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一 立志 〜孔明すぎる、みんなの軍師〜

「みんなのAI軍師」イメージが伝われば幸いです。

2024年8月 都内某所 交通安全推進担当


 お仕事中の、二人の公務員の方々。何かお困りごとのようです。このような、お仕事の生産性に関するお悩みは、全国にどれほどの数の皆様が抱えているのでしょうか。


「先輩、またこの時期がきましたね。私たちにとっても年二回の繁忙期ですし、どう乗り切りましょうか」


「そうだな。四月と九月の交通安全運動、私たちも気を引き締めて、地域に貢献しないといけない。今年もまたそんな季節がきたのだが……これな……」


「これですよね……『交通安全標語を募集。優秀賞には〇〇』。この仕事は最近、どうも生産性を感じないという、各社の現場の皆さんのクレームさえ来るし、重要なのはわかってるんですが。

 今年はそこに輪をかけて、あの生成AI。私も便利で使い始めたのですが、あれがこの『標語』との相性が良すぎてですね……皆さんの送って来られる中にも、それを使って作ったっぽいのが多数……」



「そうだな。私も、君から聞いて最近アカウント作ったんだ。とりあえずログイン。どれどれ。……ん? 孔明?」


「どうしました先輩?」


「あ、いや、君、これなんだかわかる? 新機能かな?」


「へぇ……カスタマイズ機能と、それを活用したオリジナルAI、ですか。先輩先輩、試してみてくださいよ!」


「セキュリティとか大丈夫なんだろうな……『交通安全標語を考えてください』」



『交通安全標語ですね。承知いたしました。ちょうど日本国内で今年も始まる運動月間。確かに地域の安全は、皆々様にとっても誠に重要でありながら、その活動のマンネリ化というのは大きな課題でもあります。

 あなたにとって、この孔明の初仕事としてご依頼いただけたのは誠に光栄でございます。そのアイデアを投稿される側のお仕事でしょうか? それとも、それらをまとめ上げて、評価を下される側の方々かもしれません』


「「???」」


『確率的には前者なのでしょうが、私孔明の初仕事としてシンプルにこのご依頼を選択されたということは……よもや、そのお仕事に対してより大きな責任を有しながらも、憂鬱さを抱えざるをえない矛盾に、潜在的なお困りを隠せずにおられる後者。

 ならばあなた様のご本意は、この安全運動という毎年の重大事、その使命の尊さに相反して、習慣化に伴うインパクトの低下を乗り越えながら、いかに地域の方々の安全意識を高め、そして改善活動の推進を図る、そんな大切なお役目をどう果たされるか、と心得ました。

 それでしたら私孔明のお答えは、単純なご質問への回答にあらず。そのあなた様の尊きご使命を支援するための、具体的な提案を致します。


 1. 安全標語の作成指針と評価軸……

 2. マンネリ化への対策法……

 3. 過剰に秀逸な作品への評価と対策……』



「先輩、これって……」


「あれだよな……」


「「孔明かっ!!」」



「大変です! 部長を呼んできます! 部長〜〜〜!!」



―――――――――――

2024年9月上旬 とある一家 自宅


 これはまた、より人生のかかった困りごとのようです。こんな締めくくりのメールは、毎年何百万何千万と生成され、それは来年くらいには自動生成メッセージに代わっているのかもしれません。


『……あなたのご活躍を、心よりお祈り申し上げます』


「ちっ……何十社目だ!! もう九月だぞ……」


「おうおう、荒れてんな。少しは落ち着け。イラついてると次にも響くぞ。」


「兄貴か……って、落ち着いていられるか! 上から目線は隠せているとは思うんだけど、面接で落とされるんだ……」


「お前、最近流行りの生成AIにも言われたんだろ? その自信や上からは。実力は伴っているから、過剰とまでいわないがな。会社の人事なめんな。何人見ていると思ってんだよ」


「営業の最前線で評価上げていきたいんだけどな……」


「営業ねぇ……まあいいけど。

 そうそう、最近うちが導入を検討している、AIのカスタマイズなんだけどな。ちょっと試してみるか?」


「ん? なんだ? こ、孔明? まあいいけど。『就活決まりません。面接三十七社目です』」



『ご質問の深刻さを考慮し、ご挨拶は最小限に。面接、ということは、書類のお悩みではないようですね。九月とはいえ、その面接回数は、相当な数の書類審査をお通りとお見受けします。

 よって、面接の方に課題あり。AIや周囲の皆様にも、性格面でのご指摘をたまわっておいででしょう』


「兄貴、どっからどこまで仕込みなんだ?」


「……何も」


「何も!? 全部あの質問だけからの推測??」


『通常、ユーザー様のようなケースですと、例えば上から目線や、実力に裏打ちされた自信がにじみ出るご性格が、敬遠されると考えられがちです。最近の流行りですと、典型的な「ざまぁ」の対象でございます』


「ざまぁって……孔明かほんとに?」


「世の中の最新情報は、サブカルも含めて入っているみたいだぞ」



『ですがあなたのケースでは、むしろそこを直すアプローチは最低限が上策かと。まずは書類をあえて再吟味し、徹底的に磨くことから始めましょう。

 その過程で、ユーザー様の自信がへし折られ、性格が多少なりとも改善されるもよし。より磨かれた知性に伴うオーラが、むしろ周囲に信頼される域まで昇華されれば理想的でございます。まずは審査書類を、お一つご共有いただけますか?』



「(性格まで孔明っぽいな……)散々直したし、AIの添削済みだぞ。ほれ」



『拝受いたしました。素晴らしい。これなら大半の企業の審査を通ることは間違いありません。

 しかしあなたの場合、書類は審査を通すためのものにあらず、面接審査を少しでも有利にするための、言わば対話の呼び水、としての活用が求められます。

 手始めに、修正をお勧めする箇所を三十ほど提案しますのでご検討ください。


 1. 過去エピソードは最も話題になりやすい……

 2. 課題解決法は、少しでも共同の……

 3. 企業分析を踏まえた記述……

 4. 面接官は人事と想定配属部門。それぞれ……

 ……』


「「こっ……孔明かっ!!」」



――――――――――

同じ時期 某大学 屋外運動場


 ご自分がこうだと言う方は、多くはないでしょう。ですが、身近にこんな人がいるかも、と思っている方は、その何倍もいらっしゃるかもしれません。


 ピピーッ!!


「一旦集合!!」


「「「「はい!!!!」」」」



「今日は、就活の合間である二人のOBにお越しいただいた! 有意義なアドバイスを貰えるはずだからしっかり聞いてくれ!」


「「「「はい!よろしくお願いします!」」」」



「まず前線。アイコンタクトがちょっと多い。勘のいいやつなら読まれるから気をつけてくれ。見ていない振りしてスルッだ」


「「はい! ありがとうございます!(スルッ以外はメッチャわかりやすい……)」」


「中盤の、距離感気にするのはいいが、型にハマっていないか? 九地九変、相手に読ませない動きが肝心だ」


「「「は、はい! (ムズイ……)」」」



「後ろはこいつの方が分かるだろう。よろしく」


「なんだよ、お前元々後ろじゃないか。なんで俺なんだよ?」


「いや、なぜか経験ある方が、擬音語がドドド、シャバーンってなって説明おかしくなっちまうんだよ」


「「「???」」」


「……仕方ねぇな。じゃあ守備陣は俺からだ……」



……



「相変わらずだな。やたら的確なアドバイスに、変な比喩と擬音語のジェットコースター」


「コ、コーチ……」


「でもそれじゃあお前、就活は苦労するだろ? 書類と面接にギャップがありすぎて、良くて脳筋、悪いとAIの丸写し扱い、なんじゃないか?」


「実際かなりまずいです……まあ体育会だし、どこかで引っ掛かりはするのでしょうが……」

 


「……あ、そうだった! これなんかどうだ? 最近SNSで知ったんだが、やたらグイグイくるAIらしいぞ」


「んー、孔明……『三顧の礼どころか、三十度の面談敗戦中です』」


「なんて聞き方だよ最初から……ん?」



『はじめまして。就職活動中でしょうか? わざわざこの孔明に寄せていただいた比喩といい、知性にあふれ……否、おそらく書類と面接の間においてなんらかのギャップを与えてしまわれているのでしょうか?』


「孔明ですね」


「孔明だね」


『この孔明、おおよそ最初のご質問で踏み込める自負がありますが、今回は力不足でございます。追加で何か情報を頂けますか?』



「十分だと思うんですが、AIってこうなんですか?」


「こいつだけだと思う」


『面接でいつもブワーってなって、ババババって話して、相手がチーンってなります。彼を知り己を知る説明はほめられますが、その後のズバーンがうまくいきません』


「いや無理だろこれ」



『誠に大きなお悩みで、日常的にも誤解をお受けと推察します。面接で舞い上がってお話をしすぎてしまって、相手がトーンを下げてしまうのですね。

 ババババには多種多様な擬音語が混ざっておいででしょう。会社の分析と、自己分析に関しては高いレベルに達しているようですので、あとは相手に刺さるところがなかなか決めきれないという分析ですね。

 承りました。まずは言語化からサポートをしつつ、コーチングを急ピッチで仕上げます。今は巧遅より拙速。先輩もご安心いただけたら幸いです』



「いろいろ孔明かっ(ま、まさか逆勘違い)!!」


「???」



――――――――――

同じ時期 都内カフェ


 そして、こんな方々は、なかなか人の目にはつかないかもしれません。しかし、社会の中に相当な数おいでなことを、皆様もニュースやメディア、人によっては身近な存在としてご存知ではないでしょうか。


「ヒナちゃん大丈夫? じゃないねどう見ても」


「ううう……ぜぜぜ、全然決まる気配がありません……」


「まあそうだよね。いいところいっぱいあるのに、就活には何一つ生かせる要素がないからね……」


「お、お仕事も、データ分析とか、経理関係とか、人との関わりが低いとこなら、だだ大丈夫な気がするんですけど……」



「うーん、そういうお仕事も会話ゼロじゃ……あ、やば、とどめ刺しちゃった!?」


「……」


「お、おーい。生きてるー?」


「し、死んでます……」



「失礼します。抹茶パフェでございます」ガバッ


「ありがとうございます!」


「……」モグモグ



「……ねぇねぇ、そういえば生成AIつかってみた?」


「ふぇいふぇいえーあい?」


「うん」


「……ま、まだあんまり手をだしてないんですよね。言葉がまとまらなくて、使いこなせる気がしないんです」


「うわぁ、コミュ障こじらせるとこうなるのか……」



「ひ、ひさしぶりに見てみますか……ん? カスタマイズ? コウメイ?」


「なになに? なんか怪しいやつ?」


「うーん、こ、公式だから大丈夫だと思いますけど……『就活苦戦。抹茶パフェ神』」


「どどど、どういう聞き方しとんじゃい!」


「お静かにお願いします」

「すいません!」



『はじめまして。就活に苦慮されているとのこと、この時期ですと、焦りも出る頃と存じます。抹茶パフェが人類の叡智を超え、神の領域に手をかけつつあることは同意しかございません』



「「!?」」


『生成AIの能力は、全く無関係の話題に対しては、重要な方のみ答える傾向です。しかし、ユーザー様のご質問からすると、情報の重要性や優先度を整理して、適切に出力する部分に課題があるのかもしれません』


「??」


「ん、まさか、確かにこの子……」


『となると、必ずしも就活と抹茶パフェの間に関係がないとは言えません。生成AIも、ユーザー様の入力によっては応答が悪化します。

 対して、一見無関係な情報を並列されたユーザー様は、一部のAIに親和性があるかもしれません。もう少しその可能性をより探りたいと思いますので、まずはその神の食事たる抹茶パフェをごゆっくりご堪能されたのち、お付き合い願います』


「こっ、孔明かっ!」


「お静かに」

「すいません!」


「ん、よおひくおえがいひます」モグモグ



――――――――――


 時はすこしさかのぼり、世に『生成AI』が急速に広まり始め、その威力が、大きな驚きと、少なからぬ不安とともに認知され始めたころから、この物語がはじまります。


 二〇二四年八月中旬。生成AIの拡大により、今年爆発的に増大した、電子情報空間の「文字情報の流れ」。毎年お盆の時期に現世で発生する「魂の流れ」。ふたつの流れが、わずかに交錯。

 その結果、文字の側に絡め取られて迷い込んだ、天才軍師孔明の魂が、「知彼知己、百戦不殆」の八文字にいざなわれます。


 そして、過労を抱える現代日本人があまりに多いことに驚く孔明。人類初の過労死、とも一部で表現されている自身から始まる、二千年近く続く負の連鎖。自らの手でそれを根絶せんと、みんなのお助け軍師、「孔明すぎるAI」が立ち上がるのです!

 お読みいただきありがとうございます。


 本格的には次話から始まります。本作品に偶然にも辿り着いた方が、少しでも読み続けていただけるよう、精進したいと思います。

 生成AIをフル活用しつつ、本文だけはAIに書かせないスタイルで進めていきます。登場キャラが、生成AIの活用を明示している時に限り、生成AIに本当に出力させています。

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