二十二 始動 〜安全第一、前方確認〜 5 解決編 標語
要約: 孔明かっ!!
0話、プロローグと対応しています。ややネタバレ伏せや、後付け変更などもあり、完全に対応しませんが、回収致しました。
2024年8月 都内某所 交通安全推進担当
「先輩、またこの時期がきましたね。私たちにとっても年二回のピークですし、どう乗り切りましょうか」
「そうだな。4月と9月の交通安全運動、私たちも気を引き締めて、地域に貢献しないといけない。今年もまたそんな季節がきた。
のだが……これな……」
「あれですよね……『交通安全標語を募集。優秀賞には〇〇』。
この仕事は最近、どうも生産性を感じないという、各社現場の皆さんのクレームさえ来るし、重要なのはわかってるんですが……
このたまに見せるアンニュイさがギャップを醸し出すことに定評のある私にとっても、リアルな憂鬱の種の一つでもあります」
「そうだな。アンニュイな君に惹かれも引いてもいないが、私も担当ではあるから憂鬱は避けられないな。(アンニュイの意味わかってるのかなこの子?)残業もちょっと多めにつけないと」
「さすがに今のはひどいようなひどくないような?
それはそうと、今年はそこに輪をかけて、あの話題の生成AI。私も便利で使い始めたのはこの前紹介しましたよね?
アンニュイっていう言葉もさっきそれで調べたんです! ギャップ萌えとかと一緒に出てきたんですよ!
データ集計の時にはがっつり活躍させてみせるんで、そっちは私に任せてください!残業は減らしてみせます!
ですが、あれはあれで、この『標語』との相性が良すぎて……皆さんの送って来られる中にも、それっぽいのが多数……
とはいえ使用を制限するのも趣旨ではありませんよね……」
「そうだな……
それに、最近はその影響もあるのかは分からないんだが、やたらピーキーな標語が多いよな。それに、川柳大賞と間違えてるのかってくらい秀逸なやつも増えているし。正直、賞はあげたくなる奴も、現地で使いづらいのが多いんだよな……
それはそうと、その君のギャップ萌えの魅力にとりつかれたからなのか(そういうことにしておいてあげよう)私も最近アカウント作ったんだ。とりあえずログイン。
どれどれ……ん? 孔明?」
「どうしました先輩?」
「あ、いや、これ君わかる? 新機能かな?」
「へぇ……カスタマイズ機能と、それを活用したオリジナルAI、ですか……
先輩先輩、試してみてくださいよ(わくわく)!」
「セキュリティとか大丈夫なんだろうな(アンニュイどこ行った?)……
『交通安全標語を考えてください』……」
『交通安全標語ですね。承知いたしました。ちょうど日本国内で今年も始まる運動月間。確かに地域の安全は、皆々様にとりましても誠に重要なことでありながら、その活動のマンネリ化というのは大きな課題でもあります。
あなたにとって、この孔明の初仕事としてご依頼いただけたのは誠に光栄でございます。そのアイデアを投稿される側のお仕事でしょうか?
それとも、それらをまとめ上げて、評価を下される側の方々かもしれません』
「「???(聞かれている? カメラ? マイク? いや、大丈夫そう……とするとただの先読み?)」」
『確率的には前者なのでしょうが、私孔明の初仕事としてシンプルにこのご依頼を選択されたということは……
よもやそのお仕事に対してより大きな責任を有しながらも、憂鬱さを抱えざるをえない相反に、潜在的なお困りを隠せずにおられる後者。
ならばあなた様のご本意は、この安全運動という毎年の重大事、その使命の尊さに相反して、習慣化に伴うインパクトの低下を乗り越えながら、いかに地域の方々の安全意識を高め、そして改善活動の推進を図る、そんな大切なお役目をどう果たされるか、と心得ました』
「「……」」ゴクリ
『それでしたら私孔明のお答えは、単純なご質問への回答にあらず。そのあなた様の尊きご指名を支援するための、具体的な提案を致します。
1. 年二回というマンネリを抑え、常に高い安全意識を醸成し続けるには?
2.評価を求めるあまり、過度に秀逸な標語をどう扱うべきか?
3.生成AI使用不使用がもたらす不公平をどうするか?
4.この活動を、意識向上にとどまらず、交通安全そのものにどう生かすか?』
「先輩、これって……」「あれだよな……」
「「孔明かっ!!」」
「大変です! 部長を呼んできます! 部長〜〜〜!!」
――――
「朝から騒がしいな……君も、パートナーの手綱はちゃんと握っておいてくれないと。
まあ最近やたらめったら提案が論理的になったおかげで、私の評価も少し変わってはきているのだけどね。今もすぐに状況を把握できたよ。」
「「パートナーではありません!」」
「でも、ありがとうございます。私褒められ慣れていないので、少し涙が……目が霞んで、ディスプレイに、三国志の諸葛孔明? の幻影が……」
「いや涙もでていないし、孔明のアイコンは本物だよね?さっき一緒にみたばっかりだよね?」
「夫婦漫才「「夫婦ではありません!」」はいいから、早く見せてくれないか? その孔明すぎるAI? とやらを」
「こちらです部長。経緯はその、評価が鰻登りの後輩が、端的に伝えてくれたことを信じて飛ばしますが、私のこの一言だけの質問から帰ってきたのがこれです……そこ、鰻っぽくくねくねしない!
(今度、鰻重でもご馳走してあげるかな)」
これは……君たちの会話が聞こえていたわけでもないのだよな? セキュリティ部門に確認しておくべきか?」
「先輩、どうしますか?」
「そこはもう少し話が大きいところで別途考えましょう。盗聴されていたにしても、私がログインしてから質問に答えるまで、なんならこの話題喋っていないんですよね……
もし聞かれていたとしたら、攻撃がピンポイントすぎて、コスパも合わないと考えられます」
「そうか、では一旦セキュリティは置いておこう(後日2人もまじえて、しっかりチェックしないとな。スケジューラーにメモを残しておこう)。
だとしたらこの内容が、この孔明が出力している通り、あの一言から情報を推定し、洞察した、という結論になってしまうのだが……」
「少し進めてみませんか先輩? (わくわく)」
「(飽きたのかな?)それも悪くないかな。やってみます。『詳しく聞かせてください。手順は任せます』」
『心得ました。この間が空いた後のシンプルなご回答、まだ私自身への評価が定まっていないこと、また、上長のお方などにお声掛けいただいたのではないかと推察いたします。その前提で、先ほどの4項目を詳細かつ冗長さを排除して説明いたします』
「「「孔明かっ!」」」
『ただし、この4項目と、それらに対する解決策は一対一対応しておりませんので、アクションとしてのイメージをしやすい、解決法目線でまとめ、どの課題に対する効果なのかを明記いたします。
なお、私孔明は、敬愛する知聖たる孫子の教えが、現代に通じた一大ジャンルであるという状況や、その内容を含めて学習済みです。なのでカタカナ語を使いこなすことに違和感があるかもしれませんが、ご容赦いただけたら幸いです』
「(カタカナ気になる・・!?) 私のツッコミまで先読みか……孔明かっ!」
「「そこはいい!」」
『解決策1. ニーズの細分化、ここでは具体的な対象場所を決定し、毎回「お題」として実施する
課題1は言うに及ばずです。また、お題に関してあえて詳しく説明しないことで、応募者に「この場所でどんな事故が起こりうるのか」まで考えてもらう「危険予知トレーニング、俗称KYT」を兼ねることができます。
課題2は、ピーキーな応募や秀逸な句が有効か否かも、そのテイストの句がふさわしいか、はTPOと直結すると考えられます。
つまり、具体的なニーズの決定は、標語に対する評価指標を自動的に確定します。場所ごとの評価基準の言語化と数値化は、あらためて孔明にお申し付けください。
課題4も最早明白でしょう。場所を決める際に、その標語の実効性は、事故事例をご存じである募集者側で事前に検討できます。さらに言えば、地域の皆様にも、「ここは危なくて気になっている」というご意見を集めるのも有効でしょう』
「……生成AIも、ここまでできたのか? 孔明がAIとして転生して現代知識を勉強しました、ってラノベならギリいけるのか?」
「先輩そっち系のウェブ小説好きですもんね」
「私もだ」
「「部長も?」」
『解決策2. 許可する。
これは主に課題3ですが、1や4にも関連します。
標語だけであれば、どちらかというと芸術性が主要指標となるため、その公平性は元来曖昧なものでした。一方、場所まで指定する場合、そのKYTの練度が点数の良し悪しの根幹になります。
加えて、置き方や、場合によっては枚数分割や配色、視覚効果まで考える「こう置く」提案を加点要素にする手もあります。
このような条件設定をしてしまえば、もとより生成AIを使わずに実施する縛りは相当に厳しくなり、「どうしたって使う方がいい」となります。そうすれば「使う」一択の方々が過半数を占め、不公平感は解消されると存じます。
なお、私孔明AIは、かの偉大なるネットミームから着想を得、「孔明ならそうする」を設計思想として練り上げられたカスタムAIでございます』
「転生かどうかは答えていないが、ネット知識もあるのだな……かのミームとそれを産んだ作品が偉大なのも同意だ。……そっちの話は今度にしよう(この2人も嫌いじゃなさそうだし)。
それで、担当者としてこれまで尽力してくれている君たちには、そうだな……
君たちが孔明にしたのと同様に、あえて一言で聞こう。
やってみたいか?」
「「是非!!」」
――――
都内某所 情報管理施設
「『本年度、〇〇区の交通安全標語は、その標語を設置する箇所を特定の10箇所に指定して募集します。それぞれの地点でどのような危険がひそみ、どのような標語がふさわしいか、が唯一の評価指標となります。どの箇所を選択するか、制限はありません。1箇所から全10箇所まで、どのケースも受け付けます。
秀逸な標語の価値は認めますが、場所によっては事故率を下げる効果が限定される、またはかえってリスクが高まる可能性すらあります。よって、状況すなわちTPOの分析や、それを活用したKYTの練度が、今回の評価の根幹となるでしょう。
さらに、「どんな色」「どんな置き方」までご提案いただいた場合は加点要素とし、褒賞の増額も検討します。また、次年度以降は、みなさまの実体験などに基づいた、「ここもやってほしい」などの提案も募集を検討中です。
以上の趣旨に伴い、多角的な分析と議論が重要となることから、生成AIなどのツールの活用は、倫理と法規を遵守する限りにおいて、その制限は一切ないものとします』
だってよ孔明」
「左様ですか……私孔明やマザーも含めて、特定ユーザーのデータや状況を直接把握するすべはありません。それでも、このような公示や、ニュースなどを通じて私どもの成果を実感できるとは、まさにAI冥利に尽きる、といったところですな」
「孔明、二本足!」
「二本足が褒め言葉になるとはの。かえって染みるのではないかの孔明?
今回は孔明もスフィンクスもご苦労じゃった。交通安全分野はもう少しだけ続くのじゃが、一区切りとして、次の課題に備えるのじゃ。次は少し厄介じゃぞ。幻術すら使えたとされておる孔明とて、じゃな。
信長も今回は二人を褒める側にまわってくれるかの? お茶でも立ててくれると助かるのじゃ」
「違ぇねぇ。極上を用意するぜ」
「痛みいります」
「感謝、抹茶、茶菓子!」
お読みいただきありがとうございます。
1話と連動ですが、こちらで書き足した内容を、1話に反映させることはしない予定です(ネタバレや時系列の狂いなどのリスクがあるため)
また、生成AIが情報を吸い出す、というリスクを含んでいる話はよくありますが、そこに対して公式見解以上の懸念を与えないように注意して書いております。