押し付け王女も香り、
「あ……あの、ジルベール宰相……?これ、は……?」
十九の誕生日……を迎える三日前。
ジルベール宰相から贈られた品々に、私は絶句する。私だけではない、装飾された箱の中身にステイルもティアラも気持ちは同じようだ。
一緒に覗いてくれたアーサー、そして休息日中のカラム隊長の代わりに近衛任務に加わってくれているハリソン副隊長も言葉がない。ハリソン副隊長の場合は、ジルベール宰相からの贈り物を目にするのも初めてだからもあるだろう。
毎年この時期になるとジルベール宰相から贈られる品、その内容自体は変わらない。一年前に私がリクエストする人のイメージ香水だ。私にとって毎年の楽しみの一つでもある。
「お気に召しませんでしたか?」
「い、いいえ……その、今年もとても嬉しいのですけれど……」
装飾された豪奢な箱から小瓶を手に取る。気に入るも気に入らないも、まだ香りを確かめていないからわからない。だけどジルベール宰相からの香水であれば間違いなく気に入るに決まっている安心と信頼がある。
にこやかに笑むジルベール宰相も、敢えてわかっていて尋ねているのだろう。
テーブルに置かれた箱に、その時点で違和感はあった。そして今、箱を開けてみればそれも納得でしかない。毎年三人四人くらいでとどめていたリクエスト香水が、何故か今回は……!
「なっ……何故七本も……⁈あの、嬉しいのですけれど!何故七本も⁉︎私、今年確か三本と」
「ええ存じております勿論ですとも。こちらが左から三本は去年ご所望されましたセドリック第二王子、ランス国王、ヨアン国王、そして右端はご愛用頂いておりますプライド様を構想させて頂きました香水となります」
そう、そこまでは良いのだけれども?!!
あと一歩で思い切り突っ込んでしまった。口をむぎゅぎゅと閉じながら、ジルベール宰相と示してくれた香水の小瓶を交互に見比べる。
去年、十八歳の誕生日を迎える私が希望した香水はセドリックとランス国王、ヨアン国王だった。ちょうどハナズオ連合王国と関わった年で、防衛戦やその後の祝勝会でも親しくなれたと思えた彼らを構想した香水がどんな香りが是非欲しくなった。
この香水を試すのも今から試したいぐらいすごい楽しみだし嬉しいけれど、私が言いたいのはそこではない。ハナズオ王族の香水と私の香水の間に並んでいる三本の香水だ。
まさか去年の私の我が儘を鑑みてご本人達に配る用の香水かしらとも一瞬思ったけれど、それにしては小瓶の色もそれぞれ違う。箱の隅に置かれたカードを手に取れば、そこにはきちんといつものように左端順と色ごとの香水の構想相手も記載されていた。
香水の香りだけで誰の香水か当てるのも楽しめるように、敢えてラベルは別にしてくれているジルベール宰相だけど、今回はこの謎が不思議すぎて先にネタバレを見ることにする。
ティアラもステイルも気になるように私を挟むようにしてのぞき込む中そこに記載されていたのはセドリック、ランス国王、ヨアン国王、そして……
「は……ハリソン副隊長、騎士団長に副団長まで……⁈」
今年二歳も年を取った覚えはないのだけれど?!!!
まさかの二周分の本数を贈られて、まだ希望していないラインナップに思わず声がひっくり返った。
途端に、ジルベール宰相からフフッと笑い声が漏れた。見れば、完全にサプライズ成功の笑みを向けられている。アーサーが「ハリソンさんまでっすか?!」とこれには声を上げていた。
当然、私はこのご三人をリクエストした覚えはまだない。特にハリソン副隊長は防衛戦には活躍してくれたけれど、近衛騎士になってくれたのは今年だ。来年用に希望しようかなと思っていたくらいの人なのに、なんで先取られてしまっているのだろう。そして騎士団長と副団長!!
にこにこと笑うばかりで口を閉じているジルベール宰相に、ステイルが「さっさと説明しろ」と促す。
すると楽しそうな声を漏らしたジルベール宰相が「失礼しました」とやっと説明してくれるらしい口を開いてくれた。
「今年の誕生日は特別ですので。奪還戦を乗り越えた第一王女殿下への贈り物にと言えば、調香師も喜んで期待に応えてくれました。これでも本数は絞ったのですが」
つまり奪還戦を終えてから超特急で追加三本調香して頂いたと⁈
今まで一年掛けて開発してもらった品を、まさかのこんな短期間にと。顔が気付けば見事に引き攣ってしまう。調香師さん、今頃倒れていないだろうか。
つまり奪還戦の件も兼ねて、ジルベール宰相からもお祝いということだろうか。……そう思うとこれ以上驚くばかりもできない。ただのサプライズではなく、これはジルベール宰相の気持ちだ。
メモをティアラに渡し、改めて香水をそれぞれ眺める。手に取ることも恐れ多い並びに、一度伸ばした手をまた引っ込めてしまう。誕生日を迎える前になんとも凄まじい品を頂いてしまった。
「急ぎで作らせましたが、完成度だけは保証いたします。特に騎士団長と副団長はプライド様ならば間違いなくお二人を構想できるものかと。プライド様を守る新たな近衛騎士のみならず、やはり今回の奪還戦で活躍してくださりました騎士団長と副団長も外せない存在と思いまして」
話は通る、話は通る……と自分で自分に言い聞かす。
ここまで頑張って用意してくれたジルベール宰相に、文句なんて絶対ない。香水自体は増えたのも結果としてはすっごく嬉しいのだから!!ただ、ちょっと心の準備ができていなかったから感情が追いつかないだけで。
フーーッ……となるべく失礼にとられないように深呼吸を繰り返し、自分を落ち着けさせていれば視界が少し広くなった。
ジルベール宰相の言葉に深く頷いたハリソン副隊長に気付く。……その前にハリソン副隊長、いきなりご自分の香水をあまり接点のないジルベール宰相が私宛に作らせましたということ自体には疑問がないのかしら。
イメージ香水についてはジルベール宰相からこの箱を受け取った時点で簡単に説明はしたけれど、まさかご自身の香水なんて想像もしなかっただろう。
私達なんて初めてジルベール宰相から聞いた時私もステイルもティアラもアーサーもすっごくびっくりしたのに。騎士団長と副団長の功績をというところに頷くのはわかるけれど。
「残念ながら誕生日に間に合いましたのはこちらだけで。王配殿下とローザ女王陛下、そしてヴェスト摂政殿下の香水はもう半年ほど月日を頂くことになるそうです」
「?!いいえそれは……!!そのっ、来年に……???」
「いえいえご遠慮なさらず。プライド様には是非香水を嗜みながら〝御身の傍におられる方々の存在を〟感じて欲しいという、私めの〝自分本位な〟切たる願いでございます」
…………なんだろう。言葉の端々に丸い棘が刺さる。
まさかのこれで終わりではない上に父上に母上にヴェスト叔父様という恐ろしのオールスターというだけでも驚きなのに、それを一年待たずに半年頂けるということに思考が停止しそうになる。
にっこり笑顔のジルベール宰相なのに、ところどころ覇気のような怖い気配が感じられてもう今度はお気持ちとは別の理由で断れない。
ステイルとティアラまで揃って納得したように一音漏らして頷いた。アーサーも肩が片方上がったまま口を結んで顔が強ばっているし、ハリソン副隊長に至ってはもう香水の小瓶三本を凝視している。自分がどの香水かそんなに気になるのだろうか。
意外に香水のご興味あるのかしらとそっちが現実逃避のように気になってくる。
「もちろん例年通り、来年の香水のご希望もお伺いいたしますので。今は調香師も手一杯でしょうから、ご希望も半年後に窺うで充分です」
「に……人数は厳選するようにします……。……ジルベール宰相、ありがとうございます」
王族三人の香水を調香なんて半年で足りるのかしらと思いつつ、きちんと改めてお礼をする。途端に「いえこちらこそ」と恭しく返してくれた。顔を上げたジルベール宰相はさっきまでと違う、今度は柔和な優しい笑みだった。
手一杯の調香師も相応の報酬は支払っていると言ってくれるジルベール宰相の言葉に胸を撫で下ろしつつ、改めてそこで香水に向き直った。
私のは置いておくとして、合計驚異の六本。早速楽しむとして、どれからと悩む。いつもなら当てっこするけれど、今回はもう私は答えを見てしまった。ティアラとステイルもだし、順番を見てないのはロッテとマリーにジャックにあとは
「……。……は、ハリソン副隊長……?それにアーサー、良かったら当てて……みて、くれる……?」
近衛騎士。というよりも、さっきから小瓶に目が全く離れていらっしゃらないハリソン副隊長に、驚異の挑戦を尋ねてみる。
じーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、今もガン見と言っていいほどに凝視してるハリソン副隊長がせっかく興味を持ってくれたのだから。これも親交を深める良い機会かもしれない。ジルベール宰相も「興味深いですねぇ」と笑ってくれた。
「承知しました」と即答で快諾してくれるハリソン副団長に、アーサーもぎょっとしながらも肯定を返してくれた。お試し役よりも、ハリソン副隊長の快諾の方に驚いているかもしれない。
まぁ、ハリソン副隊長は騎士団長と副団長を慕っているくらいはアーサーもわかってるだろうしそこまで驚くことでもないだろうけれども。
ひとまずもうジルベール宰相が教えてくれたハナズオ連合王国の三人より先に、サプライズ三本のイメージ香水を試してみることにする。騎士団長と親子で副団長とも親しくハリソン副隊長と同じ八番隊のアーサーもいるし、ちょうど良いかもしれない。
プシュッ……と、今までのように空中へと吹き掛ける。霧状に広がった香りがすぐに鼻に届
「副団長でした」
「あっ。そう、っすね……」
……速い。
ちょっと、もうちょっと香りを堪能する時間くらいとこちらが思ってしまうくらいすぐだった。
今までの香水嗅ぎ分け大会最速だろうかハリソン副隊長。ハリソン副隊長に触発されるようにアーサーもすぐに答えてくれる。片眉が曲がっているからもしかしたらつられただけだろうか。
ふわりと広がった香りは、柑橘系……中でも檸檬やライムだろうか。
すっきりとした香りが最初に印象に残って、そこからみずみずしい葉のそよぐ香りが吹き抜ける。副団長の温和で爽やかなお人柄がにじみ出ている。檸檬の香りで騎士としての副団長の印象も合わさっているのが流石のジルベール宰相の演出だと思う。木々の間を流れるような香りやミントの香りがまた合っている。
お仕事中の副団長ってきちんと見たのは騎士団奇襲事件の時くらいだけれど、戦闘もきっとお強いのだろうしキリッとした香りも合ってると思う。……いや、普段私たちが視察でお邪魔する時も全部副団長として立派にお仕事中か。
ハリソン副隊長とアーサーほど速攻ではないけど、確かに香れば副団長の顔が浮かぶくらいにわかった。
「ちょっと意外かも。副団長だとふんわりした印象も……」
「ええ勿論。そういった華やかな香りも時間が経過すれば。プライド様にはそちらの方が親しみもあるでしょうから」
流石ジルベール宰相。檸檬もライムもミントと好きだけれども、なんだかんだ副団長は未だにお花屋さんのお兄さんのイメージがある。
時間が経過すれば、の言葉にハリソン副隊長が小さく首を傾げたから多分香水のシステムをご存知ないのだろう。
アーサーもそう判断したらしく、一生懸命説明してくれた。昔はアーサーも全く知らなかったのに今は教える立場なんて、なんだか感慨深い。……ただ、ちょっとそれでもハリソン副隊長は理解できなかったご様子だから、最終的にジルベール宰相がものすごくわかりやすく説明してくれた。
ハリソン副隊長からご納得頂けたところで、次の香水をまた吹き付ける。指が緊張してしまったのか、プシュッとさっきよりもがっつり強めに押してしまった。さっきとは印象は全く違う、……見事なまでのいぶし銀。
「ちっ……騎士団長、です」
「同意見です」
今度はさっきよりは秒数かけての解答だった。ハリソン副隊長が首が小さく傾いてるから、自分よりはという意味での消去法かもしれない。副団長の回答が早かったからこちらも即決だと思ったけど、少し意外だ。
大人の男性という印象が前に出ている香水は、最初の香りから深みがすごい。副団長とは打って変わった重厚感はハリソン副隊長の香水としても納得できそうだけど、私はすぐに騎士団長が浮かんだ。
ティアラも「すっごく騎士団長です!」と力一杯言っていて、ステイルも同意見のように頷いていた。
ライムの香りも第一印象から副団長と通じていて、騎士団長を担うお二人としてもぴったりだ。
「?どうかしたかアーサー」
ふとステイルの呼びかけで振り向けば、アーサーが何やら難しい顔で眉を寄せていた。解釈違い?という言葉が最初に浮かんだけれど、それにしてはハリソン副隊長より先に当ててる。腕を組んで首を捻ってる様子は不満というよりも何かを考えている顔に見える。
いや……と言葉を逃すアーサーは、首を横に一回振る。それでも全くすっきりしない表情のアーサーに、ステイルが眼鏡の黒縁を指で直しながら溜息を吐く。
「文句があるなら存分にジルベールへ言ってやれ」
「!ばっ!文句とかじゃ‼︎ただっ……その、この香り、覚えがあるっつーか……。…………まんま、騎士団長の使ってる香水な気がするンすけど……」
え!!!!!!
思わず大きな一音が上がってしまった。
尋ねるように言いながら向けるアーサーの視線の先を追えば、ジルベール宰相がにこやかな笑みを返していた。ぱちぱちと小さく拍手までしてみせる余裕っぶりは、どう考えても偶然ではないご様子だ。
「流石はアーサー殿。やはり御身内の香水はわかりますか」
「いやわかるっつーか自分も、……いえ。まぁ、……取り敢えず覚えあり過ぎる香りだったんで」
「あ、あのジルベール宰相……取り敢えずどういう……?」
いろいろ聞きたいことはあるけれど、とにかく一から百までご説明頂きたい。
口の端がピクピクと不出来な笑顔を作ってしまう。よくよく考えれば、贈り物をくれた後に最後までこうしてジルベール宰相が付き添いつつ解説してくれるのも珍しい。ここ近年は、手渡しこそ変わらないけれどカードを見てお好きなタイミングでどうぞの方が多かったのに。
てっきり香水の本数が変わったからだと思ったけれど、どうやらそれだけではないらしい。
「先ほども申しました通り、こちらの三本は構想から煮詰める時間も短かったもので。ですが、騎士団長と副団長ならばプライド様は式典でのお付き合いも長いですから」
ちょうど良いかと。そう仰るジルベール宰相の言葉の意味を正しく理解する。もうこれは確信犯だ。
式典。つまりは騎士団長と副団長が身嗜みに特に気を遣う場面。当然香水も紳士な男性のお二人は欠かさない。特に騎士団長は我が国の式典ではほぼ必ず招かれている。そして王族にご挨拶も欠かさない。
身内のアーサーはもちろん、私やティアラとステイルがこの香水で騎士団長を彷彿とするのは当然だ。式典や公の場でお会いする度に、無意識にも香っているのだから!!
確かに騎士団長、そして副団長が今まで愛用されている香水であれば、私達にもきちんとお二人のイメージになる。
「もちろん既存の香水をそのままなど手抜きは致しません。最初の香りこそ特に同じですが、時間経過後には今までの香水同様私なりの脚色と調整も加えております。半年後の香水も同じ方式により短期間を実現致しました」
「その前に何故お前が騎士団長と副団長の香水まで把握しているんだ」
「私もそれなりにお二人とご挨拶させて頂いておりますから。回数が多ければ、なんてことない雑談も」
嗅覚だけで見事再現したのか、それとも雑談の中で上手く情報収集したのか。ジルベール宰相ならどちらもあり得そうだと思ってしまう。式典の度に来賓の特徴も変化もしっかり把握しているジルベール宰相だもの。
コンコン、とそこでノックが鳴った。
近衛兵のジャックからの報告に一言返せば扉が開かれる。交代に訪れたエリック副隊長が訪れてくれた。ハリソン副隊長と簡単な引き継ぎを済ます彼も、二種類の香水が充満する部屋と小瓶の存在にはすぐ気がついた。まさかの本数には私達と同じくびっくりしていた。
「騎士団長と副団長、ハリソン副隊長の香水まで……ですか」
「ええ、ハリソン副隊長の香水もこれから試すところなの」
「それでは失礼致します」
まだメイン終わってないのに⁈
エリック副隊長との会話にさらっと断りをいれるハリソン副隊長にびっくりする。
香水少し香るくらい時間もかからないのだし、アーサーが「良いンすか⁈」と引き留めてくれたけれど「興味ない」の一言で両断された。
ご自分の香水が意外にも気恥ずかしくなったのか、……それとも本当にただただ興味がないのか。香水に興味を持ってくれてたと思ったけれど、単純に慕う騎士団長と副団長の品だけが気になったとかだろうか。いやそれにしてもここまでの流れで自分のだけ無碍にするのも逆にすごい。
ここでアーサーの香水を引き合いに出したら止まってくれるだろうかと一瞬悪戯心が過ぎった。
引き継ぎも終えた今本当に用がないと言わんばかりに、私達に礼だけしたハリソン副隊長はそのまま速やかに退室してしまった。
「……まぁ、ハリソン副隊長の香水も一応後日届く予定ですので、他の近衛騎士同様に必要とあらば」
どこからどこまでもご配慮ありがとうジルベール宰相。
せっかくのハリソン副隊長に感想が聞けないのは少し残念なのか肩をすくめたジルベール宰相だけど、しっかりまた香水は確保してくれたらしい。……はっきりご興味ない断言のハリソン副隊長が買い取ってくれるかわからないけれど。断られたら私が責任持って買い取ろう。
それからエリック副隊長も合流した後で、残りの香水もじっくりと楽しんだ。
何回か換気をしつつ、どれも見事な完成度だったジルベール宰相に私は改めてお礼をした。
……
「そういえばお姉様っ。どうして今まで騎士団長と副団長の香水はご依頼されなかったのですか?」
ギクッッ‼︎とティアラの言葉に真正直に肩が上下する。
全ての香水を堪能し、ジルベール宰相が退室した後のことだった。部屋の窓全てを全開にして侍女達が換気に努めてくれる中、ティアラとステイルと一緒に私も窓際に移動した。流石に種類が多過ぎてこのままだと気分が悪くなってしまう。
そんな時に思いついたようなティアラの疑問だった。ステイル達も気になるように私に視線をくれる中、うっかり更に後退って窓につんのめった。
目を泳がせ、窓の外へと最終的に逃がしながら頬に汗が伝うのを感じ取る。
「ええと……機会がなかったというか……たまたま?」
「たまたま、ですか⁇」
きょとんと聞き返すティアラになんだか悪い気がして、ちらっと目を向ける。丸い目で見つめ返してくれる彼女の横で、ステイルがちらりと目配せするのが見えた。方向的にもアーサーだろうか。
すぐにまた庭に視線を戻すけど、直後にはステイルが「確かに」と息を吐くのが聞こえた。
「プライドは騎士団長と副団長とはジルベールよりも前から親しいですし、機会は毎年あった気がしますが……」
一度に二人増やすと言わずとも、毎年一人ずつと分ければ可能だった年もあると。きっちり今までの香水割り当てラインナップまで把握しているステイルにぎりぎりと逃げ道を塞がれる。本当に仰る通りだ。ただでさえ今年分のリクエストは異国の王子と国王お二人。異国の国王を希望する前にそこは常日頃お世話になっている騎士団長と副団長でしょうと思う!もし香水を欲しいと希望する気があるならば‼︎
─ 言えない‼︎気になるけど普段使いできる自信がありませんでしたなんて‼︎
正確には騎士団長お一人が。
副団長だけでも香水を作ってみて欲しいと思ったことは何度もあるし、実際使うことも問題なくできると思う。ただ、騎士団長を差し置いて副団長だけお願いするのもなんだか違和感あるし申し訳ないし!だからといって騎士団長の香水は私には敷居が高過ぎる!!
こうして頂いたからにはありがたくきちんと使わせてもらうつもりだけれど、……もうなんだか今から心臓に悪かった。
「その……緊張しそうで。特に、騎士団長にはお叱りを受けてばかりだから」
だから正直騎士団長だけでなくヴェスト叔父様も母上も父上の香水も貰うのが今から緊張するわ、と。心から正直な感想を吐露すれはそこで私も素直に苦い顔のまま皆に顔を向けられた。
私が騎士団長から怒られた前科持ちであることを知っている皆も、流石にこの言い分には納得してくれたらしくアーサーなんて無言のまま大きく頷いていた。
納得してもらえたのは良かったけれど、代わりになんだか気恥ずかしくなって、自分の顔が熱くなる。なんというか、お目付役が香るってそれだけでその人の気配を感じてしまう。もう十九歳になった私だけれど、やっぱり騎士団長達は遙か上にいらっしゃる〝大人〟だ。……いっそ幼い頃だったら、甘える相手として父上とお揃いの香水なんてすごく欲しがったのだろうなという自覚はある。
「でも、ちゃんと使うわ。どれもすごく良い香りだし、大事な人達だもの」
それも、変わらない。
どれだけ緊張する人達であろうとも、やはりきちんと他のイメージ香水と同じ頻度で一日の楽しみにしようと私は改めて心に決めた。
Ⅰ600
また香水も予約受付中です。https://myfav-cosme.jp/products/list?category_id=128
受付は今月の18日まで。予約終了間近ですのでご注意ください。
騎士団長ロデリック、副団長クラークの香水もございます。