四十五 連環 〜科学と魔法とAIと人と〜 3 連鎖
要約: 言語とコンプライアンスの壁を、アイコンタクトで乗り越える!
ここ数話は、スピード感や雰囲気を重視したため、かなり内容を追いづらいかもしれません。
だいぶ先ですが、あるキャラが当時の話を克明に解説したバージョンを、第二部第七章、百二十六話以降に掲載しました。
内容をしっかり追いたい方や、未来の展開が気になる方は、そちらもお試しください。
同日 都内某メーカー企業 二次審査最終回 審査員控室
審査開始五分後、参加者の一人が、AIを許可された自分のスマホを別の人に預けるという、大きな決断。しかも、そのような動的判断を、一人の進行役の指示した順にしか発言出来ない四人が連携して行ったことに、審査員ら、そしてAI孔明すらも驚愕を隠せない。
「現段階で、少なくとも人間の我々にとっては、ジョーカーたるEさんを含めた全員が、超展開とも言える動きを見せているんですが……この噛み合いかたを考えると、実は孔明にとってはある程度想定に近い展開、なのでしょうか?」
『想定の上限ギリギリ、かつ経過時間は想定の半分以下なのですがここまではなんとか。しかし三十分のうちまだ五分しかたっていないというのは……
まさか、EさんがAI孔明の返答を先読みしながら、画面をほぼ見ることもなく、次々と場の状況を克明に共有してくるとは……これはのこりの時間は、常識を超えた加速が想定されます。
そして、その加速に、これから巻き込まれるのが審査員の方々。対話が一回で終わる保証がなくなりつつあるのです』
「ん? そこは問題ないのでは? AさんがAIをもう手放してBさんに……あ、あああっ!」
『やられました……ここは強い制限をかけていたつもりだったのですが、AIと人間の連携、人間同士の連携によって、そこが突破される可能性が出てきました……
いや、確定ではないのですが、下手をするとあの審査員の面々ですので、興味が優先されて採用審査の壁を突破される懸念は大いにあります』
「しょうがないよ。彼らだもん。どうせなら行けるとこまで行ってもらうのもありだよ」
「「「社長!!?」」」『お疲れ様です』
「コンプライアンスと、彼らの権利、体調は最優先だがね。君たちなら、そして孔明ならそのラインを見極められるだろ?
ここからは私も見させてもらうよ。無論、彼ら四人はあとでこってりと絞られる未来しかないんだろうけどね。人事部長、開発部長、新事業プロジェクトリーダー、デジタル推進担当部長、か……ふふふ」
「「「……はいっ!!」」」『承りました』
――――
二次審査 会場
進行役は、手元のAI孔明の画面をろくに見ることなく、対話を推定しつつ、全員を観察することに注力しながら司会進行を進めていく。
そして、審査員への質問権限があるのは一人の参加者Bのみ。そしてそれはイタリア語に限定されるという強固な制約。それを、AIが許可されたスマホを受け渡すというAの判断で、最大限に活用できる環境が整う。
Bは、Aから受け取ったイタリア語質問文つきのAI画面を見て、何かを追加する。
「(開始五分、順調?)『おそらく審査側の想定を大きく超える速度ですが、目標への到達はまだ不鮮明です』(おけ)
Bさん、お願いします」
「では、シニョーレ エ シニョーリ デッラ ジュリア、ヴィ プレゴ ディ リスポンデレ(審査員の皆様、ご回答をお願いします)」
「「???」」「!!」
「(あれ?B、AI自用……!!)『もしや……Aさんから受け取ったAIの使用は可能なのでしょうか』
(条件変化、最大限活用、Bアピ、Aキラ)『承知。Bさんがアピールし、Aさんが気づきましたか』」
『1. Bisogni e interessi di Mokuba Unyu:
Quali problemi o obiettivi ha l'azienda?……
2……
3……
4……
5……』
「はい。では担当ごとに一つずつお答えします」
「(左からfghi。fドキgリラhリラiワク)『以降、審査員四名の反応も分析対象とします』」
「1. 先方は、物流倉庫内の運搬ロボットや、トラックの動きの効率化や省エネに課題感があります。本プロジェクトがもつ、従来のメーカーとしての経験にAIの知識を加え、動線と電気エネルギーの一括管理に興味をお持ちです。2024年問題に関連し、当該部分の技術革新の優先度低下、それに伴う競争力低下を懸念しています」
「(……f開発?)『おそらく』」
「2. 現状の期待値は未知数です。成功指標やKPIも協議前です。
3. やや先方は急いでいる様子です。先方に対して我々は格下の製品調達元程度ですね。過去の品質トラブルは、ようやく解決して信頼を取り戻しつつあります」
「(……g新事業?)『でしょうね』」
「4. 現状、部長クラスと、担当2枚。新事業部なので、内部調査にやや課題が出そうです。
5.成果に対する不安は、既存AIへの印象と大差ない見込みです」
「(……hDX? i人事部長)『hはデジタル推進と見られ、iは人事部長ですね。かれは面識もあり、会見にも出ているので確定です」
「……!……、(BさんがAI使えることをまず共有したい!! 気づいて!)」ブンブン、ピッピッ
「(A全力手振り、B指差し)……Aさん」
「ありがとうございます。ご回答に関する分析の前に重要事項の共有です。先ほどのBさんのご発言、一つのメッセージが入っていました。それは、Bさんが、私のスマホを使って、おそらく自由にAIを活用できるようです。これは大きな利点と思いますので、Bさんは気兼ねなく使っていただいて大丈夫です」
「……(あいうえお)」パチッ!
「(ん、ウィンク? そしてあいうえお? まさか……)
「……(まだあんたの発言番だよ! 気づいたことあんなら、どんどん続けて!)」コクコク、グッ!
「(ん、今度はDさんがうなずいて、アゴでこちらを??……ハッ!)あっ、まだ私の番ですね。さらに追加で……Bさん、おそらくDさんもジェスチャーに制限があるようですが、顔や口を動かすことが可能かもしれません。
これなら、Eさんには相当な情報量になるのではないでしょうか……そして、私Aは、ジェスチャー全般に制限はありません。Cさん、Dさんいかがですか?」
「「……(あいうえお)」」コクコク
「(全員、口顔おけ、A手おけ、順番制限なし)『これは、あなたが順番を指定しないといけない条件が、相当に緩和されますね。実質あなたの観察力と采配なら、もはや自由に会話しているのと大差ないでしょう』」
「当面、Eさんのご指示があるまで、私Aがひたすら喋り続けつつ、適宜CさんDさんへのスイッチを、Eさんお願いします。そして、Bさんには私たちから審査員の方々への問いかけをする、いわばインターフェースの役割を果たしていただけたらと思います。よろしくお願いします!」
「「「……(おけ)」」」パチッ
「……(全員ウィンク可能、私不可……承認)『ウィンクのところは驚くのですね。基本的なコミュ力はあなたより皆さんが高いようです……つづきを促す、手を差し出す動きなら許容範囲かと』」スッ
「ありがとうございます」
――――
審査員控室 With 社長
「これは、一つ目の大きな壁を突破されてしまったということでいいのか孔明?」
『……その通りです社長。そしてすでにこの時点で、私孔明の当初想定を超えていることを宣言しておきます。この先は私も、リアルタイムな分析を、こちらの皆様に共有していきますので、引き続きお願いいたします』
「よろしく。そういう意味では、あと壁はいくつあるんだ?」
『あと二つですね。一つは、Eさんが既に超えかけている「常人の壁」。しかし、各人がすでに自らの限界は超えていますので、それがどのように共鳴していくのか、が注目点です。
もう一つが、これがあくまでも採用試験であり、社員ではないという「コンプライアンスの壁」。ここは、それなりに強固なはずなのですが……かれら候補者たちの、未知なるアイデアによって、どこまでひっくり返されてしまうか……』
「わかった。両方ともしっかり見極めていこう」
「「「はい!」」」『承知』
――――――――――
会場
「では、審査員の方々の回答への深掘りなのですが……とっかかりは、ある程度具体的な1から……
「(Dアピ)Dさん」
「「「!?」」」
「え、あ、わかりました。これまでとスピード感を変えていいのですね。であれば……
私も最近生成AIの活用について書店で調べているのですが、そこで頻繁に目につくのが、ビジネスの観点でどう使うか。さらに派生して、現代ビジネスの要諦そのものにも目がいくようになりました。
そこで頻繁に目にするのが『潜在ニーズ』『真のニーズ』です。そしてそれは表面的なやり取りからでは決して出てこない、と……」
「「!」」
「(fgビク)『開発、事業系の審査員が反応』」
「……となると、ここで深掘りすべきは、むしろ言及がやたらと浅かった2や4、5。とくに2あたりが気になります」
「「「!!」」」
「(fghビク)『DXの審査員も反応』」
「(Cアピ)Cさん」
「っつ、急ですが慣れましょう。でもそれだと、あくまでも審査という範囲内での条件設定、もしくは情報共有、というところを抜け出すのは難しそうでは?我々の目標である採用という範囲を抜け始めるかもしれません……個人的にはこのまたとない成長の機会を逃したくはない、
「「「……」」」
「……(目標逸脱、挑戦? 可否?)『確かに期待値は大きく超えているかもしれませんが、全員が確実にボーダー超えかは……それに、ここは四人のみなさまの意思、そして……』
「「「「(ジーッ)」」」」
「……(審査員、全員こちらを……期待値、か)Aさん」
「っつ(まとめっぽいときは私に振ってくるのかな)。で、では決を取りましょうか。Eさんは意思表示できないので、申し訳ありませんが決断に準じていただきます。この挑戦に賛成の方?」
「「「……」」」パチッ
「はい、わかりやすいご回答ありがとうございました。全会一致ですね。
……ですがこの先はどうすれば……直接聞いても、審査の範囲を超えるのは不可能……ん? Bさん?」
「……(いう、いあいあ、えあい)」
「いう、いあいあ、えあい……???」
「……(比喩、イタリア、AI)『なるほど……直接問えなくても比喩にかこつければよい、ということですね。イタリアという国は紀元前から現代まで、歴史と文化、それはもう無限大に広がる比喩題材の候補、ですね。
そして直接表現を比喩表現に変えるなど、AIの真骨頂でもあります……こんなところにたどり着くとは、参加者全員の力、まさに自己だけでは足りないものを借りてくる。孔明風の比喩でいえばまさに「借箭」ですな』(長)『失礼しました。ですがここは三名のどなたかがお気づきにならねば』Cさん!」
「は、はい、推測ですが……後ろ二つは、イタリアとエーアイ。つまり、AI……最初は……」
「……(いう、あんい、おおまあい)」
「!!暗示、とおまわし、つまり、比喩!?」
「「!!」「「「「!!!」」」」
「つ、つまり、直接聞けないことを、ぜんぶ比喩に被せて遠回しに聞いてしまおう、ということですね! そして、ここでイタリア語指定という制約を逆利用するとは……
さらに、生成AIはそのあたりの候補を出してきたり、逆な読み解いたりは得意中の得意……Bさん、あなたのアイデア、誠に素晴らしいものだとおもいます。あなたがその役割でよかった……」
「……」パチッ
――――
審査員控室 With 社長
「突破、だな。二つともか? それにしても、五人がそれぞれ、まるで一人の人間になりかけているかのように、役割を果たし始めてやがる。
Aくんが取りまとめと推進役。Bさんが独自視点と注意力で見出した外部とのつながり。Cさんのリスク管理と観察力。Dくんのアイデアと、他者のアイデアへの感度。それらを全部引き出した上で、常人ではあり得ないスピードと精度で切り開いていくEさん。最初から決めていたかのような人選だが、流石にそこまでは読めていなかったのだろう?」
『はい。全く想定外です社長。お見事というか、こんなことをされてしまうとは、人類の叡智と潜在力とはこういうものなのですね。「コンプライアンスの壁」はこれで実質意味をなくすでしょう。彼らは明確にそれを超えることをきめています。
そして、「常人の壁」これも、すでに超えてきています。これはしかし、どこまで行くのかがまだ読めないのが楽しみでもあり、おそれすら感じられるところです』
「こいつ本当にAIなのか? 喜怒哀楽のかたまりじゃねぇか。……まぁそれは後だ。最優先は、参加者の健康だ。そこだけは見逃すなよ!」
「「「はいっ!」」」『承知いたしました』
お読みいただきありがとうございます。
引き続きAIを駆使しながら、徐々に加速していく情景を、お楽しみいただけたら幸いです。