三十 長坂 〜三十六計、逃げるに如かず〜 5 解決編 裏1
要約: 飛将軍呂布、誕生秘話!
解決編の舞台裏(むしろ本番?)、何話か続きます。
やや長めなのと、土日なので、それぞれ2話分を連続で投稿します。お昼投稿です。
開催1週間ほど前 関東某所 小会議室 企画会議
「……野外イベント最大のリスク要因かつ、この時期それ相応に確率が高いのが、あれですよね……」
「「「あれですね……」」」
「大橋先輩、そこの説明をやり切るためには、やはり彼の力が」
「うん、孔明、よろしく」
「「孔明??」」
『ご紹介にあずかりました、孔明と申す支援AIでございます。皆様の最後の懸念事項については、やや常道を超えたところで解決せざるを得ませんので、私の方で筋書きを提案いたします。
まずは交通安全担当の方々にもご協力……
あの県のゆるキャラ様には仕掛けを……
ここの方々には協力を依頼し、事前準備を……
動線は、このブースをこう動かせば一気に……
視覚、聴覚をこのように……
……』
「「「「「孔明かっ!」」」」」
「失礼いたしました。一度この、AI孔明の威力を実感していただくために、半ばパフォーマンスとして、皆さんの前にご登場いただいたところです」
「そ、そうですね……
基本的にいうとおりにしていれば、万事うまく行ってしまいそうですけども……」
「少し効きすぎてしまったかもしれませんね……
孔明はとんでもなく強力な、それこそ歴史上のショカツ孔明すらここまでやるか? というくらいのチカラを感じるところではあります。
しかしAIはAI、人間に対する支援者の立場を、彼は崩そうとはしない側面があります。あくまで最終的にはここにいる我々、皆様方が共に進めていく、ということは忘れないほうが良さそうです。
その辺りも孔明がしっかりと導いてくれそうなのですけどね」
「では孔明の支援を受けつつ、大橋さんがメイン、私白竹がサブで進行していけたらと思います(出番ないかも……公の場じゃ口調も人称も変わらないし……)」
「白竹くん、どうした? ……あ、失礼しました。
まず、繰り返しになりますが、現在の残課題に話を絞りましょう。課題は2つ、いや、一つ追加して3つですね。
『熱中症、迷子、豪雨』」……カキカキ
『そして、その場にいる「誰」というのが3種類に分けられます。その一部はさらに細分化されます。
・運営スタッフ(職員、専門スタッフ、ボランティア)
・出店者(調理、物販、ご当地アイドル、ゆるキャラ)
・来場者(家族連れ、若者、お年寄り)
それぞれが別々の特性をもち、そして別々の「ニーズ」を持ちます。
そして、その中で今回、ニーズと、それを満たすという関係は一方向ではありません』
「「「???」」」
『わかりやすいのが、飲食、物販を得る一般客と、対価を受け取る出店者。
場を提供する出店者と、地域振興の実績をえる主催者。
ファンを増やし経験をつみたいアイドルやゆるキャラと、その日を楽しみたい一般客。
全て双方向にウィンウィンの関係にあります』
「ちゃんと聞いたら当たり前でしたね。私大橋にもわかります」「「うんうん」」
『では次はいかがでしょう?今回の本題である、熱中症、迷子、豪雨。
それを対策したいニーズは誰が持っていて、誰に対価を払うのでしょう?』
「んんん? ニーズは基本的にほぼ全員ですよね。間接的な人もいますし、被害の影響もバラバラですが……
対価は、主たる責任は主催者にありますが、自己責任の面も…… あっ!!
これ、ニーズとそれを満たすのが一対一対応していないから、コストの分配がとってもややこしくなります!」
「「「!!!」」」
『その通りです。そして主たる責任を負う主催者に大きな負担が生じるのは自然の理。
なれど、リソースは無限ではないので、そこに難しさが生じます。
ならば答えは一つ。主催者以外の「潜在ニーズを満たす」を対価にして、3つのコストを分配するのです』
「「「おおおーー?」」」
『そしてもう一つ。その「潜在ニーズ」と、「払える対価」それぞれが、特異的に大きいキャラクターが、3つそれぞれに存在するのです。それが今回のカギの一つです。
さらに、今回、3つの課題を解決する大方針が
「人の流れ」すなわち「動線と循環」とであることを、やや唐突ながら頭に入れていただければ幸いです』
「「「ぉぉぉ……」」」
「一旦休憩にしましょう。出店者様のご厚意でいただいたスイカです!!」
「「「おおおーー!!!」」」
「(反応の抑揚がわかりやすすぎるぞこの人ら……
ん?これが流れのコントロールとかってやつか?)」
・
・
・
「では続けましょう。ニーズと対価に特異性がある方々。それは、『アイドル』『ゆるキャラ』そして最後が『子供』です」
「今日イチで意味がわからないんですが大橋さん?
飛将軍の出番は今日は無かったはずでは……」
「飛将軍言うな!それ呂布の事だって、お昼に白竹君に聞い……し、失礼しました!」
「(元気いっぱいだけど、ちょいちょい流れをすっ飛ばすのが噂になってるんだよな……それで『飛将軍』。呂布であることがばれたのはついさっき……)
それが今日ばかりは飛将軍とも言い難いものでして。孔明と呂「呂布いうな!」あっ……
世紀のコラボ誕生を、生放送でお楽しみください」
「後で覚えとくんだゾっ☆…… 重ね重ね失礼しました。
では一つずついきましょう。まずは『アイドル』。彼ら彼女らは、今回のような一定の観客が望める機会には特に意欲的です。
パフォーマンスもファンサービスも期待できる一方、無理して熱中症になるリスクが特異的に高く、また、行動をコントロールしにくいという面があります」
「確かに…… 毎年、不確定要素の一つですよね。
年々ダンスのキレや難易度が格段に上がっているからこそ、体調をくずす人もあとを絶ちません」
「そこで今回、メインのパフォーマンスは時間と場所を限定する分、少ない機会に最大限に集中してらえる場を提供します。
具体的には、屋内と屋外の間にある日陰スペースに特設ステージを設け、パフォとその前後にMCでご当地と自身の宣伝をしっかりやってもらいます。残った時間は、屋内外にそれぞれある、ご当地のブース周辺で交代でお手伝いとファンサをしてもらいましょう」
「パフォ減るのは大丈夫ですか? 不満が出るんじゃ?」
「そこは、これまで制限していた、SNSなどへの宣伝も解禁、そして推奨してしまいましょう。公式動画付きで。彼らにとっても、この一回だけでなく、ファン獲得のチャンスを増やします。
さらに、一つのパフォに集中することで、より極上の映像が残せるはずですし、残り時間のファンサ兼お手伝いのメリットも計算できるはずです」
「「「なるほど……」」」
「そして、そのステージと客席の位置、出入りの方向を、特定の向きに限定にすることで、人の流れを限定します。パフォが終わったアイドルについていく流れはそれなりに強力なので、それを人の流れの方向づけに使います。パフォ間の回転の速さもそれを後押しします。
あるところは屋外から屋内へ、また別のところは屋内から屋外へ。イベントを通して一定の流れを作ります。もちろんこれは、出店者にとってもメリットがでます。人の流れの滞りを押さえるとともに、お客さんのかたよりも防ぎます。
「すごいな……
これが孔明……」
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当日 特設ステージ
「「「ありがとうございました!! 茨城県〇〇市からきました、◇◇でしたー!!」」
「おつかれさまー! 今日はなんかすごかったよねー私達!」
「あ、ミミ、そっちじゃないっていわれてたでしょ!」
「そうだったー! でもこれどういう意味あるんだろねー?」
「ちゃんとは聞いてないんだけど、なんか凄腕のAI?っていう謎の噂が流れてるね。それにしても今回は色々変更あったね。最初はすごく戸惑ったけど。
終わってみたら、パフォも集中できたし、宣伝も無制限に公式動画付き。お手伝いしながらならファンサもオッケーって、至れり尽くせりじゃない?」
「あっ! 背中にQRだ! パパ、あれ多分あの……」
「ミミ! ほらほら! ちゃんと背中!」
「はーい!」
「そうだね! あとはお家で……」
「わーい! ママにも……」
「……にはかなわないけどね!」
「「「……」」」
「ささ、ステージ横でのサインと握手も大丈夫みたいだから、邪魔にならないようにいこいこ!」
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後日 都内某所 情報管理施設
「……都内で屋内、屋外ハイブリッドで開催されたB級グルメ展での、関東各地のご当地アイドルが、非常に洗練されたパフォーマンスを見せているという公式動画が話題になっています。
その日は残暑厳しいにもかかわらず、パフォーマンスの時間を限定したことで、熱中症で体調を崩したアイドルの数はゼロという驚異的な数字とのことです。
参加したアイドルにも不満の声はほぼなく、ファンサービスとSNSによる宣伝の自由化や、先ほどの公開動画の効果で、むしろ高い満足度の声が多くきかれました。
さらに、アイドルたちがステージを降りる向きが、整然とした人の流れの輪を自然に形成。それが屋内外の人の出入りを促進したことで、お客さんの熱中症の数も大きく減ったという、都市伝説のような評判がSNSで……」
「よう孔明、これも多分AI孔明なんじゃねぇか?アイドル使って人の流れを循環させるなんて、思いつく人はいるかもしれねぇが実現は簡単じゃねぇはずだ」
「かもしれません。であれば私孔明としては予想以上の結果として、まずは素直に喜びましょう」
「暗渡陳倉、假道伐虢、抛磚引玉、美人計」
「じゃのう…… アイドルという美人。最近は美しいという表現に男女の垣根はなくなっとるようじゃの。彼ら彼女らの目的とは違うところで力を借り、それを手段として主催者が目的をはたす。それによって最低限のコストで最大の成果を。見事なものじゃ」
「しかも、どうやらまだ続くらしいぞこのイベントのニュース」
お読みいただきありがとうございます。
今回の「生成AIのおしごと」
ビジネス観点での進行や、見落とし回避など、逐一アドバイスを勧めながら進めています。実際の策のアイデアに落とし込めるところまでは、簡単には出てこなさそうですが、その手前くらいまでなら効率的にたどり着いてきます。