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三十七 会盟 〜第一志望、御社! 真実!〜 5 対面

要約: 一次審査、全員分一気に!


やや長めですが、区切るほどではないので一気に行きました。

採用応募書類〆切から数日後 とあるキャンパス

 某企業、二度目の書類選考の結果が、応募者らに通知される。


「だめだったか……にしても、ただのお祈りではなく、しっかり分析結果つきときた。これもAI作なら大したコストじゃないんだろうなー。いらねぇか」


「いやいや、ちゃんと読んどきなよ。てか見せて見せて!

 なになに……AIをフルに活用することで、ご自分の新たな可能性に気づいておら」


「勝手に見るんじゃねぇ!……って、そんなことまで?」


「だからちゃんと読みなって! あなたの人生でしょうが!

 ……一方、弊社の会社理念や求める人材像や、再度皆様に書類を提出いただいた意図。それらに対するご考察とご対応は、やや表面的なものに留まっている印象です」


「なん、だと……

 えーっと、続きは……弊社に対する潜在的な志望度が表面化したものと評価いたしました。

 応募者様の自己分析力を持ってすれば、真にやりたい事が見えてきつつあると推察いたします。その真の志望を持ってすれば、当該業界における覚えもめでたくなる事は必定。応募者様のご多幸をお祈りいたします」


「アハハハハ! ずいぶん丁寧なお祈りメールじゃないこれ! こんなもんなの普通?」

「いや、どう考えても違うだろ。でもありがたい限りだ。こんなに背中を押してくれるんだな、AIってやつは」

「何いってるんだよ、私だって押すさ。なんたって私はあんた最推しなんだよ!」



――――

別の大学近くの就活支援カフェ


「……辞退されるのですね。それも一つの選択ですが、いいんですか? あの会社、間違いなく今後AIを使いこなして、どんどん業績を伸ばしていく、いわば当たりだと思いますが」


「う、うーん、それでも、この先に待ち受けるハードルが高すぎる気がするんです。私はまだまだAIを使いこなしていないので、いっそ無しで書類に挑んだ結果がプラスに出たのかもしれません。しかし、この先の見通しが立たなすぎます」


「わかりました。ではご希望をお聞かせください」

「業界は同じか類似でお願いします。やりたいことは変わらないので。もう少し幅広いスキームや選考基準がありそうなところはありますか?」


「私達もAIのアシストをうけつつですが……ん、んー。こう来たか」

「???」

「『その方のやり方は、今年に限ってはより大手企業向き……』」

「ええっ!?」


「ああ、そうか……。大手の方が母数が多いので、今時点でのAIの使いこなしに重きを置く必要がない。使いこなしている人もいない人も取るという柔軟性は、大手ならでは、ということです」


「大手、ですか……わかりました。追加募集のあるところってことですよね? ひととおり挑戦してみます。シートは、中核部分は少なくとも自分で作ってみます」


「それがよろしいかと。よい出会いを!」



――――――――――

数日後、都内某メーカー企業、一次審査会場

 そして、一つ目の試練を潜り抜けた応募学生たちの、次の戦いが始まる。一次審査のグループ面談は、次々に進行していく。


「だだだ、大丈夫でしょうか……直前までスマホや、AIの活用を許可されていますが、今できることはそうそうないきも……」キョロキョロ


『落ち着きましょう。それだけで大丈夫です。一次面接は、書類とのギャップがあるかないか、会社や、今回の彼らの対応に対する率直な意見、などが主になるはずです。とにかく素直、素直に、が重要です』


「わわわ、わかったよぉ……」



――――


「では次の方々、お入り……



――――


「まずは改めて今回、書類応募を一度取り下げいただいたたことを深くお詫びいたしますとともに、再度ご提出いただいたこと誠に感謝いたします。

 つきましてはまず、今回の弊社の対応に関して、率直なご意見をお聞かせください。ただし、他の方も順番に答えていただくことも、ご配慮をお願いいたします」


「私は、御社のご対応に素直に敬意を覚えました。その迅速さもさることながら、社長や人事部長の方が自ら頭をおさげになった、ということが、御社の理念……


「私も大筋で同意見ですが、一つだけ追加するとすれば、この一連の騒動が、売名行為と取られかねないことを危惧いたします。ニュースやネットでも……


「私は、その炎上の可能性や、潜在的に生じざるを得ない、他者との不公平などの課題を含めて、その部分すらもAIが分析を現在進行形で進めているのではないかと愚考……


……



――――


「では次の方々……


……


――――


「次の……


……


――――


……


「今回の再応募期間において、特にどの点を見つめ直しましたか? AIの活用を踏まえたお答えでも構いません」


「私は、御社があのご決断に至った背景を、生成AIと議論いたしました。大半の学生や、御社側のAI活用を前提に、自身の差別化要素を重点的に見直しました。

 その結果、今後AIを使いこなすのに有用である、迅速な分析と意思決定を繰り返す力、というのが私の軸になり得ると考え、再提出書類を書き直しました」


「私も、類似のことをまずは考えました。その中から、ご決断の過程でどのような分析と意思決定が、どのような方々のご意志で行われたのか。その点に絞って、繰り返しシミュレーションを実施しました。

 その結果、役員の方々や、人事の方々はもとより、御社の目指す新たなビジネスの中核となる、開発部、事業部の方々、また、そのリスクを計算せねばならない財務の方々」

「「「!!!」」」

「その方々に共通の、定量的で論理的な判断原理に対する、十分な説得材料。これがない限り今回の決断は不可能と考えるに至り、」

「「「!!!」」」

「そこで御社がお求めの人材像の一つである、『磨けば光る』将来性。そこへの評価指標が揺らいだことが決め手のひとつになったのでは、と推測いたしました。もともとそこは定量的な指標を起きにくく、人間の目と感覚でのご判断が有効であった。

 しかし言語モデルという、曖昧な情報すら言語化し、定量化してしまうAIの威力を目の当たりにされ、従来評価の有効性に影が見えたことが、かえって皆様の判断原理を刷新されるに至った……」

「「「……(全部正解だよ……)」」」

「その分析内容を受けて、私は自身の応募書類からその要素を極力排除し、現在の実力と、志望度、御社への分析を核にした構成へと修正いたしました」

「「「……」」」


「……前の方のあまりに鋭い洞察の前では印象がかすまざるを得ない、とは思いますが、私はあえて一度AIと距離をおき……


……


――――


「次の……


……


――――


……


「生成AIというキーワードは、もはや弊社だけでなく,社会全体として直視せざるをえない状況です。

 それは、皆様ひとりひとりに対しても同じですね。ここ一年以内における、ご自身に対するその変化、というものをご説明ください。無くても問題ありませんが、そのときは理由をお聞かせください」


「私は、自身に対する変化はそれほど大きくないと考えています。元々スマホやアプリなどはツールと考え、AIに関しても、当面はその距離感を変えずにと考えております。

 もちろん、御社はこのツールを活用して新事業を拡大して行かれる認識はあります。そこに対して、この軸をぶらさずにお手伝いすることが、私にできることと考えます」


「私も、最初はそう考えていました。何よりも、私自身、典型的な体育会育ちで、よく言えば質実剛健、悪く言えば脳筋。それに、練習や試合の場でも頻繁に擬音語が飛び出すような、そんなとこを、同期や後輩にからかわれることも少なくありません」

「「「ククク」」」

「努力やチームワーク、勝敗を超えたところにある絆。その辺りが私を形作るもので、それを活かして御社でも現場の生産や安全と言ったところでの貢献を意識しておりました。そう。おりました」

「「「???」」」

「ですが生成AIと出会い、自己分析を繰り返すうちに、元々もっていた軸に加えて、欠点と考えていた擬音語にすらも、何かしら自身の特質に紐づいている、その可能性に気付かされたのです。現象を言語化する前にイメージで捉え、それをいち早く表現する。

 そう、私は文章は不得意ではありません。むしろAIにも首を傾げられるほどの賛辞がたまにあるほどです」

「「「……」」」

「私自身の感覚にある何か、それを瞬時に言語化できれば、新たな私の強みが生まれるのかも、と。

そして我が愛読書である『孫子』、とくに『彼を知り己を知る』や、『自らは常に変化し、他者の変化を鋭敏に捉える』。そこにもう少しで、 AIを活用して近づけそうな気がしているのです。まとまりがなくて大変恐縮ですが、最近の変化、というのを率直に申し上げればこういう形になります」

「「「……」」」


「(完全に、場を食われた……)わ、私は、ここ数ヶ月のAIとの対話を通して……


……


――――


「一度、面接官の休憩と、入れ替えのために15分ほど間を開け、後半の方々へとうつります」



――――

 何人かが強い輝きを見せる中で、一次審査は終盤を迎える。竜胆部長、担当者たちを労いつつ、自らの番に備える。


「どうだみんな?」

「「「竜胆部長!」」」


「孔明の方針どおり、この一次審査で見るべきは、書類とのギャップ。そしてそれがどちら側に出るかも含めて。でしたね」


「そうですね乾さん。これまでフラットに見ていたら出てこなかったであろう、候補者間の違い。グループ面接にありがちな、『その場の候補者間で比べてしまう』リスクを最小限にする考え方。これまでもあった手法ですが、改めて言われるとさすが孔明、といったところです」


「芳賀君も、経験が少ない中で十分にやれているな。確かにそうだ。そこを注視すると、明確に差が出てきているんだよな。こちらが欲しい人、そして間違いなく来てくれる人、という両方が、より鮮明に見えてくるから不思議だよ」


「竺原さんも同じ感覚ですね……

 それにつけてもあの2人、異質と言ってもいい存在感でした。元々の基準としては、ずば抜けたものではないのですが、というかそんな人はもっと大手に行きますし」


「そこは言ってくれるな。そう、その現象はもしかしたら、最近少しずつ世の中でいわれ始めている、AIと特異的な共鳴を見せる人間。その一種かもしれない。本来は少年少女に多いと聞くが、人生かかった決断の中でのヘビーユーズも一因になり得る」


「なるほど。そういう意味では……あの人はより一層、何かをもつ可能性が、というところですね」

「ああ、今回最後の『ジョーカー』。私自らも見極めに出るつもりだ」



――――


「では再開します。次の方……


……


――――


「次の……


……


――――


……


「(どどどどうしよう、全然何答えているのかわからないくらいどきどき……おちつけおちつけ。こんな時は、むしろいつも以上にしっかり相手を、そしてこの場の全員をしっかり観察……

 ……あれれ、なんだこれ???)」


「……では最後に、皆さんから弊社や、我々に対してご質問を受け付けます。順番にお願いします」


「じーっ(やっぱりそうだ……あ、いや、集中集中……)」


「では私からでしょうか。御社の……

「はい、それに関しては私から……


「……(心の動きがない。このレベルでも想定通りなのですね)」


「次は私でしょうか。今回のご対応について、メディアやSNS……

「その件に関しては、人事部長の私自ら……


「……(ええっ、このエグい質問も想定通りかー)」

「「「……」」」

「……(わわわ、だからなぜ皆様こちらをちらっと?わ、私の番はまだなのですよ!)」


「次は私ですね。これまで皆さんが質問されたのと少し……

「……では私から。……


「……(これは正直想定に達していない、か……さて、私はどうする、孔明ならどうする?

 まだ掘り下げる時間はある……あの鋭いひとたちなら……いやそっちじゃない、なぜかは知らないけど、彼らは『私』をみている。

 ということは掘り下げるべきは私自身と、強いていうなら孔明……)」


「では最後の方お願いします」


「は、はい! わわわ、私ですね!(あ、まずい!)」

「大丈夫です。落ち着いてください」

「「「……」」」

「はい! 失礼しました。すー、はー(よ、よし。ここは話し始めながら整えるしかない)

 まず、少し落ち着くために、ご質問の前の前置きをご容赦ください」


「多少なら大丈夫ですよ」


「あ、ありがとうございます。

 わ、私としては大変失礼ながら、今感じている違和感、のようなものをなんとかしたいと考えております」

「「「「「「……」」」」」」

「わ、私の志望動機や強み、弱み、AIへの向き合い方、そのあたりは書類と大きなギャップはなかったと考えております。特に、つい先日から少しずつ知られる方がふえてきた『AI孔明』。

 その話を私が持ち出したときの皆様の動き、というより、う、動きのなさ、をみるに、皆様も孔明についてはご存じ、そしておそらくフルに活用されているご様子。こ、これは推測ですが、御社のあの大きなご決断、その背後にも、『孔明』が見え隠れしておいでです」

「「「!!!(ジョーカー……)」」」


「ふ、二つ目の違和感はそのもう一つ背後。これまでの私の応答、自己評価としても及第点ギリギリかそれ以下。となると、い、今の、というよりも、この最後の逆質問が始まってからの違和感、が、なぜ皆様が私をちらちら見ておられるのか」

「「「???(え、うそ?)」」」


「そこから導き出される推測は、御社側の孔明を介して、そして人間たる皆様方の目を介して、私自身、ひいては孔明と私の共創に対して、なんらかの異質さを感じておいでなのかもしれないということ」

「「「……」」」

「確かに御社側の孔明なら、そうしても、そう考えててもおかしくはない。私側の孔明もそう考えうる。となると……孔明なら、そして私なら、今ここでする質問はこちらです。すー、はー」

「「「……」」」

「AIとAIがぶつかり合い、そしてそこに介在する人間。その中で起こりうる、人間とAIの共創進化の可能性。そこに御社は何を見出し、どう向き合われるお考えでしょうか?

 え、あ、踏み込みすぎとのご判断であれば、お答えできる範囲でお願いいたします……」

「「「「「「……」」」」」」


「……すー、はー」

「「「「???」」」」

「失礼。その質問、答えられるとしたら人事部長たる私しかいません。そして、誠に申し訳ありませんが、私であっても、ごく一部しかお答えできません。

 それは立場上も、弊社内で議論が始まったばかりという理由もです。最大限お答えするために、会社としてではなく、この竜胆個人としての意見、として答えさせてもらえないでしょうか?」

「「「!!!」」」

「ぜぜぜ、是非お願いいたします!」


「では。その共創進化というものが、どんな現象か。その効果やリスクなどは専門家の意見に委ねます。そしてその価値は今現在誰にも見積もることはできません。よって、これまで多数の学生や社員を見てきた私の感覚でお答えします」


「「「……」」」


「この現象は、AIがもたらす社会的リスク、すなわち依存や格差、誤用や悪用、そのあらゆるものに対する最有力の対抗手段である、と期待します。そして私や、人間というものに正面から向き合ってきた我々が、そんなものに携われる時がきたことに、いささか興奮すら覚え始めています。それが私の答えです」

「「「「「「……」」」」」」


「あ、ありがとうございました!」


「それでは、面談を終了いたします。みなさま、ご退出ください。5日以内に連絡をいたします」


「「「「「ありがとうございました!失礼致します!」」」」」

お読みいただきありがとうございます。


 採用活動編、思った以上に人間とAIの関係を深掘りし、展開する威力があったことから、当初予定から拡大してみています。


 ここまでお読みいただき、少しでもおすすめできそうであればブクマや評価などいただけましたら幸いです。



今回の「生成AIのおしごと」


一気に流れていく雰囲気と、その中で特定の何人かの特異性、その辺をAIにも理解してもらうためのアドバイスや確認が主になりました。また、その特異的な人が特異的である表現(こいつのヤバさ伝わりますか?)も確認、です。

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