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四十四 連環 〜科学と魔法とAIと人と〜 2 鬼謀

要約: 言語の壁が、候補者たちを襲う!


 この数話は、スピード感や雰囲気を重視したため、かなり内容を追いづらいかもしれません。

 だいぶ先ですが、あるキャラが当時の話を克明に解説したバージョンを、第二部第七章、百二十六話以降に掲載しました。

 内容をしっかり追いたい方や、未来の展開が気になる方は、そちらもお試しください。

同日 二次審査最終 審査員控室 

 審査はまだ始まって一分も立っていないが、審査側は、あまりに過酷と見られるグループワークのテーマと、それに相対する、まともな発言が禁じられた特異な応募者の挙動にざわつき始める。


「以下が、彼らに与えられた課題ですね。


『皆様は、新事業創出のプロジェクトを成功に導きました。その結果、当社の主要顧客、かつ業務連携先である、物流業界最大手の木馬運輸に対して、このプロジェクトの成果を用いた事業連携の申し入れをしてもらいます。成功に導くため、最初のうち合わせ前にできることを提案してください。

 なお、プロジェクトの内容は本質的に関係ないため、適当に「あれ」とか「あの事業」として話を進めて問題ありません』


 テーマはテーマで、新卒採用に与えるグループワークの域を少々はみ出している気もしますが、各人に与えられたルールや制約が、これまたエグいのなんの。孔明は彼らに恨みでもあるのでしょうか?」


『否。彼らの希望配属先や、こちらが想定した配属候補の皆様に評価をしていただくには、これくらいの負荷をかけたほうが良い側面が一つ。

 もう一つは、かのジョーカー様の存在です。あの方がいるおかげで、相応の調整を入れておかないと、大半の課題は容易にやり遂げてしまうという側面でございます』


「だが孔明、ここまで見る限り、これでも問題なく進んでおり、むしろあの子の特質がより引き立つ形になるかもしれないな。まあいい。やはり最後まで見ないとなんとも言えないな」



――――

二次審査 会場

 特異な進行役が、特異なスピードで、あとの四人の連携を高めていく。進行役に許可されたのは発言順の指定のみ。そして四人にとってその指定は絶対の制約。


「ではAIを活用できるAさんお願いします」


「そしたら、審査員への質問内容を整理したのでここからBさん、お願いします。

 

1. 木馬運輸のニーズと関心事:

 先方がどのような課題や目標を持っているか。

 具体的にプロジェクト成果のどの部分に興味を持っているか。

 彼らの短期的・中期的なビジョンや戦略に関連する情報。

2. プロジェクトの成果に対する木馬運輸の期待

 成果がどの程度先方の事業目標に貢献できるのか。

 特に求めている成功指標やパフォーマンス指標があるか。

3. 現状の業務連携状況と過去の事例

 現在の業務連携の進捗状況や問題点があるか。

 過去の事例や、木馬運輸が他社と連携した際に成功・失敗した要因があるか。

 これまでの関係をさらに深化させるための特別なポイントがあるか。

4. 木馬運輸側の社内体制や意思決定プロセス

 先方の組織構造や、意思決定に関与する部署。先方の調整プロセスやキーマン。

5.リスクと懸念事項

 木馬運輸側が懸念しているリスクや障害があるか。

 成果に対する不安や改善点についての要望があるか」


「(質問候補全文、長い)『おおよそ推測できるので共有不要です』

 ……Bさん、お願いできますか?」

「え、あ、すいません、これだと……」

「(AポカCリラDジロ、B制限打破)『あり得るのはDさんだけでしょうね』

 ……Dさん、お待たせしました。お願いします」


「え、あ、ここで? いいんですか? ありがとうございます。

 では……Bさんは嫌がっているわけではなさそうですね。となるとおそらく質問にはなんらかの制約がかかっていそうです。しかもそれを自ら明かすことはできない。明かせるなら話さない理由はありませんからね」

「(AムズBニコCニコ)Cさん、お願いします」


「うん、まずはAさんに、想定されるBさんの制限の候補を上げてもらいましょう。それを絞り込むのは……ほんとは、えっと、Eさん?」

「(あっ、まだでしたか……)」コクリ

「Eさんならおそらく表情かなにかを読み取って、分析できてしまうのでしょうが、その分析結果を伝えることができないのでしょう。

 ……となると、私とDさんの二人で、Bさんの表情や反応、サインを読み取るしかありません。そしたらEさんが、謎の力で正解に近い方を引き当ててくれることを期待します。Aさんは、ひたすら候補をある程度のテンポで出力お願いします。よろしいですか?」

「「「!!!」」」


「(C、GJ!)Aさん、お願いします

 (??Aアセ?)『焦り、ですか……もう少し進めつつ推測しましょう』」


「分かりました……

 …Bさんに対して考えられる制限は5つです。これらを一つずつ確認し、実際にどれが当てはまりそうか、皆さんと一緒に絞り込んでいきましょう」

「「「……」」」

「質問回数の制限」「……」

「質問形式の制限」「…?…」

「質問内容の制限」「……」

「審査員の対象制限」「……」

「時間制限」「……」

「「……」」


「(BムズCムズDチラ)Dさん、お願いします」

「うーん、私ですか……はっきりわからなかったのは、Bさんにもピンと来なかったのかもしれません。ただ、その中でも、形式、のところでわずかに動きました。おそらく、もっといい選択肢がくると思って来なかったのでしょう。

 となると深堀は、形式、ですね……」


「(Aリラ!Bムズ)Aさん、お願いします。」


「では、形式に関連し、候補を十に増やします。一つとは限らないので全部チェックします」

「「「・・・」」」

「質問言語の指定」「!!」

「質問内容の語数制限」「……」

「質問形式の選択肢『はい』『いいえ』」「?…」

「質問のタイミング制限」「……」

「質問は順番通りに行わなければならない」「……」

「質問の文末形式の指定」「?…」

「審査員の指定」「……」

「質問に使える文法制限、疑問詞など」「!!」

「質問は相手の同意を得てから」「……」

「ジェスチャーを伴う質問」「?…」

「「……」」

「(CリラDムズ)Cさん、お願いします」


「明確な反応は、言語、と、疑問詞の二つです。おそらくこれは確定でしょう。ただ、他にもいくつか反応があったのですが……

 関係ないなら無反応で、さっきと違ってかすっている、というのでもないし……あっ!

 これは、否定のサインもしれません」

「「!!」」

「ならば、はいかいいえで答えられる質問はできない。形式は比較的自由。ただしジェスチャーは禁止」

「!!」


「(Aジロ)ではAさん、お願いします」

「あ、もういいんですね。ではいきます。

 …二十あれば流石に行けるでしょう……」

「「……」」

「英語」

「中国語(標準語)」

「ヒンディー語」

「スペイン語」「?…」

「フランス語」「?…」

「アラビア語」

「ベンガル語」

「ロシア語」

「ポルトガル語」「?…」

「ウルドゥー語」

「インドネシア語」

「日本語」「?…」「??」

「ドイツ語」「?…」

「ペルシア語」

「スワヒリ語」

「タミル語」

「トルコ語」

「イタリア語」「!!」「「!!」」

「タイ語」

「韓国語」


「(CムズDリラ……!)Dさん、いえ、Cさんお願いします」

「「「??」」」

「なぜ言い淀んだのでしょうか……反応は明らかにイタリア語でした。おそらく他で反応したのは、ヨーロッパ系の近しい言語だったから、でしょうね。

 Bさんの制約のキツさは置いておいて、なぜそこでEさんは迷ったのか……ん、そういえば、日本語にもわずかに引っ掛かりがあって不思議だったのですが……

 あ、そうか。おそらく答えは日本語でかえってくる、ですね」

「「「!!!」」」


「そして、じゃあどうする、というところなのですが……これは本当にどうすれば……

 Bさんは直接訳すことはできません。訳せるならやれているはずなので。となるとここはAさん頼りになってしまいますが、伝言ゲームが生じるリスク……ん?」


「(あ、Aジロ)え、あ、Aさんお願いします」

「……このルール、こんなところで使うことになるのですね。一つ私に追加の権利がありました。『他の人に自分のスマホを渡すことができる。渡された人は音声を発することができる。しかし一度渡したスマホは、審査中は帰ってこない』

 確かに私がイタリア語なんかに訳したところで、そしてそれにカタカナ発音を伝授して、失敗するのがオチです。

 しかし他に選択肢がないのであれば、ここは皆さんとその是非を問いたい。手を挙げられる人だけでいいです。ここで私がAIをすて、この一瞬にかける。これに賛、いや、それだとだめですね。反対の方は挙手を」

「「「「……」」」」

「ありがとうございます。

 ……では私がAIを使える状況はここまでで、あとはお二人?三人?同様に生身で勝負させていただきます。


 では、最初の質問リストを、私の方で、いわゆる5W1H形式にかえたものを、イタリア語に訳させたものをつくります。わかる人はこの場にいないと思いますが、審査員が分かれば良いので大丈夫でしょう。


 ……


1. Bisogni e interessi di Mokuba Unyu:

Quali problemi o obiettivi ha l'azienda?

Quali parti specifiche dei risultati del progetto interessano a Mokuba Unyu?

Quali informazioni sono condivise riguardo la visione a breve e medio termine o le strategie di Mokuba Unyu?

2. Aspettative sui risultati del progetto:

In che misura i risultati del progetto possono contribuire agli obiettivi aziendali di Mokuba Unyu?

Quali indicatori di successo o di prestazione cerca Mokuba Unyu?

3. Situazione attuale della collaborazione e casi passati:

Qual è lo stato di avanzamento e quali sono i problemi attuali nella collaborazione con Mokuba Unyu?

Quali sono stati i fattori di successo o di fallimento nei precedenti casi di collaborazione con altre aziende?

Quali punti particolari potrebbero approfondire ulteriormente la collaborazione con Mokuba Unyu?

4. Struttura organizzativa e processo decisionale:

Qual è la struttura organizzativa di Mokuba Unyu e quali dipartimenti sono coinvolti nel processo decisionale?

Chi sono i principali attori che guidano il processo decisionale all'interno di Mokuba Unyu?

5. Rischi e preoccupazioni:

Quali rischi o ostacoli preoccupano Mokuba Unyu?

Ci sono richieste di miglioramento o preoccupazioni riguardo i risultati del progetto?」


「「「……」」」

「(AドキBドキCドキDドキ『ここは緊張は不可避でしょう。次のステップで建て直しましょう』)」


「ではBさんに渡します。スピーカーはオンです。切り札にもなる可能性があるので、この場ではロックを解除しておきます。

 信じてますよ。未来の同僚さん!」

「「「「!!!!」」」」



――――

 様子を見る審査員控室の人事担当者とAI孔明。まだ開始五分たっていない。


「「「「…………」」」」


「……わ、私たちは何を見せられているのですか? 推理系アニメ? 心理戦マンガ? そして最後は学園感動ドラマ? しかもこれでまだ本題に入ってすらいない……」


「時間はまだたっぷり残っているんだよな……情報量がとんでもないのは、いわゆるEさん、ジョーカーにつられて全員の思考や洞察が急加速してしまっている影響かな」


「かもしれませんね……

 そろそろ、個人個人に与えられた制約、覗き見してもよろしいでしょうか?」


「まあいいだろう。わかりやすくAからEつきだ。


『A 発言は自由

・AI 許可。また、他の人に自分のスマホを渡すことができる。渡された人は音声を発することができる。しかし一度渡したスマホは、審査中は帰ってこない。

・附則 全メンバーは、進行役が指示された時しか発言できない。ただし、新たな指示がくるまで制限を受けない。

・禁止事項 上記制限以外なし

・評価項目 全体の成果及び、自身の貢献度の総合評価』


『B 聞かれたことへの回答しか発言できない。

 ただし、イタリア語、かつ疑問詞が明示され、はいかいいえで答えられない質問に限り、審査員に質問できる権利を持つ。返答は日本語で行なわれる。

・AI 持込不可

・附則 全メンバーは、進行役が指示された時しか発言できない。ただし、新たな指示がくるまで制限を受けない。

・禁止事項 

 1. 審査員から目視できるジェスチャー。ただし、あなたは全審査員に背を向けている。

 2. 上記権利の内容を自発的に他者に能動的に知らせること

・評価項目 全体の成果のみ。貢献度は対象外』


『C 発言は自由。ただし手を使ったジェスチャーは禁止。

・AI 持込不可

・附則 全メンバーは、進行役が指示された時しか発言できない。ただし、新たな指示がくるまで制限を受けない。

・禁止事項 上記制限以外なし

・評価項目 全体の成果のみ。貢献度は対象外』


『D 発言は自由。ただし手を使ったジェスチャーは禁止。

・AI 持込不可

・附則 全メンバーは、進行役が指示された時しか発言できない。ただし、新たな指示がくるまで制限を受けない。

・禁止事項 上記制限以外なし

・評価項目 全体の成果のみ。貢献度は対象外』


『全体進行せよ。ただし発言順のみを指示せよ

・AI 自由。ただし現場での効果を想定していない

・附則 あなた自身への評価はすでにおおよそ定まっており、最終審査への通過は決定しています。ただし、あなたの行動が、他の参加者の合否に影響する可能性があります。

・禁止事項 発言を促す以外の行為。ただし、他の参加者には、あなたの指示した発言順以外での発言を禁止しています。

・評価項目 なし』」


「「「うわぁ……」」」


「一見自由度が高めに見えますけど、ガッチガチに制約がかかってますねこれ……CとDは同一ですが、本人の特性で差が出てますね。

 それに……よくみたら、手を挙げられるのAしかいないじゃないですか! あの場面なんだったんですか!」


「いや、反対しようと思えば首振りでもできたから結論はかわらんさ。間違いなくあの場で、Aは承認されたんだよ」


「そうですか……それなら安心です。

 ……それにしても、Eさんだけじゃなくて、このグループ全体に対する無茶振りが過ぎるようにも見えるんですが、どうなのでしょう? 孔明?」


『ある程度Eさんを基準にしてしまっているのは否定できません。ただ、会社としても、この方々にしてもらいたいことを考慮すると、ここでその実力を深く見極めた上で、連携の素地を作っておきたい意図があるのです。

 もちろん、あまりに特異的なEさんを、孤立させないため、というのが最大の理由です』


「「「なるほど……」」」

お読みいただきありがとうございます。

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