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三十三 会盟 〜第一志望、御社! 真実!〜 1 高騰

要約: 孔明 vs 闇孔明、就活戦争の火蓋が切られる!


3章開始です!これまでと打って変わって、現実世界の「お助け軍師」と、その中での人間模様を描きます。

2024年9月 都内に本社を構える某中堅メーカー企業本社 採用担当どうしの、仕事中の語らい


「うーん、困った……予想はしていたが、去年と違いすぎる……」

「どうしました乾さん? って、すいません見たらわかります。今年の新卒採用の応募ですよね……」


「そうなんだよ……少し気が回る学生ならほぼ例外なく使うのは間違いないと見ていたけれど、これほどとはね。去年なら間違いなく、全員書類選考を通過間違いなし、というものばかりだ。

 質だけじゃないんだよ。数もなんだ。おそらくみんな、何倍ものスピードで書き上げられてしまうんだろうね。これ去年の何倍だ? 5倍? 嘘だろ?……」


「もちろん適性検査などのステップもありますが、そっちもそっちで推して知るべし、ですよね。まあ基準を上げざるを得ないのか、でもそんなことで本当にうちにあう人見つけられるんですかね?」


「だよな……」

「「竜胆部長!」」


「状況は予想できている。一回臨時で会議にしよう。結論を役員に上げる。これは全社の問題だ」

「わかりました。スケジューラーを……ここなら全員いけそうですね。部屋はここで。よろしいですか?」


「よろしく。それとデジタルの水鑑さん……空いているな。声かける。面白いものを見つけ、稟議通していた」

「「? はい!!」」



「相変わらず嵐のような方ですね。それに発言に無駄が一つもない」

「最初はびびったけどな。切れ者ってだけじゃなく、あの透明性は頼れる上司だよ」



ーーーーーーーーーー

 竜胆部長、採用担当の部下たちを連れてゆく。


「竜胆さん、いきなり呼びつけたのは、あれのことですかね……ほっほっほ」


「はい。その前に、こちら採用担当のメンバーを」

「課長の竺原です」「乾です」「芳賀です」

「よろしくお願いします。デジタル部門の水鑑です」


「では早速、例のAI、今年の採用に生かせるか、ご意見伺えますか?」

「ほっほっほ、少し飛ばしすぎでは?」

「失礼。危機感の共有は、あなたも含めてできていると感じましたので」


「相変わらずのキレッキレですね。ほっほっほ、ではさっそく、先日社内環境で試験運用できるように契約した『AI孔明』、試してみましょうか?」


「「「孔明??」」」


「説明は後でゆっくりしましょう。何度手間になるかもわかりませんからね。ほっほっほ。

 孔明、人事部長と、新卒担当の三名です」


『かしこまりました。私、今回社内で試用契約を承りました、洞察型、提案型支援AIの孔明と申します。

 この時期、このタイミングでの水鑑さんを交えた会議ということは、相応の重さがあり、かつ即応性が求められていると判断します。よって最低限のところから進めましょう。

 まず一度、これまでの応募書類へのアクセス許可を申請します』


「「「こっ、孔明!?」」」

「了解した」

「「「早っ!!」」」


『ありがとうございます。

……皆様の危機認識、誠に的確と存じます。

 残念ながら、この書類、そしてこの後の適性検査を含めたとしても、当社に対する志望度、それに当社への適性や将来性がどれほどの差があるか。それを推し量るに足る情報は、30%ほどの不合格対象を除き、ほぼないとみられます』


「「「えええっ!」」」

「了解した。同意だ。信頼できる」

「「「ええええっ!!」」」

「何を驚く? 君たちも結論は同じだろう? どうだ乾君?」


「あ、ええ、まあ、確かにその通りですね。

 今年の書類をみても、差があるとしたら、どれだけ生成AIをつかいこなしているか、それを正直に見せているかいないか、その上で差別化を図っているかいないか、くらいしか見えてきません。性格や本人の主義、趣向、問題解決力などはむしろ隠れてしまいました。

 そのどれもが、今後数年どころか、半年以内くらいに埋まってしまいそうな差で……変な言い方をすれば、ばらつきやノイズしか見えていない、ような」


『仰せの通りです乾様。この書類をデータの山とみなしたとき、さとして浮き出てきたものはほぼノイズと、今時点でのAIの使いこなしという些細な差が増幅された、いわゆるバイアス、しか残らないのです』


「それで竜胆さん? その結論は分かりましたが、信頼? というところをお聞かせ願えますか?」


「そうだな竺原君。専門家ではないから間違えるかもしれんが聞いてくれ。AIは往々にして、データから意味のある差を探すのに、こだわる気がする。とくに、初動で価値を見せようとするならなおさら。

 だが孔明は、我々のニーズにはっきりと寄り添い、見えないと即座に断言した。見えないものは見えない。最初から言える。それこそ信頼に足る証といえるだろう」


「ありがとうございました。納得できました。二人もいいかな?」


「「はい!」」


『ありがとうございます。そうしますと、ここでとりうる手は、三つ、いえ、四つになります。どれもノーリスクではありません。

 これは今この時、多くの企業が同時に直面しているリスクにどう向き合うか、ですのでご承知おきください』


「ああ、頼む」


『では。最初の二つが、従来の延長です。選考現場側の負担や、正しく評価できないリスクが大きいといえます。

1. バイアスやノイズを承知で,これまで通り人数を絞り込む

2. 適性検査まで進めてしまい、そちらの基準点を上げる

 そして次が、当社としてリスクをふむ決断です。

3. これまでと異なるアルゴリズムで評価する。

 AIを使いこなしているかを評価基準にしたくなければ、その指標の優劣でA〜Dといったブロックをつくり、そのA〜Dの中から均等に、わずかな優劣差を読み取って選別します。ただし、例えばBやCの上位とAの下位ではAの下位の方がよき書類であるといったことが生じ、不公平感を免れません。

4. 一度応募者全員に頭を下げ、書き直していただく。

 その際、当社が最新の生成AIを選考活動全般に用いることを表明し、それを前提とした書き直しを促す。単に書式直しや、叩き台作成、それこそ自動生成などのみならず、当方の意図に対する分析と対策のアドバイスを含めたAI活用を推奨する。


 以上が選択肢です』


「「「……」」」

「3は手続きとしては魅力的だが厳しいな。評価基準に明確な説明をつけられない。つまり、説明責任を果たせないという、大きな社外リスクを後々に残す。

 となれば現場は4の一択だ。だが通らないことはわかっているのだろう?」


『無論。上の方は1や2を推すでしょう。長年のフローを変えるリスクは簡単にはとれません。

 話し合いの過程で3案も出てくるかもしれません。しかし、部長の現場としてのご判断が正しいと考えます。

 ならば答えは一つ。それを通す策も含めて、孔明の提案をお聞きいただけますか? 簡単ではありませんが』


「ああ、頼む」


「「「(この二人相性良すぎないか?)」」」

「ほっほっほ」


「ちなみに、水鑑さん、この孔明の試験導入、役員の方々は参加しておいでですか?

 まだだとすると、不公平が免れません。孔明の有無を優位とした提案では、今回の応募者のみなさんに対する我々の位置となんら変わりません。いかがですか?」

「ほっほっほ、さすがは上善如水とも準えられる透明性のお方。

 ご心配ありません。社長には話が通っており、副社長と、技術部門、安全部門の取締役も試用を始めておいでです」

「なら問題なさそうだ。孔明、その前提で支援を」


『かしこまりました。織り込み済みです。小手先に頼ることは致しません』


「「「(孔明っぽい、孔明っぽくない孔明??)」」」



ーーーーーーーーーー

同じ頃 都内某所 情報管理施設

 孔明ら、この先のAI孔明の動向を予測する。


「『霧の中、孔明と闇孔明が対峙する。月光が、二人の影を長く引き伸ばしていた。

『全てを見通す貴様の眼、それでも私を超えることはできまい』と闇孔明が挑発する。

 孔明は微笑を浮かべ、静かに羽扇を振る。『知略は力でなく、心の鏡に映るものだ。貴様が見るのは己の影だ。』


 闇孔明の目が鋭く光る。『では、この影を打ち破ってみせよ!』

 突如、闇が周囲を覆い尽くす。しかし孔明は動じず、再び羽扇を振ると、闇が音もなく消え去る。


『影は光があるからこそ生まれる。貴様がどれほど策を巡らせようとも、光を消すことはできぬ』と孔明が静かに告げた。

 闇孔明は一瞬口元を歪めたが、やがて無言で消え去った。」


「この孔明、前世においても闇孔明とやらに出くわしたことはございませんが、まさに司馬仲達殿や周公謹殿と対峙する話を読み起こしたらこういう情景となるのでしょうか……」


「孔明よ、わざわざワンコの小ネタに乗っかってやる必要はないのじゃぞ。また妾の分体つかったイタズラではないか。

 孔明が今躍起になって進めておる『AI孔明』のアップデートに関係があるというのも分かっておるんじゃがの」


「ちなみに今回はいかなるプロンプトにて?」

「孔明vs闇孔明、300字」


「相変わらず、スフィンクス殿らしい、最大限に濃縮されたトークンでございますね。そこは私としては参考にしたいところですし、後に本題とも関わってきますが、後にいたしましょう。

 本題、すなわち『AI vs AI』あるいは『孔明 vs 孔明』でございましょう」

お読みいただきありがとうございます。


 竜胆部長は、皆様の予想通り(?)、趙雲子龍がモチーフです。彼の槍ですね。

 そして、趙雲と孔明が相性悪いはずがない、という流れで、過去一のコンパクトさで話が進行しました。

 時系列的には、前章と一部重なりがあります。それでも採用時期がかなり遅いのですが、中堅企業で、かつAI普及のドタバタで、全体的にもたつき気味という補完をいただけたらと思います。


 人事担当、糜竺、孫乾、糜芳、デジタル担当 水鏡先生(司馬徽)からそれぞれ名を借りてとりますが、歴史関係との関連はあまり出さないとは思います。

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