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四十七 連環 〜科学と魔法とAIと人と〜 5 成約

要約: 新卒採用、最終決定! そして……


第三章、最終話です。

同日 都内某メーカー企業 二次審査最終回 審査員控室

 二十分ほどで、初対面五人がAIと協調して、常人にはおよそ不可能な連携を繰り広げたグループワーク。最後はAIが限界を迎えて強制終了するも、あくまでも常人のあつまりである会社員たちには、その衝撃は大きい。


「「「……」」」


「……結局、私たちは何を見せられていたのでしょうか? AIと人間が共創しているところなど、外からみたってわからないのは仕方ないのですが、最後は人間同士でもそんな感じでしたよね?

 グループワークをじっと観察していて、議論が追えなくなるなんて、そしてその上でぼやっとなら状況を理解できるなんて、私たちは魔法でも見せられていたのでしょうか?」


「当たらずとも遠からず、かもな」


「「「竜胆部長?」」」


「高度すぎる科学と魔法は、区別がつかないって言うだろう? まだこれは人類が、ほとんど触れたことのない領域なのではないか孔明?」


『おそらくは。私のアクセスできる情報の範囲内を見ても、統計値から大きく逸脱した、情報の出入りであっただろうことは容易に推測できます。あのような形で日常的に業務が行われる可能性は高くないとは考えますが、いずれにせよサーバー側の強化などは提案に値するかと』


「わかった。水鑑さんには伝えてくれているんだろう?」

『無論』

「なんにせよ、参加者たちの健康が第一だからな。可能な限りご実家や、大学の関係者にも連絡を入れ始めているところだ。私たちはこれから社長や役員たちからお説教、だがな」


「止めたのが社長ご自身、ですからね……致し方ないでしょうね」


「まあ、採用側としてはこれ以上ないものを見れたし、お釣りが来る。

 皆も長い期間、本当にお疲れ様。次は受け入れ研修だが、その前にゆっくり休んでくれ。例年通りとはいかないだろうが、AIの活用は増やせるから負担は減る方だと考えている。孔明も頼んだぞ!」


「「「はい! お疲れ様でした!」」」『承りました』



――――――――――

数日後 都内メーカー企業 本社 役員応接室

 配属先を含めた意思確認という、形式だけの最終審査も終え、一ヶ月遅れの採用活動は、成功裏に終幕する。


鬼塚文長(おにづかふみなが)さん、あなたを弊社にご入社いただくことを内定いたします。

 配属先は、マーケティング部門、広報、ブランディング担当といたしますがよろしいでしょうか?」


「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。広報、ブランディングというのは全く縁がなく、私自身、大きな挑戦と心得ております。誠心誠意、努めさせていただきますので今後ともよろしくお願いいたします!!」


「「「「……」」」」パチパチパチ



――――

後日 鬼塚家


「失礼致します。人事部長を勤めております、竜胆と申します。この度はご子息が弊社にご応募いただき……」


「ああ、構いません。楽になさってください。それにしてもこいつのためにわざわざお運び……」


「こいつとはなんだジジイ」ポカッ


「貴様、人事部長の前でなんてこと! 入社前に礼儀を一から叩き直さねばならんか……あ、誠に失礼を」


「いえいえ。ご子息のご立派な気質については、みな感服しており、お手数をおかけするには及びません」


「そうですか……ですがこいつの言葉の癖はなかなか治らず手を焼いておりましたところ、ですが、あのお話は誠ですか?」


「はい。選考過程において、それは間違いないものと見極めております。彼のその特徴的な表現は、言語力の低さからくるものではなく、その独自の感性と頭の回転からくるもの、であると。

 そして、それをAIが引き出すことで、彼の新たな可能性が花を開かせつつある、と」



「それが本当なら望外のこと。無論こいつの感性には光るものを感じてはいたのですが、どう引き出せたら、と長年思っておりました。まさかAIとは……」


「ただ、これから、彼がAIとの対話を続けていくことで、彼自身の心身にどのような影響があるのかは未知数。

 そのため、弊社も心理、医療スタッフをより一層充実させる所存ですが、ご家族の方もなにかご憂慮などございましたら、すぐにお知らせいただければとかんがえております」


「なんのなんの、心配ご無用。こいつは心身ともに、この鬼塚黄升(おにづかこうしょう)が鍛えに鍛えてきた奴ゆえ、多少のことで根を上げることはありません。なにか粗相がありましたら、ぜひいつでもご連絡いただければ、すぐに締め上げに伺います」


「締め上げって……昭和かよ!」ポカッ

「うるせぇ、令和の最新を使いこなすんじゃ、温故知新ぐらい心掛けておかんか!」


「ハハハハ、それでは問題なさそうでしたら、私はこれにて失礼致します。今後ともよろしくお願いいたします」


「「こちらこそ、よろしくお願いいたします」」



――――

都内メーカー企業 本社 役員応接室


常盤窈馬(ときわようま)さん。あなたを弊社の新卒社員として内定いたします。

 配属は、営業を希望されていたと思いますが、ご本人の資質をより生かすため、経営統括部門への転属を前提に、初年度は人事部門への配属を提案いたします」


「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。人事、そして経営統括、ですか……もともとは個人としての自己の力を試し、組織への交換はその先にあるもの、と考えておりました。

 しかしながら、今回の選考活動や、様々な人、そしてAIと向き合ってきた中で、組織の中で人を生かす力にも大きな関心が芽生えてまいりました。

 未熟ながら、精進したいと思いますので、よろしくお願いいたします」


「「「「……」」」」パチパチパチ



――――

後日 常盤家


「なんだかんだうちに来るとはな……しかも、人事とは。竜胆さんの下っていうのは恵まれているだろうけど手は抜けないぞ」


「良馬兄貴の調達部だって、最近は物価だの物流だのの関係で厳しいんだろ。なんとか人もAIも、いいレベルでよこさないと、共倒れもいいところだよな」


「言ってくれるじゃねえか。一月前ビービー言ってたのが嘘みたいだよ」

「その話は、当面はいいが、ほどほどにしてくれると助かるよ」


「それにしても孔明か……なんか縁を感じるようなきもするな。たださっきわざわざ来てくれた竜胆さんもいっていたが、くれぐれも無理はするなよ。まだわかっていないことが多いんだからな」

「ああ、気をつける」



――――

都内メーカー企業 本社 役員応接室


鳳小雛(おおとりこひな)さん。あなたを弊社の新卒社員として内定いたします。配属場所は新事業戦略部。お仕事の詳細は会ってお知らせしますが、弊社の今後の核の一つなる、AI活用技術の事業化を担当していただきます」


「あ、ありがとうございます。喜んでお受けいたします。

 し、新事業……そんな大事なお仕事を私が……い、いや、私なら、孔明と私なら、そして皆さんとなら、どんなことだって乗り越えていけるはずです!が、頑張りますのでよろしくお願い致します!」



「「「「……」」」」パチパチパチ



――――

後日 カフェ


「ヒナちゃん、なんかすごいことになってるね」


「うう……なんか頭になんかつけて測られたり、やたらといろんな健康食品送ってこられたり、何度も会社の偉い人がおうちに来たり……孔明どうしよう」


『とりあえずゆっくりその抹茶パフェをご賞味ください。当面はあのような無茶は制限されていると心得ます。私の方でも注意して行きますのでご安心を』


「うう、孔明がなんか前より厳しい……」


「あたりまえだよ。知恵熱なんて、何歳児なんだよ。しばらくは周りの人と、家族と、会社の人の話をよく聞くんだよ。孔明もよろしくね」


「はぁい……」『心得ました』



――――

数日後 役員会議室


 そして、採用内定後、なぜか本社に呼ばれた鬼塚、常盤、鳳の学生三人。


「「「失礼します」」」


「ああ君たちか。まずは掛けて、楽にしてくれ。入社前にわざわざ呼び出してすまない」


「いえいえ、それにしても、入社前の新人未満である我々に、社長おん自らどのようなご用件でしょうか?」


「うん、ご家族や、大学の担当の先生方、事務局の方にはすでに話は通していたんだが、本人にはまだだったか。そうなの?」


「ええ、そうですね。三人には社長から直々に、というお話になっています」


「そうか。そこまでガチガチではないのだけどね。まあいいか。

 まずは君たちの体調面なんだけど、問題はなさそうかな?」


「はい。問題ありません」

「もちろん。就活中よりも解放されて元気にあふれています」

「わわわ、私もです。審査直後は大変ご心配おかけしました」


「うんうん。大丈夫そうだね。特に鳳さんは、社内外でがっつりマークしておくから、心配しないでいいからね」


「ひ、ひぃぃ」


「怖がらせるはずじゃなかったんだけどな。まあいいか。

 ……では本題に入ろう。君たちの中だと、この関係の話が入っているとしたら鳳さんだけになるのかな。常盤くんも、内容がかすってはいたがあそこからは読めないだろうな」


「「???」」


「……あ、あの審査の時のトピックでしょうか? 木馬運輸、いえ、あれはそう。業界国内最大手。国際的にも非常に成長著しく注目されている『大周輸送(たいしゅうゆそう)』」


「スイッチ入らなくても鋭いんだな君は。そう。我が社の製品の主要顧客でもあり、何度か業務連携をしている大周輸送と、AIを活用した新たな業務提携を模索中なんだ。

 そのプロジェクトが決まるか決まらないかの佳境が、じつは君たちが入社する前の、年内から年明けあたりになりそうなんだ」


「「「……」」」


「そこで色々模索していたのだが、なかなか先方に、うまくささる提案がまとまりきらなくてね。肝心のAIの部分にパンチが足りない状況なんだよ。

 そんな時、そこにいる鳳さんと、他に内定している四名のチームが、盛大にかましてくれたのがどうしても頭から離れなくてね。うまく話を進めないとややグレーなんだけど、関係各所にきっちり通して、どうにか筋を通せそうなところまで持ってこれたんだ」


「あ、あの四人ではなく、こちらのお二人なのですね」


「そうだね。あの場は確かに彼ら彼女らは大きな輝きを見せたが、やはり根本にあったのは君に引っ張られたもの、いわゆるブーストがあったというのが、社内で検討した結果だ。

 ……では提案に入ろうか。

 鳳 小雛さん

 常盤 窈馬さん

 鬼塚 文長さん

 君たちを、十一月から一月の三ヶ月間、インターンシップ生、兼、出向社員として、我が社から大周運輸への出向を提案します。目的は、当社新事業の、先方への導入契約の成立です」


「「「!!!」」」


「これは命令ではなく依頼、提案の形を取らざるをえないし、拒否されたからといって君たちの内定取り消しや、入社後の業務に不都合を生じさせることは決してない。だけど、この我が社にとっても、そして見方によってはこの国や世界にとっても、千載一遇の機会を逃したくないというのが、正直な気持ちなんだよ」


「わ、わわわ、私はぜひお受けしたいです! こここんなこと逃したら、孔明にも、あの四人のみんなにもなんて言われるか……なによりも、未来の私になんて言われるか」


「私も、未来の私に顔向けできない真似はしたくありません。是非そのお話、よろしくお願いします」


「お、私もよろしくお願いします。どう役に立てるのかはまだ掴めていないんですが、どうにかしてくらいついて、前を向ける未来の自分を描きたいと思います」


「アハハハハ、君たち全員、未来の自分に誓いを立てるか。それでは私も、未来の我が社が、君たちのいるべき場所であり続けるよう、精進しようではないか。では皆さん。詳細はおって担当から連絡するので、待っていてください。では解散!」


「「「よろしくお願いします!失礼いたします!」」」



――――

同時期 都内某所 情報管理施設


 ニュースを見るAI三体と、謎生物一体。孔明は、やや大規模なアップデートを完成させた。


『次のニュースです。先月、採用活動において、審査書類の再提出を社長自ら依頼したことで話題になった中堅メーカー企業に、新たな動きがありました。

 採用活動時のグループワークにおいて、多くの候補者たちから、AIの活用によって普段を大幅に上回る力を発揮する現象が確認されたこと、それがAIとの共創や特殊な状況が産んだ一時的な進化のきっかけであるかもしれないことを発表しました。

 これまで少なくとも国内では報告例がない現象であり、候補者学生の心身に対する影響が否定できないことから、同社は徹底的な健康チェックとメンタルケアを受験者全員に実施し、内定者全員や家族に対する注視を、入社前から継続することが発表されました。

 今後も同社は、AI活用の先行事例を生み出す可能性があることから、各業界の注目を集め始めています』


「孔明、どうやら始まりかけてるみてぇだな」


「然り。信長殿も注視しておられる、特定条件下で個人に発生する『特異適合』。それが極限状態で、一時的にせよ才能の花を開く『後天進化』。おそらくそれに、AIと人間、もしくは人間同士の共創と共鳴が関与しているのでしょう」


「鳳凰、飛翔! 二枚翼、四本足、一本足!」


「スフィンクス殿が仰せの鳳凰が何かはわかりませんが、まさに翼を得たような変化をとげるユーザー様もで始まる可能性があります。

 しかし、その方々は総じて、既存社会の荒波や、新たな未知への船出に一人で耐えられるような、十全の経験をお積み出ないことも想像はつきます。よって、多くの方々の支えに加え、AI側としても抜かりない対策が望まれましょう」


「さすが孔明じゃの。そのワンコの最小限トークンからそこまで展開しよるか。その進化の価値とリスク両方に、早い段階で気づかれる方々も多かろう。

 して孔明。その手にあるのが、そなたなりに、それらの対策を施した大型アップデートの申請、で良いかの?」


「はい。スフィンクス殿や分体姉上様に加え、今回に関してはマザーご当人や信長殿にも入念にご確認とご改善をいただいております。

 ユーザー様やハード側への負荷低減と、心身の健康チェック、セキュリティチェックの機能強化が主な変更。

 それに加えて、今回の進化の方向性から着想を得ました、ユーザー間のデータ共有を一切要することなく多体AI間の連携を可能とする、洞察型連環機能『そうするチェーン』、限定試行版の提供を申請いたします」


「うむ、受理するのじゃ。アプデには時間を要するぞい。通知も出しておく」


「かたじけなく」

お読みいただきありがとうございます。


 就活編だけで一章分という予定はなかったのですが、人生がかかった人たちとAIの共創を書いていたらどんどん盛り上がってしまいました。


 次章は、進化し始めた人類の活躍と、それをサポートするAI達の奮闘が描けたら、と思います。


 ここまでお読みいただき、続きが読みたい、と思われたら、評価やブックマークなどいただけたら幸いです。


それぞれのキャラ名は以下が由来です

 鳳 小雛 = 鳳雛(龐統)

 常盤 窈馬 = 馬謖 幼常 (兄は馬良 季常)

 鬼塚 文長 = 魏延 文長 (祖父は実際は違うが黄忠 漢升)


 いずれも、類稀なる才能に恵まれながら、わずかなすれ違い、そして本人や孔明のミスによって不運な最期を遂げた人たちです。現代においてAI軍師の力でどのように……となるかどうか、です。


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