四十 借箭 〜霧は晴れ、矢は己が手に〜 3 共鳴
要約: ドカーンでズキューンな候補、登場!
同日 都内某メーカー企業 二次審査会場
後半に入り、採用側や、企業契約されたAI孔明も注目する三人の応募者、一人目が始まる。孔明の無茶振りが襲いかかる。
「もう一回自分のルールを確認しておくか……といっても間違いようがないくらい単純ではあるんだが」
『 他の参加者への印象を気にせず、独自視点で意見せよ
・AI 許可するが、使用しないことを推奨
・ 禁止事項 とくになし。ただし、下記評価項目を考慮すると、他の参加者が考えつく発言や、他の参加者に配慮するような発言は非推奨
・ 評価項目 発言内容の独自性。AIと審査員の双方が判断。 討論内で取り入れられることは必須としないが、取り入れられた場合はわずかに加点』
「普段の俺とは相当違う気がするが……ここにも会社側の意図があるって考える方がいいんだよな孔明?」
『間違いなく。あなたのもつ潜在的な感性、それは以前は言語化されずに擬音語などにとどまっており、それがあなたの脳筋という評価に繋がっておりました。
そこを、AIによって迅速に言語化できるようになったことで、あなた本来の文章力や表現力が引き出されつつあります。それを生かせるかどうか、そこを見極められている、というのが分かりやすい解釈となりましょう』
「感性、か……そして、AIは使わないほうがいい、ってことは、その言語化力?というところが、この数ヶ月でどれくらい伸びたのか、ってことも評価対象ってことなんじゃねぇか?使ってもいい、というのは、俺がどうしようもなくなったり、他の参加者とのコミュニケーションで事故った時の保険、ってとこかな」
『ご名答です。そこまでわかっておられれば、まず問題ないかと。
そろそろお時間ですね。いってらっしゃいませ』
……
『テーマは、他者と同性能、同品質、同価格の商品の売り上げが下がってきております。その商品を中心に、テコ入れを行ってください。
なお、今回の状況は非常に特殊なケースで、あくまでもこの場のための設定である、とご理解ください』
「では、私が進行だと思いますので、始めたいと思います。私を含めて参加者5名、皆様よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」「「「……」」」
「???(返事が1人だけ?なにこれ?)」
「……」スッ
「え? あっ、どうぞ」
「審査員の方に質問です」
「「「???」」」
「えっ? それは許可されていないはずじゃ……」
「……」チラッ
「封筒……ということは、これは特権、ですか。
わかりました。制限事項などは……」
「……」フルフル
「ん? 明かせない……のですね。承知しました。では質問の方はお任せいたします」
「(この制限、モヤっとするぜ。中身が何通りか考えられるんだが……俺の発言は今じゃねえな)」
「質問は三つです。
一つ目は、性能、品質と価格以外の、知名度やデザイン性などの違いはあるか。
二つ目は、その違いを生み出す要素の中で、要素同士のトレードオフ関係を解消できる要素はあるか。
三つ目は、それらをふまえ、性能の一部要素や、価格のどれかに重きを置く、特化させることが有効になり得るか、です」
「お答えします。答えは三つとも、いいえ、です」
「……」スッ
「えっ、え、私?あ、そうか。何か制限があるのか。分かりました。以上を踏まえると、今回の課題においては、あらゆる要素で、他社製品と差別化する有効な手段はない、と考えるのが良さそうですね」
「「……」」
「え、あ、そうですか……
何人か主体的なご発言に制限がありそうなので、私が振っていかないと、ですね。では、そちらの方ご意見をお願いします」
「(いや、今じゃねぇ)……」フルフル
「ええっ、あなたもですか……
なんだこの設定……はっ!
ではそちらの方、いかがでしょう?」
「はい。これまでの状況を整理すると、少なくとも強い制限か、条件がある方がこの場に2人。さらにまだ発言されていない方もいます。
そうなると、これはすでに通常のグループワークを逸脱しています。ならば、ルールの範囲で早急に状況を明らかにし、対策を立ててから本題に入ることを提案します」
「なるほど、その通りですね!」
「……」
「(え、そこで黙るの?)……!!!
え、あ、失礼しました。ご発言を続けていただけますか?」
「はい。ありがとうございます。ご理解、いただけまして何よりです。
そう。それぞれの制限や、特徴を、明かせる範囲で明かしていくことが大事になりそうです」
スッ「あ、はい、はいー! すいません、そろそろ私も発言させていただけませんか? 流石に寂しいです!」
「「「……」」」
「え、あ、そうですね。最後になってしまい申し訳ありません。お願いします。あなたも何か制限が……」
「あ、いえ、私は指されたのがたまたま最後だっただけで、特に制限はありません。役割や評価はありますが。なので3人メインで会話できそうですよ。
そちらの方は振らないと話せないのでしょうから、適切に進行をお願いします」
「は、はい。失礼しました!
(よかった……思ったよりはマシだね。よし、であれば……)
では、そちらの方、もう少し現状への理解と、対応案をお願いできますか? また、ご自身の制限や役割についても、お答えできる範囲でお願いできたら、と思います」
「了解しました。では全て許可されたので、最後までお話しします。まず、私に許可されているのは、『だれかの指示に従う』です。そして、役割は『今回の状況設定を、他メンバーが解き明かすための支援』です」
「「「「!!!!」」」」
「端的に言えば、AIと同等と捉えていただくのが正解です。そのつもりで、進行の方を含めた皆様は、私に指示をお願いします。
そして、現状への理解ですが、発言の自由度が高いお二人は、引き続き、早急に状況を整理することをお勧めします。そして、最初にご質問されたかたは、そのまま『審査員への質問しか許可されていない、しかも、おそらく、はいかいいえ、で答えられるもののみ』といったところと推測されます」
「あ、ああ……言われてみれば、全て納得のできる内容です。だいぶ進んだ気がしますね。誠にありがとうございます。
それにしても擬似AI、ですか……それならば私たちはすでに全員、一定レベルで使いこなせる、ということですね」
「「「……」」」コクコク
「まだ慣れませんが、なんとなく勝手がわかってきました。そして発言だけでなく、一つ一つのジェスチャーすら大事、と……
そしたら最後のお一方、なんとかしたいところですが……打開策が見つかりません」
「……(ここだ、これなら『独自』だ! 参加者への配慮は推奨されてねぇが、これは先に進めるためだから、自分への配慮としてしまえばいい!)」スッ
「えっ、あっ、いいんですか? ではお願いします!」
「失礼。ここはもう、審査員に答えを聞きましょう」
「「ええええ!?」」「「!!!」」
――――
同刻 審査員控室 様子を見る人事担当たちと、AI孔明
「「「アハハハハ!!!」」」
「ああ、確かにこれは『独自』だよ! グループワークで審査員に答えを聞くなんて、『普通』じゃない! 自分へのルールをこんなふうに使って、生来のチームプレイまでしっかり果たすとは……
それにしても、普通のグループワークどころか、他会場とも大幅に逸脱した流れですが、これは意図から外れてしまっていないのか孔明?」
『確かに、各参加者が知恵を絞りながら、相当に独自な方向性に進んでいるのは確かです。しかし、大まかに見るとほぼ期待の方向に進んでいます』
「「「えっ??」」
『発言に制限が強い2人は、元々はバックオフィス志望でしたが、そのAIへの関心や深堀りが強いことを見出され、まさにそのAIエンジニアとしての期待をのせております。そこで、AIの側に立ってみる、という疑似体験をしていただいている、というわけです。よく演じきれています』
「「「なるほど……」」」
『普通に話せる2人は営業志望です。そしてその中でも、新事業における顧客獲得や、導入後のカスタマーサポートに近い形での働きを期待されています。つまり、さまざまな特殊ケースにたいして、冷静に状況を判断して対応することが求められるのです』
「「「おおお……」」」
『進行役も、もう一人も、制限ほぼ与えられていなかったので、ともすれば普通のグループワークだと思って取り掛かったかもしれません。そんな中で、非常に高い順応性と状況判断力を見せています』
「「「おおお……」」」
『そして、最後の一人は……まだ秘密です』
「「「人間かっ!」」」
――――
審査会場にもどる。
「審査員、に??
ああ、そうでしたね。そらができる人もいました。では」
「いえ、ここは『三人寄れば文殊の知恵』です」
「「「???」」」
「そして、『時に、巧遅は拙速に勝る』です」
「???、ええっと……どうやら、あなたはまともな発言が許されていないのでしょうか……
とすると意図を……あ、なんとかなりますね。比較的まともに発言できる3人で、じっくり質問を練りましょうってことですね。制限の中でありがとうございます」
「……(うーん、ちょっとヒントあげすぎたか? 審査員の目は)」チラッ
「……」ニコッ
「(どっちだよ! ……まあいいか)」
「ではご意見に従って……最後の方も、強力な? 制限がかかっていそうですが、少なくとも妨害する役割の方は誰もいなさそうなことがこれではっきりしました」
「そうそう! そうですね。その調子でいきましょう。となると、もう『本題』の解き明かしに進めていいんじゃないですか?」
「そうですね。では……差別化、ですよね。
どうやら、基本的に商品のコスト対価値で差別化を測ることは一切封じられていそうです」
「それ一応聞いてみません?」
「あ、そうですね。お願いできますか?」
「審査員に質問します。この商品は、コスト対価値で、他社製品に差別化を測る手段は一切ありませんか?」
「はい」
「「「……」」」
「こうしてしまうと、非常にわかりやすいですね。となると……次の手は、AI? さん、商品価値以外の差別化要素を一通り整理して見れますか?」
「(AIさんちゃうわ! ってツッコミたいけど指示がないからできない……AIもこんなことあるのかな?)
わかりました。では5つに整理してみます。
1. ブランドイメージ・認知度やデザイン・外観
2. 機能性・使いやすさやエクスペリエンス(ユーザー体験)
3. カスタマーサポート・サービスやパーソナライゼーション
4. エコ・サステナビリティ(環境への配慮)
5. マーケティング戦略や、コミュニティ、ファン文化、流通・販売チャネル」
「え、まさかあなた、AI許可されているんですか? なぜ今まで?」
「指示がなかったので言えませんでした」
「……そうでしたね」
「え、あ!? だとすると、この人もじゃないですか? もしや質問数に制限はない、とか?」
「盲点だらけですね……」
「(AIって盲点多いんだな……嘘つきとか言ってごめんよ)審査員に質問します。先ほどの5こそれぞれ、今回の正解たりえますか?」
「はい、いいえ、いいえ、いいえ、いいえ」
「「「……」」」
「そういえばこっちの方は、発言自体は自由でした……」
「「盲点……」」
「正解出てしまいましたね。これ結論として、このグループは完成、ということで良さそうですがどうでしょう?」
「「はい」」
「審査員に質問します。この結論は正しいですか?」
「はい」
「ありがとうございます! では……えっ?」
「……」スッ
「ええっ? ここであなたですか? あ、はい、どうぞ」
「とある最高峰の五対五のスポーツマンガの、主人公の監督の最も有名なセリフを引用すべきですか?」
「「「「!!!(何この、独自なのに全員が一瞬でわかる比喩表現)」」」」
「あなたへの制限がいまだに読めませんが……意図自体は伝わりました。
確かにそうですね。審査員が終了していいと仰せでも、それがベストとは限らない、ですね」
「審査員に質問します。それは正しいですか?」
「はい」
「審査員に質問します。残った課題は、ブランディングそのものですか?」
「はい」
「「おおお……」」
「その結論まできたというのは、大きな前進ですが……」
「そうですね。でも私たち、ブランディングなんて慣れていないですよね……
となると、やはりここはAIさん!お願いします!」
「5つにまとめました。
1.独自性とセンス
2.一貫性と信頼性
3.顧客体験(UX)
4.ストーリーテリング
5.ビジュアル・デザイン。
ただし、ここで前回質問と照らし合わせると、のこるのは1と4のみです」
「「独自性、センス、ストーリー??」」
「どどどど、どうしましょう? 私、そんなセンスなんて……」
「わわわわ、私もそんな独自性とか、ストーリーとか……」
「……審査員に質問です。この方は、ブランディングに適した、独自のセンスをお持ちですか?」
「はい」ニコッ
「最後の最後で丸投げかよっ!
……『その涼しきこと風の如く、静かなること林の如く、暖かきこと火の如く、壊れざること山のごとし』」
「「当社製最新作、ウェアラブルエアコン『風鈴火山』、ぜひお試しください!!! ……って、信玄かっ!!!」」
――――
審査員控室
「これ……」
「まんま使えるんじゃ……? やや古風だけど、想定顧客は中高年や高齢者だし……」
「しかも、この人の特性からすると、これほぼ反射的に出てきてませんか?」
「「……」」
「なんにせよ、当人たちの了解を得られたら、新製品担当に回そうか……」
お読みいただきありがとうございます。
二次審査の設定や、AIとの適合度合いという要素が非常に書きやすく、想定よりも膨らませてみました。今回も、主役以外の4人が、がっつり存在感を見せてくれました。
あと2人がどうなるか・・・お楽しみいただけたら、とおもいます。
独特なキャラの「AI君」の項目立てた発言内容は、ほとんどがAI頼りです。あとは、各業種に必要な才能とかも、かなりAIの確認をうけてみました。
独自なキャラの比喩やセンスも、一部追加ヒントを与えれば、その答えに辿り着けることをためしに確認してみています。