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84.惨酷王女は呼ぶ。


「…成る程。事情は把握致しました。」


ジルベール宰相は、私の代わりに説明をしてくれたステイルの話を最後まで聞き終えた後、深く頷いた。

ステイルにジルベール宰相を呼ぶ許可を求められた私はすぐにお願いした。するとステイルは瞬間移動して一分もしない内にジルベール宰相を自宅からここまで連れて来てくれた。一瞬、有無も言わさずに連れて来たのではと思ったけれど、ステイル曰く「姉君が助力を望んでいると告げたら即決でした」らしいし、ジルベール宰相も現れた途端に「お待たせ致しました」と笑顔で挨拶してくれたからその心配も無さそうだった。

「鎖を自在に扱う特殊能力者…私も以前から噂だけは何度か。人身売買の世界では定期的に多くの〝商品〟を売りに出している常連でした。」

「二年前に人事売買の輩はお前が根絶したのではなかったのか、ジルベール。」

「ええ、私の知る限りの組織は全て。ですが、害虫というのは何度駆除しても沸いてくるものなのですよ。」

ステイルの手厳しい言葉に笑顔でジルベール宰相が返す。その笑顔に、ステイルは眉間に皺を寄せながら「役立たずめ」と言い返した。

ジルベール宰相は宰相としての役職上、犯罪や罪人関連に精通しているだけでなく、二年前まではかなりの裏稼業や人身売買系統に個人的な繋がりも持っていた。正直、表も裏も合わせたら国一番犯罪関連に精通している人かもしれない。

「当時の人身売買の市場は全て壊滅しましたが、ごく僅かに手慣れた大物は暫く行方を眩ましてしました。その男もその一人ですね。あれから二年も経ちましたし、次の市場に向けて下準備をしているのかもしれません。」

「その、今の市場とかその男達の居場所とかの検討はつかないかしら?」

「残念ながら、そこまでは。知っていれば既に私が根絶やししていますから。」

苦笑するようにして笑うジルベール宰相。何かさらりと恐ろしいことを言っている気がする。

でも、やはりジルベール宰相にも難しいか…。鎖の特殊能力者はゲームでも敵キャラでいた気はするけど、ヴァル以上に全く印象に残っていない。これでまた打つ手がなくなった、そう思った時だった。

「ただし。」

ジルベール宰相が言葉を切る。思わず、はっと顔を上げた私にジルベール宰相はにっこり満面の笑みを向けてくれる。


「知っている可能性のある業者に一人だけ、心当たりがあります。」


そのままジルベール宰相はステイルに「お手数ですが、二年前の例の裏通りへ瞬間移動をして頂けますか?」と依頼する。ステイルは少し訝しんだけれど、最終的には了承してくれた。私も一緒に行く、と言ったけれど二人やアーサー、ティアラにまで止められてしまった。第一王女がそのようなところには、との総意だった。…二年前に私も行ったんだけど。と反論したかったけれど、結局はそのままステイルはジルベール宰相と一緒に二人だけで瞬間移動して消えてしまった。

二年前の裏通り…ジルベール宰相が裏稼業の人間と取引をしようとした場所だ。でも、完全に足を洗った筈のジルベール宰相が泳がしている業者とは何者なのだろう。

また無理をしなければ良いけれど。そう少し心配になりながらも、きっとステイルが一緒だし大丈夫だろうと一先ずは待つことにする。

ティアラが私の横に駆け寄り、アーサーが私と背後に座るヴァルの間に入るようにして佇んでくれた。アーサーの肩越しにヴァルを見やると口を開くも言葉が出てこない様子でぽかんとした状態のままステイルとジルベール宰相が消えた場所と私を見比べていた。そういえば、ステイルの特殊能力を見たのも今回が初めてか。ヴァルに一言、今日知り得た情報は全て秘匿するようにと命じる。そのまま、私は改めて私とヴァルの間に入ってくれているアーサーの方を見た。

「ごめんなさい、アーサー。本当は貴方が一番…」

ヴァルを許せない筈なのに。そう言おうとした途端にアーサーから「良いんです」と言葉が返って来た。

「プライド様が決めた処罰なら異論はありません。例え相手が誰であろうと貴方の心が今、一番大切だと思うことを信じ、守ります。」

そう言って真っ直ぐ私の目を見て頷いてくれた。その言葉がすごく嬉しい。私なんかの我儘を許して、その上信じてくれるなんて。

二つ年上のアーサーがまるで兄のように感じられてしまい、ティアラがよく私の服の袖に掴まってきてくれた気持ちが今なら凄くわかる。思わず俯いてそのままアーサーの真っ白な団服の袖を端だけ掴み、「ありがとう」と返した。同時に隣に来てくれたティアラの手を握ると花のような優しい笑顔を私に向けてくれた。ティアラに私も笑みで答えた後、ふとアーサーを見上げると何故か唇をわなわなと震わしながら頬を赤く染めていた。まぁ、間近にティアラのこの笑顔を直撃したらそうなるわよね。

それから暫く私達はひたすら二人を待ち続けた。


事態を好転してくれる、何かきっかけを持ってきて���れることを願って。


本日21時に次話更新致します。

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