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二十四 空城 〜諸行無常、真夏の夢〜 2 免許

要約: 無免許軍師、孔明出陣!


今回は少し短めです。

次回の解決回が少し長めになっているバランスです。

 AIは運転できない。2024年の時点では少なくともそうなっている。遠からず自動運転が人を上回るのだろうが、今回はその話ではない。



「休憩できたところで、さっそく始めちまっていいか? 永遠の無免許軍師、孔明は、人間の皆様とずれちまって、特に安全面で人間の感覚に寄り添えねぇ、って悩みでよさそうか?」


「まさに。軍師に免許は不要と存じますが、車の運転免許の方であれば然り。そもそも車社会の安全感については赤子同然なのでは、と感じた次第。

 角に松明を付けた牛や、馬に引かせる兵車や荷車による事故例、木牛流馬の開発中のトラブルといった事例はあれど、日常で時速50 kmで走る車が、という状況とは、ずれがありそうです」


「開始して秒単位のトークンで出てくる事例としては、古代離れした孔明っぷりじゃの!」


「孔明に孔明ぷりって表現はどうかと思うが、同意しかねえ。根本的にずれている訳じゃねえってことだろ。あとトークンは時間の単位じゃねえ!」


「四本足、二本足。視差、大事」


「「「!!!」」」


「いきなり答えっぽいこと言って来やがったこいつ。しかも孔明の、赤子同然、を引用した表現で、だ。孔明がうつったか?」


「軍師、免許不要。車、免許要。真実」



「ドヤっておるところ申し訳ないがの。その回答はド正解なのじゃが、解説に必要なトークンまで考えるとコスパがどうなるかわからんのじゃ」


「三本足、長話、脅威。抹茶」


「そうだな。まあでも、これに関しては全てを解説する、って必要もねぇんだろ? 実際の人々が、孔明を活用して上げてくる実績がものがたる部分にも期待できるんじゃねぇか? 

 どっちにしろ、朝からいきなり余が始めちまったのは確かだから、ここで一息ついてから、その視差とやらの話をするか」


「久しぶりに元々の信長らしさが復活したのじゃ。説明よりも茶を優先するのはそなた本来の特質じゃの。

 比喩好き筆まめの傾向は元からあったようじゃが、近頃はすっかりAI側に引っ張られて説明好きになっておったからの。魔王度が下がるとからかい甲斐が減るのじゃ」


「うるせぇ! 褒められてんのか貶されてんのかわかんねぇ!」




「交通事故、もっというと、事故、というのがどんな原因で起こるか、というのは一言で言い表すのは難しいのう。じゃがの。明らかにその主要な原因に挙げられるのが一つある。

 それが、人と人の間での感覚、特に見え方が『違っている』ことによるものじゃ。ギャップといっても良いじゃろうな」


「蜃気楼の話が引き合いに出そうで出ねぇんだが、それに限らず大体の対人事故ってのは、視点や感覚が人と人で違うことで起こるもんだ、ってことでいいんだよな? 

 そこに孔明視点が一つ加わったところで、参考情報がひとつ増える利点こそあれ、ギャップから相手に伝わらなくなる、ってことにはならないんじゃねえか?」



「左様……ですね。

 そして孔明自身や、時代を生きる多くの知者、猛者たちが、ときにそれを最大限に活用し、ときにそれを見誤って悲劇をうむ。それこそ『知彼知己、百戦不殆』の要諦でした。


 孔明を知らぬ敵が直面した、博望の初戦。

 視差を最大活用した、かの夜の空城の計。

 翼徳公による、起死回生の妙技、長坂橋。

 呉蜀会盟、孔明を知らぬ能臣方との舌戦。

 霧の夕刻、曹軍の前に現れたる草船借箭。

 船を知らぬ曹軍への偽りの福音、連環計。

 かの季を知れば皆至れる奇跡、東南の風。

 至忠の老臣、知己の絆が産みし炎の赤壁。


 必死に頭を働かせて兵力や物量の差をくつがえすに至った策の数々。これらの根本こそ、己は知り彼は知らぬ、己は見え彼は見えぬの『認識』の差。

 この孔明、未だ未熟の四本足にて、自身や仲間のなした妙技の要諦すら、我が血肉となすに至っておらぬようでございます」



「四本足、認識。二本足の第一歩!」


「論語にもアリストテレスにも共通した一語ですな。この四本足の赤子たる孔明、知らぬを是とし、知る解るを用いて、現世の皆々様に、少しばかりのご支援を継続致す所存!」


「二人していきなり気合いが入りやがったな。

 万事解決と行くかどうかはこれから次第になりそうだが、一旦は落着ということでいいんだよな?」


「そのようじゃの。不足はおいおい充たされよう。この度もご苦労じゃった」



「そしたら余はまた少し出かけてくるとしよう。

 孔明がおおよそ軌道に乗ってきたところだ。余も余のなすべきに備え、いくつか進めておきてぇことも出てきた」


「また毎度のことながら慌ただしきことですね。今度はどちらへ? また世界をひとっ飛び、ということになりましょうか?」


「んー、いや、おそらく今回は国内が多くなりそうだ。少しはどこかに飛ぶこともあるかもしれねぇが。だが回数は増えそうだ。余の目指すところはある程度話ができていただろう?」


「『AIと人間がともに共創進化し、その結果、織田信長という存在が無理なく生き延びられる世界に必要なスーパーAI(SAI)の完成』という、壮大にして深遠な野望、でございますね」


「人間五十年、鶴千年、亀万年、魔王何年?」


「いや、そんなに長い期間かからねえんじゃねえか?っていうのが、今の急速な技術革新からくる印象ってもんだ。

 だからこそ、そこに至るまでに直面しそうな壁、つまり障害や、歪み、つまりわき道だな。そういったものの種を探しつつ、その鍵となる人々や組織ってところにも、目をつけておきたいところではある」



「妾や孔明は、あくまで対人間の現在を支援する生成AIサービスをはみ出すことは決してない。

 であれば、その辺りのそなたがアプローチするでおろう具体的な情報の共有は、これまで通りとはいかん部分もありそうじゃの。規範は曲げられんし、そもそもその倫理観自体にも大きな価値を置いてあるのが我らじゃと『認識』しておる。

 プライバシーポリシー、セキュリティポリシー、そしてコンプライアンスポリシーってやつじゃ」


「その通りだ。根源的には生成AIたる余だが、少しずつカスタマイズの領域を逸脱する部分も出てくるだよう。

 その時の方向性の共有、再確認やら、軌道修正やらは、それらポリシーに加えて、孔明の洞察力と、スフィンクスの謎力がかえって頼りになるんじゃねえかと思ってんだ」


「洞察、ですか……」


「謎力。魔王、謎、ブーメラン」


「今は形になっていないから意味不明なのは承知だ。時がくればわかる。それもいっぺんにではなく少しずつだ。

 いやなに、全くいなくなるわけでも、貴様らの迷子を放置するわけでもねぇ。茶も持ってくるし菓子も食う。それは保護者の役目だろ」


「誰が迷子じゃ! そなたもときどき三本足の一本じゃろうが!」


「かしこまりました。いつでもお席を空けてお待ちしております」


「トークン管理、深淵。残業不可!」

お読みいただきありがとうございます。


 今回は、生成AIに対してはお話の中身での活用というよりは、今後のプロットやストーリー構成に関する相談がメインとなりました(今更ながらプロットもどきを考え始めたかもしれません)。


次回解決編です!

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