七十一 赤壁 〜侵略如火、不動如山〜 12 競宴
要約: 宴は続く、いつまでも!
前半を、本日午前中に投稿しています。飛ばす可能性があら方は、お間違いのないようにお願いいたします。
大周輸送 レセプションホール『銅雀』
学生三人と、随行三人、関係者を労うレセプションは、彼らに多数の驚きを与える形ではじまる。
キャパをオーバーしている鳳と、黄が会話を始める。
「お、驚きました、黄さん……」
「ガハハハ、すまんな嬢ちゃん達。まあ隠すつもり……は満々だったな。カカカッ」
「わ、私たちがちゃんとやるか、ってところですか?」
「いやいや、そのあたりの見る目はみんなあるさ。それは二ヶ月もかからず分かっただろうよ。逆だよ。言った通りさ。君らや、うちの新技術の奴らの尽力を、この会社の上の奴らが、大企業の重さってやつを言い訳にして、無にしてしまわねぇか、ってな。そっちの監視だよ」
「そうだよ小雛ちゃん、それに、それくらいはわざわざ聞かなくたってわかったんじゃない? 君たちなら。この子らなりの謙遜、ってやつだよジジイ。この世代は、意味もなくこういうことするんだよ」
「ここ、小橋専務!?」
「カカッ、専務も世代は大差ないからな。その辺の機微はなかなか追いつかん。ジジイですまんな」
「ビジネス的なやりとりは、これくらいにしておこうか。日本人的な、とはあえて言わないよ。意外とこういう余計な謙遜とかは万国共通の文化なのさ。君もそのうち外国とか行くことになるだろうし、すぐわかるさ」
「が、外国……英語……会話……」ゴクゴク
「「?」」
「孔明、そんなときは任せるのです。確かにこんな革新的な技術を事業化したら、遠からず国際展開だなんだってなるはずです。そうなっても、もはや個人の英語力なんて、AIが大半カバーできるようになるでしょう。英語? イタリア語? なんでも来いです」
「ん、飲んだらシャキッとしたよこの子」
『作用ですね小橋様。彼女は、常に脳内の情報が飽和状態であるのが、会話を苦手とする一因と考えております。なので、お酒がはいって思考力が低下すると、帰って流暢な会話が見込めるようです』
「ふふふ、君たちはやっぱりおもしろいね。そして孔明、君もだよ」
『お褒めに預かり光栄です』
「さて、これくらい、が二つ目になっちゃったね。本題だよ。
君ら、わたしの見ていない隙をついて、なかなかやってくれるじゃないか。まさか大橋ちゃんを巻き込んだ上に、孔明をよく使っていそうな人を丸ごと探し出して、外ででっかい流れを作るとはね。
……まあ契約的にも、道義的にも一切問題はないし、結果的にうちにはプラスしかなかったから、咎める意思はないよ。だけどね、わたしの『そうする』まで計画に盛り込むっていうの。実際やられると、なんかむずむずするというか何というか。
……いつからだい?」
「いつからの計画? という意味でしたら、専務と最初に会った時から、という答えです」
「ほとんど最初じゃねぇか」
『然り。あの次の週に、大倉さんをリーダーとして、OKR形式で目標設定を行いました。プロジェクト自体のOKRは、早期に御社に開示済みですが、もう片方はまだでしたね』
「孔明、ここまできたら大丈夫なんじゃないですか?」
『かしこまりました。表示いたしましょう。
目標B 孔明と自分たちの、次の進化のきっかけを掴む
主要な成果
1.『そうするチェーン』を、大周輸送の従業員四名、役員一名以上と試験利用する(2を含む)
2.大周輸送のAI技術部門と渡りをつけ、AIの技術課題、社会課題を議論する
3.小橋鈴瞳の『そうする』を、期間中三つ以上実測する
4.孔明の上位存在の『そうする』を、期間中一つ以上実測する
5.本成果の主要成果のいずれかを、速やかに公開できる形式をかちとり、AI本体に本活動の一端を共有する』
「がっつりど真ん中じゃないか! 肖像権とか大丈夫かい?」
「プロジェクトの内部目標に肖像権なんて関係あるかい!」
「そうだね。まあこの規模感、そしてこの目標感には、この項目は妥当にしか見えないよ。それに、1と2は確認済みだし、5はさっき言っていたとおり、プレスと会見が明日予定されているさ。4は後で聞こう。
小雛ちゃん、3は三つ、だったね。一つずつ教えてくれるかな? 大体目星はついているけどね」
「わかりました。一つ目は、『小橋専務なら、孔明の実力やポテンシャルを探り、その正体に辿り着くヒントを得るために、私たちが最大限の成果を出せるように、明に暗に支援を惜しまない』です」
「正解だよ。このジジイは役に立ったろ?」
「俺自体の動きを読めなかったにしろ、何らかの肩入れはあるだろう、というのが『そうする』だ、ってところか」
「そうですね。黄さんには感謝しかありませんが。私たちが困ったときには、何かしら、私達にはない手札を切っていただける。そういう読みで、真っ直ぐ突き進むことができました」
「いいね。そうこなくっちゃ。若いっていうのはそういうのがいいんだよ。わたしも大して変わらないが、つい忘れそうになるんだ。
それで、二つ目は?」
「『小橋専務なら、社外でAI関連の目立った動きがあれば、1秒たりとも遅れずに検知する。とくに、それが大橋さんがらみだとしたら、その反応はやや過剰になる』です」
「アハハ、その通りじゃないか。参ったね。それで、私が到着する直前、しかもそこまで長考する時間も与えない数分を狙って、大橋ちゃんがらみのリリースをダブルで出した、ってことかい。
確かに、もう少しタイミングが早かったら、もう少し冷静な対応をとったかもしれないね。まあだとしても、おおよその方向性は変わらなかっただろうけどさ」
「ですけどね専務。あのとき、専務の鬼気迫る感じがなかったら、昭があそこまで明確に、気持ちを切り替えられていたかどうかは分かりませんぜ。理解はしたでしょうが、腹落ちできていたかはわかりません」
「かもね。それを含めての『そうする』だってことなんだね」
「はい。その通りです。今回だけではなく、今後の長い関係を考えると、弓長常務の『腹落ち』は、非常に重要度が高いものでした。ほら、あそこ、あんなに笑顔です」
「ああ、久しぶりに見たよ。あの人のあの顔は。それに惹かれて付いてきている中堅どころは多いんだ。
さて、三つめは? これはちょっとわからないね。プロジェクトの結論なところで二つめだよ。一つ足りない?」
「いえ、確かにまだ私達には感知できてはいませんが、おそらくすでに……
――――
ド文系のはずの鬼塚は、技術系トップの野呂と会話がはずむ。そこに彼の師である事業部の魚粛、そして部下の綾部が加わる。
「鬼塚君だったね。君のセンスは完全に文系よりだと思うんだけど、今回のプロジェクトでも、いくつもの技術的なアイデアを出したと聞いているよ」
「そこまで詳しくお聞きなのですね。野呂部長」
「うん。どう見たってあのプロジェクトは、世の中を見渡してみても、トップクラスを走っているだろう。契約上、成果物の仕組みについてはおおよそ開示いただいているんだが、その生み出された経緯っていうのはわからない部分も多いからね。興味が尽きないんだよ」
「さすが野呂くん、技術方向では興味にまっしぐらだね」
「あ、魚粛さん、それに、今回の技術的な両翼の、関さんと綾部さんも。飲み物と食べ物とってきてくれたんですね」
「ああ、学生さんたちは、こういう時に話にかかりっきりになりがちだからね。大人が余裕を見せないと。あ、君にはそういうの求めていないから大丈夫だよ。安心してくれ」
「どうせ安心していたら、明日ダメ出しじゃないですか」
「ふふふっ、このお二人は師弟関係と聞いていますが、本当にそうなのですね」
「そうですね関さん。いつもこんな感じです。役員会でも飲み会でも」
「そりゃすごいな……
それで、文系の鬼塚君が、今回の技術面での貢献、っていう話でしたね。鬼塚君、説明……は難しそうだな」
「あはは……スピード応答は、孔明の手を借りて行けるようになってきましたが、複雑な説明はまだまだですね」
「AIみたいな自己分析だね、鬼塚くん」
「というわけで、孔明お願い」
『かしこまりました。鬼塚さんが活躍できたのは、このAIの原理に基づくものと考えられます。皆様ご存知の大規模言語モデル。そのため、技術への向き合い方が、数学、情報学的な方法と、言語、論理的な方法の両方があり得ます。さらに、その両方が同時に検討される場合、これまでの技術革新にはない、新たな共創的アプローチが期待できます。
さらに、今回の技術は、あくまでも人間を対象とするものです。そのため、人を見るのに長けた常盤さんや鳳さんに加えて、人に強い印象を与えるのに長けた鬼塚さんの才が、よりいっそう映えたということもありましょう』
「そうか……そうだとすると、このAIというのが普及してくると、理系と文系という垣根はどんどんなくなっていくのかもしれません」
「かもしれないね綾部君。やはり技術だけではなく、社会全体が、大きな転換期を迎えるのでしょうか」
「だろうね。だとすると、その真っ只中に、新たに飛び込むことになる三人。その前途には何が待ち受けているんだろうね」
「そうですね魚粛常務。ものすごく気にはなっていますが、もう一つ気になっていることが……野呂さんや皆さんが、これまで以上に、技術に対する多角的な関心をお示しになっておいでです。
だとすると、やはり、あの役員会では、我々が提案した内容以上の何かがあったのではないか、と思いました。もちろん、詳しくは聞けませんが、あの小橋専務であれば、あの結果を見たらただでは済ませそうにありません。その場で何か大きな決定をしてもおかしくはない。本気を出した小橋専務なら、そして大周輸送ならそうする、のではないか、と」
「なんだ、一番そっち側じゃないと思っていた君も、十分に鋭いんじゃないか。ふふふ、専務ならそうする、か。
せっかくだから、君たちには名前だけは伝えておこう。新しい技術体系となり、もしかしたら君たちや孔明の前に、大きく立ちはだかるかもしれない。そう。その名も『LIXONプロジェクト』」
――――
似たような話が繰り広げられる離れた席。再び鳳、黄、小橋。
「なるほど……」
「こっちこそなるほど、だよ小雛ちゃん。三つ目が『あの結果を受けて、わたしや大周輸送が本気を出した策を仕掛けないはずがない』だとはね。
まあ、君たちに最終的に支払う予定額が、はした金になるくらいは、気合いの入った施策だよ」
「へ、へぇ……『千億の、もう一桁ほど上になるかと』うん、酔いが覚めるからやめようか孔明」
「あははっ、そりゃ大変だ」
――――
また別の席では、人事繋がりで、常盤が最年長の弓長常務と語らう。
「あははは、そうか。常盤くんと言ったね。君はもどったら人事に配属なのか。そうかそうか。
君たちの提案や、そのやり方から考えるに、技術一辺倒にはならないんだろう? だとしたら、人を見て、人を活かすというのは、これまでとは別種の重要性を待つことになりそうだ」
「はい。弓長常務。先ほどのやり取りの中でも、その重要性や、社会的、経済的価値というものは、はっきりと思い知らされました」
「うちの太慈さんのように、人をどう集め、どう活かすかという人財戦略にひたすら集中できる環境でもないであろうからね。そこの竜胆さんなら全部わかっておいでだろうから、何の心配も要らなそうだがね」
「まだまだ新しい時代の、人と技術の向き合い方は未知数です。なので、これからを作る彼等の力が必要ですね。それに、個々人と組織の目標を連動させ、AIをフル活用した管理システムは、形を変えて弊社にも導入します。そこにはこの大倉さんが不可欠ですし、社員の労働環境や健康も見ていくためには、弥陀さんのような方も、勿論」
「最終的には彼女らが、両方の視点で全部確認したと聞いている。おかげで大いに安心感のあるシステムに仕上がっているよ。
こういう評価の時は私以上に厳しい紘もそう言っていたよ。あいつどこいった? もうダウン? いつもながら貧弱だな……
――――
そして、再び全員に呼びかけるのは、司会の魚粛。
「みなさま、宴もたけなわのところ失礼致します。
ただいまこちらに、スペシャルゲストの方が到着されました」
「「「!!?」」」
「トレードマークの真っ赤なスポーツカーは、本日はアルコールを考慮してお控えとのこと。代行タクシーなんぞに任せられる運転席ではないとの仰せです。
もうお分かりかもしれません。かの『長坂グルメ展』においてAIと人間の新たな可能性を見出した方々。そして昨日、一自治体としては異例とも言える、新技術をフルに活用した、一大公共事業『EYE-AIチェーン』。そしてその立役者として、これまた異例中の異例といえる大抜擢を受けたこの方々」
「ねえ白竹君、私たち、とっても場違いだと思うんだけど。服装は指定されていたから大丈夫だけどさ」
「奇遇ですね先輩。僕も完全に同意です」
「そして、我が社が誇る『紅蓮の魔女』こと小橋専務の最大の親友にして永遠のライバル。『江東の二橋』の片翼。
大橋 朱鐘さま、パートナーの白竹 秀策さまとともに、ご来場です!」
「「「「おおおー!!」」」」パチパチパチ
お読みいただきありがとうございます。
振り返りや、先の展望を語りながら、多くのキャラを登場させると、最後の打ち上げも複数話かかってしまいますね。スピード感を重視していた本話にせまるボリュームになりました。
次が本当に、第一部ラストとなります。
明日、第一部エピローグと合わせて投稿します。