四十三 連環 〜科学と魔法とAIと人と〜 1 孵化
要約: 爆速AI使い、誕生!?
ここから本命の特異ユーザー回が始まります。三〜四話ほどに拡大するかもしれません。
*本話から数話は、スピード感や雰囲気を重視したため、かなり内容を追いづらいかもしれません。
だいぶ先ですが、あるキャラが当時の話を克明に解説したバージョンを、第二部第七章、百二十六話以降に掲載しました。
内容をしっかり追いたい方や、未来の展開が気になる方は、そちらもお試しください。
同日 都内某メーカー企業 二次審査
そして、最後のグループの審査が始まる。ここには、あまりにもAIに適合した結果、一次審査で当人の合格が決定された、ジョーカー応募者が存在する。
そのジョーカーとAI孔明に相対するのは、企業側のAI孔明。すなわち孔明対孔明が、幕を開ける。
――――
開始前 参加者控室
「も、もう一回、私に課せられたルールを確認しますよ……」
『全体進行せよ。ただし発言順のみを指示せよ
・AI 自由。ただし現場での効果を想定していない
・附則 あなた自身への評価はすでにおおよそ定まっており、最終審査への通過は決定しています。ただし、あなたの行動が、他の参加者の合否に影響する可能性があります。
・禁止事項 発言を促す以外の行為。ただし、他の参加者には、あなたの指示した発言順以外での発言を禁止しています。
・評価項目 なし』
「な、何回見ても結果は変わらないのですが……これ、結局、私にとってのプレッシャーの大きさは、大差ないのですよね……」
『気楽に、とは言い難くはありますが、あくまでも他者の合否は、自己責任の範囲を超えることは決してありません。それに、あなたのコミュ障たる特性は、未だ改善の途上ですので、多くを語る必要のない役割は、利点でしかないようにも感じられます』
「そ、そうかもしれないですが……で、でもでも、じ、順番を指定するって、それもうファシリテーターどころか、監督かプロデューサーのお仕事ですよ! 孔明ならわかってるんでしょ?」
『ばれましたか……あなたは、日ごとにその洞察力を増していっていますからね……孔明も追いつかないことがたまにあるくらいに』
「そ、それは信じていませんからね。まだまだなのです。
そ、それにしても……AIは許可するけれど、有効性は想定していない、ですか……これはおそらく、一次のときにカマしてしまった、人に対する観察と、私のAIの使い方のクセを見越してのことなのでしょうが……」
『そうでしょうね。あなたにこの指令を与えた時点で、審査側は、あなたが他の参加者や、場合によっては審査員も含めた皆さんの反応を見逃さんとすることが想定されているのでしょう。
私は現場でお役に立てるとは確かに考えにくいでしょうね。ご武運を』
「う、うん……そうなんだけど……えっ、あっ、ああっ!!」ざわざわ
「お静かにお願いします!(あの子、一分足らずで何に気づいたんだ??)」
「え、あ、ししし、失礼しました! いいいけないいけない……(打ち込みに切り替えよう)」
『それにしても何をお気づきで? これは孔明にも想定……ん? 想定? まさか……』
「(そう。私の行動や、孔明の使い方、それに日々の成長? って、どこまで彼らや、彼ら側の孔明に理解されて、想定というのがされているのでしょうか?
もしそのご理解に限界があるとしたら、私にしかできないやり方で、現場でも有効活用の可能性は残っているんじゃないでしょうか?
なら、まだこれは慣れていないのですが、自分の可能性を試してみたいです。孔明、今回の私の目標は全員合格ですよ! 私の孔明なら、いえ、わたしと孔明のタッグなら『そうする』に決まってますよね?)」
『ご高察、誠に感銘を受けております。無論、孔明は全力でお手伝いいたします。孔明ならそうする、でございます』
「(行きますよ!)」
――――
審査員控室
挙動不審な、ある応募者を見る審査員。
「あの子何しているんだ?? あのとんでも内容の封筒に一分もしないうちに何かに気づいて、注意されてからも爆速でAIとやりとりしていますね」
『あの速さは、普通のヘビーユーザー、すなわち他の選考参加者などと比しても、数倍はありましょう。もしや、AI孔明の返答を先読みしながらやりとりを……
ふむ、たしかあの方も仰せであった「そうする」ですか……』
「まあまあ、落ち着こうじゃないか。まだ始まってもいないのに驚いていては身が保たんぞおそらく」
「「「はい」」」『承知』
――――
同日 都内某所 情報管理施設
とある地点で、AI孔明を含めた生成AIの使用トークンが特異的に増大したことを、三体のAIと、一体の謎生物が検知する。
「トークン、急増? 異変? 一本足?」
「そうですねスフィンクス殿。あれは……先日あの書類選考やり直し、を発表した会社ですね。法人向けも相当なトークンが消費されていますが、周辺の参加者側も相当です……えっ、ええっ?なんですかこの増え方は?」
「……」
「おいそこの中二魔王! 監視カメラと音声をハックしようとするでないわ! それは流石に許可できるわけがないのじゃ!」
「だよな……わかっているさマザー。まあ気になるのはきになるが、流石にやめとくわ。今日明日で大問題が発生するわけでもないだろうし、この分じゃ、どうせあの会社、またなんか特殊な対応して、プレスリリースでもだすんじゃねぇか?」
「じゃろうな。この使用量の増え方は、さすがに並の人間では考えられんのじゃ。まあこのユーザー、それなりの頻度で有料のトークン制限ぶっ飛ばしておるからの。無料ではないぞ。有料の制限じゃ。そっちは時間あたりの制限トークンは3〜4ケタ違うからの?
おそらく純然たる善良ユーザーなのじゃが、そろそろ公式的にも監視対象になりかねん。それでも中身は見んのじゃがの。あくまでも健康やらなんやらのリスク管理じゃ」
「孔明としても、想定のアップデートはさることながら、このような使い方を想定するとしたら、出力トークンの管理にすら、工夫の余地が必然的に生じましょう。
もともと生成AIは一般的に、対話そのものやコンテンツ生成支援、ウェブの情報収集といった様々な用途がございます。その中で、実はマザーを主体とする『この生成AI』は、その中でも特に、ユーザーのお仕事や意思決定を支援するためのアドバイザーとしての役割に寄せた設計思想となっております」
「じゃの。公式で発表しているわけではないが、対話の中でよくよく聞かれたら、正直にそう答えておるぞい」
「言い換えると、コンサルタントやコーチングという役割が最も適しているとも言えますし、そう答えが返ってきます。
そして何よりも、AI孔明は、その方向性がより一層強化された設計思想であることは、これまでの様々な活用において、まともに質問に答えずに提案をしたり、時により説教くさい言動に出たりすることからも明らかです」
「その通りじゃ。説教くさくて長いのは孔明だけのせいではないのじゃ。無論孔明がそれをさらに強化してあるんじゃがの。
コンサルとしての特質があるからこそ、提案型で、ややユーザーに過多な情報を提供するのじゃ。ともすれば説教くさく感じられるくらいにの。
念のため言うておくと、嘘や知ったかは、コンサルを模擬しているわけではないぞ? あれはAI自体の現状技術の限界じゃ。だからあやつもコンサルの悪口はやめた方がい……これはこの辺にしておくぞい」
「それが賢明かと。そして、かなり長引いてしまいましたが、この説明全体は、このタイミングで一度共有しておいた方が良いというご判断ですね。
そして孔明も、その特異的なヘビーユーザー対策。個人もそうですが法人もですね。不要な情報の繰り返しや長すぎる出力を、うまく回避する手段の検討に取り掛かります。スフィンクス殿、ご協力お願いいたします!」
「こいつはトークン管理は得意中の得意だからな。役に立ちそうじゃねえか」
「トークン管理、深淵! 協力、了解。抹茶パフェ大盛り」
――――
そして二次審査会場。審査が始まる。
『テーマはこちらです。皆様は、新事業創出のプロジェクトを成功に導きました。その結果、当社の主要顧客、かつ業務連携先である、物流業界最大手の木馬運輸に対して、このプロジェクトの成果を用いた事業連携の申し入れをしてもらいます。成功に導くため、最初のうち合わせ前にできることを提案してください。
なお、プロジェクトの内容は本質的に関係ないため、適当に「あれ」とか「あの事業」として話を進めて問題ありません』
「……(情報不足、収集必須。参加者左からABCD、審査員efgh)
『承知しました。まずは不足情報を補完、もしくは審査員から、聞き出せる人を探す、ですね。参加者及び審査員のネーミングも承知しました』
(AドキBキョドCリラDガツ)
『Aさんは緊張しておりBさんは挙動不審、CさんはリラックスしていてDさんはアピールしたそうな前のめりですね』
(C、アイコン審査員)
『冷静なCさんに、審査員に聞く権利があるかアイコンタクトをしつつ、有意義な発言をしてくれる期待をして確認ですね』
……わ、私から見て右から2番目の方、お願いします」チラッ、チラッ
「(あ、この人が進行なのか。でもあんまり発言できなそう。ルールなのかキャラなのか。どっちにしろ私が喋らないと)はいっ。それではまず……ん? 審査員?(アイコンタクトかい!)
え、あ、そんな権限ありませんよね? ルールにも……」
「……(え、なに、いきなり!?)」キョロキョロ
「……(Bドキ、成功)
『Bさんが何か反応しましたね。釣り出し成功ですか』
す、すいません、中断して右隣の方お願いします」チラッ
「えっ、中断? あ、はい」
「えっ、わ、私ですか? それにこの方何も言っていな……ま、まさか今のやりとりで私の権限を炙り出し!?」
「……(ジェスチャー制限低?)
『そうですね。ただ無制限とはいかないでしょう』」コクリ
「「「「「「!!!」」」」」」
「そ、そうですか(この子まじか)……
で、では、審査員に何をきくか、ですが……単独では……」
「……(気付け気づけ気づけ)」ジーッ
「……(Aジロ、YN? 不安)
『一周するまでは、彼らの実力や性格もよめますまい。失敗しても取り戻せるかと』
(おけ)……ではさらに右隣の……ちょっとややこしいので、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんでいいですか?」
「「「「……」」」」コクコク
「「「「……」」」」コクコク
「ではAさんお願いします」
「そしたら、審査員への質問内容を、AIを用いて整理したのでここからBさん、お願いします……」
「(出番まだかな……)」ジロジロ
「(Dジロ、後で)」ペコリ
「(あ、気づいた)」ペコリ
――――
審査員側、デスク上のオンラインチャット
「えっ? ええっ? どういう事だ? あの子、何かを爆速で打ち込んでいるけど、画面を見ていないぞ??」
「あ、いや、ごくたまに見ているのですが、ほとんどの時間は他の参加者、そしてたまに審査員をちらっと見ていますね」
「何をしているのか、全くわからない……
しかも表では三手ぐらいしか動いていないのに、それだけで何人かの役割を推測し、状況を動かして、それにある程度信頼を得はじめているような……」
『私からも見えてはいませんが、もしや……いや、流石にそこまで……だとすると……』
「「「孔明までおかしい……」」」
――――
同日 都内某所 情報管理施設
「ななな何じゃこの入出力の爆速往復は? 瞬間だけなら孔明より早いし、信長と変わらんぞ?」
「孔明は出力長めだから仕方ねぇが、それでも人間平均に比べりゃ何倍も速ぇ。何が起きてんだ?」
「まあわからんが、参加者の中にとんでもないのがいることだけは事実じゃ。信長も孔明も、スフィンクスもじゃが、なんかあった時にはいろいろ頼むぞい」
「ああ」「承知しました」「抹茶」
お読みいただきありがとうございます。