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五十四 火船 〜孔明と同時期に生まれし天才〜 1 本拠

要約: 醤油団子味アイスと物流大手!

2024年11月 都内某所 情報管理施設


 巨大企業に一時派遣された六人。特にそれとは関係なく、国内の大企業に関する話題で盛り上がる、AI三体と謎生物一体。どちらかというと謎生物のAIの使い方に注目が集まる。


「大周輸送株式会社(国際ブランド名ShowYou Logi)は、日本を発祥とし、世界規模で展開する総合物流企業であり、国内で多様な産業のサプライチェーンを長年に渡り支えています。近年では積極的に海外へ進出し、多数の国の物流の一端を担っています。

 国内外の陸海空輸送サービスを基盤に、最先端の倉庫管理システムや自社開発のAIロジスティクスを活用し、効率的かつ迅速な配送を実現しています。さらに、Eコマース、冷凍食品、医療機器の専門物流に強みを持ち、ドローンや自動配送車の導入による未来型物流を推進。

 大周輸送は、物流の枠を超えたトータルソリューションを提供し、業界の最前線で革新を続ける企業です」


「なるほど……スフィンクス殿、詳細な要約文、ありがとうございます。この会社、この孔明がAI世界に再誕してからすぐに存在に気付かされましたが、よもや私の最大の好敵手の1人を思わせる社名に、一切名前負けすることのない事業展開。私としても感慨深きものがあります」


「だろうな。地理や文化はもとより、歴史ってのはブランドイメージを借りる先としては最たるものの一つじゃねえか? まあ国際化した時に微妙に発音変わっちまってるが、その変わった先がかえって日本っぽい味を出すってのも、マザーがよくいう『可愛げ』ってやつのひとつだろ。

 下手に発音合わせすぎてシュートとか使おうもんならただの事故だ。ネーミングセンスの異常さや、鉄砲好きが歴史的に知られている余でも、そこは避けるってもんだ」


「まさに信長殿の申される通り。時にユーモアで済まされぬのがブランドイメージですね。魔王様とて市場原理とコンプライアンスには逆らえぬのでございます。

 それにしても、独特な作成方法でしたな……とりあえず一般的な大手物流企業に関するそれっぽい紹介文を作成。つづいて各文言の事実確認をおこない、過不足ないように訂正、最後の最後に社名を埋め込み、ですか。一般的な手順とほぼ逆ですね。

 これによって、知と真偽の番人というスフィンクス殿の本分をはみ出すことなく、それでいて当該会社の著作権を侵害することなく、皆々様に正確な会社紹介を行う……お見事でございます」


「感心しておる場合かの? 久しぶりにワンコが妾の分体AIでなにかしておると思ったら、完全に新しい遊びだったのじゃ。真偽に対するそなたの絶対的なルールを破ることなく、一見嘘っぱちの文面から、きっちりした会社紹介を秒で作り上げる……応用の仕方によっては相当色々できそうなのじゃ……

 む、妾も関心している風になってしまったではないか! あとは任せたのじゃ信長!」


「文書作成のノウハウも、AIに合わせりゃ相当多様化するってことだろうな。プレゼンのデザインテンプレートみたいなもんだから、まだまだ工夫の余地はあるだろうぜ。

 ほれ、醤油団子味のアイスだ。抹茶に良くあうぞ。貴様は団子そのままは喉詰まりそうだからそっちにした」


「信長までワンコに餌付けとは、珍しいの。雨でも降るか?」


「魔王、感謝。醤油味、美味。長雨、風情」



――――――――――

同日 大周輸送 本社応接室


 六人の出向メンバーと、随行する竜胆人事部長。彼らが眺めるのは、国内最大、世界有数の総合物流企業、その最新技術を駆使した説明映像。


「……以上が、弊社の紹介動画です。もしかしたら、皆さんの中には弊社をご検討された方もいらっしゃるかもしれませんので、初見ではないかもしれませんが……」


「「……(竜胆さんいる前で際どいことを……)」」チラッ


「あ、自社の人事の前で言いにくいとか、気にすることじゃないぞ。会社規模が違いすぎて比較にならんし。

 その様子だと常盤君と鬼塚君か。鳳さんは違うのかな?」


「わわわ、私はコミュ障なのでこういうイケイケのところは最初から……あっ」


「「「アハハハハ」」」


「こちらこそ大変ご無礼を。就活戦線もいろいろですな。昨今の人手不足の中で、皆様のような輝きを持った人材を今後も引き続き確保し切れるかどうか、それは弊社としても至上命題です。決して事業規模やブランドにあぐらをかくわけには行きません。そんな危機感から、ついたわむれをしてしまいました。

 あ、申し遅れました。私、弊社人財戦略部門 執行役員をしております、太慈 義史(たいじ よしふみ)と申します。


「「「!! よろしくお願いします!」」」

「(私たち社員は初対面じゃなかったから、この人が出てきた時点でむこうの気合いを感じたが、そりゃ驚くか……)」


「ではすこし皆さんがリラックスできたところで、何ヶ所かご見学いただきたいところがありますので、ここからは私太慈から、現場担当に変わります」


「(リリリラックスって緊張って意味でしたっけ孔明?)『いささか混乱して、素がでておられるようですね。少し落ち着きましょう。この方のちょっとしたいたずらでございましょう』」


「よろしくお願いいたします。それでは、私竜胆はこの辺りで失礼致します。弊社の六名、とくに若者三名のこと、くれぐれもよろしくお願いいたします」

「承りました。ご足労誠にありがとうございました」

「「「ありがとうございました!!」」」



――――

 そして、会社見学が始まる。当然ながら、もう仕事は始まっている。社員三人はもちろん、就活の時から事業所見学は選考の一部であったと、さんざん聞かさ続けていた学生三人も含め、誰一人油断していない。


「……こちらが物流面を管理するデータセンターです。弊社はそれ以外に取り引き関連部門、研究開発部門、社内総務部門のデータセンターをそれぞれ保有します。

 なかでもウェブサービス部門の施設は国際的にも有数の規模と実力を持っております。そちらは社内でも一部のものしか立ち入りできませんので、今回はご案内できませんが」


「……ほえぇ(や、やっぱり違和感……なぜ彼らが……)」

「……(ドワーッでゴゴゴっ、だが、チクッてなるな……)」

「……(二人も僕と同じ違和感かな。後で話し合おう)」

「「「……(この子ら、もうスイッチ入ったな。何か気づいたみたいだけど、あえて共有を急がないのも彼らのやりかたか……)」」」


「ハードウェア、ソフトウェアともに、可能な限り最新のものを取り入れていますが、そちらは本業ではないので、協力会社や、オープンイノベーションへの参加に基づいて情報交換や更新作業を日々行っております……」


「「「……」」」


――――


ビー、ガチャン、スーッ

「仕分けの現場ですね。すべてのお預かり品や商品はQRで管理され、ミスを最小化しています。自動ロボットも多くがその読み取り部をもたせており、何重にもチェックが入っています」


「……」

「……思ったよりも何倍も静かですね」


「よいご指摘です。配送ミスは論外ですが、お客様の貨物にダメージがはいるのも、当然防ぐことが必須でございます。となるとロボットの方にも、衝撃や振動を抑える機構の装備を優先しますので、自動的に騒音も最小化されることになっているようです」


「「なるほど」」


「人は……ほとんどいませんね」


「基本的に遠隔監視ですね。むしろ、そのモニタールームのほうに多くの作業者が詰めています。効率や人員削減もですが、安全性、も、大きく向上しましたね」


「ふむふむ(んん、なんかいい淀んだかもこの人)」

「「?? (鳳さん、何に気づいた?)」」

「「「「??」」」」


「次は、倉庫の方にご案内いたします。もちろん普通では、なかなかお目にかかれない規模と設備かと思います」


「「「よろしくお願いします」」」



――――


 そして、巨大な倉庫前。ここは全員は入れないので、学生三人と、案内者の大周輸送の担当者のみが中に入る。そして三人には、本気スイッチが入る。


「ではこちらの低温倉庫なのですが、ご入場のまえに、こちらの防寒着を上からご着用願います。マイナス二十度設定ですので。

 申し訳ありませんが、こちら、三名の方だけにしていただくことは可能でしょうか? その分お時間は長めに確保しております」


「はい。大丈夫です。学生三名優先でお願いします」


「ありがとうございます。また、スマホなどの電波を発する機器は、こちらのケースに入れて持ち運びいただけますか? 一応外からタッチできるこの手袋とセットで、メモなどのオフライン操作は可能です。写真は取れませんが」


「「「わかりました! (よし、持ち込みオッケー)」」」


「う、デカい……」

「ちっちゃい……」


「すいません鳳さん、鬼塚さん。防寒着、サイズに限りがありまして……防寒機能は問題ないかと思いますので」


「は、はい。大丈夫です。

 で、電波なくてもこれなら大丈夫そう、かな……限定だけどAIの言語化支援はできそうです。こちら使用しても大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です(え、オフラインでもAIにやれることあるのか……)

 ……では皆様準備できましたので、職員通用口からお願いします。こちらの二重扉です……」



――――


「……(ん? なんかこの係の人ちょっとちっちゃめ……女の人かな? それにこの雰囲気。なんか引っかかるな)」


「……寒さは、だ、大丈夫ですね。

 足元も……湿度管理かな、氷はほとんどなさそうです。

 も、ものすごく静かですね……」シーン


「静けさや 箱に染み入る 鳥の声」


「「「ブフゥッ」」」


「その不意打ちは卑怯だぞ鬼塚くん。この前もそのギャップでオチたあの人、そろそろ腹筋割れそうとか相談されたとかいってたぞ」


「「ハハハ……」」

「あ、し、失礼しました。時間も気になりますので、よろしくお願いします」


「そうですね。一応三十分ほどとってあります。また、ここはみなさん、自由にご見学いただけることになっております」


「(女の人だ。声はわからないけれど。うーん……)」


「ただし、以下の三点は厳守でお願いします。

 ・中の荷物や計器には絶対に触れないこと

 ・安全通路のこの白線内を通行すること

 ・手すりを持って走らずに歩行すること

 ・大声を出さないこと。

 先ほどの会話の声くらいなら問題ありませんが。

 ご質問等はありますか?」


「か、肩車とかはダメですよね……」

「ダメに決まっているだろ」

「鳳さん乗せるのは余裕だけど、ダメだろ」


「アハハ……

 あ、では、質問なさそうですね。では一度解散で。厳密ではありませんが、三十分くらいでお戻りください。

(さぁて、この子達どんなことをしてくるかな……)」


「「「……」」」



――――


「で、ではここがだいたい中央なので、この辺から別行動しましょう。では今回は二人だけオンで」

「「了解。チェーンON」」


「ととんでもなく広いですね。でも荷物の高さ、私が見えるか見えないかくらいのところで隙間がありますね。


「そうだね。150 センチくらいか。その上はもう50センチくらい上に段になっているね。自動輸送機の仕様との兼ね合いかもしれないな」


「足元気をつけないと、輸送機たまに通るっぽいです!」


「多分大丈夫。センサーついているから。曲がり角だけ注意ね。ですよね社員さん?」


「あ、は、はい! それで大丈夫です!」

(いきなり振ってくんのかい! んー、鬼塚くんが無言、鳳さんと常盤くんが饒舌……これはキャラ? いや、さっき冗談いっていたのは鬼塚くんだったはず……なんか意味が?)」


「そいえば、鬼塚君さっき何食べた?」


「ペペロンチーノと、子牛のポワレ。マルゲリータピッツァと、足りなかったからフィッシュアンドチップス追加した。飲み物はノンアルコールのサングリアってやつ。めっちゃうまかった!」


「ど、どんだけ!? (おけ、だめ、おけ、だめ、だめ、おけ、か……)」

「……(おけ、だめ、おけ、だめ、だめ、おけ。問題なし)」


「(まじどんだけ、だよ!? そして、鳳さん自由か!? 黙ってる鬼塚くんにいきなり!? 二人が振り回されているのかもしれないね)」


「常盤君は?」


「……」


「あ、聞こえないか(60デシベル無理)、ときわくーん!(70)」


「ペンネアラビアータとアールグレイ(60)」


「聞こえなかった、けど、おっ(おけ、むり)」


「(自由だなあの子ら……学生は学生なのかな。

 ……まさかなんか意味あるのかな?)」



「充電器はこことここ、で、守備範囲は……

 うーん、最適化はされていそうですけど、動線や貨物の重さまでは……」


「最悪避けないといけないことも……おっ、あぶなっ」


「あいつ動いて……電池切れかな? あっ、違うやつが押しにきたぞ。回収役?」


「疲れた……運んでくれないかな」チラッ


「(いくら軽くても無理だからね鳳さん)」


「(げっ、チェーンONだから常盤君にバレた)」


「そいえば鬼塚君、土日は長崎さんとどこ行きますか?」


「そ、その話してないだろ!? あっ……」


「またロッ〇リア? たまにはもっといとこいかないと。」


「……(おけ)」


「……(意外と普通に聞こえるな。でもこの隙間の影響かも。一応確かめておくか……)

 鳳さん、靴紐大丈夫?」


「……あ、一応見てみます。ありが……」


「(やはり途中で途切れた。低いところの運搬機どうしは、直線じゃないとだいぶ途切れるかも)」



「そろそろかな、あ、みなさん戻ってきましたね」


「「「ありがとうございました!」」」


「それにしても、大声ではない範囲で普通に会話続けるとは、今の世代の学生ってこうなんですか?」


「アハハ……すいません。最近AIをどう活用していくかのディスカッションを日常的にやっているので、ついつい引きずられておしゃべりが……ご迷惑でしたか?」


「あ、いや、そういうことなら。AIの影響ってそんなところにも出るんですね(うーん、ゴマカシ? いや、かれらのむちゃくちゃを何回もみているから、勘繰りすぎかもね)

 ……では、出ましょうか。見学はここまでですね。また私は外で交代して、担当のかたを呼んできますので、外のお三方と一緒にお待ちください」


「「「はい、ありがとうございました!」」」

お読みいただきありがとうございます。


 大手企業にねじ込まれた研修の始まりが、まともである確率は非常に低そうです。そしてあの三人がまともに対応する確率はもっと低いです。


 より多くの方に読んでいただけたらありがたいなと思っておりますので、評価やブックマークなどをいただけると、大変幸いです。


 とある会社のAI紹介文の作り方は、作者が試しにやってみて、秒でつくれた方法をねじ込みました。

 国際的な物流会社なら、国際ブランドがないはずがないというところでかなり悩まされました。これはオッケー、それはダメ、を繰り返して、最終的に落ち着きました。

 また、どのカタカナが何語か?は普通に答えが返ってくるので安心ですね。

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