が凄すぎてティアラが「きっとトランプが破れてしまうので私のを使いましょう⁈」とセフェク達のトランプを庇ってくれたほどだ。


特に、ステイルとアーサーのバトルが物凄かった。


気のせいか、いつもの手合せよりもずっとやる気満々だったというか…、アーサーもステイルも目から火花が散っていた。

しかも、勝負スタートした瞬間には早すぎてカードを目で追うのも大変だった。

多分ジルベール宰相と私しかちゃんと見えてなかったと思う。常人には二人の前のカードが高速で積み上がっていく異常な光景だっただろう。シュバババババッとまるで機械が御札を数えた時のような音が響き続けた。

それはもう、乙女ゲームの世界からゲームジャンルが変わったかしらと思うほど。

最終的には凄くギリギリタッチの差だったけれど、反射神経がずば抜けたアーサーの勝ちだった。

なかなか見る機会のない悔しそうなステイルの表情をこんなところで二度目にすることになるとは思わなかった。「次は絶っ対に勝ちます…‼︎」と黒い覇気を立ち上げて凄くムキになっていた。…まあ、ジジ抜き戦から連続でアーサーに立ちはだかられているから無理もない。ステイルがゲームで負けるのをこんなに悔しがるなんて、少し意外だ。

一回目は準決勝でアーサーに、二回目は初戦でステイルはジルベール宰相に負けてしまっていた。何故かジルベール宰相に負けた時、アーサーに負けた時ほど悔しそうでなかったので聞いてみたら「あれは…勝負で負けた訳ではないので」と何か言い含むようだった。でも若干顔が赤かったし、隠していただけで本当はそれなりに悔しかったのかもしれない。

そんな感じでスピードも見事二回ともアーサーの圧勝


…では、なかった。


一回目の決勝の勝者は、ジルベール宰相だった。まさかの最強アーサーにジルベール宰相が勝つのは流石に予想外だった。確かにジルベール宰相も凄く強かったけど、ステイルと勝負している時のアーサーはそれ以上だったのに。


そして今、二回目の決勝で再びアーサーとジルベール宰相が勝負を始めた。


「主っ!どっちに勝って欲しいですか?」

セフェクが私の隣に立って話しかけてくれる。最近は、少し私にも慣れて自分から話しかけてくれることが増えて嬉しい。さっきの勝負中もジルベール宰相の応援ではなく私とばかりお話してくれていた。…応援されないジルベール宰相は少し可哀想だったけれど。


「そうね…どっちも応援しているわ。」

これは、やはりセフェク達側のジルベール宰相を応援してほしいという話だろうかと思いながら言葉を返す。ケメトも傍に寄ってきてくれて二人で交互に私へ話しかけてくれる。


「主はジルベール宰相とアーサーどっちが好きですか?」

「どっちも大好きよ。大事な人だもの。」

「アーサーって格好良いですか?」

「ええ、とっても格好良いわ。」

「アーサーって騎士だから強いんですか?」

「ええ、とっても強いわよ。」


何故か途中からジルベール宰相ではなくアーサーの話になってる。そういえばさっきも似たようなことを聞かれたような…。やはりこれだけの熱戦を繰り広げていたらアーサー達のこともどんな人なのか気になってくるのだろうか。

ステイルとジルベール宰相の戦い中もステイルのことを色々聞いてくれていたし。「ステイル第一王子殿下って優秀ですか?」「格好良いですか?」「ジルベール宰相とどっちが好きですか?」と。凄く優秀だし、格好良いし、どっちも大好きで大事だと伝えたけれど。やはり、これくらいの歳の子どもでも同じ質問を繰り返すものなの


「はい。…また私の勝ちですね。アーサー殿。」


…また、気がついたら勝負が決まってしまっていた。

ケメトとセフェクも嬉しいらしく、質問を切り上げて自分達の勝利に大喜びしている。それに対し、残念ながら敗北してしまったアーサーは、頑張り過ぎたのか顔を真っ赤にして項垂れていた。


「〜〜っ…ずりぃっ…す…‼︎ジルベー…宰相っ…、…さっきもっ…!」

「申し訳ありません、アーサー殿。ですが今はケメトとセフェクを任されておりますので。」


息も絶えだえに何か訴えているアーサーに、ジルベール宰相が困り笑顔で返してる。「ですが、勝負は勝負です」と言われ、ぐったりとその場に突っ伏してしまった。どれだけ全力投球でやっていたのだろう。


「…兄様、わかってたのに止めなかったの?」

「アーサーに二勝されたら優勝者がほぼ決してしまうからな。それならケメトとセフェクに譲った方が良い。」


若干悪い顔をしているステイルをティアラが覗きこんでいた。そのまま「そういう時だけジルベール宰相の味方するんだからっ」と指先でステイルを突いている。相変わらず仲が良い。

そのまま笑い声が聞こえると思ったら、ヴァルが上機嫌で「イイ性格してんじゃねぇかテメェらもあの宰相も!」とゲラゲラ笑いながらガシガシと両手でケメトとセフェクの頭を撫でていた。よく分からないけど、二人が褒められて嬉しそうなので良しとしておこう。


そのまま、私以外全員が二勝を収めたまま、最終戦へと縺れ込んだ。…白熱しているところ、私だけが蚊帳の外なのが少し寂しい。



最終戦は、大富豪だった。

先ず一回戦目。既にやる気満々の輪の中、見事に早上がりをおさめたのは


…何故か、私だった。


てっきり幸運の女神(ティアラ)策士(ステイル)謀略家(ジルベール宰相)チームだと思っていたのに何故私⁈と自分でもびっくりした。

最強カードの布陣ばかりだったので私が遠慮なく早々に強カードを連続で出しまくってしまい、まさかの一巡し終える前に上がってしまった。

正直、私本人すら訳がわからない。皆がぽかん、とした中でティアラだけが「おめでとうございますっ‼︎」と喜んでくれた。それを追いかけるようにケメトとセフェク、そしてジルベール宰相も褒めてくれた。


「…なァ、大富豪ってやっば大富豪にカードが行くようにできてンのか?」

「姉君が二勝した場合は、どうやって優勝者を決める…?」


別のゲームでもう一戦するか?とアーサーとステイルがぽかんとした表情のまま会話を重ねていた。スピードの時はなかなかギスギスしてたけど、もう仲直りしたようでほっとする。

その後の一戦目は勝者が決まったことで割と平和に進んだ。二位はステイル、次にティアラ、ヴァルと、最下位争いはアーサー対セフェクとケメトで最終的にはアーサーの勝利だった。


そして二戦目。

公平を期す為に大富豪と大貧民ルール無しに立場リセットで勝負が始まった。

ジルベール宰相がカードを配ってくれようとしたけど、ステイルが「お前がやるとどんな手を使うかわからない」と言って結局アーサーに配ってもらうことになった。

まさかまた最強カードの布陣…かと思ったけれど、極めて普通の並びだった。強過ぎもなく弱過ぎもなく。やはりさっきのは純然たるマグレだったらしい。

私が出す番になった途端、一瞬皆が緊張状態になったけど、普通にステイルの数字より二つ大きい数字のカードを出したら明らかにほっと息をつかれた。…大分私も警戒されてしまっていたらしい。

そうして、再び平和に大富豪が始まった。…のだけれど。


「…ステイル。お前、さっきから俺が出すカード全部切ってねぇか?」

「気のせいだろう。」


…多分気のせいじゃない。

さっきからアーサーが強めのカード出す度にステイルがちゃっかりアーサーよりギリギリ強いカードを出して追従を抑えてる。どうやらダウトで負かされたのを未だに根に持っているらしい。

見事にアーサーを一歩も出さずに抑えつけていた。…というか全員が綺麗に抑えつけられている。

2とか1とかペアとか、折角切る為のカードを出しても最後の最後にはステイルに抑えつけられてしまう。しかも、単なる数字の強弱でなくトリッキーなカードをちょいちょい挟んでくるから、完全に翻弄されてしまう。

折角幸運引きのティアラが、取って置きの最強カードのジョーカーを出したのに、それすらも唯一対抗できるスペードの3に捩じ伏せられてしまった。これには流石のティアラまでもが、ぷくっと頬を膨らませて「兄様ってば大人げない」とステイルを睨んでた。

さっきもそうだったけれど、流石ステイル。手札関係なく自分の最大手で相手の出だしを叩き折っている。

その後も明らかにステイルだけ手札がじわじわと減っていっていた。やっぱりさっきは私がラッキーだっただけで、普通にやればステイルの圧勝らしい。アーサーも若干むくれるように自分の手札を睨みつけているし、ケメトとセフェクに至ってはとうとう勝負の枠をでてヴァルに自分達のカード丸見えでお話してる。

そのままゲームがステイルリードで続いていき、ステイルだけが残り三枚までその手札を減らした時だった。





「〝革命〟」





パサっ、と。

突然出されたカードに私達は釘付けになる。

…あれ。

突然、目の前に四枚のカードが出されて思わず目が点になる。

セフェクとケメトの番が終わり、ヴァルが8でカードを切り、新たに自分の手札を出せるタイミングになった時だった。

ヴァルがしたり顔で私達を見てきて、愉快そうに口元を引き上げている。


「これで強弱立場逆転だ。せいぜい頑張れよ?王子サマ。」

ケタケタと笑うヴァルにステイルが無言で青筋を立ててる。無表情の顔から凄く黒い気配が見える。まずい怒ってる‼︎絶対怒ってる‼︎

しかもちゃっかりステイルが革命返ししないように残り三枚になるまでこの人待ってたし‼︎

まさかヴァルがこんな奥の手を隠し持っていたとは思わず、私も開いた口が塞がらない。ヴァルがステイルの裏をかけるとは正直全く思わなかった。しかも幸運の女神ティアラすら手札になかった四枚カード‼︎

他に革命返しする人もおらず、そのまま強カードが弱カードに。そして弱カードが強カードに立場が変わってゲームが進行した。

まだ手札が十分余っている私達はなんとかゲームを進められたけど、強カードを取っておいたらしいステイルが逆に手札に詰まっているようだった。

そのまま、このタイミングで大富豪の大技である〝革命〟を決めたヴァルが優勝を決め



…なかった。



「…で、上がりっ‼︎」

やったぁ!と両手を上げてセフェクとケメトが見事優勝を勝ち取った。二人でハイタッチをして、ついでにジルベール宰相に二人ともタッチをしてくれていて本人も嬉しそうだった。セフェクも大分ジルベール宰相に慣れたらしい。

二人の勝利にティアラが拍手をする中、完全にステイルとアーサーがポカンと口を開けていた。


〝革命〟の後は、一気にセフェクとケメトの大反撃だった。

何故今まで処理しなかったのか、と思うほどに元弱カードばかりが彼らの手には残っていた為、一回目の私のように殆どノンストップでカードを出し続け、上がってしまった。


「…。…おい、何故お前が上がっていない。」

ステイルが不機嫌最高潮のまま、ジロリと椅子の上で足を崩しているヴァルを睨んだ。

何故か革命をした後、ヴァルはステイルと同じく全くと言って良いほど手持ちのカードを出して来なかった。普通はそこから猛反撃までが流れなのに。


「このカードで上がれると思うか?」


もう勝つつもりも無いのか、ヴァルがニヤつき顔のままステイルや私達にも見えるように自分の手札を見せてきた。全てが絵札などの強カード。…つまり革命した後では弱カードだ。確かにこの枚数でその状態では上がれる訳がない。何故革命をする前に捨てなかったのか不思議なくらいだ。

そのまま惰性で一応ゲームは続き、二位が私、三位がティアラ、四位がアーサー、五位がステイル、最下位がヴァルになった。

わりとアーサーも手札を見せてもらったら、最後の為に強カードを残していたらしい。…革命された途端に意味を無くしてしまったけれど。


「主っ!主っ‼︎お願い事何でも聞いてもらえるの⁇」


ゲームが終わった途端、二人が期待いっぱいの眼差しで私に駆け寄ってきた。私が「ええ、私にできることなら」と答えると二人がもう決めていたらしくお互いに顔を見合わせ、最後にもう一度私を見上げた。




「また何回でも主達とたくさん遊びたいです‼︎」




…純度百パーセントのお願いがきた。

思わず笑顔のまま、更に口元が緩んでしまう。


「ええ、勿論よ。また皆で遊びましょう。」

二人の頭を撫でながら頷くと、二人とも嬉しそうに満面の笑みを向けてくれた。そのまま私から離れると二人がその足で真っ直ぐにヴァルの方に飛び込んでいった。


「ヴァル!勝てた‼︎主がまた遊んでくれるって‼︎」

「アァ?つまんねぇことに貴重な賞品使ってんじゃねぇよ。」

「勝てました!初めてだけど勝てました‼︎ヴァルが手札くれたお陰です‼︎」



「「ちょっと待て。」」



はしゃぐケメトの言葉に、アーサーとステイルが同時に声をかける。…確かに、今のは私も引っかかった。ケメトが気がついたように、今になって両手で自分の口を覆って隠した。

二人の方を振り返るヴァルが心から愉快そうにニタニタと笑いながら怒りを燃やすステイルとアーサーへと振り返った。その笑みのせいで、更に怒りに火がつくようにステイルが口を開く。


「お前…またイカサマをしたのか…⁈」

「別に俺が勝つ為じゃねぇ。主の命令にも引っかかっちゃいねぇだろ。」


全く反省していない。

むしろ、してやったりをその悪顔全体で表現していた。

どうやらヴァルと話している間にこっそりセフェクがカードを数枚トレードしていたらしい。それでヴァルは見事〝革命〟のカードを揃え、ケメトとセフェクはヴァルと交換したカードで手札を全て有利なものに変えられたと。…そして、言うまでもなくジルベール宰相も黙認していたようだ。そう考えるとあのタイミングで〝革命〟してステイルを潰したのもジルベール宰相の案だった可能性がある。


「俺はテメェらの野望を革命(この方法)で叩き潰せりゃあ大満足だったんでなぁ⁈」


ヒャハハハハハハハッ!とステイルとアーサーを交互に指差しながらヴァルが二人を嘲笑っている。

ステイルとアーサーも悔しいのか握り拳をプルプルさせてヴァルを睨んでた。


「絶対二度とお前とカードなどするものか…‼︎」


かなり憎々しげに言い放つステイルにヴァルが「そりゃあ名案だ」と嘲った。アーサーもステイルに答えるように手をパキパキと鳴らしていた。

そんな殺気も混じる空気の中、ケメトとセフェクだけがヴァルの裾を引いて「僕はヴァルともカードしたいです!」「何言ってるの!次は私達のチームに入りなさいよ!」と叫んでいる。


結局ジルベール宰相とヴァルを味方につけたセフェクとケメトの勝ちでトランプ大会は終了した。

その後すぐジルベール宰相は公務に戻ったし、ヴァル達も配達の為に出て行き、あっさりとお開きになってしまった。ティアラも何だかんだ楽しかったらしく「また遊べるのが楽しみですっ!」と笑ってくれたし、良かったと思う。


…何故か、アーサーとステイルだけが肩を落として疲弊しきっていたけれど。


二人で「アーサー、お前は優勝したら何を考えていた?」「アァ?そりゃァ…。」「…お前もか」と何やらコソコソと話した後に二人で同時に大きな溜息を吐いていた。

最後には「俺達も最初から手ぇ組めば良かったな」「次はそうすると約束しよう」と何やらお互いに握手しあった後、最後にはステイルの瞬間移動でアーサーも騎士団演習場に戻ってしまった。


「その時は私とジルベール宰相と一緒にチームを組みましょうねっ!お姉様っ!」


私の手を握りながら言ってくれるティアラの言葉に笑顔で返しながら、次のチーム対抗のトランプ大会も時期は近いだろうなと何となく予感した。



……



「そういえば、ヴァル。」


城から出た後、国外の門へ向けて歩みを進める中。ケメトがヴァルの腕に掴まりながら、思い出したように彼を見上げた。ヴァルが面倒そうに生返事を返すと、ケメトは小首を傾げで言葉を続けた。


「なんで大富豪の一回目は、主が勝つように細工する必要があったんですか?」

「そうよ!折角ならそこで私達の手札強くしたかったのに!ジルベール宰相がダメって言うし!」

「アァ?んなことしたら二回目の時に対抗策打たれるに決まってんだろ。あんな小技が二度も効くかよ。」

「えっ、バレるの⁇」


ヴァルの言葉にセフェクが目を丸くして返す。

実際、二回目にセフェクやケメトが強カードばかりを出していれば確実にステイルやアーサーに怪しまれていただろう。そうすれば対抗策どころか、ヴァルも今度こそ何もズルができないように命じられていた可能性もある。

あそこで大勝ちしたのが何も知らないプライドだったからこそ、誰も怪しまず、更には最終戦で雌雄が決するように組み立てる事ができたのだから。


「当たり前だ。あのガキ共はそこまでチョロくねぇ。」

「でもっ…」


ヴァルの言葉にセフェクが更に言葉を重ねる。ヴァルがそれに片眉を上げながら目だけでセフェクを見下ろした。セフェクはその極悪の眼差しすら全く気にしないようにヴァルの裾を掴み、ケメトを指差した。





「ケメトがカードを配った時に主のカードへ細工したのは誰にもバレなかったわよ⁇」






セフェクの言葉にヴァルは「ハッ!」と軽く笑い飛ばした。

大富豪一回目。全員にカードを配ったのはケメトだった。最年少のケメトからのカードだったからこそ、誰もそこにイカサマがいるとは思いもしなかった。


「…次やる時は精々もっと違和感ねぇように混ぜるんだな。」

「なによ!ヴァルの教え方が下手なんじゃない‼︎ケメトも私もトランプ貰った時に酒場で教えて貰ったっきりなんだから仕方ないでしょ!」


トランプの遊び方は教えてくれなかったくせに‼︎とセフェクが思い切りヴァルの裾を引っ張った。それに対してヴァルが鬱陶しそうに裾を引っ張り返しながら「だからわざわざ主のとこまで連れてきてやったろうが!」と怒鳴り返した。


「あのっ…僕、ヴァルみたいに格好良くできてましたか?セフェクの役に立ちましたか⁈」


不意にケメトが目を輝かせて二人の腕を引っ張った。

すると「ケメトは覚えが早いもの!」「セフェクと違ってな」と振り返った二人が同時にその手を掴み返した。

直後、セフェクから顔面に水攻撃を受けながらヴァル、そしてセフェクとケメトは国外へと更に歩を進めた。




七歳と十一歳のゲームに登場すらしない彼らこそが、主人公も攻略対象者もラスボスも抑えての正真正銘の勝者だった。


百話記念で出番が殆ど皆無だった彼らが、今回の勝者でした。

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