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160.暴虐王女は気づかれてしまう。


「お姉様っ!兄様っ‼︎おかえりなさいっ‼︎」


ばふっ、と王座の間から出てきた私の胸に向かってティアラが飛び込んできた。なんだか満面のその笑顔を見ると、それだけですごくほっとする。

ティアラは衛兵と侍女と一緒に私達が出てくるのを待っていてくれたらしい。


「ただいま、ティアラ。」

「ちゃんと良い子にしていたか?」


ティアラを受け取めると、ステイルがすかさずティアラの頭を撫でた。気持ち良さそうに笑うティアラが凄く可愛い。

「ええ、ちゃんとお部屋でお利口にしてたもの。」

何かご褒美は?と、したり顔でステイルに笑い返すティアラにステイルが思わず笑みを返した。


「ごめんなさい、ティアラ。本当はもっと早く会いたかったのだけど、先に母上に報告しなければならなかったから。」

「いいえ!私こそ、一番にお迎え出来なくてごめんなさい。お部屋で読書に夢中になってしまって。」


そういってティアラが私の手を握ってくれる。そのまま「早く色々お話が聞きたいですっ!」と言ってくれ、ティアラに引かれるようにしてステイルと一緒に私の部屋へ向かった。

色々アネモネ王国の問題もあるから、その部分は上手くステイルが隠し、要点だけをティアラに話してくれた。

そして勿論、ティアラが一番驚いたのは…


「ええっ⁈お姉様、婚約者解消してしまったのですか⁇」


…やはり、これだ。

「ええ、そうなの。レオンはアネモネ王国の国王にならないといけないから。」

期待通りのティアラの反応に、苦笑いしながら答える。折角二人とも私とレオンとの恋バナを期待してくれていたのに申し訳ないけれど。

ティアラは少し考えた表情をして、「そしたら、…またお姉様は婚約者を新たに決めるということですか?」と首を傾げた。


「ええ。…でも、急ぐ必要は無いと母上にも伝えたわ。まだ、私も女王継承まで色々と勉強不足だもの。」

最初は母上もすぐ婚約者を見つけると言っていたけれど、実際王族の婚約者…更には次期王配となる人間を見つけるのはかなり大変なことだ。また国同士の婚約とかになるなら、余計にデリケートな問題にもなる。今回の事を受けて婚約者の選出方法自体が変わる恐れがあるし、早くても一、二年は難しいだろう。

「お姉様ならきっと次も素敵な方が見つかりますっ!」

絶対ですっ!と力強く言ってくれるティアラに思わず苦笑いを返しながらお礼を言う。まぁ、私よりも先に…


「…さて、とっ!それでは、私はそろそろお部屋に戻りますねっ!」


急にティアラが椅子から腰を上げて立ち上がってしまった。え、もう?と思わず声をかけてしまう。いつもなら一日中一緒にいるくらいなのに。

「お姉様も兄様も帰ったばかりでお疲れだと思いますし、それに…」

一度なにやら言葉を切り、少し恥ずかしそうに私に向かってティアラがはにかんだ。



「今日ずっと独占しなくても、またお姉様は〝私達の〟お姉様ですからっ。」



また夕食で!とティアラが私とステイルに挨拶をしてスキップ交じりに部屋から出て行ってしまう。なんだろう、今もの凄く可愛いことを言われた気がする。

ティアラの可愛さに私まで少し照れてしまいながら、じゃあ今日はこれくらいでお開きにしようかとステイルに声を掛けようとした時だった。


「プライド。」


少し落ち着いたトーンでステイルから声をかけられ、彼に目を向ける。


「…俺はもう少し、宜しいでしょうか。」


ステイルの漆黒の瞳が吸い込むように私を見つめていた。何か窺うような、そして何処か躊躇うような眼差しに思わず息を飲む。「何かしら…?」と何とか笑顔を作って返すと、ステイルが小さく肩で呼吸した。


「母上の…予知。」

ビクッと、ステイルの言葉に身体が反応する。さっきの母上の言葉。私が未来に弱者を好んで傷つける人間になると。その言葉をあの場にいた誰もが聞いていた。

まさか、それを聞いてステイルが今度は私にその可能性を感じ、疑心を抱いてしまったのだろうか。

もう既に把握しきった筈のステイルの無表情が全く読めなくなり、緊張することを誤魔化すように紅茶を口に含んだ。


「…プライドも、…もしかして母上と同じような理由で、エルヴィン元第二王子とホーマー元第三王子を許せなかったのでしょうか…?」


…え。

重々しく開かれたステイルの口に、その言葉に…私は理解できずに首を捻った。…一体どういう意味だろう。

私が意図を理解できていないことを察したようにステイルが言葉を続ける。

「プライドが、…あの時、あの二人に…とても強い憎しみのようなものを…抱いたように感じたので。」


…ドクン。


急激に、核心をつかれた私の心臓が高鳴った。

あまりの衝撃に言葉が出ない。口を微妙に開けたまま「あ…えと…」と言い訳すらできなかった。

自分でも信じられないほど、目が泳いでいる。気がつけば視界が勝手にウロウロと彷徨い、一瞬いまどこにいるのかすら分からなくなる。

同時にさっきまでずっと隠していた筈の胸の奥底の熱が、ふつふつとまた沸き始めているのを感じた。


…気づかれてた。

あの時の、胸底から沸き上げた怒りを。


私の中で煮え始めた奥底が、引き絞られるように痛みを伴い、そして捻れだした。


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