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15 くだされた判決

 宰相ルドガスの醜聞とでも言うべき悪行の数々。

 国庫横領罪に始まり余罪も含めるとかなりの重罪になることは確実。まず死罪は免れないだろう。

 集めた証拠は昨日の段階で司法庁にも提出してあり、今頃は極秘で追跡調査が行なわれている筈だ。


 私が自ら行動を起こさなくても、(ルドガス)がいずれ然るべき裁きを受けるのは時間の問題だった。彼はそれだけの罪を犯している。

 しかしそれを差し引いてでも、今この場でルドガスを断罪する必要があった。


 公衆の面前で断罪の場を与えることで、ティナダリヤ王家の権威と妖精の存在を()()()再確認させること。それこそが重要だった。

 今この場にいるのはティナダリヤの貴族――支配階級にいる者達だ。


 ルドガスがここまで増長したのは、ひとえに彼の私欲だけの問題ではない。裏取引に加担したもの、昇進時に渡された賄賂を受け取ったもの、例を挙げればキリがない協力者がこの中にもいる。それはつまり、今の王家の存在が軽んじられている証拠でもある。


 ――だからこそ、この場で宰相を裁くことで、今一度ティナダリヤ王家の力を示す必要があるのよ。


 私は眼前に立つ王妃殿下と妖精王オベロンを見据える。


「なるほど。その者の裁定を我が末裔は望むか」


 妖精王オベロンは実に(くつろ)いだ様子で玉座に深く腰掛けると、隣に視線を向けた。

 そこに立つのは、未だ黙ったままの王妃殿下。


「だが、ニンゲンのことはニンゲンの王が決めるべきだ。私は()()殿()()()()()()判断を支持することにしよう」


 金の瞳を細めて告げた妖精王オベロンの言葉に、王妃殿下がピクリと反応した。険しくなった目元の皺から察するに、王妃殿下は彼の意図を察している。


 それはつまり、妖精王オベロンも私の目的を()った上で力を貸してくれているということだ。

 こちらに向かって小さくウィンクする妖精王オベロンに、私は僅かに頭を伏せた。感謝しなければ。


 大広間にいる誰もが王妃殿下に注目し、固唾を呑んでその判決を待っている。王妃殿下はしばらく沈黙を貫いていたが、やがて鋭い眼光で地に伏したままのルドガスを見下ろすと、静かに口を開いた。


「――宰相ルドガス。お前が陛下に見出された恩を忘れ、私欲に走ったことを誠に残念に思う。生前、陛下はよくお前のことを一番信頼している臣下だと仰っていた。その陛下を裏切り、国を欺いたお前を生かしておく訳にはいかない。今この場でお前には斬首刑を言い渡す」


 その言葉にルドガスは目を見開き、絶叫した。


「あ……ああああああああぁぁぁ!!」


 絶叫は大広間中に反響し、耳障りな音となる。

 もはやまともな言葉すら発せなくなったルドガスを、王妃殿下は不機嫌に見下ろし、そばにいた近衛に「罪人を連れて行け」と命じた。


 すぐ様ルドガスに手枷が嵌められ、猿轡(さるぐつわ)を噛ませられる。

 声を封じられ、泣き叫ぶこともできなくなったルドガスは代わりとばかりに肥太った身体で暴れる。しかし鍛えられた騎士の前には力で適わず、地面に叩きつけられて四肢を完全に拘束された。


「大人しくしろ! ()()ルドガス」

「地下牢へ連行しろ。そのまま拘束しておけ」


 近衛騎士に雁字搦(がんじがら)めにされて連行される彼を、大広間にいる観客が見守る。

 私はその様子を見て、その中で明らかに何人かが動揺しているのを確認してから目を伏せた。


 これで彼らも自覚したことだろう。自分がどれだけ愚かなことをしていたのかを。そしてこれから自分達に訪れることになる未来を。


 ティナダリヤの妖精たちは悪意を見透かす。王家を脅かさんとする悪意の全てをあまねく伝え、これを許さない。そしてティナダリヤ王家と民は常に彼らと共にあり、生命を生み出す永久(とこしえ)の春を守る。妖精と人間が共存するために築かれた関係。これこそ、妖精王と妖精女王が交わした盟約である。



 不遜(ふそん)にも王家を乗っ取ろうと画策し、傲慢に私欲に走り続けた、一人の哀れな男の末路の姿。

 それは王家に叛意を抱けばどうなるかを、皮肉にも身を挺して証明した、愚かな道化の終焉(おわり)を意味していた。




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