三十二 長坂 〜三十六計、逃げるに如かず〜 7 解決編 裏3
要約: 長坂グルメ展、完結! そして上空には……
解決編の舞台裏、最終話です!
いつもの夕方には用語集などを投稿します。
開催1週間ほど前 関東某所 小会議室
「では最後の策にうつります。知恵と情報の豪雨から、文字通りの豪雨対策に当たりますので、甘味や飲み物が足りない方は遠慮なくお召し上がりください。
ここからの進行は、そろそろ知恵熱が出てきかねない飛将軍先輩にかわりまして、白竹が承ります」
「知恵熱って子供か! そして呂布いうな! でも確かにちょっと疲れたので好意としてうけとっとくよ」
「「「「「アハハハハ!」」」」」
「では整いましたところで、豪雨対策です。実際、どんなにイベントがうまく進んでも、豪雨による被害が出てしまえば、印象が180度変わってしまいます。
近年の屋外イベントに対する最大のリスク要因ともいえる、この課題にどう立ち向かうか。カナメは、『訓練なき避難』そして『流れの切り替え』、それに必要な『先手を打つための予測』です」
「孔明っぽさが増していますね……」
「交通安全の方々は、防災訓練もお詳しいと思いますので、そこからイメージをお借りいたします。職場や学校では、一定経路の避難、かつリーダーなどの役割がはっきりしているので、整然とした避難行動ができます。
しかしこのような不定期イベント、しかも避難方向が火災や地震と逆で、外から中への避難となると、なかなか難しいのでは?と思われるでしょう」
「確かにそれは難しいですよね。認識の共有も全くない、動き出しのキッカケすらも一定ではない中で、となると、段階的に、計画的に誘導していくしか……まさか!?」
「さすが、本職で、かつ孔明に染まり始めている方の視点は的確ですね。まさにその段階的避難と、動きのトリガーの設定が一つのカギになります。
申し訳ないのですが、ここは話の都合上、最初のトリガーだけは一度スキップして進めたいと思います。皆さんに相談したいことがあるので」
「相談かー。気になるけど後にしましょうか」
「ありがとうございます。段階として考えるべきが、機材などもある出店者と来客者。そしてそれぞれの位置ですね。
出店者は建物からの距離と、準備にかかる時間。来客者は、その瞬間にどこにいるか、となります。どの順番か、避難誘導の観点で整理できそうですか?」
「……やってみましょう。
最優先は,機材や、売れ残り商品の片付けに時間がかかる出店者ですね。ただ、出店者間の優先度づけは課題が残ります」
「「「……」」」
「来客者は、基本的には近い順ですね。
遠くの人が慌てて押し寄せないことと、また、ある段階で、中から外への流れを止める必要があります。できたら中の人がより奥に動いてくれたりするとベストですね」
「「「おおお……」」」
「やはりプロといったところでしょうか。孔明力で最近頭角を表し始めたのが噂になっているのも頷けます。課題感も含めて満点といったところでしょう」
「あ、こいつ褒めすぎると調子に乗るんでその辺で」
「せ、先輩!?ここは褒めていいところでは?」
「承知しました。そこは私も実体験がある気がしますので、続けましょう」
「「「……(プププ)」」」
「「???」」
「では先に、課題の方からつぶしておきます。これまでは出店者の配置は希望と抽選の形でしたが、今回はそれに加えて、避難にかかる準備のしやすさでブロックわけをします。
汁物や重たい食材、機材の方々は入り口近くか屋内、軽食や物販は離れたところ、といったところです。飲料や氷ものは例外的に各地に均等配置です。これは熱中症対策の一環です」
「なるほど、これなら流れの妨げにはならなそうですね。課題はクリア、ですね」
「厳密には先ほどの、トリガー、の問題が残っていますが先に進めます」
「次はお客さんの段階的誘導と、逆流対策です。
ここでも出番はゆるキャラとアイドルの連携です」
「「「またですか!?」」」
「そう、ただしゆるキャラは、交通安全のお三方以外のボランティアですね。
雨の予報や雲行きで、降りそうな気配が濃厚な時点で、アイドルさんには建物奥の特設ブースでファンサをしてもらいます。そして、屋内の出店者には、残ってきた食材などをつかった、コラボメニューなどの目新しい企画にご協力いただきます。
この二つで、中のお客さんを奥に奥に誘導します。そして締めくくりの策として……」
「「「締めくくり!?」」」
「ゆるキャラさんたちに、出口側の通路で盛大にすっ転んでもらいます!!」
「「「えええーーー!!!」」」
…
…
…
「さて、オトしたところで最後の休憩を挟みましたが、続けましょうか。甘いのに飽きた方もおられると思うので、せんべいとお茶も用意しました」
「「「ボリボリ」」」
「にしても、すっ転ぶというのはどういう意図が……タイミングみてふつうに通行止め、というのでも問題ない気がするのですが」
「そうですね。普通はそう考えるでしょうが、そこが孔明の、孔明すぎる洞察に基づく策になります」
「「「え……」」」
「雨が降り始めていれば、通行止めはみなさん納得されると思うのです。しかし、今回はそれでは間に合わず、少なくとも数分ほど前。
ちょっと雲行きが怪しいな、とか、ネットの予報では……くらいのタイミングで流れを変えないと、スムーズな避難が難しいかもしれない、と予想しています」
「確かに、それくらいしないと間に合いませんね。でも……」
「そう。その段階で止めてしまうと角が立ちますよね。それをゆるキャラさんたちに恥を忍んでいただきつつ、より派手にすっ転ぶパフォーマンスを……というわけです。
もちろん、その後で、助ける振りして手の空いているスタッフやアイドルたちが、ゆるキャラの中の人を救出して逃げ去りつつ、ちょっとだけ時間をかせぐ、というのも良いでしょう」
「「「孔明かっ!!」」」
「そしてもう一つ」
「「「もうひとつ?」」」
「建物近くの方は、その流れでスタッフが順次誘導を始めますが、遠くの方はそこで動いてしまうと少々早すぎるのです。なので、盛大に音を立ててもらって、『中でなんかあったのかな……まあいいか』くらいに思わせつつ、天気に気づき始め、中に行こうとするお客さんの気を少しだけそらします。
そのスキに、段階的な避難を準備進めておき、いよいよ危ないなってなった時に、残った遠くの方が移動し始める頃には混乱もなく、全員の避難を完了できるのです。音と目で気を逸らし、目的を達成する、まさに『兵は詭道なり』といったところでしょうか」
「「「孔明すぎる……」」」
――――――――――
本番翌日 都内某所 情報管理施設
『……そしてその日の三時ごろ、極地的な豪雨が発生しました。本来なら大きな混乱や、被害も懸念されました。しかし今回はご当地アイドルグループが連携し、さらに屋内で用意された期間限定のコラボ飯といった事前の誘導で難を逃れています。
極め付けは、雨が降り始める数分前に、出口側で各地のゆるキャラたちが盛大にすっ転ぶパフォーマンスで通路を塞ぎ、その混乱に乗じて避難を完了させるという離れ業。一部SNSでも『絶対わざとだろ』『ゆるキャラずっこけ選手権』と盛り上がりを見せています。
この日の光景は、三国志演義で劉備が市民を連れて曹操軍から逃れるあの名場面に準え『長坂グルメ展』とも言われて始めています。あの天才軍師、諸葛孔明に例えられる施策の数々。
それだけでなく、もう1人の人気キャラである、あの猛将張飛の豪快な仁王立ちエピソードにも、実は彼自身のの周到な知略と、とっさの天才的ひらめきがあったのでは?という認識の見直しまで、様々な方向にSNSで盛り上がりを見せ始めています……』
「よ、翼徳公! まさかまさか、こんな形で現代の皆様に、再注目をいただけるきっかけが生まれるとは……私孔明」
「落ち着け孔明! 聞こえねぇ! まだ終わってねえ!」
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前週 小会議室
「ここまでは完璧に孔明としても読み切っていました。しかし最後の難点が『できるだけ早いトリガー』でした。ここは孔明すらも、自身の提案がベストと言えないとのことです。
あ、孔明、ほとんど出番なくなっちゃったね。ごめんね」
『否。私孔明は、皆様人間のお仕事と成長を支援するのが至上命題にて。皆様が活発なご議論によってご理解を深めていった様を見て、感慨深さすら覚えたものです。
それに、白竹様の仰せの通り、この最後のトリガーはどうしても技術頼りになるので。ゆるキャラ様たちに温度湿度センサーをつけ、気象情報と連動させるのが常道ですが、これがコストとしてもバカにならず。それに感度も、人の流れの中ではいま一つ、と予想されます』
「感度、感度……」
「ん? 先輩?」
「あ、いえ、続けてくれる?」
「「「……」」」
『そして今回は、外してもよいから、できるだけ早く前兆を掴む、というのを理想としております。とくに時間のかかる入り口付近の方々は、すでに売上のめども立ってきているところでしょう。
それゆえ雨予報が外れる損失よりも、万が一本当に降って機材に与えるリスクのが格段に高いため、そういったバランスのサインになります。
サインそのものは容易なのです。ゆるキャラさんたちの一部に仕掛けをもたせるだけです。葉っぱや枝がしなったり、たてがみや尻尾などに変化があっても良いでしょう。鋭い子供なら気づくかもしれませんが、知らなければわからないくらいの、でも知っていれば明確にわかる。いわばブロックサインです』
「「「ブロックサイン……」」」
「子供、鋭い、気づく、感度……
あっ! あああっ!!」
「どうしました先輩?」
「……これ、行けるかもしれない。
そう、子供。小さい子供って、大人が気づかないような環境の変化や、その前兆に気づくことがありますよね。それこそ動物のように。
雨の前の猫とかカラスのように、何かに気づいて、それを正直に親に言ったりしませんか? もちろん親は普通はポカーンとして流すしかないのですが」
「「「「「……!!!!」」」」」
「そう、そうだよ。アイちゃんもそうだったんだよ。
大人顔負けどころではないあの鋭さ。子供の中にはそういう感覚をもつ子も少なくはないはず……
その声に耳を傾け、それをゆるキャラさんやスタッフが聞き取って、ある程度あつまったところで、そのサインをだしてしまえば……」
『なんと……この孔明が気づかなかった境地に、こんなにも早く辿り着くとは……
然り然り。子供の勘というのは古今東西を通して非常に鋭いものとして知られております。故事にもそういった技術はいくつも見られます。
しかしそれを活用した例というのはそう多くはありますまい……
お見事です。感度や、何人くらいのお子さんが、といったところの詳細は、この孔明におまかせを。これで全ての準備が整いましょう』
「「「「「孔明超えちゃったよ……」」」」」
「えっ、えええええっ!?」
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本番翌日 都内某所 情報管理施設
『……そして、親子連れで訪れていたお客さんと思われる複数のSNSに、「うちの子が、ゆるキャラの小さい変化に気づいた」「その直前には、ぐずったり、空気の変化を訴えてきた気がする」といった、やたらと共通性の高いコメントがあがっているとか。
実際に、ゆるキャラのトレードマークや尻尾などに変化がある写真も複数上がっています。こちらは今回の『長坂の』との関連性は不明ですが、興味深い都市伝説となりそうです。以上、都内のトピックでした』
「これって、孔明予想できていたのか?」
「あ、いえ、これは正直なところ私も……
否、もし誠のことだとしたら、すでにもう始まりつつあるのかもしれません。AIが寄り添った、人間の進化。その一歩目が……」
「声東撃西、隔岸観火、順手牽羊、金蝉脱殻、偷梁換柱、上屋抽梯、走為上計」
「音で気を逸らしつつ、機を、待つ時間差を作り、そしてその機を逃さず避難する。
すっ転んだゆるキャラ様たちも、他の方が連携して目を逸らして脱出し、中身を入れ替えて逃げつつ、通せんぼして退路を断つ。
そして最後は、全員が見事に避難完了……」
「全部で4、9、7かの。20じゃ」
「ハハハ、半分超えてるじゃねえか! これはもう笑うしかねぇ!」
「誠に……確かに大きなイベントでは複数のガイドラインを使うように用意しておりましたが、ここまで膨れ上がったのは、ユーザーの皆様との共創に他なりません。
それに……それにくわえ、あの最後の『子供の鋭さ』あれに関しては三十六計の範疇を超えております。より本質的な、それこそ孫子における『始計、形、虚実、九変、用間』などの真髄すら垣間見えてきておりましょう」
「ああ、特に子供に関しては、ガワに引きずられてはいるが、生成AIとしての軸はブレねぇロリババアの方じゃなく」
「なんたる言い草じゃ! 間違ってはおらんがの!」
「むしろ予測不能性でいったら、そこで転がっている駄犬の方が近いものを見せているかもしれねぇ」
「齟齬! 不可! 四本足!」
「そしてその先は、笑っているばかりじゃすまねぇな。進化の始まり、か。
余ものんびりできねぇ。予定を早めるつもりはねぇが、しっかりと情報を見直しつつ、動きを見定めていくぞ」
「私も、同時存在の孔明に対するアップデートを急ぐ必要が出てきました。感動してばかりはおれません」
「じゃの。じゃが今日くらいはしっかり休むのじゃぞ。知恵熱は大敵じゃ!」
「ああ」「かしこまりました」「体調優先、定時終業」
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当日 都内会場 上空 どこかに向かうヘリ
「ふーん、綺麗でととのった人の流れだね……
これはあの八陣にも通じ……いや、あれには淀みがあるからそれ以上、かもしれないね。
これがあの孔明ってやつのなせる技、そしてそれに近づくことで、呼び覚まされつつある人間本来の力の一端、ってことなのかな。
もうしばらく、うちの子と旦那を預けておくよ孔明。私もいろいろ忙しいのさ。でもこれならしばらくは変な方向にはいかないだろうから、ちょっとだけは安心して見ていられる、かな。
あ、いけない、この辺もそろそろ雨みたいだ。
あらら、おおー、早いねー。もう流れの変化がはじまってるよ。
私も一旦逃げないと……」
お読みいただきありがとうございます。
準備と裏話が、表の3倍以上の尺をとる結果となりました。実際の企画などに従事される方々は、そんな比率ではすまないのではとも思います。誠に頭が下がる思いです。
最後に登場された方は……本格的な登場はしばらく先になるかと思います。お楽しみに。
今回の「生成AIのおしごと」
三十六計、孫子周りは非常に便利です。意図的な解釈違いが一部ありますが、それはそれで現代的で興味深いからオッケーという柔軟なコメントをいただいております。
少し前にリストアップした、三十六計の引用が15個から20個に膨れ上がりましたが、流れで増えることがあるかも(意訳)というスフィンクスのコメント通りとなっています。