<< 前へ次へ >>  更新
156/1022

131.暴虐王女は戸惑う。


「プライド第一王女殿下、宜しければ少し僕と夜風に当たりませんか?」


妖艶にも写る滑らかな笑みでそう促され、私は情報処理が追いつかないまま彼の言葉に同意した。

…まさか、第一王女ともあろうものが十六歳に決められる婚約者の存在を忘れていただなんて。

正直、彼と共に外に出ながら私は頭を抱えたい気持ちを必死に抑えた。ステイルやティアラ、アーサーが微妙な顔をするのも当然だ。完全に婚約者のことをすっぽ抜けて仕事仕事と騒いでいたら、そりゃあこの王女平気かなと不安にもなるし、間違いを指摘するみたいで言いにくいまま言葉を濁したり言い淀んで複雑な表情にもなる。本来なら十六歳を迎える私が一番に気にするべきことだったのに‼︎普通、こういう時一般の女性なら「私の婚約者の方はどんな方かしら…?」と夢現つ気分に浸るというのに、私としたらずっと学校制度のことばかりが頭に浮かんで…


「プライド様…?」


ふと、レオン王子の声で意識がもどる。返事とともに顔を上げるとレオン王子が滑らかな笑みで「やはりまだ気分が優れないようですね」と言ってくれる。私が体調が悪いと思ってわざわざ穏便に来賓から引き離してくれたのだろう。…体調悪い原因は貴方です、とは口が裂けても言えない。


「いえ。…お気遣い、ありがとうございます。」

彼の優しさ自体には感謝しつつ、なんとか私も笑みで返した。

「挨拶が遅くなり、申し訳ありませんでした。僕の名はレオン・アドニス・コロナリア。貴方の国、フリージア王国とは以前から同盟を結ばせて頂いております、アネモネ王国の第一王子です。」

お会いするのは初めてですねと綺麗な顔で笑まれ、なんだか心臓に悪い。


流石、キミヒカシリーズ第一作目のお色気担当。


もう一人の攻略対象者もゲーム中のそういうイベント数や糖度はかなり多いし高かったけれど、お色気単品勝負ならこのシリーズで彼は最強だった。全年齢対象ゲームなのに、彼とティアラとの恋愛シーンは凄くドキドキする場面が多い。後半戦からはかなり濃密な恋愛シーンだ。なんせ、ゲームの攻略の流れがアレだし…。

「レオン王子殿下、ご丁寧にありがとうございます。第一王女、プライド・ロイヤル・アイビーです。お目にかかれて光栄ですわ。」

私からの挨拶に滑らかに笑み、手を差し伸べてくれる。握手かと思い、その手を伸ばした途端に逆に手を取られ、そのまま手の甲に口付けをされた。敬愛の挨拶だ。ほぼ初対面から早速受けるとは思わず、不意打ちで顔がボンっと熱くなる。

「プライド様。貴方のようなお美しい方に初めてお会い致しました。どうぞこれからも末永く宜しくお願い致します。」

待って待って待って待ってまだ母上から発表もされてないのに‼︎

そのまま月明かりに照らされたレオン王子から色気が溢れる。更にそのまま柔らかに笑んで下さり、完全に固まる。どうしよう、あまりにゲームスタート時とはキャラが違い過ぎて心の準備が


「…そろそろ戻りましょうか。何か始まるようですよ。」


会場の騒めきに気が付き、レオン王子がワイングラスを軽々と傾け、笑みを浮かべて室内まで私の手を取りエスコートしてくれる。…何か、って。いや、完全にわかってるわよね?


……


「この度、我が国の第一王女プライド・ロイヤル・アイビーの婚約者を御紹介致します。」


母上の合図で玉座の前に立ち、なんとか笑みを作って来賓に答える。正直、ここから逃げ出したい気持ちいっぱいで。


「アヌモネ王国、レオン・アドニス・コロナリア第一王子。彼と我が愛しい娘プライドとの婚約で、更に同盟関係は強固なものとなるでしょう。」


盛大な拍手と声援、祝福の言葉とともにレオン王子が再び私の前に現れる。一応知らなかったことになってるので、ぎごちなく驚いた振りはしたけれど上手くできたか自信が無い。レオン王子は堂々と私の前に歩み寄り、「光栄です」と私の手の甲に再び口付けをしてくれた。二回目だからさっきよりは冷静でいられたけど、やっぱり恥ずかしい。


「我が愛しきプライド第一王女。貴方を心から愛します。」


そうして皆に祝福されながら、私の誕生祭は無事に幕を閉じた。


彼は今日から我が国の規律に則り三日間、客人として我が城に泊まり、帰国して更にその一週間後には婚約者として我が城に完全に住む事となる。


今日からの十日間はとても重要だ。

彼にとっても、…私にとっても。






とても。


<< 前へ次へ >>目次  更新