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そしてのこす。


「ヴァルがいるところがちょうど良いかな。プライド、近衛騎士達とジルベール宰相は任せていいかな?」


僕はヴァルに説明してくるから。と、早速全員集合を提案するレオンに私からも一言で了承する。

途端に、アーサーが「自分呼んできます!」と一目散に近衛騎士達のテーブルへ駆けていってくれた。

早速動いてくれたアーサーの背中に感謝しつつ、私はバトラー一家に写真撮影をお願いすることにする。


既に察してくれていたジルベール宰相は「光栄です」とにこやかに写真撮影に許可してくれた。マリアンヌも「一瞬で姿絵を……?」とちょっと不思議そうだったけれど、それでも頷いてくれる。ステラと手を繋ぎながら、撮影場所へ腰を上げてくれた。

アーサーが呼んでくれたハリソン副隊長達も速やかにテーブルから立ってくれて、一気に全員が動くと催し感が強くなるなと早くもわくわくしてくる。

そして壁際へと移動すれば、………ヴァルの顰め顔が待っていた。


「興味ねぇもんは興味ねぇ。残してぇならテメェらだけでやれ」

「えー、嫌だよ。君も入ってくれないと意味ないじゃないか。代わりに今度一緒に姿絵を残させてくれるならいいけれど」

ふざけんなと。一蹴するヴァルとめげないレオンに思わず苦笑する。

予想はできたけれど、ヴァルは写真撮影会は参加したくないらしい。まぁ、写真にうつりたがるヴァルの方が想像はできない。

レオン相手に顔を顰めるヴァルが、今度はじわじわと歩み寄ってくる私達に気付くとゲッと顔を歪めた。レオンがここで映すと説明すれば、苦々しい顔のまま面倒そうに荷袋片手にその場から立ち上がる。大皿を反対の手に抱え、その場から移動するヴァルをセフェクとケメトが一緒に捕まえた。

あまりの特攻に近い勢いに、大皿のコロッケが一個魚みたいに撥ねた。


「良いじゃない!!どうせ姿絵なんかヴァル絶対じっとしていられないでしょ!!」

「僕も一緒に写りたいです!ヴァルとセフェクと!!主も一緒で!形に残せるなら残したいです!!」

いつもよりもわりと二人とも強めのおねだりだ。セフェクは逃がすかと言わんばかりにヴァルの腕を両腕に掴んでお尻に体重をかけ引き留めるし、ケメトもヴァルの胴回りにがっしりしがみついてる。

あまりにも二人の猛抵抗に、ヴァルも押し負けかけながら歯を食い縛る。「アァ?!」と唸るけれど、今更それで二人も怯まない。それどころかレオンにまで動けないところをいいことにさらりとコロッケの大皿を掏られた。「せっかくだし持ち帰る用に包んでもらおうか」とトリクシーにそのまま預けてられてしまった。

この野郎と言わんばかりにヴァルが眼光を強めたけれど、レオンはにっこりと笑いながら「せっかくなら一緒に並ぼうよ」と話を進めた。………途端に、セフェクとケメトが「私と」「僕と」と叫んだけれど。


「ヴァルは私達と並ぶの!!レオンも近くは良いけど隣は絶対私達なんだから!!」

「僕もヴァルと隣が良いです!!僕背が低いからヴァルも前の方で良いですか?!」

だああああああああああああああああああああうるせぇ!!!!と、とうとうヴァルの声が荒げられる。

その瞬間、ステラから「こわいー!!」と苦情まで入ったけれど、なんとかジルベール宰相が宥めてくれた。ステラの悲鳴に余計ヴァルが悪人顔を余計に凶悪にしたけれど、それでも退場は諦めてくれた。舌打ちを二回繰り返しながらも、ドカッとその場に足を組んで座り直す。


もうこれ以上は動いてやらないぞと言わんばかりに膝に頰杖かつ苛々と貧乏揺すりをする彼は、なかなかの不機嫌だ。

取り敢えずこれ以上手間を掛けさせるのも悪いし、彼がカメラ内に収まるように私達が合わせて並ぶことにする。セフェクとケメトも定位置と言わんばかりにヴァルを挟んで座り込んだけれど、……このままちょうど良いしと彼を真ん中に並んだらそれはそれで怒るのだろうなぁと目に浮かぶ。

取り敢えず屋敷の主人であるバトラー一家を最前列かつ中央に……と思ったら、遠慮されてしまった。お腹が重いマリアも少し立つくらいは平気とのことで、ステラを抱っこするジルベール宰相と一緒に後列だ。

前列は王族の方々にと言われるともう何も言えない。お言葉に甘えて前列を貰うことにする。

八人は流石に横に広がり過ぎになるし、床に座っているヴァル達はそのまま最前列で良いとして、その背後に椅子を並べる形で王族五人が掛けることにする。その後列にバトラー一家と近衛騎士達が整列で、なかなかの大人数だ。


「い、良いのかしら……?これだと私が真ん中なんじゃ……」

「僕はプライドと隣ならそれで満足だから。それにこっちだとヴァル達とも一緒に入るしね」

「セドリック王弟、俺と替わらないか?ジルベールが背後にいると落ち着かない」

「‼︎是非とも‼︎‼︎」

真ん中位置に私。右隣にレオン、左隣にティアラ。そして左端にいたステイルが右端のセドリックと席を交代する。ジルベール宰相が、というよりも背後にアーサーとエフロンお兄様の近くの方が良かっただけかなと思う。身重のマリアをわざわざ移動させるのも悪いもの。

まさかの突然過ぎる席替えにティアラは「兄様っ⁈」と絶叫していたけれど。

振り返れば、左端にジルベール宰相とステラにマリア。その隣にカラム隊長、アラン隊長、エリック副隊長、アーサー、ハリソン副隊長の順で最後の右端にエフロンお兄様だ。

ステイルが席交代したところで、アーサーが「ステラと一緒なんだから良いじゃねぇか」と背中を手の甲で突いていた。

ヴァル達も真ん中より右側に少しずれた位置だし、うまく纏まったかなと思う。


「それでは、宜しいでしょうか……?皆様、こちらの丸い部分へ目を向けて下さい」

アグネスが全員にわかりやすいようにレンズを指で指し示す。とうとう撮影だ。


「れ、レオン王子!みんな笑顔でいいですか?!」

ティアラが一番緊張で強張らせた顔で声を確信してくれる。レオンも「もちろん」と今から楽しそうだ。

確かに証明写真みたいな澄まし顔よりはそっちの方が良い。背後からはカラム隊長がアラン隊長に自分の頭上で悪戯するなと注意するのが聞こえてくる。なんだかこういう写真の表情やポーズ合わせのかけ声とか懐かしい。

更にはアーサーがハリソン副隊長に、ケメトとセフェクがヴァルにちゃんとレンズに顔を向けるように言っていて、撮影直前まで賑やかさが続いた。

私の腕にぎゅっとしがみついてくれるティアラの手へ私も反対の手で添え返しながら、カメラに笑いかける。そして



パシャッ、パシャッ。



「終了致しました!皆様お疲れ様でした」

「????あ、あのレオン今大丈夫?二回撮ったけれど……」

シャッターの音が連続で二度鳴り響いた直後、写真を吐き出すカメラを両手にアグネスが張りのある声と共に頭を下げた。

それを聞きながら、私は大ごとにはならないように声を抑えつつレオンに急ぎ確認する。てっきり一回だけだと思ったのに、確実にあれは二回使っちゃっている。

前世みたいにデータを消してまた使えるような機能ならいいけれど、ネイトの発明は回数制限付きだ。しかも超高級品の残り二回の回数全部!

けれど見つめた先のレオンは「ああ、そうだね」と滑らかな笑みだけだった。全く動じる様子もなく、自分が二回押すようにと指示したと教えてくれる。まさかの今回で全部使いきりだ。

私が瞬きを繰り返す中、レオンはゆっくり立ち上がった。座り込んだまま舌打ちをまた打つヴァルの横を通り抜け、アグネスからカメラと一緒に写真二枚を順番に受け取った。

私もその後を追いかければ、ティアラとセドリックもやはり出来が気になるように集まった。


「できましたかっ?!」

「本当にこのような大人数の姿絵を一瞬で……?!」

そういえばティアラも写真を見るのは初めてだ。

ティアラの背中に続くように歩み寄ってくるセドリックも、瞳の焔がきらきらと火花のように輝いていた。写真二枚をレオンが全員に見えやすいように横に持って示してくれる。

ネイトの写真は相変わらずの完璧な精度で、二枚とも見事に全員の表情まで写されていた。


おおぉぉっ!!とセドリックの感嘆と、ティアラも「素敵ですっ!」が見事に声が重なった。

私も同意の感動を言葉にしながらレオンを見上げれば、彼も満足げだった。一度使用済みと言っていたし、前回も同じくらいの大人数で撮ったのかなとその反応で思う。


見やすいように置こうかと、レオンが使われていない空きテーブルの手前中央に写真を一枚置いた。「どうぞ、皆さんご覧ください」と声を掛ければ、写真撮影形態のまま待機していたステイル達全員も集まって来た。ヴァルもセフェクとケメトに引きずられるように歩かされている。

ジルベール宰相の腕から降りたステラも駆け込んできた。エフロンお兄様がステイルの背後にぴったり付いて続いているけど、眼差しはすっごく興味津々だ。たぶん素のお兄様だったらステラと同じくらいの全力疾走だったのかなと思う。

皆に見やすいように場所を移る前に、私はもう一度写真を確かめる。


見れば見るほどに良い写真だった。最前列のセフェクとケメトは満面の笑顔でヴァルにしがみついて可愛らしい。ヴァル本人も足を組んだ上に頬杖をついてこそいるけれど目はこっちに向いている。たぶん二人の訴えが効いたのだろう。

私とティアラが腕を組んで、レオンも凄く良い笑顔だった。ティアラの隣のセドリックもティアラの隣だったし緊張気味だったけれど、流石姿絵に慣れているだけあって写真にはきっちりいつもの男らしい笑みだ。

ステイルも意外にこっちの写真も楽しんでくれていたらしく、きちんと座ってではなく敢えてだろう姿勢を崩して椅子の背凭れに肘を置き、背後のアーサーを示すように笑っていた。

背後のアーサーもアーサーで、目の前のステイルのポーズが面白かったのか式典の時みたいな顔ではない、歯を見せた彼らしさの溢れる笑みだった。


更にアーサーの隣のハリソン副隊長も笑顔、……はないとはいえ目線はちゃんとこっちを向いている。長い黒髪に顔が隠されることもなく、ぱっつりきった前髪の下の顔というか眼光まで見えた。

ジルベール宰相もステラちゃんを腕にマリアと揃って凄く幸せそうな笑顔だ。ステラは小さくカメラに手を振っているポーズなのがまた可愛い。


マリアの隣に並ぶカラム隊長、アラン隊長、エリック副隊長もすごい楽しそうだった。

姿絵も慣れた方だろうきりっとした笑みのカラム隊長と、緊張気味にはにかむエリック副隊長の間でアラン隊長が二人の肩に両腕を回して笑っていた。少し騎士団らしい、というか私の近衛騎士達らしい写真になったと思う。

全員の表情までしっかり堪能したところで、ステラと入れ替わるように一歩引く。まだ写真を見ていない彼らに譲るべく数歩離れれば、レオンも同じように下がり並んでくれた。


「プライド。はい、これは君の分」

「えっ?………えっ!」

さらりと、当然のようにレオンの手から渡されたそれを受け取ってから数拍置いて思わず声が上がる。

レオンがくれたのは、さっきアグネスが撮ってくれた写真二枚のうちの一枚だ。

うっかり反射的に両手で受け取ってから遅れてびっくりした。風を切る勢いで振り返れば、レオンの笑みが悪戯成功とでも言わんばかりに緩んでいた。待って、まさか貴重な一枚私にくれる為に二回撮ったの?!

「プライドに持っていて欲しいんだ。できれば、毎日目の届く場所に飾ってくれると嬉しいな。僕もそうするから」

「えっ、あ、ああありがとう。けど良いの??こんな貴重なものっ………」




「そう。すっごく〝貴重〟で〝大事〟なものだよ?」




急激に、柔らかな口調のまま低められた声に肌が粟立った。

滑らかな笑みを浮かべ、私に鼻先がぶつかりそうなほど顔を近づけてくれるレオンは、瞬きもしないまま翡翠色の瞳に私を映した。

一瞬怒っているのかと思ってしまうほど真剣にも見える眼差しに肩が上がる。この上なく綺麗な中性的な顔が視界を埋め尽くす。

身を固くする私に、レオンの瞳が妖艶に光り出した。


「だから。ちゃんと部屋の、見える場所に飾って?君には忘れないで欲しいから。この写真に入る全員が君を愛し、守り、そして力になる存在なのだと。………そして君が、僕らを想い続けてくれることにも願いを込めて」

君に。と、まるで言い聞かせるようにゆっくりとした口調で言うレオンに、顔が熱くなるのに息が上手くできなくなる。

妖艶に笑む彼が、今は色気よりもずっと抗えない強い存在に見えて仕方がない。自分の鼓動の音が耳の手前まで轟いた。


彼の〝貴重〟と〝大事〟が写真自体のことを言っているのではないということを、はっきりと理解した。敢えてレオン自身も写っているこの写真を託してくれたのが、そのまま彼の想い全てだ。

皺がつかないように両手で持ちながら、このまま胸で抱き締めたい気持ちをぐっと抑える。それくらい、レオンが示してくれた全部が嬉しくて擽ったい。

わかったわ、ありがとう。そう言葉を続けながら、心からの笑みで感謝を伝えれば、レオンからも妖艶さが消えた。にこっと優しい笑みを浮かべて「良かった」と温かな声をくれる。


「ここひと月はアネモネに滞在が続いたし、今度また長期遠征も入りそうなんだ。けれど、プライドが求めてくれるならいつでも力になるから」

使者でもステイルにでも通して呼んでくれればと。すごく心強い言葉まで言ってくれる。

この前まで私のお願いで一か月近くネイトや学校見学の為にアネモネに滞在をしていたレオンは、これからまた外交や貿易で忙しくなる。それでも頼って欲しいと言ってくれる彼は、社交辞令ではなく本気なのだと今は知っている。……そして、本当に頼る日が私はきっと来る。

今回みたいに、頼れる盟友の力を求める時も。そして彼自身の力に私がなれる日もいつか、きっと。そう信じたい。


「レオンも、頼ってね。何かあったら私も……いいえ、私とフリージア王国もきっと貴方達アネモネの力になるわ」

「ありがとう。………君はもうなってくれたけどね」

フフッと可笑しそうに笑うレオンに、私も釣らせて小さく声を漏らす。本当にどこまでも優しい。

レオンとの会話に夢中になっている間に、写真を置いたテーブルにはぐるりと囲うように全員が集まっていた。皆口々に目を丸くして表情まで良く見えるとびっくりしている。

今は私達だけしか使っていないネイトの発明だけど、今後きっともっとこうやって写真を前にその瞬間に思いを馳せれる人は増えるのだろう。


─ いつか、きっとくる。


「とーさま!ステラもあれ欲しい!」

「そうだねいつか、ね。ステラのおねだりはまず姿絵でも大人しく待っていられるようになってからかな」

「……本当に、時間を切り取ったみたいに綺麗ね」

「ヴァル!!なんで姿絵でも睨んでるの!」

「ヴァル!僕もこれお金貯めたらいつか買えますか……?!」

「あー-?んなもんレオンに頼め。どうせ部屋行けば無料で見れんだろ」


─家族との時間も


「フィリップ。お前ももう少し前に出ろ。そこからじゃ見えないだろう」

「いえ王族騎士様を差し置いてはとてもとても。私は目が良いのでここからでも充分です殿下」

「っつーか、証明からみっと余計お前偉そうに写ってンぞ」

「見ろアラン。王族が映っている姿絵ではしゃいでるのはお前だけだ」

「楽しそうだろ?それにしてもすげーな。姿絵って俺初めて見た」

「自分もです。まさかこんな貴重な面々で残して頂けるとは思いませんでした……」

「………」


─友人や仲間と一緒に居られる時間も


「レオン王子殿下!こちらの姿絵なのですが、暫くお借りする機会などはありますでしょうか……?!是非絵師を雇い鮮明な模写を残し絵画にして残せればと……!!」

「お姉様っ!あの発明確かお姉様も同じのお持ちでしたよね……?!もし回数残っていれば是非今もう一度お姉様も一枚皆の姿絵を……!」

「ティアラ、実はレオンからね……」

「セドリック王弟も発明を手に入れるつもりだろう?ちゃんと誘うから」


─この一瞬を色鮮やかに振り返られる日が。


ティアラにレオンが写真をくれたことを伝える私と、セドリックに発明を買って自分でまた皆で撮りなさいと告げるレオンと並ぶ。

さっきまでギクシャクしていたのが嘘のように、カメラに夢中になるティアラとセドリックが可愛らしい。多分いまはお互い写真のことで頭がいっぱいなのだろう。

本当ですかっ!と金色の目をきらきらさせて私の持つ写真を覗き込むティアラと、この姿絵は唯一無二だとレオンに懇願するセドリック。

更にテーブルの向こうでは何度も写真眺めては目を見開く皆を眺めながら、私はレオンともう一度目を合わせ笑い合った。

この場にいる皆が、これからも一緒にいて力になってくれることが嬉しい。

これなら次のシリーズもきっとなんとかなると今から思える。




─ この一瞬を恋しく愛おしく、……救われる日も。そして縋りつきたくなるような日も。




たとえあの、作品でも。


本日二話更新分、次の更新は木曜日になります。よろしくお願いします。

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