112.罪人は教えた。
ケメトとセフェクに会ってから、気がつけば一年以上が経った。
まだ、ガキ共は俺の傍を離れない。
「…そういやぁ、テメェらはなんで稼がねぇ。」
いつも俺が食ってる横で漁った塵を食うケメトとセフェクに尋ねる。怒鳴ろうが罵倒しようが無視しようが変わらず一方的にひたすら話し掛けてくるガキ共に、諦めて何度か言葉を交わすようになっていた。
「稼ぐ⁇」
セフェクが首を捻る。ケメトが「それってヴァルが毎日やっていることですか?」と俺に質問を返した。
「テメェら揃って庶民の住処や市場で物乞いすりゃあ、それなりに施しも受けられんだろ。」
今まで気にもしていなかったが、女のセフェクやまだ四つのケメトなら器を抱えて物乞いでもすればそれなりに情も買える筈だ。なのに俺は今まで一度もコイツらが金を稼ごうとするのも、盗もうとするのも見たことがなかった。物乞いや盗みを躊躇うようなプライドの高い奴らにも見えねぇが。
セフェクから返ってきた答えは「どうやれば良いかわからない」だった。
話した手前、仕方なくどういうものか教えてやる。すると俺が瓦礫拾いをしていた間には、器一杯分の量を稼いできた。思ったよりも多く稼いだもんだと思えば、ガキ共は二人して「これしか貰えなかった」と言ってきやがった。何が不満なのか聞けばケメトが「これは食べられません」と肩を落とした。
コイツらが金というものを知らなかったことをこの時初めて知った。俺が貰っちまっても良かったが、隷属の契約でそれもできなかった。
だから、俺は仕方なく。
「…欲しいものを選べ。手のひら程度の果物ならその器の金で一つは買える。」
なんで俺がここまでしてやらなきゃならねぇんだとも思ったが、俺も今晩の飯を買いに行く手前、結果的に三人で買い物をすることになっちまった。
金を騙されねぇように俺が背後で睨む中、セフェクとケメトはリンゴを一つ取った。器の金を商人に丸ごと渡そうとしやがるから、結局俺がそれも教えてやることになる。気の良い商人が何故か生暖かく俺達を見守る中、金の数え方や価値を教えている間もむず痒さから何度もこの場で全員殺してやりたくなった。
最後に器半分以上を使ってリンゴを買ったセフェクとケメトは「貰えた!」「すごい‼︎」とぎゃあぎゃあ騒ぎながら買い物を終えた俺の後を付いてきた。うざってぇ。こんなに五月蝿くなるなら教えなけりゃ良かったとも思ったが…何故か悪くない気分にもなった。
それからセフェクとケメトは、俺が瓦礫拾いで稼ぐ間は物乞いをしてその日の飯代を稼ぐようになった。