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〈金賞・書籍化決定 感謝話〉卑怯王女は遊び、

一迅社様の第一回アイリスNEOファンタジー大賞より、金賞を頂きました。

更に書籍化決定致しました…!

感謝を込めて特別話を急ぎ書かせて頂きました。

少しでも楽しんで頂き、感謝の気持ちが伝われば嬉しいです。

本編と一応関係はありません。


IFストーリー。

〝もし、フリージア王国に日本式トランプ遊びがあったら〟


時間軸は〝惨酷王女と罪人〟と〝暴虐王女と婚約者〟の間です。


「トランプ⁇」


ケメトとセフェクの言葉に、思わず私はそのままオウム返ししてしまった。

ちょうど城下の視察を終えて馬車から降りた直後だった。

馬車から姿を現した私達にセフェクが声を掛けてくれた。今朝ヴァル達に書状をお願いしたばかりだし、どうしたのかと思えばまさかの遊びのお誘いだった。しかも、セフェクとケメトに手を引かれたヴァルは何故か若干うんざりとした表情だ。


「はい!あの、ベイルさん…ええと、酒場の人にもう使わないってトランプ貰って。もし良かったら主達と一緒に遊べたらなって…。」


まだ遊び方もわからないんですけど…と少し遠慮がちに話すケメトはそれでも期待に目を輝かせ、セフェクが持つ少し古びたトランプを示してくれた。

私の隣で話を聞いてくれたティアラも「とっても楽しそうです!」と言葉を弾ませてくれている。完全やる気満々だ。


「確か、これから姉君はジルベールと学校制度の打ち合わせでしたね。書類の確認だけでしたし、ついでに遊び方の説明も奴に任せましょう。」


ステイルがさらりと一番大変なミッションをここにいないジルベール宰相に振ってきた。

子どもに一から遊び方教えるのって結構難しいのに!ヴァルに確認をしたら、本人も知っているのはポーカーやブラックジャックとかばかりで、子ども用のトランプの遊び方は何も知らないらしい。

ティアラがアーサーの手を引いて「アーサーも是非!この後は休息時間と仰ってましたよねっ!」と目を光らせた。

王居内に入ることに若干抵抗があるのか、すごく躊躇っていたけれどステイルが「第二王女と第一王子からの誘いだ。断る方が無礼だろう」と言うと、渋々頷いてくれた。何気に私やティアラもアーサーと子どもらしい遊びをするのって初めてだ。

そのままアーサーやヴァル達と一緒に客間へ向かい、ジルベール宰相にも来てもらうように衛兵に伝言をお願いした。

恐らくジルベール宰相も公務があるし、合間の時間だけならたぶんババ抜きくらいで終わるかなと


…思ったのだけれど。


「…とまぁ、大体このくらいでしょうか。どれも単純な遊びなので、好きなものから遊んで覚えていけば良いと思います。」

ジルベール宰相…教えるのすっっごい上手い。

トランプの遊び方指導をお願いして、ものの数分でケメトとセフェクに数種類のトランプの遊び方を理解させてしまった。ヴァルだけでなく、私やアーサー、ティアラが知らないゲームもあったけどジルベール宰相の解説で粗方理解することができた。

しかも、休息時間も父上に許可を得て被せてくれたらしく、セフェク達はジルベール宰相の指導のもと、皆でトランプ大会をすることになった。

ヴァルは「金も賭かってねぇのにカード遊びなんざできるかよ」と傍観希望だったけど、セフェクとケメトに両脇からステレオのようにせがまれて、最終的には折れた。

するとゲーム直前、思いついたようにティアラから提案が上がった。


「それでしたら、全部のゲームで一番多く勝てた人は一番負けた人に一つだけお願い事ができるのはどうですか?」


勿論、常識の範囲内で。と付け足され、それならまぁ、と私もステイル、アーサーも快諾した。ケメトとセフェクにはジルベール宰相が補助として同じチームになってくれるし、取り敢えずビリになる心配はないだろう。セフェクが何故か少しジルベール宰相を警戒するように微妙に距離を空けたままだったけど、ケメトが間に入って何とかスムーズに会話できている。

ヴァルも嫌々ながら少しは真面目にやる気にはなったらしく、足を組み直していた。…まぁ、最下位を避けたい気持ちはわかる。

取り敢えず、六種類のゲームを二回ずつやって勝ち数を競うことになった。優勝者は一位の数が多かった人。最下位はビリが一番多かった人。同数なら一位の個数が少ない方が最下位と決まり、わりと和やかなムードで始まった。ただし、

…この時の私は未だ理解していなかった。


このメンバーでトランプゲームをする事での異常な勝敗の偏りを。


まず、神経衰弱。

「ええと…この数字が、…ここでしたっけ⁇」

ティアラが首を傾げながらトランプをめくる中、すごく助言したい気持ちを抑える。

人数が多いので、ティアラの所持するトランプも使って二倍の量での大神経衰弱だけど、悪徳女王プライドの頭の良さが大活躍で大体の皆がめくったトランプはちゃんと暗記できている。

ティアラが無事二枚揃え、次で外してしまった後にケメトの番になる。…大人げ無いことに、心の中で覚えたカードが取られずにどうか私の番に!と少し負けん気いっぱいに祈ってしまう。まぁ流石に私の前に全部のカードを取られるなんてことは無いと…


「次、兄様の番ね!」


…思いたいのだけど。

ティアラの言葉で、心の中で悲鳴を上げながら私の隣のステイルを見る。

順番が私から左にティアラ、ジルベール宰相、セフェク、ケメト、ヴァル、アーサー、ステイル、私と一周してるのだけど…この順番どうにかしたい。

実は、さっきから丸覚えしたカード全てステイルに取られてしまっている。流石は最強策士。

プライド以上の知能を持つ彼がたかだか数十枚のトランプを覚えられない訳がなく、全て今まで出た数字を拐っていってしまっていた。まるで見えているかのようにトランプが捲られ、私が丸覚えしたカードも全て取られてしまう。

また当てずっぽうで捲るしかないか、と私が肩を落としたその時だった。


「…次は、ちゃんとカードを念入りに混ぜる必要があるな。」


不意に、ステイルがカードを捲る手を止めて独り言のように呟いた。なんだろう、と思い、首を捻るとステイルは再びカードを捲る手を動かし



広がったカード全てを一気に揃えきってしまった。



未だ一回も捲られていないのも含めて、全て。

ズラズラズラッとステイルの手元にだけ次々とトランプの束が積まれていった。


「ちゃんと混ざってなかったようですね。カードの並びに規則性があったので。」

そのままけろり、とした表情で積み上げた百枚近くのトランプを手で整えてみせる。

ケメトとセフェクがまるで初めて手品を見たかのように開いた口が塞がらずポカンとしていた。…その背後のジルベール宰相はちょっと楽しそうだ。恐らく彼はカードの規則性に気づいていながら、ケメトとセフェクの補助に徹していたのだろう。


更にそのまま二回戦目はちゃんと念入りに混ぜたトランプで再開したけれど、やはり少し時間が掛かっただけでステイルの圧勝だった。見事に連続二勝獲得だ。

…よく考えたらトランプって単純でも結構戦略とか必要なゲームだったような。

ジルベール宰相はケメトとセフェクが楽しむことメインでの補助だし、これはステイルの圧勝かもしれない。…と、思ったのだけれど。


「あっ!やりました!また上がりですっ‼︎」


…神経衰弱に続いてのジジ抜き。ババがどれかわからない状態でのカードの引き合いは、ものの見事にティアラが二回とも一抜けを決めてしまった。

流石主人公。何だかんだで攻略対象者を救う主人公スキルのお陰なのか、もの凄く引きが良い。

さっきの神経衰弱だって、たまたま引いてない数字を捲ってしまってもダメ元で捲ったカードが揃う、という奇跡が何度かあったくらいだ。

ステイルや私に勝てたことが嬉しいらしく、二回ともピョンピョン飛び跳ねて喜んでいた。なんかもう、負けたところでティアラの喜び様を見たら微笑ましくなってしまう。幸運の女神ここに現る、とキャッチコピーをつけたくなるほどだ。


そして次のババ抜き。

これもティアラの圧勝かなと思った、…けれど。


「ッオラよ。…ッハ!これでまた俺様の上がりだ。」

…ババ抜きに移行した途端、まさかのヴァルの一抜けが二回も連続した。

ケラケラと私達を嘲笑うかのように揃ったカードを放ってドヤ顔をしてくる。ケメトがすごくキラキラした目でヴァルを見てるけど、セフェクは凄く怪しんでた。…そして、私達も同感だったりする。

一回目はわりとなんて事ない偶然のような反応で一抜けしていたけれど、二回目のこのニヤつきがもの凄く怪しい。

早々と今度はティアラ、アーサーが抜けて、残りメンバーで更にカードを引き合う。

「…まさか、イカサマでもしたんじゃないだろうな?」

カードを引きながらステイルが訝しむように眉間に皺をよせてヴァルを睨んだ。すると


「あー?それも込みでのゲームだろうが。」


込みじゃない‼︎

隷属の契約であっさりステイルの質問に正直には答えてくれたけど、まずイカサマしちゃあダメだろう‼︎しかも本人は全く悪気ないし‼︎

一瞬、隷属の契約の時に詐欺とか防止の為の命令もあった気がしたけれどお金が掛かってない単なるゲームでのズルには引っかからない。いっそお金でも掛けておけばこれも防止できて良かったかもしれない。

私達が呆れる間も「ババがわかんねぇとやれねぇ手だったんでな」と余裕しゃくしゃくな顔で言ってきた。ババ抜きでイカサマする奴がどこにいる⁈


「…ヴァル、命令です。この後からは絶対イカサマで勝とうとしないこと。」

私が息を吐きながら命じると、言われることがわかっていたかのように生返事が返ってきた。恐らくイカサマする可能性に気づかれる前に、実行に移すのが目的だったのだろう。


「そんなことよりも、主。良いのか⁇」


ふいにヴァルが体勢をごろりと崩しながら、ババ抜き中の私に意味深に投げかけてきた。わりと真剣勝負中だったので「なにがですか」と短く返して再び自分のカードへ視線を戻す。…すると見なくてもわかるほどのニヤニヤ声で返事が返ってきた。






「これで見事、連続最下位六度目だ。」





…ちょうど目の前でセフェクにカードが抜かれ、手元にババだけが残った瞬間だった。

「あ…姉君っ…。」

「プライド様、そのっ…。」

「お姉様、どうかしっかり!」

完全敗北に項垂れる私にステイル、アーサー、ティアラが声を掛けてくれる。三人の声を上塗りするようにヒャハハハハッ!とヴァルの楽しそうな笑い声が響いた。


そう、私はここまでの六戦。見事に最下位連続になっている。


神経衰弱は私の直前にステイルが全部無限回収しちゃったし、ジジ抜きでは普通に二回とも私の手元に残ったのがババ、更にババ抜きでも必ず後半で私がババを引いてしまっていた。

私の純然たる完全敗北だ。そんなに引き運が悪いのかと自分でも悲しくなってしまった程に。


トランプ大会の最下位ルールはビリになった数。もう半分のビリを獲得している私はほぼ最下位確定だ。


ティアラが一生懸命「まだ勝負はありますよ!」と言ってくれるけど、正直メンタルが先に折れて勝てる気がしない。

その間も笑いが止まらないヴァルにステイルが怒って「その笑いを止めろ!」と怒ったら、隷属の契約でピタリと止まった。…けど、まだニヤニヤはそのままだ。


「ええと…それじゃあ…。」

残ったカードを一纏めにして、念入りに切ってくれるジルベール宰相の隣でケメトが口を開いた。そのまま上目遣いで私を見上げると、若干わくわくしたように目を再び光らせた。


「優勝した人は、主に何でも一つお願いを聞いて貰えるんですか?」


…ピシッ、と。

何故か一瞬、周りの空気が変わった気がする。

ケメトの問いにセフェクが「ほんとですか⁈」と声を上げ、ジルベール宰相がそれを見て少し困ったように笑った。


「ええ、そうね…。」

私も思わず肯定しながらも苦笑いしてしまう。

どうしよう、罰ゲームは別に良いとしてトランプ大会半ばにて既に敗者だけ決定させてしまった。なんか色々大会の醍醐味を壊してしまった気がする。

ケメトが同じチームのセフェクと顔を合わせてキラキラしている中、ジルベール宰相が「取り敢えず次のゲームを始めましょうか」と次の勝負の準備を始めてくれる。

ケメトとセフェクが二人で私にどんなお願いをしようかと話し合い始めた。そのまま何か言いたげに眉間に皺よせているヴァルにまで話を振っている。


…まぁ、でも。

多分、このままだと優勝するのは策士ステイルか幸運の女神ティアラだろう。既に二勝しているし、ヴァルはセフェク達と結託しようとも、もうイカサマは使えない。

残る私の生き残る方法があるとすれば、万が一にも残りの敗北数が同数の人が現れた時に僅差で勝てるよう、一位を一つでも獲得するように頑張ることぐらいだ。

ヴァルも流石にカード勝負自体は慣れているせいか、イカサマ無しでもわりと他の勝負も上位ではあった。ケメトとセフェクもジルベール宰相がいる限り最下位は絶対ないだろうし、残す可能性として私と同じだけ最下位を取りそうなのは…。






「ダウト。」






ピシャリッ!と。また再び出したカードを見破られ、ヴァルが舌打ちをしながらカードを回収していった。……アーサーによって。


「あ、ダウトで。」

「わりぃ、ダウト。」

「ダウト。」

「ダウトで。」

「ダウト、…って言ってもいいけど、そン時は絶対やり返す。」


怖い‼︎すっっごい怖い‼︎

ダウトが始まった途端、アーサーが百発百中で全員の出すカードの嘘を当てていく。しかも全員にダウト連発してるんじゃなくて正しいカードが出た時は何も言わないし、全員の上がりを阻止しながら自分だけ着実にカードを出して上がっている。


「……さっきの四戦も、お前が俺の隣でさえ無ければ一抜けの可能性もあったものを。」

ステイルが珍しく悔しそうに顔を顰めながら軽くアーサーを睨んだ。手の中にはアーサーのお陰でなかなかの枚数のカードが溜まっている。


「お前が上がるまでいつまでたっても邪魔なカードが処分できなかった。」


どうやらジジ抜きに関しても、カードの流れで早々にどれがババ役のカードか検討はついていたらしい。でも何故かアーサー相手には何度試みてもババもジジも引いてもらえなかったようだ。…あれ。そういえば私のところにジジ抜きでのハズレやババが後半から回ってきたのって毎回アーサーが抜けた後だったような…。………うん、考えないでおこう。


忌々しそうに放つステイルの言葉に平然とした表情で「わりぃな」と答えたアーサーは、とうとう最後のカードを山に乗せた。これでアーサーも連続二回の勝利だ。

私もアーサーがダウトで手心を加えてくれたのか、他の人よりはダウト攻撃も多くなく済み、わりと上位で上がることができた。…というか一回目の最下位がヴァルで二回目がステイルだったので、完全にアーサーにゲームを掌握されていた感がすごい。二人ともこういう嘘つきゲーム得意そうだったのに。

手心を加えてもらえた私とティアラ、そしてケメトとセフェクが、アーサーが上がった時点でも手元の枚数が少なく済んだ。


…まぁ、今回でビリの人がバラバラになった時点で私の最下位は確定してしまったけれど。


取り敢えず諦めはついたので、残りのゲームも気楽にのんびり楽しもう。



…と思ったのだけれど。


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