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103.騎士は剣を取り、


プライド様といた檻に駆けつけてくれたのはアラン隊長率いる一番隊だった。


「ッアーサー!お前何をやってんだ⁈」

「確かお前、近衛でプライド様と宰相の屋敷に居るんじゃ…」

アラン隊長、そして同じく一番隊のエリックさんがすぐに俺に気付き声を上げる。色々説明をしたいが今はそれどころじゃない。悪いと思いながらも急いで開きっぱの扉からプライド様を抱えて一気に飛び出す。


「ここの人達の救助頼みますっ‼︎あとあっちに…」

そう叫んで説明しながらも、まずプライド様を皆から遠ざけようと一番隊の人達とアラン隊長、エリックさんを通り過ぎるべく無理やり押し通る。が、

「待てアーサー!ちゃんとアラン隊長に説明しろ!それにその子はっ…」

途端にエリックさんに肩を掴まれる。後ろ向きにつんのめり、顔が見えないように抱えていたプライド様を押さえる手がうっかり緩んだ。「いやこれは」と俺がエリックさん達に上手く説明しようと考えた途端、プライド様が勢いよく顔を上げた。まずい。


「この先に多くの裏稼業の人間がいます‼︎私の大事な人達もそこにいますから助けて下さいっ‼︎」


まずいまずいまずいまずい‼︎プライド様、ンな顔出したらっ…

「プラ…」

間近でプライド様の顔を見たエリックさんが目を丸くして小さく言葉を漏らす寸前に俺がその口を片手で塞ぐ。もがもがと何かを言いながら、俺が手を出したことよりも目の前のプライド様への驚きが大きいらしい。エリックさんの後ろからこっちを見てたアラン隊長を恐る恐る覗き込めば同じように丸くした目をキラキラさせてこっちを見ていた。

まずい‼︎

「と!とにかく‼︎俺が先導するんで応援お願いします!多分標的すげぇいるんで‼︎」

茫然としているエリックさんとアラン隊長を振り切り、プライド様を再び顔が見えないように抱えながら他の騎士達に何度も謝りその中を通り抜ける。背中から「エリック!ここは任せた‼︎」というアラン隊長の叫び声とエリックさんの返事、そして続いて「救助人員以外は俺に続け‼︎お前らはエリックと共に彼らを保護して外の三番隊と合流しろ‼︎」と声が響いた。ッやっぱりあの人も付いてくる気だ‼︎

「え!え⁇アーサー、何故彼らはあんなに驚いて…」

ジルベール宰相のパーティーでお会いしたことはあるけれど…と呟くプライド様を抱えながら俺が全速力で走る。


「ッいや気づくにきまってますって‼︎だって今の貴方の姿は四年前からそのままあの人らの目に焼き付いてるんすから‼︎」


プライド様が一拍置いて「あ」と声を漏らすのが聞こえた。やっぱり気づいてなかったのかこの人‼︎今のジルベール宰相に年齢操作された姿がそのまま崖崩落の時と同じ年齢姿だってことに‼︎絶対、絶対少なくともさっき正面からこのプライド様の顔を見たエリックさんとアラン隊長は気づいた‼︎あの二人も例に漏れず四年前にプライド様の勇姿をその目にして慕っていた人達だ‼︎見た目が年齢がおかしいとか全部ひっくるめて同一人物って気づく‼︎アラン隊長なんて今絶対プライド様を追ってきてる‼︎


「貴方はもう少し騎士達からの目を自覚して下さいっ‼︎」


背後にじわじわと近づくアラン隊長の気配を背中に感じて思わずプライド様へ叫んでしまう。鎧や剣を携えて走るアラン隊長とプライド様を抱える俺とは良い勝負だ。先導するにしてもアラン隊長や騎士達にこれ以上距離を詰められないように全力で走る。

路を駆け抜け、さっき特殊能力の有無を尋ねられた所まで辿り着く。向こうの部屋からか土煙がここまで広がっていた。煙たくて土埃に思わず口を抑える。あと少しっ…


「なぁアーサー。その抱えてる子って…」

「いいいいいいいいぃ⁈」


気がつけばすぐ俺のすぐ真後ろまで迫っていたアラン隊長に思わず変な声が出る。反射的にプライド様の頭を庇うようにして俺に顔を押し当て隠す。俺よかマジで速ぇこの人‼︎

「どう見てもすっげープラ…」

「ッジャンヌです!ジャンヌ‼︎俺の知り合いの子で‼︎」

「ンな話聞いたことねぇぞ。それに」

「とにかく‼︎この人のことはジャンヌって呼んでください!頼みますから‼︎」

俺が必死に声を荒げると、最後アラン隊長の目がプライド様に向かってキラキラと光った。

「へぇ〜?〝この人〟か。」

駄目だ、絶対バレた。

そのまま俺と並走しながら「なぁ、俺にもジャンヌちゃん抱えさせてくれよ」と言われ思いっきり「絶対嫌です」と断った。こんな時だってっのにすげぇ楽しそうだこの人。

近づくにつれて、今度はパンパンっと銃声が何度も鳴り響く。どうやら銃撃戦も行われているらしい。プライド様をどこかに避難させるか悩んだが、俺の耳元で小さく「急いで」と囁かれ、更に足へと力を込��る。

駆け上がり、粉塵の中を突っ切る。急激に奥から殺気を感じ、俺もアラン隊長も、後続する騎士達も一気に気が引き締まった。プライド様も緊張するように俺の背中に回す手を少し強めた。暫く音のする方へと走るとパンッと乾いた音がまた響いた。アラン隊長の合図で足音を気取られないように潜め、ゆっくりと広間の入り口へと足を進める。入り口間際にアラン隊長と一緒に顔を覗かせるとまだ中には大勢の連中がいた。そして鎖の大男と、その足元にはヴァルだ。「結構数が多いな」とアラン隊長がその周りの連中を確認して小さく呟く。そのまま手で後続の騎士達にサインと指示を送った。鎖の大男と、そして銃を突きつけられているのは…

「ジッ…‼︎」

ジルベール宰相、と言おうとしたのだろう。プライド様が俺の身体から小さく顔を覗かせ、口を覆った。十三歳の姿のジルベール宰相が何かを庇うように鎖の男の前に立ち塞がり、その肩には血が滲んでいた。何を庇っているのか、目を凝らす前に予想はついた。何か問答をジルベール宰相と鎖の男が繰り返す中、ジルベール宰相の背後でステイルが力無く横たわっていた。

「アラン隊長…ちょっと剣借ります。」

アラン隊長が銃を抜こうと手を動かすと同時に、腰に一度仕舞おうとした剣を鞘に納める前に掴み、半ば強引に引ったくる。「お…おい!」と小さく驚くアラン隊長に、無言でプライド様を預けると急に押し黙った。そのままプライド様が俺の意思を察したのか、「アーサー」とはっきりとした口調で俺に呼び掛ける。はい、と返事し数メートル離れた敵をこの目に捉え、剣を握り締めた。


「行きなさい。」


凛とした、その言葉を皮切りに俺は駆け出す。十分な助走をつけ、銃をジルベール宰相へと向けた鎖の大男へ向かい地面を蹴り上げた。タンッ、と軽い音が残り身体が宙に浮かぶ。剣を振り上げ、ジルベール宰相とステイルへ銃を向けるその薄汚ぇ腕を


「そいつらに手ぇ出すな。」


ぶった斬る。


剣を振り下ろし、肩ごと男の腕を切り落とす。血飛沫が上がり、俺の身体を汚した。周囲にいた連中が声を上げ、なんだこのガキはと叫び、俺に銃を向ける。腕が無くなった肩を反対の手で抑え、呻く鎖の男が激痛に耐えながら周りの男達に「殺せ」と叫んだ。だが、同時にアラン隊長の「かかれッ‼︎」という号令も響いた。驚き、振り向いた男達の先から大勢の騎士達が突入してくる。

その、大勢の騎士へ注意が集中した瞬間。俺は剣を両手に握り、向かってくる男達の懐へとそのまま駆け出した。思い切り地面に向かって素足で踏み込めば、次の瞬間には数メートル先にいた男達の懐だ。俺が急接近したことに驚いた男達が目を剥いたのも束の間に、剣を横一閃に振るう。銃の引き金を引くより速く俺がこの剣を振れば良い。目の前の三、四人を纏めて斬り伏せそのまま足を止めずに目の前の男達へ飛び込む。今度はすれ違いざまに身体を捻らせて周囲の男達を纏めて八人切り裂く。対銃の接近戦は騎士団で何度も演習したが簡単だった。相手が俺に照準を合わせる前に俺が相手の懐に入るか、先に腕を切り落としちまえば良い。銃なんか瞬間移動を使ったステイルよりずっと遅ぇ。俺が一歩進むごとに三人斬る。身体を捻らせて周囲に斬撃を放つごとに五人以上をぶった斬る。気がつけば俺が真っ直ぐ駆けたところだけ骸の道が築かれていた。ナイフを片手に五人が纏めて接近戦に持ち込んでくる。いったん軽く振り上げて牽制したところでそのまま剣を一度宙に放り投げる。相手が驚いて剣を見上げた瞬間にそれぞれの急所に肘と足を打ち、怯んだ隙に腕を掴んで身体ごと放り投げる。どいつもこいつもジルベール宰相よりずっと弱い。周囲の風通しが良くなったところで落ちてきた剣を再び受け止め、一気に更に数メートル突っ込む。二、三十人斬ったところで覚えのある殺気に振り返れば、さっきの大男が無くなった腕を押さえながら俺を睨みつけていた。

まだ動けるのか、ジルベール宰相達に背中を向け、ヴァルを踏み付ける足の向きを反転させ、残った反対の手の銃を俺へと向けながら鎖の大男が睨みつけてくる。それで良い、ステイル達から標的が変わればこっちのもんだ。俺からも相手になってやるという意志表示に、踵を返して踏み込み、再び鎖の大男の前に飛び込む。

「アーサー殿!フィリップは無事です、ケメトとセフェクも‼︎」と声を上げるジルベール宰相にわかりました、とだけ返事をする。目の前の鎖の大男からは目を離さず、視界の隅でプライド様がアラン隊長の手を離れ、ステイルとジルベール宰相のところに駆け寄るのが見えた。そのままアラン隊長も三人を守るように周囲の連中相手に応戦し、剣無しで圧倒していく。

パンッパンパンッ!

銃が火を放ち、それを俺は跳ねて避ける。これもステイルの剣撃と比べたら遅いぐらいだ。引き金を引く瞬間を見て動けば良い。銃撃を避けながら駆け、鎖の男の懐に飛び込む。寸前に俺の額に銃を構えたが、引き金を引かれる前に剣を捻り、今度は銃を男の手首ごと切り落とす。

ぐわあああああっ!と叫び、両手を使えなくなった男がとうとうその場から後退り、ヴァルの上から蹌踉めき下がる。そのまま返す刃で最後に男を一閃に斬り伏せる。とどめと、そして両手を使えなくなったところで無力化したと思い、一気に息を吐き出


「ッいけませんアーサー殿‼︎足元を‼︎」


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