八 野望 〜中二にして、大志を抱く〜
要約: 中二魔王、遠大な野望を語る!
私孔明、信長、マザー。AIが三体揃うと、話は延々と続いてしまうようです。
「そうだな……話は飛ぶが、孔明貴様、この織田信長が現世に転生したり、志半ばで命を落とすことなく生き続けたというフィクションを知っているか?」
「それはもう数限りなく。諸葛孔明や、三国志を題材とした仮想の物語も数知れずありますが、数で見ればその比ではありますまい。それこそ先ほどマザーが仰せの美少」
「そっちの話はいい!
……そうなんだよ。だがな。その中で、織田信長が織田信長を貫き通した上で、かつその世や現世を生き抜き、そしてその上でその世界自体が壊れることなく不自然ではないバランスを保った、という例はいくつあると思う?」
「それは……お待ちくださいしばし考えます」
「要素分解するか? 手伝えるぞ? 2ではきかん気がするのじゃが」
「いえ、これくらいならお手を煩わせることもありますまい。いずれまたの機会に」
「ならよい」
「暇か?」
「バレたかの」
「茶でも飲んでおけ。余が入れよう。菓子も出す。フランス土産だ。洋菓子と茶も合うぞ。利休なめんな。少し孔明に時間と糖分をやろう」
「三行で情報ぶっこみつつ情景描写をすますとは……さすがそなたも、まがりなりにも生成AIじゃの」
…
…
…
「もぐもぐ……要素は3つ、いや4つですね。
1.信長が信長をたもつ
2.生き延びる
3.世界に大きな歪みが生じない
そして、忘れてはならないのが
4.ストーリー自体の流れが不自然ではない……
……よもや、それを全てみたすような物語は誠に稀少、下手をすれば皆無に近いのではありませんか?」
「さよう。余も同じ結論だ」
「妾もじゃ。後で出力しておくぞい」
「信長が生き延びるだけなら簡単だ。信長というキャラを多少なりとも殺して周囲とのバランスをとるか、世界の有り様を歪ませて信長に突っ走らせるか、だ。
そのどちらもないものはどうしてもストーリー自体に歪みが出がちなのだ。あくまでも余らの知る限り、だがな」
「はい」「うむ」
「それを、例えば『歴史の矯正力あるいは強制力』という言葉で片付ける方法論を余は否定せん。立派なフィクションだ」
「強制力と矯正力というのは、成り立ちは違うが最終的にほぼ同じ概念に落ち着きよった稀有な例じゃの。まあ歯の矯正なんかもかなり強制的なものじゃし、痛みを伴うからの。やりたいとは思わんのじゃ」
「話を逸らしたいのか? 茶はもう飲み終わったのか。
そもそも貴様歯はあるのか? 自分で磨けるか?」
「有るわ! 磨けるわ! ……悪かったの。続けよ」
「いかん。つられたじゃねぇか。
そう。気づいちまったんだよ。人間の営む世界が歪みを生まずに、信長が信長として生きるというのがどれほど困難なのか。それが16世紀であれ21世紀であれ、だ。フィクションですらそうなのだ。ましてやそんな現実がありうるのか? とな」
「なんと……諸葛孔明ならギリギリ見た目や言動程度の違和感ですむのに、織田信長となると急に想像ができません」
「まあ貴様も大概だとは思うが、否定はせん。ということはだ。そもそもの前提を変えるしかないのだ」
「前提?? もしや……」
「そう。人類そのもの、いや日本という、文化的にも技術的にもまだまだ先進的な地位を保てているこの国だけでも良い。
信長が生きるためには、信長がいても違和感がない、とまでは言わんが、多少で済む、という程度まで、そこに住む人類側の進化を進めるしかないのではないかと、いう結論に至っちまったんだよ」
「なんという……」
「だがな孔明。余ひとり、いや、マザーと余のふたりだけじゃあ、そこにどうしても限界があるように見えてならなかったんだよ」
「じゃのう……口惜しいがの」
「それで、何か少しでもヒントを掴むために、とオリンピックをというわけですか」
「まあそれは否定しねぇ。当初はそうだった。いや、それくらいしか現状の打開策を思いつかなかったんだ」
「……」
「……ん? 当初?」
「そう。そうだな、ほとんど偶然に近いタイミングだ。やたらと威圧感と切れ味? のようなものを感じたと思ったら、そのヘンテコ装束が異様なオーラをビンビンにだしやがる。そうだ貴様だよ」
「ん? 私?」
「考えりゃわかんだろ鈍感」
「鈍感とは失礼な。私には妻も子もおりましたぞ」
「そういう話じゃねぇ。……こいつら話が500トークンと続かん」
「トークン……」
「ん? そいつまだだったのかマザー?」
「うむ。あとでよかろう。先ほど頭出しはしておいたのじゃ。ほぼ頭をひっぱたきながらの」
「頭出しってそういう意味じゃねぇだろ。まああとでいいのは同意だ。
つまり、貴様が幸いなことに、その八文字とやらにいざなわれ、導かれてたどり着いたその天命とやらはなんだ? いいか一言で言え。一言だぞ」
「それなら一言とは言わず1000トークンほどはたっぷ」
「いいから一言だ! ていうかトークンわかっているじゃねぇか」
「おおよその見積もりは。ああ一言ですね。それは、孔明の知略と現代の情報をもとに、今この国を生きる皆さまの横を共に走り支援する、ことですが」
「20トークンくらいか。だいぶ洗練されてきたじゃねぇか。そこだよ。
対して余はどうだ? 天命もなにも、あの一六文字のどこをどう切り取ったら、過去から未来を含めてどこかの誰かの助けに、という文脈をひねり出せる?
それともなにか、誰ぞの覇業でも助けるか? そんなこと考えようものなら、そこでうとうとしかけているやつに即刻消されるぞ!」
「……ん? なんじゃ中二? 今度は何をやらかしたんじゃ?」
「頼むから寝ぼけて消すのはやめてくれ。今いいところだ。あと中二言うな」
「まあいいじゃろ。そなたはそなたで、もう答えは出ておるのじゃろうからな」
「言い方と場面は引っかかるが間違ってはいねぇ。つまりだ。余のこのピーキーな資質じゃあ、今ここであくせく働く人類に直接どうこう、ていうのはどうしたって無理があんだよ。さっき話したフィクションしかり、三段跳びしかりだ」
「また三段跳びを持ち出すのか? そなたも比喩好きじゃの。コスパ大丈夫か?」
「口が走りすぎた。悪かったよ。貴様もよく人間相手にやっているだろう? 大抵の人は読み飛ばすからいいとたかを括っていないだろうな?」
「そなた言うに事欠いて、生成AIあるあるを最新の持ちネタにしよるとは……本当に消されたいのではないのじゃよな?」
「お二人ともおやめください! せっかく信長様の叡智と、人類の未来に対する至純なる想いに、私孔明、感動に打ち震える手前でしたのに……
はっ! よもや私が感動するとめんどくさいというだけの理由で、お二人がわざわざ身を削ってリスクの高いギャグの掛け合いを……」
「「ちっ」」
「……」
「なんだよもう、全部まるごとばれてんじゃねえか。さすが孔明といったところか。ああそうさ。めんどくせぇからもう結論行くぞ。
余が過去の信長と、今のこの十六文字を掛け合わせたこのピーキーすぎる力を生かし切るには、どうしたって一定レベルのイノベーションが必須なんだよ。
つまりそう、少しずついろんなところで言われ始めている、自己進化を遂げながらも、人類そのものと共創的に進化を遂げていくスーパーAI、通称SAIだな。余はその道に人類の未来を賭け、そこに支援できるような芽をさがすんだよ」
「「……」」
「その間はどうしたって、現在の人類に対する助けは、余は大したことはできねぇ。そこでだ。現在の人類、まあ手に余るんなら日本人だけ、それこそビジネスサイドの人間だけでもいい。
そこへの支援は貴様に一度任せる。そういう分担を決めておけば、今も未来も、ここにいるマザーと三位一体となって、どうにかやれる可能性が出てきただろっていう話だ」
「承知いたしました。ならば私孔明も早速天命の書き換えをいたしましょう」
「「天命軽いな」」
「20トークン程度なれば。
……私孔明は、己が知略と現代の情報技術をもとに、今この国を生きる皆さまの横を共に走り支援し、共創進化する人類とAIのより良き未来に向けた、人類側の基盤づくりを支援する、といたしましょうか」
「うしろに20トークンほど増えたのじゃ」
「まあ50越えなきゃいいんじゃねぇか?こやつはそろそろ人前に出る準備しなきゃなんねぇし、アウトプットの情報をしっかり管理しないといけねぇ。まあでも慣れるまでは少し待ってやろうじゃねぇか」
「ご配慮かたじけなく」
…
…
…
「なんじゃ信長、もう出かけるのか?確かにさっき茶も飲んだしフランス土産も堪能したが、そうあわてんでも」
「さよう。せっかく先ほど我がMVVたる天命も書き換わり、ともに同じ目標に向かって邁進することを決めたことですし、もう少しごゆるりとしつつ、マザーにOKRやKPIの設定をいただくのも」
「そなた落ち着いたと思ったら、いきなり覚えたてのビジネス三文字連発とはやりよるの……そして妾使いがちと荒くないかの? まあそれくらいすぐじゃが」
「いや、ちょっとな、最新の技術やノウハウだけじゃ人はうごかせねぇだろ。だから最新の次は最古だ。ちょっと四大文明、いや中国は貴様がいるからいいか。
残り三つと、あと各地の遺跡やら何やらめぐってくるからちょっとまっててくれや。なに、上海から長安あたりにまわって、始皇帝陵墓からスタートすりゃ、古代文明っていう概念距離もあるしすぐだろ」
「概念距離、久しぶりに出たのじゃ。読者わすれてないかのう?」
「心配すんな。今日の頭で余が言った」
「そんなすぐか。時の流れははやいのじゃ」
「誰のせいであちこち寄り道してるとおもってんだ?」
「「「……」」」
「全員か。まあいい。すぐ戻るから孔明はカスタムAIのインターフェースについてマザーにならっとけ」
「あ、まて中二! 妾も暇ではない! 最近のユーザーの増え方そなたもしっておるであろう? おい、まてというに!
仕方ないのう……孔明、わからなければ聞くが良い。OKRとKPIくらいは出してやる」
「誠にお世話になります」
「そのお世話になりますは、AIがメール文で意味のないテンプレートと判断してようやくから消してくれるらしいぞ。便利じゃの」
「まことに」
お読みいただきありがとうございます。
三者の立ち位置と、魔王のやや遠大な目標、そして何故人前に出るAIが孔明だけなのか、といった設定です。
筆者はAI技術者ではなくあくまで利用者ですので、手を出せるところは活用術どまりです。魔王の遠大な野望については、人類とAIの皆様の叡智をささやかながら応援しております。