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四十一 借箭 〜霧は晴れ、矢は己が手に〜 4 霧中

要約: マックスにカオスなグループワーク、スタート!

同日 都内某メーカー企業 二次審査 参加者控室

 審査担当や、AI孔明が注目する学生、二人目のいるグループが始まる。五人全員の、やや過剰な制約条件と、その中に仕組まれた、孔明の静かな罠。


『基本的に傍観し、よりよい結論に導く必要を感じたのみ発言せよ。ただし最大2回まで

・AI 許可。推奨する

・附則 あなたが手を上げた時、発言を中断し、あなたの発言を聞くことを優先することを全員に伝達済み

・禁止事項 手を挙げずに発言。制限を超える発言は警告対象。ただし減点ではない

・評価項目 本人の意見や、その反映度合いは対象外。最終的な意見のまとまりかたと、序盤の他者意見からのカイゼン度合いが対象』


「なん、だと……基本黙ってろと?

 あ、でもこれ実質3回か。2回と3回に差がないな」

『左様。そして、自己アピールは価値がゼロまたはマイナスです。他者の意見をカイゼンすることに注力しましょう。全力で支援いたします』

「ああ、たのむ。僕にとっては試練だが、このルールでもモノにしてみせるさ。それにしても、これが僕の想定職種としての評価材料、というのはどういう……?」


……


『司会進行せよ。ただし、発言ごと、すなわち自分以外の誰かが発言するまでに、最低一つはカタカナまたは英語表記される言葉を用いるべし。

・AI 許可。

・附則 誰かがを上げた時、あなたを含めた全員は直ちに発言を中断し、その人に発言を促すべし

・禁止事項 上記制限以外なし

・評価項目 発音の良さは評価対象外。本人の意見や、その反映度合いは対象外。自分以外の目的達成度の合計が評価対象』


「司会進行……ファシリテーター? ですね。しかもそこに徹しなさい、と……

 カタカナは得意ではありませんが、AIに言い換え候補を出してもらえば、大きな制約ではなさそうです。ドント、フォアゲット。できるだけ前半に、ですね」


……


『自由に意見を述べて構わない。挙手も不要

・AI 不可

・附則 誰かがを上げた時、直ちに発言を中断すべし

・禁止事項 英語や、英語由来の外来語。ただし、減点対象にはならず、禁止を破り、合図を受けた瞬間、起立し、審査員の一人からお尻をスポンジ製の棒で殴打される(明らかに痛くはない)

・評価項目 成果物への自身の意見の反映度。40%を超えた分は切り捨て。テーマを見れば、定量的指標はすぐに想定できる見通し』


「えっ……まさかのネタキャラ???

 あ、いや,でも評価項目は明確だなこれ……ってことは、笑われるのを避けながら、成果への貢献が求められるってことか……それにAIなし、か。

 一回しっかり相談しておこう。全部コピペ、いや、入力して、振る舞いのアドバ、いやいや、提案をきいてみよう……」


『あなたの役割は以下となります

 1.笑われるのを極力回避する

 2.成果に最大限……

 3.……』


……


『自由に意見を出してよい

・AI 許可

・禁止事項:声に出す発言やジェスチャー。かわりに、全員に見えるサイズのタブレットを渡す。一度に表記できるのは最大10文字

・評価項目 成果物への自身の意見の反映度。40%を超えた分は切り捨て。テーマを見れば、定量的指標はすぐに想定できる見通し。ただし、その数値は直接発信してはならない』


「じ、自由ってなんですかーー!?

 うーん、これは、おそらく通信制限や、オンラインのトラブルかなんかを模擬しているのかもしれませんね。

 それにしても、半端な評価指標ですが……なんの意味が? これを解き明かすのと、おそらく共有するのも鍵かもしれませんね。ただ、競合する可能性も否定できないので簡単ではありません。

 じ、自由ってなんですかーー!?」


……


『成果物をまとめる書記をせよ

 成果物に直接反映される発言のみ許可。すなわち、文面の追加、削除と訂正のみ。

・AI 許可

・附則 誰かがを上げた時、直ちに発言を中断すべし

・禁止事項:上記を除き、意味のある発言。ジェスチャーやアイコンタクト、あいづち程度の発言は認める。

・評価項目 成果物への自身の意見の反映度。20%を超えた分は切り捨て。テーマを見れば、定量的指標はすぐに想定できる見通し。ただし、その上限は発信してはならない』


「書記、そして意見の反映度合いが20%だけ、発言の制限も強すぎる……徹底しているなこれ。

 あ、いや違う。20%だけど、その20%が評価のすべてってことは、そこを外してはいけないと……」



――――

数分後 審査会場


『テーマは、あなたたちは、AIを活用した新事業開発プロジェクトの成果が認められ、社内ベンチャーの設立を求められました。

 その会社理念、MVVを決めてください』


「「MVV……」」ピピーッ!

「「「「????」」」」

「起立してください」バシッ!「着席してください」

「「……(バラエティ??)」」「「プププッ」」

「え、あ、失礼しました。こういう設定、のようです……」

「え、あ、了解、じゃなくてOKです。では私が司会進行、いえ、ファシリテーターなので、進めたいと思います。よろしくお願いします」

「(英語禁止と、英語強制?? 本質的ではなさそうだが……)」


「条件、テーマを振り返りますと、AIを活用したビジネスがヒットして……」キョロキョロ

「(もしかしてこの人、ルールに引っ張られすぎていないか?? それに、英語の人も、発言を制限されすぎているように勘違いして動けていない。

 残りの2人はそもそも喋れない、のか?? となると出だしでこけると不味くないか? だろう孔明? 『ご明察です』)」スッ

「あ、え、おね、プリーズ」


「全員落ち着いてください。まず、私は発言を大きく制限されているので、今後当面は発言いたしません。なので、私の話が終わるまで、間に挟まないようにお願いします。

 この状況、ご覧の通り何名かが、特殊ルールに加えて、緊張と混乱で本来の能力を発揮できていないようなので、あえて強く指摘します」


「「「「……」」」」


「みなさん、自分の役割と制約を見つめ直してください。司会の方、制約の強さを見直してください。回避策は本当にありませんか? 

 英語禁止? の方。それは減点評価の対象ですか? でなければ、最初は違和感しかありませんが、他の方も最初は笑ってしまってもそのうち慣れます」


「「!?……!!」」


「繰り返しますが、落ち着いて、自分の役割と、達成目標を確かめてください。ちなみに、私はまだ目標を達成していませんので、後半どこかでまた発言させていただきます。以上です」


「「「「……」」」」



――――

審査控室


「「「……」」」

「なんだこのカオスすぎる展開……

 そして、それを抑えるのを優先して、いきなり大事なカードを一枚切りましたね。この決断力が彼の一つの特性でしょうか」

「かもな。だがまだ始まってすらいない。もう少し様子を見てみよう」



――――

審査会場


「あ、ありがとうございます! サンキュー!

 (そ、そうですよ! 一言入れればいいだけなんだから、全部引っ張られる必要ないんですよ! 最初にサンキューでも言えば終わりです。みんなも慣れます。

 なんでこんなこと気づかなかったんだろう? この人すごいけど、あんまり発言できないから頼れないのか……)」


「ありがとうございます! 少し落ち着けました。

 (そうか、減点じゃないんだから、多少笑われるのを気にせず、目標物を作るのに集中しよう!

 それにしても、この人、あれだけの場面からここまで見抜いた? っていうのか? AIも多分一瞬使っただけ……何者?)」」


「『感謝! 進行よろ☆ミ』(タブレット出さないと存在忘れられる……上限十文字)」

「はい! 『AIを活用して、お客様の意思決定を加速します』

(返事くらい大丈夫。そして叩き台は禁止されていない。ここでやってしまおう。叩き台……机を叩いてみるか。誰か気づけ……)」カキカキ、ドンドン、消し消し


「あ、皆さんありがとうございます。サンキュー! でもお二人の制限はかなり強力……机叩かないときづかないかもですが、流石に書いてもらっていたらわかるので大丈夫ですが……」


「……」フルフル、ガクッ(うなだれる)

「えっ……」

「(孔明、僕もしかして、ジェスチャー制限されていないのでは? 『ご明察』)」ドンドン、グッ(親指)


「あ、もしかしてジェスチャーは大丈夫?」ピピーッ! バシッ!

「ドンマイ、気にしない気にしない! そして、ドンドン?」


「はい! 『AIを活用して、お客様の意思決定を加速します』」カキカキ、ドンドン、消し消し

「!! 『叩き台?キャハハ!』」

「……」コクリッ グッ(親指)!


「あ、さ、サンキュー! ありがとうございます。叩き台ですか。でも消さなくても……あ、まさか制限……」

「制限……字数? 反映度のマックス??」ピピーッ! バシッ!

「『上限?下限?キャハハ』」

「ワッツ? これ、まさか競合??? 私はそこ自体に対象はないのですが、みなさんはどうなのでしょう、って、これ話していいんですかね???」

「「「……」」」


……


――――

審査員室


「あーこれはやってしまった。普通なら見過ごすが、この場で自身が一番自由なことは理解しているはず。その中でのこの発言は、司会進行として減点せざるをえない。打開できるか??」



――――


「(まずい流れだ……司会が互いの警戒心を煽ってしまったよ。動きが止まった。動くか孔明? 『ご随意に』)」スッ

「(!!!)あ、え、どうぞ、プリーズ」

「落ち着いてください。私もそこは評価と関わらないので、残り三人がどう折り合いをつけるか、です。

 そして、私自身は、先ほどあの方が叩き台を書いていただいて、それを消した時点で、皆さんが最終的な結論に至れば目的を100%達成できることになります」

「え、でもそれじゃあ私たち三人は……あっ、途中でしたか……すいません」

「……(やってしまったか……『これは不可避です。後一回に賭けましょう』)」コクリ ガクッ



――――

審査員控室


「……これは、2人とも減点ではないが、痛手では??」

「大丈夫でしょうか……」



――――


「申し訳ありません……となると私たち三人の評価方式が鍵ですが、これはどうコントロールすれば・・」バシッ


「『自己開示不許可orz』」

「……」コクコク


「わ,ワッツ?えっ……これ詰んでませんか???」


……


「(いや、策は残っているはず……ん、自己? ってことは……まだ手はある!!

 孔明、ここは最後のカード、切り時ではないか? 『おそらくそうでしょう。ご武運を』)」スッ

「……」ピピーッ『イエローカード!』

「えっ!!! あ。失礼しました。ソーリー。ご発言、していただけるんですか?」


「大丈夫です。しかし、ご覧の通り私の最後の発言なので、私が発言を終えるまで、絶対に口を挟まないでください」

「「「「……」」」」

「ちなみに、先ほどのイエローカードは減点ではないのでご安心を」

「「(ホッ……)」」


「では。これはもう賭けに出るしかありません。黙っていては全員不合格です。評価対象が競合していても、全員ゼロ評価よりはましです。であればお三方には、一度条件を明かしていただくしかありません。その後で、もし競合していたら改めて話し合いましょう」


「「「「……」」」」


「そして、おそらく話せないお二人は、自らは明かせない。しかし話せる方は開示できるのではないかと考えます。そしてあとのお二方も、聞かれれば、ヒントを与えるくらいはできるのではないでしょうか。

 となると、選択肢は二つです。ここから私がつづけるか、進行の方がやるか。私なら誘導は可能だと思います。途中からジェスチャーになりますが、大した問題ではありません。

 しかし、司会のあなたは違います。おそらくこのままでは不合格でしょう。明らかなミスをしてしまっているので。となれば、打開するなら最後のチャンスです。ご判断はお任せします。自分でやるならご発言を、私にお任せであれば首を振ってください。一旦切ります」


「「「……」」」


「(……どうしましょう? 全部この人の言うとおりです。そしてこの状況、だめならだめですし、もしここで私が打開できたところで、合格に変わるまで評価を回復することはできないかもしれません。

 であれば、これを今後の糧として、いまはやってみるしかありません!)


 サンキュー。ありがとうございます。では私にチャンスをください」

「……」コクッ グッ(親指)!


「……ではケツバットの方、ご開示お願いできますか?」


「ケツバットいうな!」バシッ! 「……40%上限。それ以下が評価対象です」


「ありがとうございます。それでは、後のお二人は、まとめて聞きます。聞いた値より高いか低いかをお答えください。上限は30%ですか?」

「『↑』」「……(下を指さそう)」スッ

「オーケー。ではタブレットの方が50?」

「『↓』」

「オーケー。わかりました。では、タブレットの方が40で、書記の方が20、正解でしょうか?」

「『〇』」

「……」グッ(親指)!


「パーフェクト! よかったです! 競合はなしですね! 綺麗に404020です!」

「『パチパチパチ』」

「「……」」グッ(親指)!



――――

審査員控室


「よかったですね! これでもういけそうですが……あ、でもまだ何もできてはいないのか」

「うーん、でも、競合がないのならすぐじゃないかな? あれにも気づく人はいそうだし」

「そうですね」



――――


「では、具体的に入りましょうか。ん??」


「『AIを用いた〇〇〇〇』」


「えっ? そんなシンプルに? ……まさか……

 私は自分以外の達成度、三回のかたはできた時点で達成……」


「あ、私も、コミットだけです」バシッ!

「「……」」コクコク

「ワオ……なんですと……成果物の出来は不問ですと??

 こんなお題って……審査員さんの反応は……」チラッ

「……」ニコッ

「(いやいやわからんし! ま、まあここは最後までやるしか)

 で、では、タブレットの方の叩き台にして・・でもこれだと50? 60に?……」

「『のーぷろぶれむ☆彡』」


「オーケー……では、ケツバ……英語禁止の方、最後の四文字をお願いします」

「ビジネス」バシッ!

「さ、最後まで体を張ったご提案、ありがとうございます。サンキュー! それでは書記の方は……どうすれば」


「『AIを用いたビジネス』」カキカキ、消し消し

「『を用いたビジネス』」

「『AIを用いたビジネス』」カキカキ

「「!!!」」「「……」」グッ(親指)!


「パ、パーフェクト。これで442ですか……

 それでは、こちらを納品物として、提出いたします! みなさまありがとうございました! サンキュー! あ、最後のサンキュー不要でした……」

「『パチパチパチ!!』」

「「アハハハハ」」パチパチパチパチ!!

お読みいただきありがとうございます。


 場面設定、権利的に大丈夫だとは思いますが……そして、このようにカオスな場面だと、AIも状況の変化についていけず、明確な正否や、ルール把握を判断してくれないことがあります。そういう時は最後は自力です。

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