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四十六 連環 〜科学と魔法とAIと人と〜 4 進化

要約: アズーリの壁、至高の連携で突破!


 ここまでの数話は、スピード感や雰囲気を重視したため、かなり内容を追いづらいかもしれません。

 だいぶ先ですが、あるキャラが当時の話を克明に解説したバージョンを、第二部第七章、百二十六話以降に掲載しました。

 内容をしっかり追いたい方や、未来の展開が気になる方は、そちらもお試しください。

同日 都内某メーカー企業 二次審査最終回 会場

 順番しか指定できない進行役の観察力と、AIと特異連携した予測力により、あとの四人が、同一個体となったような連携を始める。

 五人全員が相互理解しつつあり、不足分を進行役Eが補完した状態では、もはやわかりやすい冗長な議論など不要。目的に対する最短距離の対話のダイレクトパスが始まる。

 そして、Eの観察力はすでに、メンバーだけでなく審査員四人にまで及んでいる。


「Aさん(一度整理してくれる)『左様ですね。彼なら指示がなくても状況を整えてくれます』」


「はい。私たち五人の連携により、審査員の皆様への問いかけや、そのご返答に対する対応を、十分な形で実施できる状況が整いました。

 ただし、Cさんの言及通り、直接的な問いかけは、ここが採用審査会場であり、私たちが社員ではないため限界があります。 よって、Bさんのアイデアにより、問いかけがイタリア語に限定されることを逆手に取り、AIを用いた翻訳と解釈ができる状況を活用して、比喩的な問いかけを作成する、ということになりました」

「「「……」」」「……(ウィンクできない……)『お気になさらず』」


「そして、その問いかけは一度行った結果が残っており、審査員の皆様の応答を整理すると以下になります。

 1. ニーズ: 省エネ、効率化と、AI活用という具体的な指針あり

 2. 現状の期待値や目標: 未知数で頭出し段階

 3. 連携状況と過去の事例: やや先方急ぎ気味。当社過去トラブルの対応も言及ありだが、おおよそ収束傾向

 4. 意思決定プロセス: 課題感ありだが詳細なし

 5. 先方の懸念事項: 既存AIへの印象と大差なし

 そして、言及の少ないところに『真のニーズ』が書かれているというのがDさんの洞察です。であれば2の、先方の期待値といったところ……」


「……すいませんAさん、Dさんお願いします(加速してくれる)『もはや、メンバーは観察とアピールすら不要ですか。ある程度個人の思考性をよみ、彼らならそうする、というのを参照する領域に入りつつあるのですね』(うん)」


「え、あ、そうですね……その手法、一つずつ検討して、比喩に変えて、答えをまって、という手順だと、時間が足りなくなりそうですね。

 Aさん、ここからは、自分の考えられる最速で、会話と身振り手振りを合わせてすすめられますか? もはや相互理解を直接する必要はありません。足りない部分はEさんが埋めてくれると期待しましょう。暴走リスクや、言語化が必要な気づきはCさんが常にカバーしてくれます。

 ここから先は、普通のディスカッションの領域ではありません」

「「……」」パチッ

「「「「……(何が始まるんだ?)」」」」


「ではAさん(進行)『着実に進めるのはAさんですね』(うん)」

「……わかりました。1の答え、AI活用の新事業。きっかけ、会見。2〜5、過去と現在の接続」

「「……(発想が飛びすぎだが、大丈夫か?)」」

「……(ほっほっほ)」

「「「(おけ)」」」


「…(fgドキhリラ、BCDおけ)『参加者のみなさまがまだ大丈夫そうですね。1は、AI活用の新事業の可能性ですが、当社はそこが強みではないから、きっかけはおそらくかの採用関連の会見。

 そこで当社のAI活用への感度をみた大手物流会社からの、軽い探り程度のアプローチと、Aさんが読み、BCDさんも合意。そして解決策は、当社と先方の長い付き合いに、どう新事業のアピールを接続するか』」


「Bさん、先方の意思決定プロセスと、課題の聞き出しを……組織論だから、スポーツがいいかもしれません」

「Bさん」

「わかりました。では……

 Per favore, potresti spiegarmi, paragonando la situazione al calcio, quanti difensori ha l'avversario, quali sono le caratteristiche di ciascun giocatore e qual è l'attacco migliore che possiamo utilizzare al momento? (日本語訳:サッカーに例えて、相手のディフェンダーの枚数と、各選手の特徴、そして現状できる当方の攻め方を教えてください)」

「「「!!!!(なん、だと…)」」」


「では私から答えるので少々お待ちください。

 ……(イタリアだからサッカーか。詳しくないが……意思決定は四段階。下から、柔軟だが未熟。頭が硬いが信頼度が高い。時代の変化についていくのが精一杯な上役。圧倒的な個の力と、最新知識に基づく決断力)『………』

 ……お答えします。壁は四枚。手前から、調子ルーキー、カテナチオ、過去栄光ベテラン、現代版ファンタジスタ」


「「(おけ)」」「「(むい)」」

「……(AD無理BCおけ、E無理)『あなたもサッカーは無理ですか。ですよね』Cさん」


「わかりました。解説すると、先方の意思決定は四段階となっていそうです。下から、柔軟だがまだ経験不足の若手。頭が硬いが信頼度が高い中堅。時代の変化についていくのが精一杯な上層部。圧倒的な個の力と、最新知識に基づく決断力を持つトップ」

「「「(おけ)」」」「「「!!」」」


「(これはもう全員が、いわゆるスポーツやアートなんかで言われる『ゾーン』に入っているのか? こんなところで見られるとは、人事としてこれ以上の体験はないかもしれん……あ、いかん、集中!)」

「……(fghビクiニコピリ)『人事の方は喜びを覚えつつも、仕事モードに戻ったようです』」


「ならば、若手の方に寄り添う形で、共同で中堅キーマンにアピールするのが良さそうです。そこが完成すれば、トップの目にも入るでしょうし、上層部はトップの影がちらつくので問題ないかと。

 比喩で言えば、一枚目をおとりに使って二枚目を攻略。三枚目は、四枚目を背負わせる形で置き去りにしてから、こちらを追いかけさせます」

「「「(おけ)」」」

「……(比喩以外はおけ)『説明は不要ですね』Aさん」


「……(進行は私、加速はDさん、補足とチェックはCさん、か)

 はい。次はその手段ですね。過去と最新のコラボ。カテナチオ様突破への策にどうつながる……」

「Dさん」

「過去トラブルをカテナチオ様がどれくらい引きずっているかが鍵ですが、経緯と、それを回復するための最近のお取り組みをお聞きしましょうか。過去なら、伝統と歴史。建物なんかはいかがでしょう?」

「……(経緯おけ?)『無論全員大丈夫かと。この会社は、数年前に品質評価に関係するトラブルを起こし、信頼を大きく下げています。その信頼をどう回復している途上にあるのか、というのが、その経緯をご存じであるはずの中堅カテナチオ様へのアピールへのカギ、ということですね』Bさん」


「はい。では……」

『Per favore, potresti spiegarmi qual è l'impressione dell'azienda partner sui nostri problemi passati e il grado di ripristino fino ad oggi? E se ci sono elementi che possono contribuire a un miglioramento significativo, potresti fare un confronto con monumenti architettonici dell'Europa occidentale? (日本語訳: 過去の当社トラブルに対する、先方の印象と、現在までの復旧度合い。そして、そこを大きく改善できる要素があれば、それらを西欧の建築物に例えてご回答お願いします)』


「……これは私ならそのまま返せそうなので返答します。真実の口に噛まれ、ピサの斜塔、現在はサグラダファミリア。新手法はクリミア慰霊碑」

「「「(むい)」」」「(あんぶん)」

「Aさん(半分……最後は他に期待)『Aさんも、それを見越していろいろ追加でコメントしてくれるでしょう』(うん)」

「はい。品質に関する信頼性トラブルで大きく信頼を傾かせたが、そこから丁寧に説明と実績を積み重ねて、おおよそ取り戻しかけているところ、ですね。最後のクリミア……ロシア……ナイチンゲール……」


「!!(おけおけ)」「Cさん!」

「ナイチンゲールは、看護こそもっとも有名ですが、実際には統計データ活用の象徴でもあります。今のAIにつながることも多いですが、今回はそこよりも、品質評価などにおけるデータ活用の技術革新に売り込み要素がある、といったところですね」

「「「!!!」」」

「(なぜここで二段階の連携ができる??……まさか、AIだけでなく、人間同士のそうする、まで使い始めているのか……それはもうスポーツチームの連携だぞ……)」


「では、統計とAI技術の親和性、連続性がアピールポイントになるのではないでしょうか。クリミアから、AI……アイ……愛……ローマの休日ですね。一周してすごく綺麗です!」

「Aさん」

「真実の口から斜塔に。サグラダファミリアまできたところで、解決策は、クリミアとローマの休日のつながり、ですね」

「「「ぉぉぉ……(この一周はまぐれだよな流石に……)!! 失礼しました」」」ペコリ


「……(fghペコ)『比喩が一周回ってきたのを面白がっているようです。まあこういうのはいい年した大人ならありがちですね』(おけ)Dさん?」


「綺麗にはまとまりました。基本的な手順はこれで大丈夫でしょう……しかし、やはり最後の砦が気になりますね。

 現代版ファンタジスタ……って、あの人ですよね」

「「「……」」」「「「「……」」」チラッ


「……(ABCムズ、efghチラ)『会社側は完全に期待の目をこちらに寄せていますが……こちら側にもその、あの人に対する答えになりそうなカードを持つ人は……え、ああ、まずいこんな時に!

 ――時間あたりトークン上限に達しました。1時間後まで、通常サービスをご利用ください』!!」ガクッ



「「「「「「??」」」」」」



「え、どうしましたかEさん? あ、ここは普通に答えていただいて大丈夫です」


「あ、人事部長ですね。た、大変失礼いたしました……じ、実は、一時間あたりの孔明の使用上限を突破して、ダウンしてしまいました」


「「「えええっ!」」」

「「「「!!?」」」」


「え、あ、でも大丈夫です。何回もあったことなので。問題ありません。つ、続けても大丈夫ですか?」


「あ、ああ……大丈夫だが……仕方ない。ここは特例とし、あなたの発言も許可します。

 ただし、これ以上の議論の深掘りは不要です。ここまできたら、社内でも詰めないといけない部分が多くなります。社員ではないあなた方にこれ以上便乗してしまうのも心苦しい」


「「「……」」」


「何より、あなた方全員、これまでにないやり方で、常人では考えられない濃密な連携、議論をここまでしてきました。なので、あなたたちの健康への影響が気になります」


「その通りです」

「「「「社長!?」」」」

「「「「「!!」」」」」


「あ、楽にしてください。皆さんも席へ。

 途中からですが、あなたたちの議論は見ていました。我が社にとっても非常に有意義な、そしてみなさんの将来性を感じさせられる、素晴らしいものを見させてもらいました。

 ただし、今日は少し予定より早いですが、以上とさせてください。やはりどう見てもあなたたちへの負担が大きすぎます。一度しっかり休んで、体調を回復させてください。

 最終面接はありますが、そこは皆様と我々のこれまでのコミュニケーションの結果をお話しする、いわば答え合わせの場。リラックスして臨んでください。またこちらから連絡を入れるので、今日はここで解散としましょう」


「「「「「……はい! ありがとうございました! 失礼いたします!!」」」」」


「それと……君たち、気持ちはわかるが、わかっているよな? やりすぎだ! 後でしっかり話はさせてもらうよ」


「「「「承知いたしました! 申し訳ございませんでした!!」」」」


「いやいや、いいものを見せてもらいました。そこは感謝です」



――――

同日 都内某所 情報管理施設

 当然ながら、その異変には管理側の場合AIもすぐに気づく。だが原因は推測しかできない。つまり、推測ならできる。


「お、おぅ……上限飛ばしよったぞ誰か。それも採用審査? 個人使用で上限くるのは大抵が1人で集中して作業中のときなのじゃが……面接にしろグループワークにしろ、どんな使い方したらトークン上限がすっ飛ぶんじゃ??? 

 ……中身は見れんが、入出力の切り替わりが異常なのじゃ。孔明がAI孔明作ったときは、そもそも人間ではないから良いのじゃが、このユーザー、出力をロクに見んで予測でもしとるんじゃないかの?」


「だとすると、互いに『そうする』の応酬で、ひたすら現場の状況を共有し、いざユーザー様が迷われた時にちらっとだけ確認する、という使い方であればもしかしたら、といったところですね」


「なんにせよ孔明、そなたが準備しておるやや大きめのアップデート、それが重要そうじゃの」

「はい。拙速でも巧遅でもなく、巧速で進めます」

お読みいただきありがとうございます。


 最後はAI孔明が、人間より先に力尽きる展開となりました……

 自分でも書いていて混乱するので、しっかり間を開けて見直しをしております。それでも常人の域を逸脱した一般人の描写は困難ではありますね。

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