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そして受ける。


「…で?その突飛な王女サマの考えの為に俺やケメトとセフェクにも手伝って欲しいってことか?」


私の説明を全て聞き終わったヴァルが私を睨む。若干呆れも混ざってる気がする。ステイルは私の言葉を一つ一つ落ち度がないか吟味してくれているようで口元に手を置いて考える仕草をし、アーサーは驚きで口を開いたまま塞がらず、ティアラは目をきらきらさせていた。

「ええ、そうです。まだ現段階では私の思い付きですし、これからジルベール宰相や母上へ相談してからの話ですが。」

私が頷くと、ヴァルは何やら考えているようだった。両腕を組み、眉間に皺を寄せ、最後にセフェクとケメトを見た。

「私は良いわよ?国からの仕事ってことはお金を沢山稼げるし、将来のケメトの為にもなるもの。」

「僕も良いです。ヴァルとセフェクと一緒だったら何処にでも行きます。僕もプライド様の考えたことがすごく良いと思うから。」

二人からの同意を聞くと、ヴァルが溜息を吐いた。そのまま項垂れるように頭を後ろに傾け、額に手を当てた。

「だからって選りに選って俺みてぇな前科者使う王女サマがいるかよ…。…おい、良いのか、王子サマはそれで。」

ヴァルに声を掛けられたステイルが「選りに選って前科者を、という部分は同意するが」と呟き、そのままヴァルではなく私に答える。

「母上からの許可が通るかは未だわかりませんが、まぁある意味ヴァルは一番都合の良い人間とも言えるでしょう。姉君が命じれば背くことはまずありませんし。」

ステイルが肯定にもとれる言葉を返してくれる。反対意見を求めていたのか、ヴァルは余計にぐったりと項垂れた。

「別にこれは命令ではありません。貴方が拒むのならばこの話は無かったことに」


「やってやる。」


え?と思うほど、私の言葉を遮りヴァルが応じた。その割には未だ項垂れた様子ではあるが。

「…やりゃァ良いんだろ、その仕事を。…瓦礫拾いよりは金になる。」

額に当てた手を降ろし、ゆっくりと私を見据えた。ティアラが嬉しそうに「良かったですね、お姉様っ!」と声を上げた。アーサーが小さな声で「マジか…」と呟く。

「良いの…?」

思わず、今度は私が聞き返してしまう。正直今さっき思い付いたことだし、断られても仕方がないと思っていた。良くても数日考える時間を求められるかと。

「アァ?おいおいテメェからの提案だろうが。…ハッ、今更怖気づいたか?王女サマ。」

私の驚く反応が愉快だったらしく、ニヤニヤと笑いながらヴァルが近づいてくる。もう大分この圧の掛け方にも慣れて、私はそのまま背の高いヴァルを見上げる形で向かい受ける。アーサーとステイルも武器は構えるけど、最初の頃よりは威嚇もしていないようだった。


「アンタは好きに命令すりゃァ良い。」


一緒にヴァルに並ぼうとするケメトとセフェクを手をバッと振って留め、私の前でヴァルは突然跪いた。…あれ?これって…。

何やらすごい既視感がして、ぽかんとしているとヴァルが私の足を掬い上げ靴を雑に脱がした。…え⁈ちょっ…。


「何せ俺はアンタの奴隷だからな。」


次の瞬間、ヴァルが私の足の甲に口付けをしてきた。

〝隷属〟の誓い。


「全てはプライド第一王女の〝欲〟のままに。」


そう言って口元を釣り上げるヴァルからは若干の色気のようなものが感じられていた。二年前、ジルベール宰相からも受けた誓いだ。でもまさかヴァルにまでっ…‼︎大体彼とは隷属の契約をしているし誓いなんて必要ないのに‼︎

思わず目を反らせないまま唇を引き絞って固まる私に、ヴァルは再び唇を付けたまま上目で私を覗き込んできた。そして、何やら私の方を見てニヤリと笑ったような表情を浮かべた途端


レロッ…。


「!〜〜〜〜〜っっ‼︎‼︎ひゃ…ああああああああああああ‼︎」

とうとう悲鳴が上がってしまった。ヴァルが!私の!足を!足を舐めっ…‼︎

生暖かい、ねっとりとした何とも言えない感触に口を抑えることもできず、身体中が震え上がる。身体が自由を聞かず後ろに下がろうとして逆に尻餅をついてその場にドサッと勢いよく座り込んでしまった。

「ヒャッハッハッハッハッ‼︎」

ヴァルが私から口も手も離し、情け無く尻餅をついた私を見て大爆笑する。ヴァルの背後でセフェクとケメトはあまりわかっていないらしく首を捻っていた。ティアラは両手で口元を覆って顔が真っ赤だ。ステイルが大丈夫ですかと私の手を取ってくれながら、顔が少し赤い。そのままギロリとヴァルを睨みつけていた。

「おおっと?怒るなよ、王子サマ。〝そういう〟つもりや危害を加える真似は契約で俺にはできねぇ筈だぜ?」

怒ったステイルを心から楽しそうにヴァルが笑う。私はステイルになんとか���たせて貰い、靴を履かせてもらいながらも未だあまりのことに心臓がバクバクいって言葉が出ない状態だった。未だにあの舌の感触が足に残ってうずいてる。顔が熱くて火が出そうだ。

隷属の契約でヴァルは私でなくとも他者に乱暴や無理矢理な行為をすることはできない。色事や己の色欲によっての行為は合意の上でのみだ。…いや、私より軽く七つは上であろうヴァルが子ども相手にそんな気を起こすとは全く思っていないけれど。

「ま、ちょっとした挨拶ってとこだ。」

「どこの国にそんな淫らな挨拶がある⁈」

ヴァルの発言にステイルが食ってかかる。でもヴァルは全く気にしない様子で「何ならアンタと妹にもしてやろうか?王子サマ」と言う始末だ。速攻でステイルに「したら殺す」と凄い剣幕で怒られていたけれど。


「…あー?それよか、そこの騎士のガキは放っといて良いのかよ?」

ヴァルがせせら嗤いながら、ふと目で指した。その視線通りに振り向くとアーサーが何やら顔を真っ赤にして壁に手をついたままフラついていた。朝から体調が悪そうだったし、熱だろうか。「アーサー!」とステイルが声を上げ、私とティアラも駆け寄る。

「すんませ…大丈…です…。」といいながら、次の瞬間崩れるように気を失ってしまった。額を触ったらすごく熱い。

「あれ⁈アーサーって風邪とか引かないんじゃっ…」

病を癒す特殊能力者のアーサーが熱だなんて一体どんな病だろう。凄く心配になってステイルに聞いて見ると「いえ、これは単に許容量を超えただけかと。」と言って軽くアーサーの頭をはたいた。つまり知恵熱ということだろうか。

「恐らく寝不足と言っていましたし、過労でしょう。アーサーですし、少し寝かせれば大丈夫です。」

ステイルの言葉にほっとする。ティアラが手持ちのハンカチでアーサーの額をパタパタと仰いでくれた。

「ヒャハハッ!ガキにゃァ刺激が強すぎたか?」

「ッああもう‼︎ヴァル!貴方は黙ってなさい‼︎」

倒れているアーサーを笑うヴァルに若干ステイルまでキレそうなのに!さっきのベロリと相まって怒りのあまりヴァルに怒鳴ってしまう。

「…!…‼︎」

何やら背後から物を叩く音や「ヴァルなにしてるの?」「どうかしたんですか?」というセフェクとケメトの声がするけど、それどころじゃない。

そのままアーサーは大丈夫か、どこに寝かすかとティアラやステイルと相談して、私達はステイルの能力でアーサーをソファーに寝かせた。


…うっかり私の命令で何も話せなくなったヴァルに睨まれているのに気がつくのは命令してから二十分後のことだった。


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