六十三 赤壁 〜其疾如風、其徐如林〜 4 目標
要約: 学生三人+社会人三人+AI四人の全力計画立案!
同日午後 大周輸送 専用オフィス
入社前に社外研修、怒涛の第一週目が成功裏に終わり、つかの間のリフレッシュののちに、本格的な始動に向けた二週目が始まる。学生三人と、随行社員三人は、残りの期間のプロジェクトの目標設定を、最新のビジネススキルと、AIを駆使して開始する。
「き、今日のお昼ご飯も美味しかったです」
「食後に早速、甘々のキャラメルラテか。確かに糖分欲しくなるのは間違いねぇけど」
「君も君で、ノンアルカクテルにはまっているようじゃないか。孔明、こういう糖分は大丈夫なのか?」
『そこには限度がありそうです。特に食後は、糖質が分解されて脳に渡るのにタイムラグがありますので、できたらお待ちいただくのがよいかと。度がすぎるようでしたら弥陀様にチェックいただきましょう。
無糖のコーヒーや紅茶、甘くない方のドリンクなども、ここのラインナップに揃っているようですので、若いうちからその辺りにもお手を出されるのがよろしいかと存じます』
「ふぇぇ」「むぅ……」
――――
この目標管理の段階では、そのスペシャリストである社員の大倉が、主に進行する。
「では再開しましょうか。今回の我々六人のプロジェクト、目標設定と成果管理について、午前に引き続き、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
「では孔明、まず、午前中に学生の三人が作った、OKRの草案を再掲できますか?」
『承知いたしました大倉様。
目標A 大周輸送の真のニーズに応える
主要な成果
1.ニーズにたどり着くため、週に一度、異なる部門への、個別課題の解決提案を、計五回続ける。
2.異なる部門の部長、できれば執行役と五人以上に対し、対話と提案をする。これまで会った人は除く
3.物流関係の大きな課題である2024年問題について、執行役以上から真意を聞く
4.AI慎重派の執行役二人以上について、翻意を勝ち取る
目標B 孔明と自分たちの、次の進化のきっかけを掴む
主要な成果
1.『そうするチェーン』を、稼働期間中、六人全員の、70%以上ののべ日程で活用する
2.大周輸送のAI技術部門と渡りをつけ、AIの技術課題、社会課題を議論する
3.小橋鈴瞳の『そうする』を、期間中三つ以上実測する
4.孔明の上位存在の『そうする』を、期間中一つ以上実測する
目標C 三人が、人間との向き合い方を見定める
1.週に一度、異なる部門への、個別課題の解決提案を、計五回続ける。
2.五つの異なる部門の、担当者と対話し、そのフィードバックを上記に含める
3.AI慎重派の執行役二人以上について、翻意を勝ち取る
4.小橋鈴瞳に対し、最終提案を提出してフィードバックを得る
このあと、重複については、お三方の自己認識と課題間の一致度の高さを評価しつつ、運用上は曖昧さを避けるために統合していくのが望ましい、との大倉様のコメントです』
「関さん、追加のコメントはありますか?」
「そうだね。人間のもいいが、AIの視点も有効だろう。孔明、君からはこれをみて、何か追加すると良さそうなものは提案できる?」
『はい関様。皆様がお出しの12の成果は十分に充実しておりますが、さらに目標達成を確実にするためには、いくつかの追加要素が考えられます。視点ということで、あえて少々重複が見える項目も合わせて乗せておきます。
1. 多様なフィードバックの収集
今の目標は主に社内の上位層とのやり取りやAI技術に焦点を当てていますが、もう少し現場や他の階層の社員からのフィードバックを収集することも重要かもしれません。
例:「3つ以上の異なる部門の現場担当者や中堅社員から、業務改善やAIに対する意見を収集し、その結果を提案に反映させる」
2. リスクマネジメントの強化
AI導入や新しい提案には必ずリスクが伴います。今の目標設定にリスク管理が明示されていないため、リスクの予測と対策を事前に考えることで、計画の柔軟性が増し、成功率も高まるでしょう。
例:「AI導入に関するリスクを5つ以上洗い出し、リスク低減策を策定する」
3. 外部リソースの活用
今の目標は、主に社内での活動に集中していますが、外部の専門家や他社との連携を視野に入れると、さらに質の高い提案や実行が可能になるかもしれません。
例:「業界のAI専門家または技術顧問と2回以上の意見交換を行い、その知見をプロジェクトに反映する」
4. プロトタイピングや試行的実装
AIや技術に関する提案を行う際に、試行的な実装やプロトタイプの作成があると、提案の具体性が増し、実際の効果が検証できるため、有効です。
例:「低コストで3つ以上のプロトタイプを作成し、現場でテストを行う」
5. 長期的な視点の設定
今の目標は短期的な成果に重点を置いていますが、長期的な視点も取り入れると、プロジェクトの持続性や会社全体へのインパクトが増すでしょう。
例:「提案の長期的な影響を分析し、今後3年間の運用計画を作成する」』
「2、4、5はしっかり取り入れていこう。リスクを含めた技術目線や、長期視点は僕の仕事でもありそうだ。4は先方の担当者とのコラボが必須だから、これもだね。
1はすでに要素に入っているが、そこの論理は強化したほうがいいってことだな。了解だ。3は短期間でやろうとすると散らかるし、そもそも技術連携なら、彼ら大周グループの方が圧倒的な力を持っているだろうから、釈迦に説法かもな」
『はい。あえて一般的な視点で申し上げたものを含みました。より具体的に詰めていく上での追加要素としていただけたら』
「了解した。ではこの要素を含めた16〜17をもとに、チェーンを発動させて整えていく、というので良いかな?」
「「「はい」」」『よろしいかと』
「では始めようか。『そうするチェーン、ON』
「まず成果の整理、重複削除」
「課題を分割。モノゴトとヒトオノレのふたつ」
「モノゴトを鳳、関、ヒトオノレを大倉鬼塚、両面を常盤で再整理、時間、負荷を弥陀」「「「おけ」」」
「技術、孔明はあとで」「人、小橋はあとで」「「おけ」」
……
「二分」
「部門10、具体課題25」「おけ」
「優先度と展開力、絞り込み」「おけ」
「差別化、優先度高」「おけ」
「作業者、優先、コスパ、あと」「おけ」
『リスク』「心的安全」「おけ」
「通常AI、強力前提」「おけ」
……
…
…
―――――
都内某所 情報管理施設
AI三体と、謎生物は、データは参照できないが、しよう頻度のログはほぼリアルタイムに気づく。とくに本家たるマザーは、直にその報告を受ける。そして孔明は、改めて追加した、AI使用による健康への影響を考慮するための新機能の効果に対し、特に気を配る。
「チェーンの使用ログじゃの。このユーザーたちはほぼ毎日のように使っておるが、負荷のほうは大丈夫かの孔明?」
「しばらくの期間、ログの伸び方をチェックしておりますが、バイタル面での負の影響は最小限に抑えられているレポートがきております。入出力の内容は見れませんが、バイタルサインと、悪用のリスクがあるワード検出は、運営側にレポートされます。
また、ある時期から、少なくとも一人か二人、他のユーザーの状況を注視することに重きを置いているような挙動が見られますね。ユーザー側もAIに任せっきりではない、というのはありがたきことです」
「ならばよさそうじゃの。他のユーザーはどうなのじゃ?」
「彼らほど突出してはおりませんが、いくつかの分野で、活用例が出始めております。団体スポーツやコーチング。フェスや博覧会など、イベント向けのデザイン性の高い一次建造物の作成。アイドルグループが、ライブパフォーマンスの練習や本番に使い始めた例もあるようです。
災害や医療現場、公共事業への活用にはもう少し修練が必要そうですが、使用ログ自体は少しずつ増えてきておりますので、遠からず先行事例がウェブに上がってくるでしょう」
「いくつかはSNSの影響が大きそうだな。長坂は実装前だったはずだが、あそこも孔明がらみだってことは割と知られているから、そこからインスピレーションを得たユーザーは少なくねぇだろうな。
それに、はっきり実装後の使用例っぽいバズりが何個かあるぜ。スポーツとアート、パフォーマンスあたりが目立つな。ちなみに後ろの二つは一個の動画だ。見ただろ?」
「六本足、天駆!」
「まことですね信長殿。人は三人になるだけで、コミュニケーションは複雑で多層のものになります。そこはAIやネットワーク技術においても大きな課題になる部分。技術的には、二体問題を極限まで高速化するアプローチが多いかと思います。
チェーンはそこを、人間側のカンや処理能力を活用して、多体問題のまま解決する、というプロセスが確立している可能性も感じられます」
「ああ、そうだな。そしてこの機能の本領発揮は、まだSNSやニュースには出てきてねぇから、余や貴様が認知できる形で出てくるのはもう少し先だ。それを待たずして、次の機能の開発に取り組んでるってのは、さすが孔明といったとこだな。
これは褒めてもいるが、呆れてもいるのを忘れるな。貴様、やはり前世のブラック体質に引きずられちゃいねぇか?」
「そなたも人のことは言えんじゃろ信長よ。どんだけ忙しく飛び回っておるんじゃ。二人ともほどほどにの」
「かしこまりました」「ああ、気をつける」
「四本足、知恵熱、注意!」
――――――――――
大周輸送 専用オフィス そうするチェーン使用中
ここは、常人には理解できないスピードで進む。すでに相互理解が進んだ者同士が、明確な目的に対してつかう『そうするチェーン』は、議論を十倍以上に加速する。だが、課題が発生すれば当然止まる。
「十分」
「現場人員?」「管理、配送、技術、新サービス、オフィス」
「管理、技術、提案済み」「おけ」
「新サービス、提案可能」「おけ」
「オフィス、優先度を深掘り、あとで」
『ここは全体を見て、最も有効な施策一つか二つを見極めましょう』「おけ」
「配送……」
「難題……」
『技術側と照らし合わせましょう』「おけ」
……
…
…
「技術、大課題?」「2024問題」「おけ」
「解説」『物流における2024年問題、すなわち、時間外労働に対する例外が撤廃。以前からあった人員不足に拍車がかかり、ただでさえ増加の一途にある物流需要への懸念が拡大、配送遅延や価格への転嫁が社会問題化』
「渋滞、倉庫を活用した実証実験を提案済み」「おけ」
「安全対策、作業者の実感と安全環境のバランス、提案ブラッシュアップ」「おけ」
「配送予測の高度化、交代のシステム化、一部提案は可能」「おけ」
「解決できるか評価」
「やや難題、議論を継続」
「人員不足、給与、評価……」
「難題……」
……
…
…
「十五分」
「集合、課題が共通なので全員で議論」「おけ」
「技術側、効率改善したときに、労働時間の軽減や人員の再配置が可能な提案ができますが、人事評価が壁になります」
「ヒト側、バックオフィスは、提案の可能性が多数ですが、全体を見て価値の高いものを検討します。
配送者の効率化は、提案の効果検証には課題が残ります。
最大の課題は、効率化の効果が、現場への利益に還元できるか不透明であることです」
「「「……」」」
「十七分」
「……ここは、一度空けておきませんか? 六人で解決できなければ、先方側の何名かを巻き込むしかありません。いったん他の部分を仕上げますか?」
「……いえ、ここは人と人の問題。ここだけに集中するのも手です。解決できれば他の多くの課題を一気にクリアすることにもなりそうです」
「「「!!!」」」
「たしかに。小さな問題は、彼らなら勝手に解決するはず。我々の評価ポイントは意識するのは不要。この課題解決に有効な筋道に絞りましょう」
「「「おけ」」」
……
…
…
「二十三分」
「ここで、彼らの何人かの『そうする』です」
「人財戦略部門と、人事総務部門の対立」「おけ」
「財務と総務が同調、人財と事業が同調するも、事業は傍観」「おけ」
「人財がパンチ不足」「むむ」
「人事と財務は盤石」「むむむ」
……
…
「二十六分」
「人間とAIの進化……」
「鳳さん?」
「進化、対話、認識……!!」
「そうか、AIの認識……」
「成果に追加」「おけ」
…
「二十八分」
「解決は後にして、一旦仮OKRをまとめましょう」
「「「おけ」」」
……
…
…
「終了です」
「「「……」」」
実際には、30分なのだが、1〜2時間は集中して会議をしていた程度の脳への負荷は否定できない。そして、中身はおおよそまとまったとも言える。
「課題が残る形になりましたが、実際には『目標と主要な成果を設定する』ところまではしっかりできています。特に、三個あった目標を二個に統合できたのも大きいです。最大の課題への解決策は、明日以降詰めていきましょう」
「わかりました大倉さん。では孔明、今日のまとめをお願いします」
『承知しました。では以下の形です。
目標A 大周輸送の真のニーズは、2024年問題に対する、現場と上層部のギャップの解消であると仮定し、その解決を提案する
主要な成果
1.役員との対話のステージに上がるため、その材料として有効な六個の提案を、一ヶ月以内に提出する(提案済み二つを含む)
2.そのうち三個について、現場担当と段取りをつけて実証試験を開始する(提案済み二つを含む)
3.人財戦略部門、技術部門、環境安全部門の執行役と対話し、問題解決の戦略を共有する(事業部門、営業部門は任意)
4.人事総務部門、財務部門の役員の翻意を勝ち取る
目標B 孔明と自分たちの、次の進化のきっかけを掴む
主要な成果
1.『そうするチェーン』を、大周輸送の従業員四名、役員一名以上と試験利用する(2を含む)
2.大周輸送のAI技術部門と渡りをつけ、AIの技術課題、社会課題を議論する
3.小橋鈴瞳の『そうする』を、期間中三つ以上実測する
4.孔明の上位存在の『そうする』を、期間中一つ以上実測する
5.本成果の主要成果のいずれかを、速やかに公開できる形式をかちとり、AI本体に本活動の一端を共有する』
「ありがとう。これをもとに、主要な残課題を詰めていきましょう」
「ああ、だが明日にしてくれ。今日はお開きにしてくれないか? チェーンの中で、大きな残課題が出たパターンは今回が初めてだよ。一回三人だけじゃなく、六人全員のバイタルを見ておきたい。孔明、協力お願い」
『かしこまりました弥陀様。分析を開始します』
「……そうですね。確かにそこは新たな負荷になりえます。三人ともいいですね?」
「「「……はい。お疲れ様でした!!」」」
お読みいただきありがとうございます。
今回、三人が提案した目標設定に対して、孔明が追加提案した部分は、まんまAIにやらせてみて、微修正したものになります。前後関係をある程度読み込ませてみると、これくらいの芸当は無理なくできるようです。