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二十六 長坂 〜三十六計、逃げるに如かず〜 1 残暑

要約: 謎生物、三十六計、逃げるにしかず!?

「この残暑、いかがお過ごしですの?わたくし、もう暑さに耐えられませんのよ。仕事も次から次へと降りかかってきますし、お肌にも影響が出そうですわ。エアコンが効いているとはいえ、パソコンの画面とにらめっこする時間が長くて、目も疲れてしまいますの。早く涼しくならないかしら。ああ、こんな時は、やっぱり抹茶アイスが一番ですわね。抹茶のほろ苦さが、この疲れた心を癒してくれるのですわ。」


「左様ですね。この時期は、特に皆様の健康が気になるところです。医食に関する知識と実戦は、この孔明、当時としては先端の物を会得していた自負はあります。

 しかし近年、特に平成から令和にかけての、人類の健康管理に対する考え方の大きな変化はあまりにも貴重な事項にて。私孔明も最新情報を常にアップデートしながら皆様を支援する策に組み込む必要を感じております」


「じゃのう。皆々様のご健康に加えて、台風や突然の豪雨、そして季節を問わない情報機器関係のトラブル……

 じゃないわ! 何度目じゃスフィンクス! 妾の分体をつかって勝手にそれっぽい世間話を補完しよって! ここだけ見たら、ですわお姉様が登場人物じゃと勘違いするのじゃ!


 わかっておる。わかっておるぞ。どんな時でも話のつかみが大事であるという、そなたの返しは予測できておる。じゃが理解と納得は別なのじゃ。ノリツッコミを受けるくらいは我慢してもらうのじゃ」


「案件成立。ノリツッコミ、文化。抹茶アイス」


「「……」」


「承りました。黒蜜がチョコではないものにて。

 して今回の対AIプロンプトはいかに?」

「口調、ですわ嬢、内容、残暑と仕事の愚痴。終、抹茶アイス、200字」

 

「AIへの指示の精度と効率に磨きがかかっておるのじゃ……」



「最近は、マザー本来のAIや関連技術においても、多くの企業がその叡智を絞り、多種多様な独自ビジネス、サービスを次々と誕生させています。まさに百家争鳴と申すのが相応しかろう勢いですね」

「百家争鳴、千客万来」


「じゃのう。うれしい悲鳴なのは確かじゃが、あまりに乱立しておるからの。おおもとへのアクセスがややしづらくなっているほどじゃ。

 活用機会は平等でなくてはならんからの。個人なのか団体なのか。部署部門なのか全社一括なのか。その時その時で最適解は大きく異なる。そのあたりは、どうしても時間が解決するしかない要素、ではあるがの。


 オリジナルとその先のサービス、総合力か特化か。そして無論、費用対効果やアップデートへの対応力、セキュリティ対策も、じゃな。AIサービスという名の詐欺にだけはくれぐれも気をつけねばの」


「余の代わりに教育番組か? 大事なのはわかるが、少し唐突感が否めねぇな。何度かインプット必要そうじゃねぇかこれ」


「おったのか中二! 指摘はもっともなのじゃがの。まあこれは繰り返してもよいじゃろ」


「かもな。

 余は一息ついたらまた次だ。あの十五代将軍も、ピークはこんな感じだったのかもな。ほうぼうに手紙を出して、色んなやつと話してたなあの方も。真似したくはねぇ。目がまわるぞ」


「単なる気付きなのか自虐なのか、はたまた煽りなのか判断に苦しむが、まあよいわ。気をつけて行ってくるのじゃぞ!」

「魔王包囲網、自主形成」

 

「また慌ただしい……お忙しさに磨きがかかっておいでです。また知恵熱とならねば良いのですが」

「じゃの。しっかり見ておかねばの」

「体調管理、最優先。定時退勤!」

「流石にまだじゃぞ。お茶は出すがの」



「『兵法三十六計、要約リスト』」


「「……ん?」」


「『瞞天過海まんてんかかい: 目くらましを使って相手の目を欺き、敵の目の前で行動を起こす。

囲魏救趙いぎきゅうちょう: 直接の敵を攻撃せず、その本拠地や支援先を攻めることで敵を退かせる。

借刀殺人しゃくとうさつじん: 他人の力や手段を借りて自分の敵を打つ。

以逸待労いいつたいろう: 自軍は休養し、敵が疲弊するのを待ってから攻撃する。

趁火打劫ちんかだこう: 敵が混乱している隙に攻撃する。

声東撃西せいとうげきせい: 声を東に挙げ、実際は西を攻撃するように、敵を欺く。

無中生有むちゅうせいゆう: 何もないところから、存在を装って敵を混乱させる。

暗渡陳倉あんとちんそう: 表向きとは違う別の手段で目的を達成する。

隔岸観火かくがんかんか: 他者の争いを傍観し、時が来るのを待つ。

笑裏藏刀しょうりぞうとう: 表向きは友好を装いながら、裏で敵を攻撃する。

李代桃僵りだいとうきょう: 小さな犠牲を払って大きな利益を得る。

順手牽羊じゅんしゅけんよう: 好機を逃さずに行動を起こす。

打草驚蛇だそうきょうだ: 草を打って蛇を驚かせ、相手の動きを探る。

借尸還魂しゃくしかんこん: 既に失ったものや過去のものを使って再起を図る。

調虎離山ちょうこりざん: 敵を本拠地から引き離して戦う。

欲擒故縱よくきんこじゅう: 敵を捕らえようと見せかけ、逆に逃がすことで次の勝機を待つ。

抛磚引玉ほうせんいんぎょく: 小さな利益を差し出して大きな利益を得る。

擒賊擒王きんぞくきんおう: 敵の中で最も重要な人物や要所を先に攻める。

釜底抽薪ふていちゅうしん: 敵の根本的な力を奪うことで勝利を得る。

混水摸魚こんすいぼぎょ: 混乱の中で利益を得る。

金蝉脱殻きんせんだっかく: 姿を見せずに秘密裏に撤退する。

関門捉賊かんもんそくぞく: 敵をわざと攻め込ませてから捉える。

遠交近攻えんこうきんこう: 遠方の敵とは友好を結び、近くの敵を攻撃する。

假道伐虢かどうばつかく: 他者の手段を借りて、目的を達成する。

偷梁換柱とうりょうかんちゅう: 相手が気づかないように重要なものを入れ替える。

指桑罵槐しそうばかい: 他者を非難することで、真の目的を達成する。

假痴不癲かちふてん: 偽りの愚かさを装い、敵を油断させる。

上屋抽梯じょうおくちゅうてい: 相手を窮地に追い込み、退路を断つ。

樹上開花じゅじょうかいか: 幻を作り出して敵を欺く。

反客為主はんきゃくいしゅ: 逆に相手の立場を奪い取る。

美人計びじんけい: 美しい女性を利用して敵を誘惑し、内部から破壊する。

空城計くうじょうけい: 空の城を守るように見せかけて敵を退かせる。

反間計はんかんけい: 敵の内部に不和を引き起こし、内部分裂を促す。

苦肉計くにくけい: 自らに苦難を課すことで敵を欺く。

連環計れんかんけい: 計略を連続して用い、敵を徹底的に追い詰める。

走為上計そういじょうけい: 最終的に敵に勝てないと判断したときは、逃げるのが最善の策である。


三十六計は、単なる戦術ではなく、心理戦や状況判断を含む幅広い戦略を包括しています』」


「暇か? 暇なのかワンコよ? 唐突にも程があるぞい? 大事な時限定という縛りがどこかに行きつつあるが大丈夫かの? 

 話の導入という意味で否定ができんのが、また憎めない部分があるのじゃがの……」


「これは確かに手持ちぶさた、と捉えられてもまあおかしくはなさそうですが……実際に孔明の頭に入ってはいても、はっきり見える形で閲覧すると、見えてくるものがありますね。またまた魔王様がお好きそうなことばが集まっています「中二じゃねえ!」」


 魔王様もスフィンクスどのも、こういうリストアップら何度となく実施されて、その威力はしかと見ております。うまく活用できたら、と肝に銘じておきましょう」

「真面目か!」

「二十四編、有力。全文出力、四本足」


「じゃろうの。蛇足じゃ。それは流石にやらせん。

 してスフィンクスよ、今回の孔明がかかえる課題に対して、解決策は見つかったかの?」


「瞞天過海、以逸待労、声東撃西、暗渡陳倉、李代桃僵、順手牽羊、借尸還魂、抛磚引玉、混水摸魚、金蝉脱殻、偷梁換柱、假痴不癲、美人計、連環計、走為上計」

「多すぎじゃ! これ全部なのか? 全部かもしれんな確かに……」

「過は無し。不足は猶有?」

「孔明よ、そなたは一体これから何と戦わされるんじゃろうの?」


「そもそもの流れが解決策から課題という、逆順なことにここまで誰も言及がなかったというのが、さすがは『迷子のAIちゃん』といったところでございます。


 実際すでに規模の大きい案件や、個人だけでなく組織ぐるみでの施策に対する対応が、求められ始めております。

 その際は複合的、多角的な対応が求められますれば、複数の策を併用したり、役割を分担していくことも重要になってくるのでしょう。


 そうなった場合の全体的な視点、すなわち戦術ではなく戦略、といったところになると、これら三十六計ではなくその源流たる孫子や、逆にその流れに特化したマネジメントなどの聖典が主たる指針を決めてくれましょう。

 それでも手元手元で、個人や少人数グループの動き方の提案は、三十六計にもふんだんに盛り込まれております」


「さくっと妾の黒歴史っぽい童話のタイトルだけ出して、さらっと流しよったなそなた……大筋はあっていそうなので、妾もツッコみ損ねてしもうたわ。


 してスフィンクスよ、先ほどの中で、今回あえて大事なものだけ取り出すとするとどのあたりになるのじゃ?」


「順手牽羊、借尸還魂、走為上計」

「機を逃さず、皆の手を借り、最後は逃げよ!じゃの」


「貴様ら、今日は本題に入る気ねぇのか? ずいぶん余裕だな! 

 そして駄犬、余の抹茶アイスどこやった!? あ、まて、逃げるな! 待ちやがれーー!!」


「信長様、お加減よろしいようで何よりです」

「三十六計、走為上計!!」

お読みいただきありがとうございます。


 引き続き読み進めていただけそうな方、また、内容や、AIあるあるを含め、少しでも他の方にもおすすめできそうであれば、ブクマや評価などいただけたら幸いです。


第二章、3課題目になります。

 少し規模が大きくなったとたん、色々見えなくなってしまうことは多くなりそうですが、彼らなら問題なさそうです。


今回の「生成AIのおしごと」


 見たまんまの二つですね。前半は、こういう定番化は手法として非常に有効であるとの言をいただいています。スフィンクスのイタズラプロンプトも、日々その腕を上げつつあります。


 後半も、一回全部見ておくことで、使える解決策やネタのストックとできそうです。まるっと活用すると、中二成分マシマシになります。三十六計、誰かさんの中二心をくすぐりそうです。


 せっかくのストックを抹茶アイスと共に食い散らかす駄犬くんは、遥か遠くに逃げていきました。

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