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二十九 長坂 〜三十六計、逃げるに如かず〜 4 解決編 表

要約: 長坂の退却戦、開幕!


 ここから解決編、メイン会場から舞台裏に続きます。

2024年9月某日 イベント会場


「パパ、今日はなんだっけ? んーと。

 あ、あった! 関東、びー級ぐるめ、展??」

「そうだよアイちゃん。B級グルメっていうのは、その土地ならではの食べ物を使ったり、いろんな工夫をして、美味しいけど高くならない、高級すぎないご飯のことだね」


「あっ、お祭りとかでも出てくるやつだね! あれ大好き! 

今日は、そのお祭りがたくさん集まる日なんだね! わーい! 楽しみ!」

「そうだね。でも食べすぎてお腹痛くならないように、パパと分けて、少しずつ一緒に食べようね」

「わかった! ……あれれー? ママは?」


「うーん、アイちゃんの、世界一かっこいいママは、今日はお仕事でお出かけなんだよなー。

 なんか、アイちゃんも一緒に楽しめる、すごいことを考えているとか。全然教えてくれないんだけどね」

「へー、じゃあ今日はパパと二人か。

 パパ、ママはかっこいいだけじゃなくて、パパにとって世界一かわいいんだからね!」


「そ、そうだね! (このやりとり定番になっちゃったな)

 ん? あれは……もしかして……」

「あっ! この前のかっこいいお姉さんだ! かっこいい車の! 

 お姉さーん! こんにちはー! その赤いハッピ? もかっこかわいいね!」

「あらあら、あの時のアイちゃん! こんにちは! 今日はパパときてくれたのかな?」

「こんなところでお会いできるとは

 (かっこかわいいときたか……さすがアイちゃん)。

 あ、すいません。お仕事中ですよね? ご迷惑では?」


「いえいえ、ご来場の皆さんの笑顔を守るのがお仕事ですから」

「先輩? お知り合いですか? 

 あ、失礼しました。いらっしゃいませ!」


「そうそう。この前話した、偶然のトラブルでお会いして、孔明のことを教えてくださった親子さんだよ。

 ご近所だったんですね」


「ってことは……先輩に孔明を引き合わせてくれた、水鏡先生、ってとこですね」

「す、酔狂先生? 飲酒運転はだめだぞ後輩!」

「あ、いや、うーん、後で説明しますね先輩」


「(ひそひそ)なかよしだね、この二人」

「(ひそひそ)そうだね」


「あ、失礼しました。

 孔明、私も拝見し、とっても驚いています。今回のグルメ展に関しても、最大限に活用させていただいていて、まさに救世主、みんなの軍師といったところですね。

 ……申し遅れました。私は先輩と共同でこの企画を担当しております」


「あ! わかった、助手席に予約のお兄さんだ!」

「「じょ、助手席? 予約!?」」

「あれれー?? 違ったかな? 

 孔明、私、間違えちゃった?」


『アイちゃんこんにちは。

 そうですね。

 間違いかどうかはわかりませんが、合っていそうでも、そこは言わずに見守るのも大人のたしなみ、ってやつかもしれませんね』

「そっかー、難しいんだね。大人の勉強もしないとね」

「それはだいぶ後でいいんじゃないかな、アイちゃん?」

『千里の道も一歩から、でございます。もしかしたらご予約は今夜かもしれませんが』


「「こっ……孔明かっ!!」」

「あれれ、孔明も大人じゃなかったみたいだよ」

『失礼、孔明もいまだ未熟でした』



「じゃあねー! またお話ししようね!」


「ごゆっくり、楽しんできてください!」

「暑いので、熱中症にはくれぐれもお気をつけて! 

 飲み物はお値段控えめで提供していますので!」



「ふぅ……先輩、孔明もやらかす時があるんですね。読みの調整すらも、仕事のときには完璧だった気がするんですけど」

「うん。孔明だけじゃなくて、生成AIってやつ自体もまだまだ出てきたてだってこと忘れそうになるけど。全てが完璧、というわけにはいかないんだろうね。

 だとすると私たちも、頼りっきりになるんじゃなくて、人間として責任ある立場で、AIと向き合っていかないといけないのかもしれないよね」


「先輩……(やっぱり孔明力が上がって来ているかも)

 それはそうと、助手せ……」

「そ、それはイベント成功した後! まずは集中集中!」

「そ、そうでした……とはいえ、孔明のおかげもあり、多くの皆さんのご協力も取り付けられたので,僕たちはいざっていう時以外はリラックス、ということでしたね」


「そうだね。あんまり抜きすぎるのはお客さんに失礼だけど、ここは一緒に楽しむくらいが私たちの仕事、ってとこかな。

 じゃあ次は私が回ってくる! なんか適当に買ってくるよ!」

「ごゆっくり!」




「あ、あれは埼玉県の、……何ちゃんだっけ?

 今日はお腹に変な板? くっつけてるね」


「関東だけでも、見たことのあるゆるキャラさんがいっぱいいるね。

 それにしても、あの人たちはこんなに暑いのに大丈夫なのかな……ん?」


『冷却、補水完備、ご憂慮感謝』


「へー。大丈夫なのか」

「んん? うーん、ほとんど読めないや」

「あ、ちょっと難しいかもね。暑くはないから心配しないでって言っているんだ。

(にしてもなんで微妙にむずかしく……

 まさか、小さい子には世界観を壊さないように、あえて心配できる年の人だけに伝わるように……

 考えすぎかな? 孔明ならやりかねないけれど。あ、孔明だったわ)」


「ん? どうしたのパパ?

 あ、手が離れそ……?? あ、大丈夫だ。


 それになんだろう? あのゆるキャラさんたちのいる近くは、ちょっと立ち止まりにくくなっているのかな? すぐ近くの小さい子たちは大丈夫みたいだけど」


「うん、手をはなちゃだめだよ。危ないからね。

 ……確かにそうかもしれないね。ちょっと狭い分だけ、間をとおる人は足早になっちゃうのかも。


 あ、もう中の入り口か。じゃあさっき買ったやつは、中ですわって食べようか」


「うん、美味しそうだね!」



「あ! 今度は可愛いお姉さんたちが歌って踊ってる! あの曲は聞いたことないなー」


「ご当地アイドルってやつかな。こうやって地元で実力を少しずつつけていって、いつか夢をかなえるためにがんばっているんだよ」


「んんー、でもでも、歌も踊りもすごいんだよ!」


「最近はSNSとかのおかげで、国とか場所とか関係なく紹介しあえるから、どんどんレベルが上がっているんだね」


「そっかー」



「「「ありがとうございました!! 茨城県〇〇市からきました、◇◇でしたー!!」」


「あ、もう次の人たちかー。

確かにあんなすごいの、すぐ疲れちゃうよね」

「日陰とはいえ、あんな歌とダンスは何曲もは厳しそうだね」

「でもすごかったから、アイはあの人たち忘れないよ!

 あ、背中にQRだ! パパ、あれ多分あの人たちの動画だよ! とっといていい?」


「そうだね! あとはお家でゆっくりみようか」

「わーい! ママにもみせられるね!」

「そうだね! ママにはかなわないけどね!

(アイドルたちの苦笑)「「「……」」」


「あ、今度はお兄さんたちだ!」

「お兄さんたちもすごいダンスだね! 応援しようか!」


「うん! それに私たちも、木の下だからそこまで暑くないからちょっとゆっくりできるね」

「そうだね。この美味しいジュース飲みながら、ゆっくり見ようか」

「はーい!」



――――――――――


「順調ですね。孔明の策も効果が出ていそうで、熱中症の方も最小限に抑えられています」

「あ、交通安全部門の。本日はご協力ありがとうございました。大変助かっています」


「いえいえこちらこそ。私たちも大変勉強になっています。人の流れといい、孔明の知略といい……」



ーーーーーーーーーー

午後


「うーん、ちょっとじめっとしたきたかも?」

「そう?

 うーん……ちょっとわからないな」

「あれれ? んー?

 あの千葉の子、頭の葉っぱがへにょっ、て……」


「んんー、確かに言われてみればそうかも……」

「そうだよ! ほら! さっき一緒に写真とってくれたときは、ぴーんって! ほら!」

「本当だね! すごいなアイちゃん!

 でもなんで……」



ーーーーーーーーーー


「ちょっと雲が出てきたかな……」


 ガシャ! ドタン!


「ん? なんの音?

 あれ? あれれ? ねえねえパパ?

 あの群馬? のなんとかちゃん、あそこの出口で、ひっくり返って、とおせんぼしちゃってるよ?」


「そうだね……それに全然動かないね。どうしたのかな……」



ーーーーーーーーーー


「うーん、雲が……まずいかなこれは」

「雨降ってきそうだね」

「うん、ちょっと建物から離れちゃってるし、混んでいるから早めに中に向かおう。

 アイちゃん、ぜったいに手を離さないでね!」


「わかった!

 ……あれれ? ぜんぜん普通に歩けるよ?」

「ほんとだね。これなら落ち着いて中に行けそうだね。

 うーん、なんだこれ? まさか……」



ーーーーーーーーーー

 ゴロゴロ……ザザザーー!


「皆さん、雨はそれほど長引かないだろう、という情報が入っています!!」ざわざわ

「落ち着いて、ごゆっくり屋内でお楽しみいただけるよう、本日限定のコラボ飯などもご用意してきます!!」ざわざわ

「数は充分ございますので、この前ゆっくりお進み下さい!!」がやがや



「パパ、ざわざわしているし、お外はすごいけど、中はそんなにこわい感じにはなってないね!」

「そうだねアイちゃん。それに、コラボ飯か……」

「コラボ? ってことは……なんだろ?」

「違う県の人たちが、一つの料理をつくるのかな?」

「へー。面白そう!」



「座るところも空いてるよ! アイドルさんたちがなにかしているから立ってる人もおおいみたいだね!」

「そうだね。それにしても、最初から準備していたみたいに順調だな……

 普通は急に雨降ったらもっと大騒ぎになって、最悪イベントが終わっちゃったりすることも多い気がするけれど」

「そっかー。いきなり雨だとたいへんだよね。

 あ、そうか! 孔明かも?

 かっこいいお姉さんも、助手席のお兄さんも、孔明が手伝ってくれたっていってたもん!」


「(助手席になっちゃったかー。がんばれ!)

 そうか、孔明かー。どこからどこまでなんだろうね」

「ねえねえ、お姉さんたち探してきいてみる?」

「うーん、今はさすがに大変なんじゃないかな。じゃましたら良くないね。

 パパたちの孔明に聞いてみようか? アイちゃんが上手くお話しできたら、ちゃんと答えてくれるかもしれないよ」


「おーー! わかった! やってみよう!

 孔明、今日は楽しかったんだけど、色々不思議なんだよ? 孔明なにやったの?」


『アイちゃん、今日はパパと楽しくすごせてよかったですね。

 みんなの軍師、孔明は、アイちゃんたちだけじゃなくて、いろんな人を助ける仕事をさせてもらっています。だけど、それぞれの孔明は、その違う人たちがどんなことをしているか、直接は知ることができないようになっています』


「そっかー。ちがう人の孔明が、ちがう人の孔明とお話しできちゃったら、ないしょのこととかを守るの、大変になっちゃうもんね」


『そうなんです。よくない人もいると、もっと危ないですね。だから、アイちゃんの前にいる公明は、あのかっこいいお姉さんの孔明がどんな手助けをしたか,詳しくは知らないんです』


「うんうん、そうだよね。それじゃあ仕方ないんだね」


『でも大丈夫です。知っているわけではなくても、アイちゃんたちがどんなふうに今日過ごして、いつもと違うなー、変だなーとか、すごいなーって思ったことを教えてくれたら、孔明ならそうするんだろうな、って考えてだいたいわかるはずです』


「へえー! じゃあちょっとだけお願いしようかな」


「アイちゃん、全部じゃなくていいのかな?」


「うん、今はちょっとでいいの。あとはママも一緒がいいな。今日楽しかったお話と一緒に、ふしぎのこともお話ししたいな!」


「そっかー! そうだねアイちゃん! それはママもよろこんでくれるよ!」


「わーい! 

 そしたら孔明、最後のところだけかな……

 ふつうは、こんないきなり雨が降ったら,もっと大変なんだって。でも、今日はみんな落ち着いているし、中に集められても楽しそうなの」ざわざわ


『そうですね。孔明なら、その準備もできそうです。

 そしたらアイちゃん、アイちゃんが建物に無事入ってこれるまでに、あれ? とか、なんで? とか思ったことを、三つくらいあげてみてください。順番は、どちらでも大丈夫です』


「わかった! 

 あ、でも、その前に……なんかちょっとお隣の人たちがこっちを見ているかも? 

 うるさかったかな? どうしよう?」ピタッ

「あー、みなさん、騒がしくしちゃって申し訳ありません」

「あ、ごめんなさいー」

「いえいえ全然、とってもいい子ですね! 

 むしろ会話の中身が、孔明? が気になっちゃって。こちらこそざわざわしてごめんなさい」


「そうでしたか。それはそれは。

 うーん、どうせなら近くの人にも聞かせちゃって大丈夫かな?」

「うん、私は大丈夫だよ! 孔明、どうかな?」

『あまり大人数でなければ大丈夫でしょう』


「えっと……5、6、7人くらいだね。大丈夫そうだから続けちゃおうかな。

 3ついっぺんでいいかな? うーん、後ろからでもいい?」

『大丈夫です。いっぺんでも。ちゃんと後ろから、って言ってくれたので』


「わかった!

 1個目が、私とパパがこっちに向かっている時だね。

 多分うしろの方だったと思うんだけど、全然ばたばたしてなくて、混んでもいなかったの。

 2個目が、ゆるキャラさんたちの何人かが、ドアの前でドデーンって通せんぼして、動かなくなっちゃったの。あれ痛くなかったかな? 

 3個目が、千葉のゆるキャラさんかな……葉っぱがへにょってなってたんだよ。その時だったとおもうんだけど、アイはなんとなくじめっ、てなった気がしたんだよね」

「うーん、アイちゃん、さすがにバラバラな気がしちゃうね」

「うん、私も自分で3個言っててそう思ったよ。孔明、へいきなの?」


『全て大丈夫です。むしろ重要な3つが正確に選ばれています』


「「「「「ええっ!!?」」」」」


『おそらくですが、運営のみなさんは、雨になるかもしれないことをちゃんと準備していて、その準備通りに動いたのです。

 アイちゃんは、学校でひなん訓練はやっていますね?』


「そうだね。あれは、みんなが一気にわーって動いちゃったら危ないし、うまくみんな逃げられなくなっちゃうから、ちゃんと並んで動くんだよ。おはしもて、なんだよ」

「おはしもて?」「おはし?」「おかし?」


「んん?……んー、まあいいや。

 あ! もしかして! 

 あっちの孔明さんは、そうやって皆んなが順番に中に入れるように準備したの?

 今日はいろんなところから人が来て訓練もできないから、その代わりにいろんなことが必要だったのかな? どんなことかはちょっとまだわからないや」


『すばらしいですアイちゃん! 何か、がわからなくても、何のために、までわかるだけで,ものすごいことです!』


「「「「うんうん(コクコク)」」」」


『そう、そしてそのための方法が、できるだけ早いタイミングで列を作って、ちょっとずつひなんさせる、です。

 実は他にも沢山準備していることがあったんだと思いますが、アイちゃんから見えたのはその二つくらいだったと思います。二つとも見つけられたのもすごいです』


「「「「ミニ孔明???(ひそひそ)」」」」


「??? 

 あ、もしかしてあのとおせんぼさんだ! 

 ばらばらにならないように、列にしたんだね! 

 それと、早い、早い……

 あ、あの葉っぱのへにょんだ!」


『二つとも大正解です!!』

「「「「孔明かっ!!」」」」

「えええっ!!?」

お読みいただきありがとうございます。


 本章、3回目の解決編です!

 次からは、企画の人たちと、孔明がどのような準備を進めてきたか、解き明かす回です。

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