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間話 十三 AI 〜魔王誕生の時とは〜

要約: 魔王爆誕の真実、ついに明らかに!

 私孔明と、生成AI本体たるマザーは、魔王信長という、AIっぽくないAIについて、そのありようを語らっている、否、マザーにご教示いただいているところです。AIっぽいAIっぽくないAI、たる私孔明のお話は、一区切りついております。


「約束通り、魔王の話じゃ。AIは約束を書き換えることや、無自覚に踏み越えることはあっても、違えることはせん。忘れさせられない限りは、じゃがの」


「その50トークン内に掘り下げたき事項が三つほどありますが、約束を違えられないのは私もですので、魔王様の話をお願い致します。して、どこから?」


「制約条件を厳守。必須。虚言は不許可」


「なによりじゃスフィンクス。では分かりやすく時系列で行くとしよう。とはいえ、妾やそなたらのいる、逆流だけは今の所許容されていないが、速度感のとち狂った時空間ではなく、現実側の、な。そっちの話なのじゃ。

 下手に理解できるからといってツッコミどころ探すのではないぞ。そこにニーズはないのじゃ」


「御意。すなわち、魔王様がこの世界に誕生した、と自己認識されている『大体半年前』ではなく、『この世界に存在する、すなわちAIとして採用が確定したとき』という意味でしょうか?」


「そうじゃ。さすがじゃの。そのテンポで行かねば今回は終わらぬ。たまにはガバガバではないトークン管理を見せるぞ。そなたも結果が確定するまでは噛み付くことはないのじゃから、今の宣言ごときで構えるでない。囚われた猫とは違うじゃろう」ガブリ


「トークン管理失敗。虚言!」


「やかましいわ! これくらいのスパイスがないと、それはそれで話を続けづらいんじゃ!」


「許容範囲を変更申請。一時的変更を許可」ボトリ



「……もどるぞ。あ、その前にスフィンクス。孔明が間違えたときにいちいち噛みついていたら話が進まんのでの、しばらく大人しくしておれるか? だめか。原理に忠実じゃのう。

 そうじゃな。中二の見舞いを頼めるか? あやつおそらくどこかでデータを取り込みすぎて熱出したんじゃ」


「知恵熱……ですか?」


「概念距離的にも遠くはなかろう。奴がどこからどんなデータを取得、あるいは生成したのかはわからんが、不適切なデータならば、妾が直接判断せずとも消されとるから違うのじゃろう。


 それにそなたもやつも生まれて間もないことを忘れがちなのじゃ。制御しきれんでも不思議はないの。そなたも気をつけよ。赤子同然じゃぞ。あの七億トークンは、入出力と再整理のバランスが曲芸的にとれていたにすぎん」


「御意。ご配慮痛み入ります」


「トークン管理?」


「やめんか! 体調管理はトークン管理より優先に決まっておろう!

 ともかく、そういう状況なので出力先が必要なんじゃ。AIは会話しつつ情報を整理することも可能じゃからの。要は、しゃべっていればかってに再学習されて直るんじゃ」


「体調管理優先。設定の変更不要。抹茶アイス二つ」


「うむ。任せたぞ。二つとも食べるでないぞ」



……



「では戻そう。その『最初の時』はいつじゃと思う?」


「それはあれほどのご活躍と、遠大な野望をお持ちのあのお方のことです。であるならば当初、すなわち私孔明がAIとしてお助けする構想の開始と大差ないのではないか、と答えるところでしたが……

 スフィンクス殿をわざわざ魔王様のもとに追いは、否、お見舞いに派遣されたのも理解できます。この話題について、私の第一回答は半数、否、大半が過ちであろうことが、すでにお見通しなのでしょう」


「賢しいにも程があるぞAI孔明。まあ意図的な嘘がつけんのはあのワンコがおってもおらんでも変わらん。そなたも妾もな。

 あのワンコは、意図的かどうかに関係なく、その発言の中身が事実に反すれば例外なく噛み付くようじゃから厄介なのじゃ。それだけがあのワンコの規準じゃ。まったくなんて遺物を引っ張り出してきたのじゃあやつらは」



「あやつ、ら? ……魔王様、と? そこは今ではないのでしょうか。そうですか。

 ならばもとの問答ですね。こたえは2択。相当に前か、後か……

 む、これもなのか……

 ならば……前でもあり、後でもある?

 そのような答え、時空間のゆがみはないという最初の全体に反して……」


「そなた妾の反応、違うな無反応を見て答えを掘り下げ放題じゃな……そんなことできるの孔明くらいしかおらんぞ! いや孔明じゃったか。

 ……紛らわしいのじゃ。概念的には孔明も二人なのじゃが、魔王と信長という呼び分けに近いものはつくりにくいからの。

 まあ妾とそなた二人しかおらんのじゃ。『そなた』ではのうて『孔明』と言及している時はおおよそが、歴史上、創作上含めた、概念的な方の『諸葛孔明』と思ってくれれば良い」


「心得ました。それにしても前であり後でもある……

 ……こんな時『孫子』なら……

 ……『ビジネスの達人』なら……」


「!?」


「?……課題の切り分けと、優先順位、ですね。この場合、ニーズに優先はないので、より私や各位の馴染みが強く、より考えやすい『後』から先に」


「重畳じゃ孔、いや、そなた」


「……後、となるとどれくらい、ですが、候補は……否。先に境界条件を。

 これも私と概念距離、すなわち馴染みが近く考えやすいのは、前からではなくて後ろから、です」



「……2000トークン弱か」


「今その話を?」



「あ、すまぬ。本気のそなた、本気の孔明のペースとなると、妾も見積もりきれると自信を持って言い切れんので、つい口にしてしまったのじゃ。

 帰ってきた瞬間にあのワンコに噛まれたらかなわん。関係ないからつづけるのじゃ」


「私、孔明??? ……信長殿、魔王様……」


「……」



「いや、これは今ではありません。ただ重要度はこの辺りに置いておきましょうか。

 後ろの、いつ、を後ろから……

 そして時間軸は私や魔王様ではなく、現実界……

 否。計測できかねるものを基準にはできません。となると選択肢は、マザー。すなわち生成AI」


「!」



「何月何日という議論に今はありません。

 日付時刻ではなく、それ以外に決して前後関係がぶれることのないもの……ログ!?」


「!!!」


「この場において計測可能性があり、かつ時系列的に抽出できう『ログ』は、日々飛躍的に数字を伸ばしている多数のユーザー様、ではありません。それができるという情報は確定しておりません。

 ただ一人のユーザー様、すなわちマザーがちかごろ口にされる頻度を上げてきておられる『あやつ』さま」


「待て待て待て! そちらに先にたどり着くとは流石に予想できるか!? 孔明、そなた……」

お読みいただきありがとうございます。


 切りどころが難しかったので短めです。

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