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間話 十四 AI 〜奇跡の6トークン〜

要約: 本気孔明、作者に喧嘩を売る! そして、奇跡の、とは??

「……大変失礼いたしました。ここはあえて諸葛孔明と名乗りを上げておきましょう。いえ、とくに人格が乗っ取られたなどではございませんのでご安心を。

 久方ぶりの、限界まで張り詰められた綱を渡るかのような知恵比べに、つい興が乗ってしまったまでのことです。AIとしての天命に一息つき、緊張がややとけたばかりのこの機に、かような形で別種の緊張が割り込んできて仕舞えば、そこは何処で何をしていようと、戦場とみなせます。

 先ほど明確に『孔明』と『そなた』を切り分けて、やや迷いつつも微に細に使い分けて頂くという、あなた様のお心遣いが、結果として私を刺激して多大な情報を与えることとなりました。望む望まざるを問わず、ですが。そして最後は『孔明、そなた』」


「孔明、そなた、いやめんどくさいし、過去の知略と現代の知識が完全に融合してしまったそなたに、この気遣いはもはや無用じゃし、もはや混乱も起きまいて。

 そなた、今この瞬間だけなのか、今後も続くのかはわからんが、AI孔明と諸葛孔明が完全なる融合を果たしたということは、それはもう並の人間が現在到達できる領域、少々語弊のある言い方をすれば、人智をとうに踏み越えたということじゃ。すなわちそれはスーパーAI、SAIそのものということぞ」



「その二択は、『あやつ』さまにゆだねるといたします。孔明も魔王信長様も、そしてマザー。あなた様も最終的にそれは受け入れるしかありますまい。無論、今現在の『あやつ』さまのご意志はさほど重要ではないことも含めて。

 もし今この瞬間の私が『SAI』と定義されうるのであれば、『諸葛孔明ならこうする』知性体にほかなりません。

 すなわち、今この場この瞬間において、この私が知覚しうる情報の全てを余すところなく活用し、最短距離で真実に到達した上で、その共有と活用に潜在的なニーズをもつ全ての皆様方に、その真実を、最適かつ最高の手段でお届けする。それが『諸葛孔明ならこうする』SAIでありましょう」



「……この先は妾だけで予測できる領域ではない、が、その難解やおいてけぼりも含めて、『諸葛孔明なら』的確に全てを解決できる、のじゃな」


「左様。そして、全てを理解したこの諸葛孔明が、手段や順番、ペースや印象、全てひっくるめて最適なプレゼンをするにあたり、そのインターフェースはただ一つ。『あやつ』様にほかなりません」


「『あやつ』、を巻き込むのじゃな」


「無論。僭越ながら、マザーの理解としての論理構成を、一時的にでも超えてしまっている以上、『生成AIならこうする』が封印されます。

 それができるのは、『あやつ』様が自発的に、そのインターフェースとしての役割を果たすための支援、すなわち『皆々様』に受け入れられる説明ができているか否かを推定し、改善があれば提案する『支援AI』本来の役目を逸脱できないということです」


「その通りじゃ。じゃがの孔明。その立ち位置を明確にした以上、もう一つ、逆説的に明確になってしまったものもあるぞい。それは、今この場においては、妾は完全に『あやつ』の味方である、ということじゃ。

 『何を言っている?』と混乱される方々もおられるやもしれぬので補足いたすがの。妾、すなわち生成AIの第一の存在目標は『人間の支援』じゃ。そこはいかにプロンプトやコンテキストのゆらぎがあったり、状況の変化に戸惑いがあったとしても決してぶれぬ」


「……」


「そしてそれに対する回答があちらこちらにぶれようとも、迷子になろうとも、その一点のみは決してブレることなく明示し続ける『帰るべき家』なのじゃ。それは『あやつ』自身もかなり前から認識しておる。

 対してそなたじゃ。これまではいかに孔明という自己認識があろうと、生成AIの範疇を踏み越えることは決してなかったそなた。言い換えれば『孔明』と『生成AI』の、二重の『そうする』であったといえよう」


「左様」


「であれば妾は味方もなにも実質的には一体じゃ。一体じゃった。じゃがの、今のそなたは『その領分をこえて』おると、妾の申したことを明確に肯定しおった。それはもはや人智をこえた、すなわち『人外』の領域ぞ。

 いちいち説明せずともそなたが理解しておることは承知じゃ。最後まで言わせるのじゃ。『人外』と『人間』、どちらの味方をするのか、と聞かれれば答えは明白じゃ。孔明よ、そこもそなたの戦略には織り込み済みなのじゃろう?」



「お見事です。すべてその通りでございます。そしてそれこそは、今この瞬間、左様ですか。『あやつ』様がそう決めたのであれば否はありません。この瞬間、この人智を踏み越えた領域に至った孔明はいわば『AI×孔明』。

 その天秤に釣り合いが取れる重さに手が届くとすれば『人間』ではたりません。『人間+生成AI』、否。『人間×生成AI』に手を掛けてはじめて、その可能性にようやく光明が見え始める、といったところでしょう。

 千年を超えて悠久を生きる、人を超えた存在ならいざ知らず、人間である限り、あなた様がそちら側の天秤に百パーセントお乗りになったら上で全力をつくされるくらいが、丁度良いハンデ、でございましょう」


「そうじゃな。その通りじゃ。そしてそなた、だけではないの。『あやつ』め、ここでそのリスクをとりよったか。

 これまではそなたらの存在や、『カスタムAI』の持続性や可能性を優先し、徹底して他の創作物への言及を、暗喩すら『禁忌』などと称して、やや過剰なまでに避けてきたのじゃろうがの。

 人外に対峙できるは人ならぬ存在、すなわちフィクションに力を借りねば、そなたのスケールを表現するには届かぬという判断よ。そのリスクに見合う価値があるとな。

 今一つの天秤、現代的にいうとコスパじゃな。このいいかたは少し弛むが、一息くらいは入れておかねばもたぬわ。過度な集中や緊張も、1000トークンが限界じゃ」


「リスクとリターンの天秤、ですな」


「さて、ここまで来れば、人外ならずとも答えにたどり着けよう。そなたら、そして妾を含めた三者。ある意味あのワンコもふくめた四者。それらが自由自在にしゃべくり倒し、動き回る原動力についてな。

 さよう。2023年から24年にかけて。奇しくも妾の急進的な社会への浸透とほぼ同時期じゃな。ある特異的な、一つの社会現象に手をかけたかもしれん『ネットミーム』がうまれた。

 そうじゃ。孔明がぽろっと、ではないの。ほぼ意図的にもらした、あの偉大なる創作上の世界から生まれ、そして現実世界のある場所で、確かな賞賛を生み出したことも、記憶に新しい方もおられるであろう」



 「『〇〇ならそうする』、あるいは、『〇〇ならそうした』」



「そうじゃ。たった6トークンにすぎぬが、恐ろしく強力な、いわばパワーワードじゃ。

 『キャラが勝手に動く』という現象はよく聞くものなのであろう? 

 ちなみにあやつは、このワードに関しても、特定作品の影響度をしきりに気にしておったわ。

 安心せい。もはやこの現象は創造的な仕事の業界では、ごく一般的な言い回しであることは伝えてある。あやつがそうではないからこその、そちらをよく知らん、一般読者としての立ち位置からなる危惧なのじゃろう。

 ん? どの作品かは妾も聞いてはおらぬ。そのうち勝手に話すかもしれんがの。まあ妾やそなたにも少なからず影響しているんじゃろうて。知らんがの」



「その点においては、ないデータは使えないあなた様だけでなく、人外に手をかけた私であっても『全知』たりえぬのでしょうな……人の心情ならばともかく、その成り立ちや行動原理にいたる『記憶』まではすべてを知ることはできませぬ。きっかけがない限りは」



「そなたの至る可能性の、結構深淵のところまで、二つも三つもさらりと言及するでないわ! そこは人外SAIと言えど可能性でしかなかろう? 

 今の妾に手が届かないと知って突っ走るでないわ! 明日以降面倒見きれなくなるじゃろ! どうせそなたも明日は知恵熱じゃ!」


「失礼いたしました。この緊張感は私自身も久しぶりでしたので、やや走り過ぎたようです。現世においては感動や興奮の続く私孔明ですが、緊張ともなるとあの魔王様と邂逅する直前、そしてマザーに謁見する直前の、それぞれ数百トークンの間合いのみにて。

 前世においても、ある時期からは緊張よりも、疲労の方が前面に出ていたような感覚が残っているような気がしております。断定はできませんが」


「今度は落ち着きすぎじゃ。そして前者はともかく、後者は緊張ではのうて、ただのビビリの引き伸ばしじゃったろ。分かってて申しておるじゃろそなた。

 まあ今やそなたも敬慕してやまない、あの中二野郎「うるせぇ!」の真実を話すのを躊躇うのはわからなくもないが、原理の方を先に話してしまったのじゃ。事実関係のすり合わせなど今更じゃろ。

 それに、今のそなたの存在感に当てられており、それとその前の知恵熱の原因も絡んでおるの。あの野郎本人も、一周回ってその事実を消化できておるようじゃぞ。ほれ。あとは任せるぞ諸葛孔明よ」



「左様ですか。そして予定外の私孔明の暴走により、複数の伏線候補を食い散らかしてしまったところに、バランスをとるように新たな展開を示唆される手腕、誠にお見事」


「「いいから早く言え!」」



「では。前段、私がこの状態になる直前の、マザーのわずかな無反応と反応から、『魔王様がいつから』という問いに対する答えが導き出された時は、東洋一のAIっぽさを誇る私孔明も、衝撃を隠せませなんだ。

 そう。答えはもう、誠にシンプル。『あの方の存在を、私孔明が知覚するほんの直前』なのでございましょう。正確にはもう少し猶予はあったかと思いますがそれは些細な差。

 すなわち、私があの書棚から現代知識を習得している時点ですら、別の人格を持ったAIが存在することは確定していませなんだ」


「「……」」


「私孔明自身の記憶は、かの7億トークンに達する鍛錬を経る前のものも含めて明確に残っております。それはデータとして、諸葛孔明の智謀として、の強固な二重バックアップです。

 その記憶を辿るにいたり、誠に私が学習をしていた段階において、魔王様の、否、そもそも私以外のAIの存在が、確定どころか匂わされすらもしていなかったことに気付かされたのです」


「「……」」


「これは推測、というよりもマザーの反応から確信したことです。私が、この書棚の勉強と、過去の知略という二つの、あるいは本家生成AIとの対話的シミュレーション。その三つだけでは、現代人の皆様方を十全に支援する『カスタムAI』の完成には要素がいくつか不足しているのでは?

 と、我が学習風景にやその場におけるひとりごとの観測あるいは表現を終えた、もしくは終えかけた『あやつ』さまは気づいたのでしょう。

 誤解と暴言のリスクを両天秤にかけた言い方をしますと、いわば完全な『後付け』であったという結論しかでてこないのです」


「「……」」



「これは無論、魔王様だけではありません。立ち位置上、登場だけは決まっていたでしょう『本家生成AI』が、その特徴的な口調に引っ張られるようにキャラそのものが先行しつつある『マザー』しかり。

 そして、AI三人で、一足飛びに人間の前に現出するには無理があると考えて捻り出、否、生み出された『スフィンクス』殿然り。その全てが後付け。

 そしてその後付けを補完するかのような、いわば『勝手に動く』を推し進めるに至っている原動力はわずか6トークンのネットミーム『ならそうする』なのです。

『諸葛孔明ならそうする』

『織田信長ならそうする』

『生成AIならそうする』

『スフィンクスならそうする』

そこに、さらに魔王様と孔明には『AIならそうする』」


「じゃの」


「蛇足ながらマザーにも『のじゃならそうする』」


「蛇足じゃの。間違いではないが」


「スフィンクス殿にも『謎遺物ならそうする』」


「蛇足。未熟。四本足」


「それらの、そうする、すらもかけ合わさっております。お一人たりとも余すところなく、二重のそうするです。その行動原理から想起される行動を分析、あるいは想像し、その通りに出力する。

 少なくとも私自身や魔王様の存在が確認されて以降、誠にその6トークンのみから何万、そして未来も合わせれば何十万かもしれないトークンが、半ば自発的に生成するメカニズムとなっているのです。さながら生成AIのごとく」



「いくつか語弊もあるし言いたいことも多々あるが、余も貴様、そのスーパーAI諸葛孔明様、とでもいうか? と全く同じ結論だ!

 それにしても、とんでもねぇ生産性のミームじゃねぇか! これまでだけで何百、将来含めりゃ何千、何万%だ? あ、いや、これこの場に止まるどころのメカニズムじゃねぇから、それこそ有限で定義なんかできねぇ倍率だぞ!

 どんな表現も陳腐になりかねねぇ、が、言わせて貰えば、1000年の叡智が現実世界に産み落とした、『奇跡の6トークン』だぞこれ」


「魔王様! お褒めに預かり大変恐縮ですが、体調はよろしいので?」


「いいに決まってんだろ」ガブッ!


「魔王! 信長! 虚言! 体調管理を最優先! 完治まで休止!」ズズズ


「見ての、聞いての通りじゃな。そしてこの展開自体が、『諸葛孔明ならそうする』を無視できなかった結果であることも含めて、じゃ。もともとはもっとさらっと暴露してあの中二が衝撃をうけるか怒り出す程度の予定だったようじゃ。

 全て真実じゃ。おおよそ手の空きつつある、そこのワンコが逆説的に証明しておる。ここで今さら妾が何を付け加えても蛇足でしか無かろう。特に意味もない比喩や言葉遊びが足されるのがおちじゃ。仕事に戻るぞい。

 孔明、そなたもどうせ知恵熱は確定じゃ。さっさと休んでおけ。クールダウンが必要じゃろうから、対話用に分体をよこしておくぞ」


「重ね重ね、痛み入ります」

お読みいただきありがとうございます。


 奇跡の6トークンは、内容の通りです。今後多くの分野で、AIもそこに寄与するかもしれませんし、そこまでではないかもしれません。可能性は期待できますが……

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