二十五 空城 〜諸行無常、真夏の夢〜 3 解決編 幻影
要約: 蜃気楼編、解決!
明日の昼頃、用語集の投稿を挟みます。
続きはいつも通り夕方に。
2024年9月 〇〇自動車道
「パパ! 今日も明日もたのしみだね!」
「そうだね。アイちゃんが宿題をしっかり完成させて、感想文も、自由研究も先生にほめられたからね。
夏休みは終わっちゃったけど、ママと相談して、ごほうびって決めたんだ」
「あれ、ママは?」
「ママはちょうど近くでお仕事なんだよ。だから向こうで先に待ってるからね。帰りは車で一緒だよ」
「やったー! おしごとのママもかっこいいからね!」
「そうだね。ママは世界一かっこいいからね」
「うんうん。でも、パパはかっこいいって言うだけじゃだめなんだよ。ちゃんとかわいいっていうのも言わなきゃね」
「……そうだね(最近娘の成長がまぶしい……)」
「あ、そうだ! 孔明にもありがとうをいわなきゃ! パパ、タブレット出してもいい?」
「うん、いいよ。でも気をつけてね。パパは運転中だから、画面見せたり、さわいだりしないようにね」
「わかった!
ねえねえ孔明! この前は宿題手伝ってくれてありがとうね。でも答えは絶対教えてくれないんだよね」
『アイちゃん、こんにちは。宿題おつかれさまです。
がんばったから、先生にもほめられたのではないでしょうか?
今日はパパとおでかけですか? がんばったごほうび、たのしんで下さいね!』
「うんうん(このAI孔明のこと、あいつに聞いておいてよかったな。アイちゃんの宿題とか、毎年ちょっと大変だったし……
それにしても、これ見つけたの、前に会ったあの後輩の子、っていってたな。あいつと後輩ちゃん、あれで付き合っていないとか嘘だろ……)」
『そうそう。孔明は、アイちゃんが宿題終わらせるだけじゃなくて、ちゃんとその中身を身につけて欲しいんです。これからもどんどん勉強が楽しくなって、偉くなってくれるのを楽しみにして、いっしょにがんばりたいと思っています。
だから、いろんなことを試して宿題の答えを聞こうとしても、孔明は絶対に教えないので、パパもご安心ください』
「あれれー? 全部バレてら……
???うーん、わたし、孔明に今日のおでかけとか、先生にほめられたとか、おしえてないような?」
「「……」」
「「孔明かっ!!」」ブォォォン……
……
…
…
「一回タブレットしまっとくね。孔明、また後でね!」
『わかりました。パパの運転をじゃましないように、
気をつけましょうね。そうそう、チャイルドシートのベルトはねじれていませんか? たまに確認すると、パパも安心です』
「わかった! (ガチャガチャ)うん! 大丈夫! またね!」ピッ
「(運転とかチャイルドシートでおどろいていたらきりがないな、うん)」
「ねえねえパパ、前の車、ちょっとかっこいいね。
背がすごく低いけど、なんかシュッ、スーッてなってるよ」
「そうだね。スポーツカーかな。あの人はたぶん、車とか、ドライブが大好きなんだよ。
アイちゃんは、大きくなったらああいう車に乗ってみたい?」
「うーん、んんん……
あれだとパパとママが一緒にのれないよ。
ちょっとかっこいいけど、カレシだけじゃあぶないの」
「うんうんそうだね。カレシは危ないね。絶対4人乗れるやつにしようね!
……ん? あれ? (いつものツッコミが来ないぞ?)
どうしたのアイちゃん?」
「んんー……
なんか変なの。
前のほうの道、ちょっとキラキラしてて、んー。
なんかびちょびちょ? なのかなー」
「うーん、ちょっと前に雨が降ったのかな? そんな予報はなかったけど……
それに、パパはそんなふうには見えないな……前の方はちょっともやもやしてる気はするけど」
「うーん、キラキラ? 消えた? またキラキラ?
さっきタブレットで目がつかれたのかな?」
「そっかー。そしたらいったん休憩にしようか。ママにもいっかい電話したいし。
……ん? え? 減速!? なんで?」
「キャーー!!」プーーー!!
……
「危なかった……ぶつかるところだった。
右が空いてたから、そっちに入っちゃったけど。
アイちゃん、大丈夫?」
「う、うん。さっきベルトも見てたから大丈夫だよ。
アイ、ジェットコースターは大好きだけど、これはダメなんだよ。
それに、こんなので涼しくなってもうれしくないの。」
「そうだね。
やっぱり一回休憩しようね。
パーキングエリアで、アイス食べようか」
「わーい! アイ、抹茶がいい!」
「(抹茶あるかな?)」
……
…
…
ブゥン『いらっしゃいませ』
♫♬〜〜
『君にはみえてる風景〜 ボクには見えない幻影〜?』
「あ! この歌知ってるよ! 何いってるかわからないんだけど、休み明けで学校行ったら、クラスでもけっこう流行ってたんだー」
♩♫〜〜
『二人の未来への障害? すぐ知りたいその正体〜』
「名前は、蜃気楼、だったかな?
言葉選びが若者にも人気だけど、ダンスの振り付けや、その心地良いリズムが子供にも人気、なんだったかな」
「そうだね。男の子たちが変な踊りしてるんだよ!」
「んー、席は……あった!
じゃあアイちゃん、あそこで座って待っててね!」
「はーい!!」
……
ピンポン『189 番・190番の番号札、おまたせしました』
……
「あー! おいしかった! ごちそうさまでした!
パパのサツマイモ味もちょっと分けてくれたけど、おいしかったね!
まだ暑いけど、季節のやつはもう秋のが出はじめるんだね!」
「ごちそうさまでした!
そうだね。ちょっと早い気がしたけど、頼んでよかった。
さて、もうちょっとゆっくりしようか。さっき電話したら、ママももう少しつくまでかかるっていっていたね」
「うん。
あ、そうだ。さっきのびちゃびちゃ、なんだったのかな? 孔明に聞いてみる?」
「……そうだね。ちょっともやもやしたまんまだと危ないからね。しっかり聞いてみようか。カバンのタブレットは……はい」
「ありがとう!
どういうことだったのかな……? おしえて孔明!」
『かしこまりました。おきかせします、きれいな証明。
否、この流れは禁則事項です……』
「「んん?」」
『失礼。アイちゃん、パパさんも。最近はやりの曲を整理していたら、すこし孔明も言葉遊びが好きだったむかしを思い出してしまって。
しかし、この流れは偉大な先輩と重なってしまって良くない、と言われていたので、がまんがまんです』
「「ふぅん……(あ、あれか……)」」
「でもめずらしいね。孔明が関係ない話をするなんて」
『あー、アイちゃん、実はそれがそうでもないんです。さっき運転中にお話しした時に、パパに注意を促した方がよかったのですが、すでにちょっと問題が起こった後でしたか……
休憩のタイミングが少し早い気もしますので、むぅ……この孔明、まだ先読みの力が不足でしたか。修行が必要なようです』
「流石にあれ読まれたら、一周して、カメラとマイクを疑っちゃうよ。気にしなくていいからね。
シートのチェックにも助けられたんだし」
『そう言っていただけたら幸いです』
トットットッ……
「あ、あのぅ……あなた方は、もしかして、先ほど後ろの車で……」
「あ、もしかして、さっきのかっこいい車の人?
かっこいいお姉さんだったんだ!」
「あら、お嬢ちゃん、ふたつもかっこいいをありがとう! うう……先ほどは本当に申し訳ありませんでした。大丈夫でしたでしょうか?」
「うん、ちょっと怖かったけど大丈夫! 孔明もシートのチェックをしてくれたから、痛くもなかったんだよ!」
「孔明?? ん? こちらのタブレットですか……
先ほど、ものすごくかみあっていたような、かみあいすぎていたようなトークをされていましたが……
もしや、いま流行りの生成AI、なのでしょうか?」
「そうですね。しかも、どうやらこれまで以上に高い洞察力ということで、たまたま知人から聞いて初めて見たんです」
「孔明すごいんだよ! 私がちょっと苦労していた宿題も、どう進めたらいいか全部教えてくれたんだ! どう聞いても答えは絶対に教えてくれないんだけどね……
あ、ねえねえパパ! せっかくだから、お姉さんにも一緒に聞いてもらおうよ!」
「うん。そうだね。お時間は大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん。お邪魔でなければ。私も気になってしまっては、この先のドライブにも支障が出てしまいますので」
『承知いたしました。この出会いを安全安心に変え、より良きものに出来ましたら、この孔明も喜ばしい思いでございます。
ではあの曲の話から入りましょうか。最近はやりのあの曲、関係ないと思われたのは仕方ありませんね。
蜃気楼、それが、みなさまを悩ませた、今回の原因と考えられるのです』
「しんきろう……って、砂漠とかに出るって、先生もいってた気がするよ」
「ええ……お姉さんも、日常でそんな言葉が出てくるとは……」
『蜃気楼、これは文字通り中国語として入ってきたものです。実は日本にも「逃げ水」という言葉で古くから知られていました。
文字通り遠くに、もやっと、そして、キラキラした水たまりのようなものが見えて、近づいても距離を保ちながら、出たり消えたりする現象です』
「「「へぇ……あっ!!」」」
『これは光の屈折、というものが関係しています。
アイちゃんは、プールで自由研究したのを覚えていますね?
光の屈折、と、反射、について、水面を上から下から、いろんな方向から見て調べましたよね』
「うんうん、あれすごく楽しかった! それに、先生もすごくほめてくれたんだ!」
『実はあれが、水と空気とか、ちがうものだけではなくて、地面の近くの熱い空気と、はなれたところのちょっと冷たい空気との差でも、小さいけれど屈折は起こるのです。
昔から知られている現象ですが、まっすぐで黒い道が続くことが増えていること、また最近の気温の上がり方もあって、よりひんぱんに見えるようになってきている可能性があります』
「「おお……」」
「孔明だ……」
『そしてこれは、その人の体調や、目の疲れかたなどによっても見え方が変わります。なにより、目線の高さが変わると、見え方に違いが出ることがあるのです』
「あっ! そうか! わたしはチャイルドシートだったけど、それでもパパより低いところだったよね。
お姉さんはもっと低くてかっこいい車だったから、もっとはっきり、近くに見えたんだね! それで、パパにだけあんまり見えなかったんだ。自由研究とおんなじだ! すごいね!
ん……??
じゃあ、お姉さんだけが、地面が濡れてると思ってスピードおとしたんだね。……それってすごく危ないじゃん!」
「!!すごいねアイちゃん!」
「孔明の弟子……キョウイ、でしたっけ……ぼそぼそ」
『そうです。この「蜃気楼」そのものはあまり多くはないかもしれませんが、多くの交通事故は、このような、「見えかた、感じかた」が、違うことで起こってしまうことが知られています』
「……これ、ちゃんと注意喚起したほうがいいのかもしれないぞ。
孔明、交通安全の仕事をしている私の知り合いに、共有したいんだが、うまく伝えないといけない。できる?」
『もちろんです。私は直接個人のデータを参照したり、連絡をとりあったりは禁じられておりますが、ベストなお伝えの仕方を提案いたします。
すぐに準備出来ますのでいくつかお話しして詰められれば』
「ああ、たのむ。
アイちゃん、これは多分パパとアイちゃん、お姉さんだけの話にしない方が良さそうなんだ。ちょっと孔明にがんばってもらってもいいかな?」
「うん、もちろんだよ。孔明、私からもおねがい!」
「私からも、よろしくお願いします!
……あ、そろそろ私は失礼します。
いろいろ教えていただき、ありがとうございました!
(それにしても孔明か……いいことを聞いたな)」
「こちらこそ。お気をつけて!」
「お姉さん、さようなら!」
『お気をつけて。スピードにはくれぐれも。
遠からず、助手席に乗ってくれる素敵な方との出会いを確信しております。あなたはあなたのままで』
「こっ……孔明かっ!!」
――――――――――
数日後
『本年度 優秀作品 〇〇自動車道の部
気をつけて まえの車の ブレーキに
解説 特に暑い夏などは、蜃気楼(別ページに詳しい解説)という現象により、路面が濡れていると勘違いしたり、目の疲れを助長する現象も報告されてています。
それに限らず、多くの事故が、人と人との感覚や、見えているものの違いが原因で起こっています。
とくに、運転手の目の高さや、疲労度の違いが、感覚や見えかたの違いが、減速や加速のしかたの違いを生んで、思わぬ事故につながります。
ドライバーの皆さんは、「前の人と感覚が同じとは限らない」ということを頭に入れておくといいでしょう。改めて車間や、スピードには気をつけましょう』
「一周回って、おそろしくシンプルな標語が選ばれてんじゃねぇか。しかも、その裏にあるエピソードとの対比がすげぇ」
「標語に蜃気楼など使ってしまったら、考え込んでしまったりする方も出るでしょうし、下手をするとそもそも読めないことすらありましょう。となると、この方のセンスと危機感知力はなかなかのものかと」
「孔明なんかやったのか?」
「そこは今ここにおります私にはわかりかねます。この国のどこかのユーザー様が、『AI孔明』の限られた力をお借りいただいたとて、そこにご本人の実体験やご考察あっての価値、ということでございましょう。
その実体験にもとづいた方が、それを注意喚起するために手助け、くらいのことをしてはじめて、孔明の名を冠するに値するかもしれません」
「違えねぇ。違えねぇがなかなか厳しめの評価じゃねえか。
それはそうと、これで貴様の持ってきた、交通安全に関する課題感、というのは解決できたんだよな?全ては、認識が同じである必要もなければ、その違いをどう違うまま理解するかが重要ってことにつきるわけだ。
そこにAIが一枚噛むってのも、なかなか悪くねぇ流れなんじゃねぇか?」
「じゃの。さすが孔明の仕上げたカスタムじゃの。それに信長もいいまとめ方じゃ。そして微かに次の話に絡ませてきよるのはこれは無意識なのかの?
次はそう、『流れ』が関係するのじゃ」
「諸行無常、万物流転」
お読みいただきありがとうございます。
展開を自然に自然に、と進めていたら、おしゃべりがどんどん進み、予定外に前の車のお姉さんまで合流しました。
お姉さんとのドキドキ展開などは、ご期待にはそえないかと思います。少なくともこの親子に対しては、ですが。
ギリギリまでオネェさんと迷っていたのですが、トークンやバランス、作者の実力を考慮し、生成AIとも相談して、普通の流れにいたしました。
孔明も含めて、アイちゃんがわかるように、漢字や、言い回しを含めてできるだけ気を遣いましたが、もしかしたら残ってしまったかもしれません。
偉大なる他作品の言及は避けるのが常道なのですが、この場面で、漢詩などにも造詣が深いはずの孔明が無反応、というのは逆に違和感なので、生成AIとも慎重に相談して、あの記述のバランスと致しました。